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May 26, 22
スライド概要
令和4年度景観行セミナー配布資料
景観整備機構によるまちづくり活動の取り組み
説明者:建築士会 塩見寛
静岡県景観まちづくり課は、県内の景観行政を推進する市町の担当者の皆様に役立つ情報を提供します。
景観整備機構によるまちづくり活動の取り組み 静岡県建築士会 景観整備機構・まちづくり委員会 委員長 塩見 寛 公益社団法人静岡県建築士会(以下、静岡士会)は、2006 年 2 月 17 日、静岡県から「景観整 備機構」の指定を受けた。その後三島市(2006.10.23)、浜松市(2009.8.5)、富士市(2010.2.8)、袋井 市(2011.4.1)、沼津市(2015.9.8)の 5 市から指定を受けた。今年で 16 年目に入ることを機に、丸 15 年の景観整備機構によるまちづくり活動の「多様と実践」を総括してみたい。 ■なぜ景観整備機構になろうとしたか 景観について行政が取り組んでいくためには、市町村が自ら手を挙げて知事から同意を受け「景 観行政団体」にならない限り、景観法は運用できない。景観整備機構は景観行政団体が指定する のであるから、建築士会が組織として景観をよくしていきたいと思うなら、その意志表明として 行政から指定を受けることがごく自然だと考えたからに他ならない。 景観法は景観をよくしていくためのさまざまなメニュ-がそろった法律である。その一つが景 観整備機構の指定であり、景観をよくしていくための「しくみ」の一つであるといえる。 「しくみ」 ができたのだから、そのしくみを活用したいと考えた。そして景観整備機構の業務はこれまで静 岡士会が取り組んできた景観や町並み、まちづくり活動そのものであり、これまでの活動の延長 線と考えたのである。 ■景観整備機構は何をしてきたか 景観整備機構は指定を受けてから様々な活動を行ってきた。自主事業、受託事業、その他事業 の 3 つに分けることができる。 自主事業は主に人材育成である。建築士のための景観研修会、景観 WS 講習会など会員研修を 開催してきたが、2008 年からは「地域文化財専門家」育成研修を継続的に実施し、2019 年まで に 167 名の修了生である。 この研修の特徴的なところは、研修生が身近な文化財建造物を見つけリストアップし、演習に おいて教材として使用することである。自ら発見してきた文化財建造物について聞き取り調査、 実測調査を実施し、登録文化財の登録シミュレ-ションの演習をしてそれらの成果発表をめざす。 文化財建造物はその地域に生き続けてきた歴史的にも文化的にも貴重な資産であり、個性あるま ちづくりを進めていく上で重要なものである。景観整備機構は文化財建造物を景観形成の重要な 要素として位置づけている。人づくりとリストづくりを両輪で進め、組織としても個人としても 景観責任を果たしていこうとしていることなのである。 受託事業は表1の通り、景観整備機構になった翌年からほぼ毎年度、国、県、市及び民間の支 景観整備機構の案内パンフレット 景観整備機構は「地域密着」 「景観責任」 「仕事連環」の3つの視点を 重要視する。景観責任とは、建築士会の組織だけでなく、建築士会を 構成する会員としての建築士個人も景観に責任をもつことである。 1
援組織から委託事業を受けている。これらは多くが公募による採択事業であり、景観、歴史、防 災、観光、生活などに関わり、多岐にわたるまちづくりである。 その他事業は、自主事業にも受託事業にも属さない取り組みである。静岡士会の機関誌『建築 静岡』への連載「景観整備機構・瓦版」を毎号 1 頁、会員が執筆している。2007 年 1 月号から 2021 年秋号まで 15 年間で 96 回となる。異なる会員が景観やまちづくりや日常のことなどを思 い思いに書き綴っていることが継続されている。 ■どこで、どのように取り組んできたか 景観整備機構は受託事業だけでも数多くの実践まちづくりに取り組んできた。ここでは近年の 活動のなかから 3 つの事例について述べたい。 ○旧中村洋裁学院・・・地域文化財専門家研修で発見→調査→保全(登録文化財) →活用 1950 年、戦後復興期で女性の間に洋裁熱が高まっていた時、袋井市の旧東海道袋井宿のすぐそ ばに中村洋裁女学院が創設された。1989 年に学校閉校になって以降、ほとんど使われなくなった 建物を専門家研修で発見し 2008 年詳細調査を実施した。所有者は建物に愛着があり、残したいと いう気持ちが強いとわかったが、建物は老朽化し耐震診断でもいい結果は得られなかった。 外壁は下見板張り、瓦葺きの切妻屋根の両端には立ち物と呼ばれる尖った飾り瓦が付いている。 1 階は 2 部屋で、杉板張りの床と漆喰塗りの壁との調和が見事である。2 階は広い教室が一つ。小 屋組みがトラスになり開放的で、壁には V 字を寝かせた形の筋交いが浮かびあがっている。 これらの空間を活かし、展示会やイベントや近隣住民のまちづくり活動の拠点として 2010 年 に「どまんなかセンター」と名付けて活動開始した。2016 年に国登録有形文化財、2017 年に袋 井市景観重要建造物になった。さらに 2019 年、国交省空き家対策補助により耐震補強工事を実施 し、2020 年 4 月に「ふくろい すまいの相談センター」を 1 階にオープンし、火木土日、市の専 門職員が滞在する施設となった。 忘れ去られ朽ちようとしていた建物を建築士夫婦がその価値を評価し、所有者との話し合い、 地域住民への呼び掛け、行政との協議を粘り強く進めてきた成果であろう。 建設当初の中村洋裁女学院 どまんなかセンターの案内 2 階ホールの改修 DIY の様子 旧東海道袋井宿は、江戸からも京からも 27 番目にあたるため、「どまんなか」をまちづくりのテーマにあげている。 ○清水の次郎長生家・・・景観整備機構が調査→耐震補強工事→保全(登録文化財) →活用 2013 年、歴史的風致維持向上推進等調査の採択を受け、歴史的建造物ケーススタディの一つに 静岡市清水区次郎長生家を選んだ。チョーナの跡や角釘があることから安政大地震(1854 年)後の 建築とされ、間口 2 間半、奥行 13 間半の町家である。その後改造、ボヤ騒ぎ、街路拡幅による後 退など大小の修繕を繰り返してきたが、老朽化は止められず、個人の力で維持保全していくには 困難な状況だった。所有者は取り壊しも選択肢の中にあったという。 景観整備機構は、建物の歴史と価値、耐震診断、改修の方策を所有者に提示し今後の方向につ いて話し合った。義理と人情に厚く地元清水の発展のために尽くした次郎長さんへの思いが建物 2
への愛着になり、町の財産だという気持ちがあった。 「こんなに価値があるとは思いもしなかった ので、ビックリしました、と同時に目が覚めました」とも言ってもらえた。 このあたりからいい方向に話しが進みはじめた。全国の工務店などで作る団体、耐震住宅 100% 実行委員会が「あなたの残したい建物コンテスト」を実施。420 件の応募の中から次郎長生家が FB 上で「いいね!」2684 件を獲得し見事グランプリに輝き、耐震改修費のほとんどを賄ってくれる ことが決まった。2017 年 1 月耐震改修・修復工事に着手、7 月完了。2018 年 3 月国登録有形文化 財になるとともに、6 月静岡市に土地建物が寄贈され、市は維持管理の責任を負ったのである。 調査し始めたときはこういった展開になるとは思いもしなかった。景観整備機構、次郎長生家 を活かすまちづくりの会、市民の思いがいいものを残したいことに収斂していったのだと思う。 改修後の次郎長生家正面 修復前の通り土間 幅は半間 修復後の通り土間 1 間幅 瓦に絵を描くこどもたち ○由比の空き家・・・景観整備機構の町並み存在調査→空き家発見→自治会と連携→活用試行実験 2015 年、事業採択を受けた調査事業の一環として、歴史的建造物群・町並みの存在調査を実施 した。そのなかで旧東海道沿い由比の町並みについて、同一の屋根勾配、同一の出し桁形式の町 家が整った町並みを形成している一方で、空き家の存在が気になった。その内の 1 軒、F さんの 空き家は、間口 2 間、奥行 17 間の建物に街道沿いの町家、サクラエビを生業とした由比の歴史そ のものが具現化されていた。地元自治会に話しかけ、大掃除を総出で行い、活用試行実験「古民 家カフェ」が実現した。2018 年から 1 年半の間に 6 回開催したあと、現在コロナ禍のため休止状 態ではあるが、今後状況が好転していけば再開し自治会と共に進めたい。 空き家 F 家住宅(左) 地元自治会と大掃除 廃棄物の搬出 2018.2.14 活用試行実験「古民家カフェ」2018.10.21 ■まとめ 景観整備機構はプロジェクトごとにチームを編成して取り組んできた。それらが各地で実践活 動され、それらが仕事となっていくことをめざしてきた。また、景観整備機構が実施したプロジ ェクトが契機となり、それらを引き継ぐかたちで各地の建築士が活動を継続することにつながっ ている。景観整備機構が実践したことが道しるべになっているといえる。3 つの事例がそのことを 物語っている。 3
年度 2006 H18 2007 H19 2008 H20 2009 H21 2010 H22 2011 H23 2012 H24 2013 H25 2015 表 1 公益社団法人 静岡県建築士会 景観整備機構・受託事業の実績 委 託 名 (○公募による採択事業 ・特命) 執行額 973 ○景観研究:住民と建築士との協働による“景観育て” 89 ・景観実務講習会*1 :景観まち歩き&WS(新居町) 1,178 ○景観研究:住民と建築士との協働による“景観育て” 64 ・景観実務講習会:景観まち歩き&WS(川根町) 276 ・富士山景観 WS&景観ゼミ 254 ・景観実務講習会:景観まち歩き&WS(藤枝市) 403 ・牧之原茶園・空港周辺地域まち歩き&景観 WS 995 ・建築物等景観マニュアル作成 8,925 ・旧住吉浄水場ポンプ室等保存活用検討調査 ・鴨江別館耐震基本実施設計 11,550 (歴史的・文化的価値調査、及び保存改修計画作成含む) 945 ○文化的価値ある建築物の保全活用手法検討調査*2 - (岡部宿本陣周辺整備計画作成)*3 1,943 ・大規模建築物等の景観誘導方策検討業務 1,600 ○建築基準法特例制度を活用した歴史的建築物の保全・活用事業*2 ○歴史的建築物の保全・活用による地域の活性化事業 ○歴史的建造物の保全・活用のための住民・行政・専門家によるネット ワーク構築に関する調査・研究 ○文化遺産を活かした観光振興・地域活性化事業 ○H24 歴史的風致維持向上推進等調査 歴史まちづくりのネットワーク構築検討調査 ○H25 歴史的風致維持向上推進等調査 建築士等が災害時に歴史的価値保全復旧手法を提示する活動のため のマニュアル整備と、当該活動への参加意識調査を通じたマニュアルの 実用性向上 ○伊豆の景観魅力アップ事業に伴う景観検討業務委託 H27 2016 H28 2017 H29 2018 ○建築士と職人・行政及び広域の組織間連携による歴史的建造物の維持 保全・活用・修復・復旧等のための体制整備に関する調査・研究 (歴史的建造物群・町並みの DB 化の検討含む) ○焼津・花沢の里づくりのための 防災・観光・生活・景観等に関するまちづくり指針の作成*4 ・焼津・花沢の里 伝建地区設計相談業務*5 (金額:千円) 発 注 者 静岡県企画部 静岡県建設部 静岡県企画部 静岡県建設部 静岡県建設部 静岡県建設部 静岡県建設部 三島市 浜松市 浜松市 国土交通省 (藤枝市) 浜松市 国土交通省 1,200 文化庁 1,000 (財)建築技術教育 普及センター 1,100 文化庁 5,100 国土交通省 6,425 国土交通省 2,755 静岡県都市局景観 まちづくり課 800 (財)建築技術教育 普及センター 500 公益信託自然・歴 史環境基金 ・焼津・花沢の里 伝建地区設計相談業務*5 0 花沢の里保存会 0 花沢の里保存会 ・近現代建築緊急重点調査*6 文化庁・日本建築士 会連合会 R1 ・近現代建築緊急重点調査*6 文化庁・日本建築士 会連合会 2021 ○平常時・非常時おける歴史的建造物の保全・活用に関する広域連携と体 制整備 *7 H30 2019 R3 600 公益信託自然・歴 史環境基金 *1 *2 景観実務講習会他(2)については業務委託契約ではなく、ファシリテーターとしての報償費支払 公募による採択:静岡県建築士会、神奈川県建築士会、及び日本建築士会連合会が共同して受託 (2009,2010 とも全体でそれぞれ 3,000 千円) *3 7 社指名プロポーザルを受け、書類提出・プレゼン・ヒアリング審査の結果、非採択 *4 事業期間は、2016 年 10 月~2018 年 1 月であるので、執行額ではなく助成額 *5 花沢の里保存会から静岡県ヘリテージセンターSHEC に対して、伝建地区内の改修・修繕等の設計相談等について、 継続的に依頼を受けた(H28.4.15) 。H28 年度から「まち医者」として継続的に関わっていく。設計相談は無料。 改修等の事業が補助事業として内示を受けた段階で、施主と設計者(SHEC 構成員)が設計・監理委託契約を締結。 静岡県ヘリテージセンターSHEC は、景観整備機構の内部組織である。 *6 2018,2019 の 2 ヶ年の調査。日本建築士会連合会が調査員個人に調査報酬等を支払う。 *7 事業期間は、2021 年 10 月~2023 年 1 月 4