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March 23, 24
スライド概要
JAMA Psychiatry. 2022 Mar 1;79(3):210-218. PMID: 35080618
治療抵抗性の患者、自殺リスクのある患者、物質乱用歴のある患者はRCTから除外されている事が多いため、エビデンスを目の前の患者さんに適応できるかには注意が必要です。
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無作為化臨床試験(RCT)の対象とならない 日常診療における統合失調症患者の代表性と転帰 Representation and Outcomes of Individuals With Schizophrenia Seen in Everyday Practice Who Are Ineligible for Randomized Clinical Trials JAMA Psychiatry. 2022 Mar 1;79(3):210-218. doi: 10.1001/jamapsychiatry.2021.3990. PMID: 35080618
結論 ・RCTは実臨床の統合失調症患者の約5分の1しか反映していない可能性がある。 ・臨床的に安定している場合、RCTの非対象群は、対象群に比べて維持療法中の 再入院率が高く、臨床経過や転帰が異なることが推測される。 ・本研究からは抗精神病薬の有効性や安全性に関するRCTが全患者に適用 できないとまでは言えないが、今後、現在のRCTではカバーされていない 集団に焦点を当てた研究が必要とされる。
背景 ・医療行為における有効性と安全性に関するエビデンスは、 高度に標準化された体系的な研究である無作為化臨床試験(RCT) に基づく。 ・RCTの結果と日常臨床における介入の有用性は異なる場合があり、 efficacy-effectiveness gapと呼ばれている。 ※日本語ではどちらも「有効性」だが・・・ 最適条件(optimal conditions)での効果vs現実的な条件(real-world conditions)の効果 ・統合失調症患者における抗精神病薬のefficacy-effectiveness gapの可能性は、 これまで調査されていない。
背景(補足) →「リアルワールドエビデンス」 長所:インフォームドコンセント が不要、新薬開発の効率化、 市販後調査の迅速化 短所:研究目的のデータではない ため、信頼性は△
目的 統合失調症患者における抗精神病薬のefficacy-effectiveness gapの可能性を 探るため、 ①統合失調症患者のうち、RCTの対象とならない人々の割合を定量化する。 ②統合失調症患者におけるRCTの対象群と非対象群を比較し、治療転帰に 違いがあるか評価する。
方法 データ:①フィンランド(2005~2017)、スウェーデン(2006~2016)の国立患者登録 ②処方箋データベース→PRE2DUP法(処方箋から薬物使用期間を推測) 対象:①統合失調症または統合失調感情障害で少なくとも1回入院している ②追跡調査開始時に第二世代抗精神病薬を使用している ※クロザピンまたは第一世代抗精神病薬の使用者は除く ③外来患者として単剤の抗精神病薬で12週間以上安定している(維持療法中) 期間:12週間抗精神病薬を使用した時点から12ヶ月間
方法 ・RCTの代表的な選択基準、除外基準をこれらのデータベースに適用し、 RCT対象群と非対象群を比較し、 ➢主要アウトカム:統合失調症による入院 ➢副次アウトカム:あらゆる理由による入院、抗精神病薬追加投与、 抗精神病薬使用中断 ・主要アウトカムに対しては、さらに追加で、 ➢6ヶ月と9ヶ月のフォローアップの分析 ➢感度分析(1)クロザピン使用者(2)入院歴のない患者
※統合失調症における第二世代抗精神病薬による再発予防に関する53の典型的なRCTより 標準的なRCTの選択基準 1) 統合失調症(F20)または統合失調感情障害(F25)と診断されていること 2) 抗精神病薬による治療が少なくとも12週間にわたり臨床的に安定していること 標準的なRCTの除外基準 1) 18歳未満 2) 65歳以上 3) 物質乱用歴(F10-F19、F17(ニコチン)を除く ) 4) 自殺のリスク(X60-84、故意の自傷及び自殺 ) 5) 治療抵抗性(クロザピンまたは電気けいれん療法(ECT)の使用) 6) 重篤な身体疾患:広義(F00-F99を除くA00-N99の治療 )または狭義(悪性症候群、中枢 神経系疾患、頭部外傷、心疾患、白血球数異常 ) 7) 気分安定薬または抗うつ剤の使用(ベースラインでの使用) 8) 知的障害/精神遅滞(F70-79) 9) 遅発性ジスキネジア(G24.0) 10) 妊娠中または授乳中の女性(O-code)
結果
20.1% 79.9% 21.7% 78.3% ・両国ともに、RCTの対象となったのは全体の約20%だった。 ・RCT非対象群は対象群に比べて障害年金受給率がやや高く、職業機能の低下が推測された。
・除外基準を1つのみ満たした群が最も多く、3つ以上の除外基準を満たしたのは 全体の約19%だった。 ・除外基準のうち、気分安定薬または抗うつ薬の使用、身体疾患(広義・狭義)、 物質乱用歴、自殺リスクの頻度が高かった。
・男性の比率が最も高いのは物質乱用歴、女性の比率が最も高いのは年齢 (主に65歳以上)だった。 ・除外基準がオーバーラップしていたのは身体合併症や遅発性ジスキネジアだった。
・RCT非対象者は対象者に比べて、クエチアピンを使用する率が高く、 LAIの使用率が低かった。
・オランザピンはほぼ全ての亜集団において処方頻度が最も高い。 ・LAIの使用率は、フィンランドでは約10%に使用されていたが、 スウェーデンでは約20%と使用頻度は高く、地域によって異なる可能性 が示唆された。
・12ヵ月の追跡期間中、RCT非対象群は対象群と比較して統合失調症による入院リスク が有意に高かった。6ヵ月および9ヵ月の追跡期間でも同様の結果が見られた。
・RCT非対象群は対象群と比較して、あらゆる精神疾患による入院リスクや、 あらゆる理由による入院リスクが増加。 抗精神病薬の追加投与はスウェーデンではやや増加、内服中断は有意差なし。
・特に統合失調症による入院リスク が高かったのは、 RCTの除外基準の中で 自殺リスク 治療抵抗性 遅発ジスキネジア を満たした群だった。
・該当する除外基準が多いほど、統合失調症による入院リスクは上昇した。
・クロザピン使用群における感度分析でも、RCT 非対象者の割合や主要評価 項目の結果は主解析と類似していた。 ・スウェーデンにおける入院歴のない患者4727人のうち、3508人(74.2%)が RCT非対象だった。 本解析の頑健性が示された
考察
考察① ・統合失調症患者の大多数は典型的なRCTの対象にはならず、 対象群と非対象群の間で臨床結果が異なる可能性があることが明らかに なった。 これまでに特定の患者集団に対して実施されたRCTはわずかである。 今後、対象を絞ったRCTや、より広い基準を持つRCTのサブグループ解析、 除外されている集団に焦点を当てた観察コホート等が必要。
考察② ・RCT非対象群の約50%が身体的合併症の除外基準を満たしたことから、 実臨床はRCTの結果よりも有害作用や臨床的に重要な薬理学的相互作用 のリスクが高くなる可能性がある。 重要なRCTや医薬品が承認された後での臨床上の注意や追加研究が必要であ り、第4相試験の重要性が改めて認識される。 また、電子カルテ等のリアルワールドデータを利用することで、 より実臨床に近い結果が得られるかもしれない。
考察③ ・RCTの対象群と非対象群では抗精神病薬の選択に違いがみられた。 本研究ではその理由までは明らかにならなかったが、現場での医師に よる判断が影響していると推測される。 これはリアルワールド研究とRCTとの根本的な違いを示している。 <RW> ガイドラインに沿って、医師の判断で治療法が選択される。 <RCT> あらかじめ治療法が設定されている。 実臨床における抗精神病薬の有効性(effectiveness)を解明するためには、 原理的な有効性を調べるための典型的なRCT(efficacy)に加え、 STAR*DやCATIEstudyのような実用的な試験や、 SOHOstudyのような観察的研究が有益と考えられる。
考察④ ・今回の結果に基づき、1年以内の統合失調症による再入院リスクを予測 することができる。 特に、物質乱用歴、自殺リスク、クロザピン使用歴がある人は、 再入院リスクが高い。 ※ただし、この予測は、1年間の観察期間開始前の12週間、すでに安定した 服薬をしている患者のみに適用されることに注意が必要。
Limitations ①臨床試験への参加は、参加者が基準を満たすだけでなく、参加意欲も 必要とする。→臨床転帰に影響する可能性がある。 (維持療法中の9か月間の再入院率はRCTで4%だったとの報告あり。) ②医療制度や資源の異なる国には直接一般化できないかもしれない。 ③今回はかなり厳格な基準で行われた標準的なRCTを参考にしており、 緩やかな基準のRCTでは実臨床の20%以上を反映していると思われる。 ④リアルワールドデータは、RCTのようにすべての基準を正確に適用する ことができない。
結論 ・RCTは実臨床の統合失調症患者の約5分の1しか反映していない可能性があ る。 ・臨床的に安定している場合、 RCTの非対象群は、対象群に比べて 維持療法中の再入院率が高く、臨床経過や転帰が異なることが推測される。 ・本研究からは抗精神病薬の有効性や安全性に関するRCTが全患者に適用 できないとまでは言えないが、今後、現在のRCTではカバーされていない 集団に焦点を当てた研究が必要とされる。