抗NMDA受容体脳炎uptodate

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April 04, 24

スライド概要

Lancet Neurol. 2019 Nov;18(11):1045-1057. doi: 10.1016/S1474-4422(19)30244-3. Epub 2019 Jul 17.
抗NMDA受容体脳炎に関する知見をまとめました。精神科医として本疾患を鑑別に挙げる意識を持つことを学びました。

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2.

はじめに • 抗NMDA受容体(NMDAR)脳炎とは、複雑な精神神経症状と、 NMDARのGluN1サブユニットに対する抗体が存在することを 特徴とする自己免疫性脳炎である。発見されたのは2007年と 比較的最近だが、神経学および精神医学における本疾患の影響 は著しい。 • 当初は卵巣奇形腫が全例合併する傍腫瘍性脳炎と考えられて いたが、症例集積の結果疾患概念は変遷していっている。 • 本総説では、本疾患の臨床的特徴、診断と治療の進歩、神経学 的な発症機序についての最新の知見を紹介する。

4.

疫学 • 2013年、Titulaer MJらによる報告(NMDAR脳炎577例) ➢発症年齢:8か月~85歳(中央値21歳) ➢男女比:全体で女性が81%を占めるが、12歳未満では男性 の比率が39%、46歳以上では43%を占めるなど年齢層で異 なる。 ➢腫瘍合併率:38%(女性46%、男性6%) 94%が卵巣奇形腫、他に肺癌、乳癌、精巣腫瘍などでの発症 が報告されている 年齢、性別、奇形腫の有無に関係なく発症する疾患である

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典型的経過 正 常 前駆期 慢性期 発熱、頭痛、倦怠感など 非特異的感冒症状 精神病期 ~1週間 精 神 状 態 幻覚妄想、躁状態 思考力低下、言語障害 不眠、痙攣 精 神 異 常 1~2週間 昏 睡 不随意運動期 数ヶ月~ 高次脳機能障害 衝動性、脱抑制 睡眠障害など 意識障害、不随意運動 自律神経障害、中枢性低換気 痙攣など 数週~数ヶ月間 Lancet Neurol.2019 Nov;18(11):1045-1057

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Grausの自己免疫性脳炎疑い基準 1. 発症から3か月未満の亜急性の経過で進行する、作業記憶障害、 もしくは精神・意識状態の変化(意識レベルの変化、嗜眠、人 格変化)もしくは精神症状 2. 下記の少なくとも1項目 • • • • 新たな中枢神経巣所見 既往からは説明不可能な痙攣発作 髄液細胞数増多(白血球>5/μL) 脳炎を示唆するMRI所見(T2/FLAIRで側頭葉内側に限局する高信号変化、 脱髄や炎症所見として合致する灰白質または白質の多巣性病変) 3. 他の疾患の除外

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Grausの抗NMDA受容体脳炎診断基準 Probable : 1. 3か月以内の急性経過で以下の6項目の症候のうち4項目出現 ①行動異常(精神症状)、認知機能障害 ②言語障害(多弁、寡黙、無言) ③痙攣 ④ジスキネジア、筋強剛、異常姿位 ⑤意識レベル低下 ⑥自律神経障害または中枢性低換気 2. 以下の検査所見のうち少なくとも1つがみられる ①脳波異常(焦点性またはびまん性徐派、てんかん性棘波など) ②髄液細胞増多またはオリゴグローナルIgGバンド陽性 3. 他疾患の除外 Define : 他疾患を除外し、上記6つの主要症状のうち1つ以上を認め、かつIgG型GluN1抗体を認める

8.

精神医学的特徴 • 2008年、米国での100人の患者を対象とした症例集積研究にて、 77%の患者の初期対応を精神科医が行ったことが示された。 • 2016年、Lejuste F.らの報告(NMDA脳炎患者111例) ➢65名(59%)で初期に精神症状を呈した ➢幻視、幻聴(n=26、40%) ➢抑うつ(n=15、23%) ➢躁状態(n=5、8%) ➢急性統合失調感情エピソード(n=15、23%) ➢摂食障害または中毒(n=4、6%) ➢45名が精神科に入院し、そのうち21名が神経遮断薬に対する不耐性を示 唆する症状(高体温、筋強直、昏睡、横紋筋融解症)を呈した

9.

精神病患者の抗NMDAR受容体抗体陽性率 • 2018年、Scott JGらの報告では、初回精神病エピソード患者113名 のうち4名が血清での抗NMDAR抗体陽性だった • 統合失調症患者48名の血清検査を行ったコホート研究では、9人 (19%)がIgG型抗NMDAR抗体を有していた。抗NMDAR脳炎患者 と比較すると血清抗体価は低く、エピトープも異なっていた。 • 様々な疾患患者の抗NMDAR陽性率が調査されているが、研究された 全ての疾患および健常者において抗体が存在することから、特異度 は低く、臨床的意義に欠けるとも考えられる。

10.

運動障害 • 顔面ジスキネジアや、ジストニア、眼瞼痙攣、バリズム異常運 動は、抗NMDAR脳炎の一般的な症状であり、この疾患を認識 するための貴重な手がかりとなる • 舌、口唇、歯の損傷は患者によく見られ、テトラベナジンや 局所ボツリヌス毒素で症状が改善する可能性がある。 • 患者による自傷行為や人工呼吸器管理の妨害を防ぐため、 ケタミン、ミダゾラム、プロポフォールといった鎮静薬による 鎮静が行われることもある。ただし、基本は免疫療法などの 原因治療が優先される。

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けいれん発作 • Maarten J.らによる報告(抗NMDAR脳炎577例) ➢約70%の症例でけいれん発作を発症 • Bruijn M.らによる報告(患者75名による症例集積研究) ➢43名(57%)が、強直間代発作(79%)、焦点発作(74%)、意識消失を 伴わない発作(55%)、意識障害を伴う発作(42%)、てんかん重積 (35%)、難治性てんかん重積(21%)のうちいずれか一つ以上を発症 • 一方で予後は良好 ➢抗NMDAR脳炎患者75例のうち43例がけいれん発作を発症 →中央値31か月の追跡調査後、全員が発作を起こさず経過 ➢別の症例集積研究では、109例中88例がけいれん発作を発症 →2年間の追跡調査後、全員が発作を起こさず経過

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SEARCH For NMDAR-A 新規発症の精神症状を有する 患者に対する診断の手がかり • Sleep dysfunction 睡眠障害 • Excitement, disinhibition,or manic behavior alternating with depressive behavior 興奮、抑制不能、躁状態と抑うつ状態が交互に出現 • Agitation or aggression 興奮または攻撃性 • Rapid onset 急性発症 • Children and young adult predominance 小児、若年発症優位 • History of psychiatric disease absent 精神疾患の既往歴なし • Fluctuating catatonia 変動性の緊張病 • Negative and positive symptoms at symptoms at presentation 来院時の陰性症状および陽性症状 • Memory deficit 記憶症状 • Decrease of verbal output or mutism 言語表出低下または緘黙 • Antipsychotic intolerance 抗精神病薬不耐性 • Rule out neuroleptic malignant syndrome 悪性症候群の除外 • Antibodies and additional paraclinical tests 抗体検査、臨床検査の追加 Lancet Neurol.2019 Nov;18(11):1045-1057

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その他の臨床的特徴 • 髄液検査所見 ➢異常所見95%(多核球上昇91%、蛋白濃度上昇32%、オリゴグローナ ルバンド陽性67%) ➢70%の患者で髄液内CXCL13蛋白が上昇 • 脳波所見 ➢びまん性徐派91%、局所性徐派34%、全般性律動性δ活動48% ➢本疾患に特徴的なextreme delta brushという異常脳波が患者の30%に みられる。 • MRI所見 ➢異常所見55%(側頭葉のFLAIR変化22%、大脳皮質FLAIR変化17%)

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Lancet Neurol 10:63-74,2011 抗NMDAR脳炎の治療アルゴリズム 陰性 抗NMDAR抗体測定 別の疾患を考える 陽性 骨盤MRI・CT、超音波検査 腫瘍無し 腫瘍あり 腫瘍切除 IVMPとIVIgあるいは血漿交換 IVMPとIVIgあるいは血漿交換 反応良好 支持療法 免疫抑制薬慢性投与 年1回腫瘍検索 低または無反応 反応良好 支持療法 年1回腫瘍検索 リツキシマブ、あるいはIVCPM または両者の併用 低または無反応 支持療法、免疫抑制薬 年1回腫瘍検索 反応良好 支持療法、免疫抑制薬慢性投与 年1回腫瘍検索

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抗NMDAR脳炎の治療アルゴリズム • Titulaer MJらによる報告(抗NMDAR脳炎472例) ➢221人(47%)第1選択療法開始4週間で改善みられず ➢そのうち、第2選択療法を受けた125人(57%)が、受けなかった96人 (43%)と比べて有意に改善 • ボルデゾミブやトシリズマブを使った第3選択治療も提案され ているが、これらの有効性を確認するためにはより大規模な コホート研究が必要である。

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電気けいれん療法の有用性 • 2019年、Warren Nらによる報告(電気けいれん療法を受けた 抗NMDAR脳炎患者30例のレビュー) ➢21名(70%)が抗NMDAR脳炎と診断される前に治療を受けた ➢評価可能な23名のうち、15例で精神症状が改善、4例では改善見られず、 他の4例ではけいれん発作または神経学的悪化のため中止された • Maarten J.らによる報告(抗NMDAR脳炎577例) ➢15名が電気けいれん療法を施行された(そのうち13名が評価可能) ➢1名が悪化して人工呼吸器管理 ➢6名が無反応 ➢6名が部分的に改善したが、5名が1~2か月以内に再発

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予後予測 • NEOS score(抗NMDAR脳炎患者382名の調査によって作成) 1. 2. 3. 4. 5. 集中治療室への入院 4週間以上の治療遅延 治療開始後4週間以内に改善が見られない MRI異常 髄液細胞数>20 • 5項目中4項目以上が当てはまる場合、1年後の機能状態不良 であるとされる。 • ただし、NEOS スコアが最も高かった患者79名のうち25名が 1年後に機能的に自立していたという報告もあり、治療中止を 決定するためのスコアではない。

18.

自己抗体生成の誘因 • HLA-1対立遺伝子B*07:02およびHLA-Ⅱ対立遺伝子DRB1*16:02との 関連性が示唆されたが、両遺伝子とも疾患感受性との関連性は弱く 今後の調査が必要。 • 腫瘍浸潤B細胞がin vitroでNMDAR抗体を生成できるという報告が ある • 単純ヘルペス脳炎や日本脳炎ウイルスといったといったウイルス性 脳炎の罹患が、自己免疫性脳炎の誘因となることが示されている。 • 抗NMDAR脳炎患者の5%が、視神経脊髄炎のような脱髄疾患の 臨床所見、画像所見を呈するとされる。その場合抗アクアポリン4 抗体や抗MOG抗体といった自己抗体が共存することがある。

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発症メカニズムとモデル • ラットの脳室内に患者の抗NMDAR抗体を注入したところ、脳内で培養ニューロンと同じ シナプス変化が起き、NMDAR密度低下をもたらした。 • このようなシナプス変化は、記憶障害、アンヘドニア、抑うつ行動と関係していた。

20.

発症メカニズムとモデル • ラットの培養ニューロンに患者のNMDAR抗体に暴露したところ、NMDARの密度低下を 引き起こした。 • 抗体はNMDARに結合して架橋し、NMDARの構造を変化させ、他のシナプス蛋白との 正常な相互作用を阻害する。 • その結果、NMDARを介する自発性興奮性シナプス後電流の減少をもたらす。

21.

発症メカニズムとモデル • NMDARのGluN1/GluN2Bヘテロマーをリポソームに埋め込み、マウスに注入 することで、能動免疫を引き起こすマウスを作成した。 • これらのマウスではNMDARを介する電流の低下を引き起こしたほか、病理学的 所見では抗体のほかに形質細胞、T細胞、ミクログリアの活性化、神経細胞消失 と広範な炎症浸潤が認められた。 • このような変化は、多動、痙攣発作、旋回、嗜眠といった劇症型の表現型と対応 していた。

22.

まとめ • 精神疾患との誤診を防ぐためには、症候を慎重に検討し、IgG 抗体を測定することが重要である。治療の指針や予後を予測す る特異的なバイオマーカーは存在しないため、臨床的に評価す ることが求められる。 • 本疾患の免疫学、神経生物学的機序について今後研究されるこ とで、新規治療法の開発、予後の改善や治療期間の短縮が期待 される。