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August 23, 24
スライド概要
企業が、⾼等教育機関(⼤学・⾼等専⾨学校等)と"共同"で自社が必要とする高度専門人材を育成する"講座"(コース・学科等を含む)を設置する『共同講座』の事例調査報告書の別紙1となります。
*経済産業省の補助事業『共同講座創造支援事業費補助金』を(一社)社会実装推進センターが運営しております。
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令和4年度 高等教育機関における共同講座創造支援事業 調査報告書 別紙1: 人材開発の効果を高めるための方策 (学術的な知見の調査・整理) 株式会社野村総合研究所 社会システムコンサルティング部 2024年3月
1 はじめに:研修転移とは 2 研修転移の促進策:研修デザイン 3 研修転移の促進策:職場環境 4 研修転移の成果測定に係る研究結果 1
1.はじめに:研修転移とは 2
1.はじめに:研修転移とは 企業における人材開発* の達成度については、 4段階(4レベル)に分けて評価するという考え方が一般的に用いられる カークパトリックの「4レベル評価モデル」 レベル 名称 内容 1 Reaction 反応 学習イベントに対して、受講者がどの程度、肯定的に反応したか 2 Learning 学習 学習イベントに参加することで、受講者がどの程度、目標とされた知識、スキル、態度 を獲得したか 3 Behavior 行動 学習イベント中に学んだことを、受講者がどの程度、仕事に戻ったときに活用したか 4 Results 成果 学習イベントとその後の定着によって、どの程度の結果が生み出されたのか * 研修、人材育成プログラム、本事業における共同講座等を、ここでは「人材開発」と表記する 出所)中原淳、関根雅泰、島村公俊、林博之 『研修開発入門 研修評価の教科書』(2022年)より作成 3
1.はじめに:研修転移とは 人材開発は直接的には成果を生まない(レベル4を直接には達成できない)。 受講した社員の行動が変わること(行動変容)により、間接的に成果を生み出す ◼ 企業の最終的な目標は、成果(売上、利益、新規事業創出など)を挙げること(=レベル4)にある。 ◼ しかし人材開発は直接的には成果を生まない。受講した社員の行動が変わること(行動変容)により、間接的に成果を生み出す。 ⚫ 優れた戦略や、有利な市場環境等と、社員の行動変容が組み合わされることにより、成果を生み出すことができる。 ⚫ 行動変容が生じても、例えば市況悪化や戦略の失敗等があれば成果にはつながらない。成果に影響を与える要素は無数にある。 人材開発が経営・現場にもたらすインパクトの経路 人材開発 学習 直接効果は 持たない 行動変容 現場の社員と管理職の行動の変化 間接効果 戦 略 何を、誰に、どのように売るのか? 市 場 景気、競合他社、競合商品はどうか? 出所)中原淳、関根雅泰、島村公俊、林博之 『研修開発入門 研修評価の教科書』(2022年)より作成 成 果 ( 利 益 ) 4
1.はじめに:研修転移とは したがって人材開発は、レベル2とレベル3、特にレベル3の「行動変容」が起きているかどうかに 焦点を当てるべきとされている カークパトリックの「4レベル評価モデル」(再掲) レベル 名称 内容 1 Reaction 反応 学習イベントに対して、受講者がどの程度、肯定的に反応したか 2 Learning 学習 学習イベントに参加することで、受講者がどの程度、目標とされた知識、スキル、態度 を獲得したか 3 Behavior 行動 学習イベント中に学んだことを、受講者がどの程度、仕事に戻ったときに 活用したか 4 Results 成果 学習イベントとその後の定着によって、どの程度の結果が生み出されたのか 出所)中原淳、関根雅泰、島村公俊、林博之 『研修開発入門 研修評価の教科書』(2022年)より作成 5
1.はじめに:研修転移とは 「学ぶことができ、かつ行動変容が起きる」ための人材開発こそが重要である 行動変化・現場の変化が 起きている 行動変化・現場の変化が 起きていない 研修で学ぶことができた 研修では学ぶことが できなかった 出所)中原淳、島村公俊、 鈴木英智佳、関根雅泰 『研修開発入門 研修転移の理論と実践』(2018年)より作成 6
1.はじめに:研修転移とは 以上の考え方は「研修転移」と呼ばれる 研修転移とは、 研修で学んだことが、仕事の現場で一般化され役立てられ、 かつその効果が持続すること 一般化:研修で学んだことが現場で適用されること(実践されること) 持続 :現場に適用された効果性が、直ちに失われれるのではなく、持続すること 出所)中原淳、島村公俊、 鈴木英智佳、関根雅泰 『研修開発入門 研修転移の理論と実践』(2018年)、 中原淳、関根雅泰、島村公俊、林博之 『研修開発入門 研修評価の教科書』(2022年)より作成 7
1.はじめに:研修転移とは 研修転移が起こるかどうかは、受講者の特徴や研修デザイン(研修の中身)だけでなく、 職場環境によっても左右される 研修転移のモデル 研修のインプット 研修のアウトプット 転移の状況 学習と保持 一般化と維持 受講者の特徴 • 能力 • 性格 • 動機 研修デザイン • 学習原理 • 一連の流れ • 研修内容 職場環境 • 同僚・上司の支援 • 風土 • 使用機会 出所) 中原淳、島村公俊、 鈴木英智佳、関根雅泰 『研修開発入門 研修転移の理論と実践』(2018年)、 Grossman et al. 2011. The transfer of training: what really matters. より作成 8
1.はじめに:研修転移とは 例えば、職場における上司の態度は、研修転移に大きな影響を与えることが知られている 受講者の行動変化を左右する、職場における上司の雰囲気 雰囲気の5段階 特徴 抑止的 Preventing 学んできたことの活用を、上司が禁止している やる気をそぐ Discouraging 「やってはいけない」と直接的にはいわないが、 上司が快く思っていないことは確実に伝えられている 中立的 Neutral 研修を受けてきたという事実を上司が無視している 職務が今までどおりに完了するのであれば、何も言わない 奨励的 Encouraging 学んだ成果を職務に活用することを奨励している 要求的 Requiring 部下が何を学んできたかを上司は把握していて、 それを確実に仕事に転用させたいと思っている 出所)中原淳、関根雅泰、島村公俊、林博之 『研修開発入門 研修評価の教科書』(2022年)より作成 より行動変容を促す 9
1.はじめに:研修転移とは そこで、研究論文サーベイを通じて、研修転移の促進策や、その効果測定方法を整理した 研究論文サーベイの概要 論点1 論点2 ◼ 研修転移を促進するための施策は、どのようなものがあるか? (研修デザイン/職場環境について) ◼ 研修転移が起こっているかどうか、 その効果を測定した研究事例には、どのようなものがあるか? 関連する研究論文をサーベイし、 • 学術的に「効果がある」と検証された 促進策や、 • その効果測定方法を整理 10
2.研修転移の促進策:研修デザイン 11
2.研修転移の促進策:研修デザイン 研究論文サーベイの実施方法 調査の 対象 調査の 限界 ◼ 研修転移を直接/間接的に促進する施策、研修転移に直接/間接的に影響する要因を調査した研究論文 ◼ 2000~2023年出版の国内・海外の研究論文 ◼ 必要に応じて、それ以前に出版された重要文献 ◼ 産業心理学・教育心理学分野のいくつかのJournalには、アクセス不能な文献があった ◼ アクセス不能な文献に関しては、その旨を記載し、文献情報とAbstructからわかる情報を記録した 上記を基に、研修デザインに係る主な研修転移の促進策を抽出・整理 12
2.研修転移の促進策:研修デザイン 施策の一覧 施策/文献 研修内容の有用性を認識させる Chiaburu et al. 2008. 受講目標の設定の工夫 Gegenfurtner A. 2016. 実際にそのスキルを使用する場面に 忠実なトレーニング環境の用意 Allen et al. 1999. 研修中のミスに対する ポジティブなサポートの提供 Heimbeck et al. 2003. 良い例・悪い例の両方を示す観察学習 Baldwin et al. 1992. 研究手法 結果 • 研修後に受講者に対するアンケート調査を実施。 自己効力感や研修の有用性への認識と、学習 意欲や転移意欲の関係性を調査 研修転移意欲の向上 • 自己効力感が高いほど学習意欲が高まり、 研修が有用であるとの認識が強いほど研修転移 意欲が高まった • 1985~2015年に出版された研修転移に関する 研究29報をメタ分析 • 目標の志向性(学習自体を目標とするか、他者 よりも高い成績を取ることを目標とするか等)と、 研修転移の度合いとの相関を推定 研修転移率の向上 • 他者との比較ではなく習得自体を目標とし、かつ 失敗を避けるというよりは研修での成功にフォーカ スするような目標を受講者が持っている場合、研 修転移と最も大きい正の相関関係にあった • 運転訓練において、忠実度(実際の運転状況の 再現度)の異なる3つのシミュレーターを利用。それ ぞれの卒業テストの結果と、研修後40ヶ月分の運 転記録を評価 研修転移率の向上 • より忠実性の高いシミュレーターで研修を受けた受 講者は、研修直後の卒業テストの卒業率が高く、 また研修後の事故率が有意に低かった • コンピュータプログラムの操作を学ぶ研修において、 操作ミス等が発生した場合へのサポート・指導を3 パターン用意。研修後に実施したテストの結果につ いてそれぞれ比較 研修転移率の向上 • 「ミスをする方が学びが増える」といったポジティブな 指導・案内を受け、またミスから自主的に学ぶこと を推奨された受講者は、高い学習効果を示した • コミュニケーション研修において、良い例・悪い例の 示し方の異なる観察学習を実施し、結果を比較 研修転移率の向上 • 良い例と悪い例の表示を組み合わせた研修の受 講者は、研修4週間後の転移度測定において有 意に高い得点を示した 13
2.研修転移の促進策:研修デザイン 研修内容の有用性を認識させる 研究目的 • 受講者の自己効力感と研修の有用性に対する認識が、学習意欲と転移意欲と、どのような関係にあるかを調査 • 対象:米国中部大西洋岸地域の大規模サービス機関の従業員254名 • 施策:研修後に受講者に対するアンケート調査を実施。結果から、観測変数間の関係をモデル化し、関係性を調査 研究方法 • 評価:各項目に対して、 1=全く同意しない ~ 5=強く同意する の5段階で回答 ✓ 自己効力感について(例:馴染みのない分野のコースを受講するときにも、そのコースでうまくやれると期待するか ) ✓ 研修の有用性について(例:所属組織での研修を通じて自分のスキルが高まったことで、仕事がうまくできるようになったか) ✓ 学習意欲について(例:自分のスキルを向上させるために、研修プログラムにかなりの努力を払うことを厭わないか) ✓ 転移意欲について(例:研修で得た知識を使えば、自分の職務遂行能力が向上すると思うか) ✓ 認識された研修転移について(例:トレーニングで得た知識を使って、よりよく仕事を達成するか) • 「自己効力感」は学習意欲に、「研修の有用性」が転移意欲に影響を与えた 結果 → 受講者が学習意欲を持つためには、自分の能力に自信を持たせる(自己効力感を高い状態にする)ことが重要 → さらに、転移意欲を高めるためには、研修の有用性を認識させる必要がある (例:研修内容を組織の戦略的方向性と一致させ、受講者に対して、その一致を目に見える形で強調する等) 出所)Chiaburu et al. 2008. Can do or will do? The importance of self-efficacy and instrumentality for training transfer. より作成 14
2.研修転移の促進策:研修デザイン 受講目標の設定の工夫 研究目的 • 目標志向性と研修参加の経緯(義務/自発)が、研修転移に与える影響を調査 • 対象:1985年から2015年の間に出版された研修転移に関する研究29報 • 施策:研究29報のメタ解析(目標志向性+研修参加経緯と、研修転移との関係の母集団相関係数ρを推定) 目標志向性の4分類:受講者が研修に対して持っている目標感に基づき、下記4カテゴリに分類 絶対的/個人的 学習自体を目標とする 相対的 他者よりも高い成績を取ることを目標とする 成功を求める 習得接近目標(習得の成功を目指す) 遂行接近目標(他者に勝ることを目指す) 失敗を避ける 習得回避目標(習得の失敗を避ける) 遂行回避目標(他者に負けることを避ける) 研究方法 例:研修からできるだけ多くのことを学びたいと考 えている受講者 例:授業で学べることをすべて学べないかもしれ ないと不安に感じている受講者 例:研修では、他の人と比べて良い成績を収め ることが重要であると考えている受講者 例:研修で悪い成績を収めることだけは避けたい と考えている受講者 母集団相関係数ρの推定値 • 受講者が、習得接近目標(習得の成功を目指す)を持っている場合、研修転移と最も大 きい正の相関関係にあった 結果 • 受講者が、習得接近目標を持っている場合、自発参加していると研修転移がより高くなった • 受講者が、遂行接近目標(他者に勝ることを目指す)を持っている場合では、義務的参加 していると研修転移が高まった • なお、習得回避目標については、十分な研究数が確保されなかったため、分析から除外された 自発的 義務的 0.40 0.18 0.06 0.01 -0.07 習得接近目標 遂行接近目標 出所)Gegenfurtner A. 2016. Voluntary or mandatory training participation as a moderator in the relationship between goal orientations and trans fer of training. より作成 -0.45 遂行回避目標 15
2.研修転移の促進策:研修デザイン 実際にそのスキルを使用する場面に忠実なトレーニング環境の用意 研究目的 • 研修で用いるシミュレーションの忠実性(現実の環境をどれほど忠実に再現するか)が研修転移に与える影響を調査 • 対象:2つの研究室と2つの学区において、運転訓練を受けた317名 • 施策:忠実度の異なる3つのシミュレーターを用いて、約34,000フィートのルートを運転する研修を実施 忠実度の異なる3つのシミュレーション 研究方法 デスクトップ:1モニター デスクトップ:3モニター 大型プロジェクター • 評価:研修直後の卒業テストの結果からパフォーマンスを、研修後40ヶ月分の運転記録から研修転移の度合いを評価 • より忠実度の高いシミュレーターで研修を受けた研修生は、研修直後の卒業テストの卒業率が有意に高かった 結果 • より忠実度の高いシミュレーターで研修を受けた研修生は、研修後の事故率が最も有意に低かった →実際にそのスキルを使用する場面に忠実なトレーニング環境を用意することにより、学習成果や、研修転移を高められる可能性がある 出所)Allen et al. 2010. Simulator Fidelity and Validity in a Transfer-of-Training Context. より作成 16
2.研修転移の促進策:研修デザイン 研修中のミスに対するポジティブなサポートの提供 研究目的 • 研修中に発生したミスに対して、どのようなサポート・指導を行うかの違いが、学習効果に与える影響を調査 • 対象:コンピュータプログラムの操作を学ぶ研修に参加した、ドイツの大学の学部生87名 • 施策:特定の手順でExcelを用いた表計算を行う作業の研修中、操作ミス等が発生した場合へのサポート・指導を3パターン用意 研修中に操作ミス等が発生した場合へのサポート・指導のパターン 研究方法 パターン 操作ミス等が発生した場合の案内 実験者による手助け ①ポジティブかつ自 主性を重視する指 導・サポートのパター ン ミスの積極的な役割を強調する指示を、PC画面上で繰 り返し表示 例:「ミスは学習プロセスの自然な一部である!」、「ミス をすればするほど、学ぶことが増える!」等 PC画面上に表示された案内について自分で考え、ミスか ら学ぶための道具としてミスを使うように言われ、それ以上 のサポートは提供されなかった ②指導・サポートな しのパターン なし 実験者は手助けをしないこと、できないことを説明した ③ミス回避パターン なし 詳細な文書により手順を提示し、受講者はすべてのトレー ニング課題をミスなく解けるようになっていた。もし受講者が 操作ミス等をした場合には、実験者が介入して訂正し、 受講者がミスから学習する機会を得られないようにした • 評価:研修後に、学習内容との類似度(近転移/遠転移)の異なるテストを実施し、結果についてそれぞれ比較 ✓ 近転移(学習内容と類似性の高い転移)のテスト。研修直後に実施 ✓ 遠転移(学習内容と類似性の低い転移)のテスト。研修1週間後に実施 結果 • ポジティブかつ自主性を重視する指導・サポートを受けた受講者は、近転移と遠転移の双方について、より高い成果を示した (研修後に実施したテストの成績が有意に良かった) 出所)Heimbeck et al. 2010. Integrating Errors into the Training Process: The Function of Error Management Instructions and the Role of Goal Orientation. より作成 17
2.研修転移の促進策:研修デザイン 良い例・悪い例の両方を示す観察学習 研究目的 • 行動モデリング理論*(A. P. Goldstein &Sorcher, 1974)に基づく観察学習において、良い例と悪い例を用いて実演する混合モデルを用 いた研修設計が、転移に与える効果を調査 *他者の体験を観察・模倣すること(=モデリング)で学習できるとした理論 • 対象:アサーティブ・コミュニケーション(相手を尊重しながら自己主張を行うコミュニケーション)トレーニングを受けるビジネス専攻の学生72名 • 施策:4つの実験をデザインし、結果を比較 ✓ 1種類のシナリオについて、良い例を実演する ✓ 2種類のシナリオについて、2つの良い例を用いて実演する 研究方法 ✓ 1種類のシナリオについて、良い例・悪い例を用いて実演する ✓ 2種類のシナリオについて、それぞれについて良い例・悪い例を用いて実演する • 評価: ✓ 研修後に、受講者がプログラムで視聴したシナリオと同じ状況を演じるロールプレイを実施し、内容を評価(行動再現性の測定) ✓ 研修の1ヵ月後に、本人には知らせずにシナリオと同じ状況の再現を行い、録音したディベート内容から、内容を評価(行動の一般化 (研修転移)の測定) • 良い例のみを見た受講者は、行動再現性の測定において、有意に高い得点を示した → 正しい/最適な行動が1つしかないような作業等に関する研修では、良い例のみを示す研修が、転移を促進しうる 結果 • 良い例と悪い例を示す混合モデルの観察学習を行う研修の受講者は、4週間後の転移度の測定において、有意に高い得点を示した → 対人コミュニケーションなど、より複雑なスキルの研修では、良い例と悪い例を両方示す研修が、転移を促進しうる 出所)Baldwin. 1992. Effects of alternative modeling strategies on outcomes of interpersonal-skills training. より作成 18
3.研修転移の促進策:職場環境 19
3.研修転移の促進策:職場環境 研究論文サーベイの実施方法 調査の 対象 調査の 限界 ◼ 研修転移を直接/間接的に促進する施策、研修転移に直接/間接的に影響する要因を調査した研究論文 ◼ 2000~2023年出版の国内・海外の研究論文 ◼ 必要に応じて、それ以前に出版された重要文献 ◼ 産業心理学・教育心理学分野のいくつかのJournalには、アクセス不能な文献があった ◼ アクセス不能な文献に関しては、その旨を記載し、文献情報とAbstructからわかる情報を記録した 上記を基に、職場環境における主な研修転移の促進策を抽出・整理 20
3.研修転移の促進策:職場環境 主な施策の一覧 施策/文献 研修前後の上司とのミーティング実施 Brinkerhoff et al. 1995. 研修中の、受講者グループによる定期 的な会合(ピアミーティング)の実施 Martin et al. 2010. 研修前の情報提供、 研修後の説明責任の付与 Baldwin et al. 1991. 上司/同僚による同様の研修への参加、 他者の研修転移の観察 Gilpin-Jackson et al. 2007. 研究方法 結果 • 研修前後に、受講者が上司と15分ほどのミーティ ングを実施 • 研修後、研修内容の実践状況(転移状況)に ついてのアンケート調査を受講者に実施 研修転移率の上昇 • 上司とミーティングを実施した受講者は、研修転 移率が高くなった • 外部コンサルタントが参加するピアミーティングを、 研修期間中に定期的に実施 • 研修の1週間前・研修の6週間後・3ヵ月後に、研 修内容の実践状況や、職場風土についてのアン ケート調査を、受講者に実施 研修転移率の上昇 • ピアミーティングは、職場が与える好ましくない影響 を改善し、研修転移を促進した • 好ましい職場の風土(上司が研修に対してより 好意的)は、受講者の研修転移を促進した • 研修についての事前情報の通知有無や、研修後 の説明責任の有無・度合い、研修の強制の度合 いについてのアンケート調査を、研修後に受講者に 実施 研修転移の意欲の上昇 • 研修前に情報を受け取った場合、転移意欲がよ り高まった • 研修内容について何らかの説明責任を課された 場合、転移意欲がより高まった • 上司が同様の研修を受けていたかどうか、職場に おいて他社の研修転移(研修内容の実践)を 見たことがあるかどうか、等についてのアンケート・イ ンタビュー調査を、研修後に受講者に実施 研修転移率の上昇 • 上司が同様の研修を受講したかどうかは、研修転 移率と有意に相関した • 受講者が、職場において他者の研修転移を観察 をしたかどうかは、研修転移率と有意に相関した 21
3.研修転移の促進策:職場環境 研修前後の上司とのミーティング実施 研究目的 • 研修前後の上司とのミーティングが、研修転移に与える効果を調査 • 対象:会議等のマネジメント、交渉技術、効果的な共同作業スキル、時間管理、コミュニケーションを扱う研修 • 施策:研修前後に、受講者は上司と15分のミーティングを実施(実施する受講者と、実施しない受講者を、ランダムに振り分け) ミーティング概要 実施時点 ミーティングの議題 研修前 • • • • 研修内容 研修内容と職務との関連性、職務における重要性 研修内容の活用についての、1つ以上の具体的な期待 研修内容活用の奨励 研修後 • • • • • スキル習得の度合い 課題の特定 研修内容の活用機会についての合意 受講者が望む指導が提供されることの保証 研修内容の活用による職務遂行能力の向上に対する、上司の期待 研究方法 • 評価: ✓ 研修後、受講者にアンケート調査を実施。研修内容の実践に取組んだ度合いを、5段階で自己評価 ✓ ミーティング実施群と未実施群とで、研修転移の度合いを比較 結果 • 上司のミーティングあり:研修転移率が高く、「職場での実践を助ける力が大きい」と感じる傾向にあった • 上司のミーティングなし:研修転移率が低く、「職場での実践を妨げる力が大きい」と感じる傾向にあった → 研修前後の上司のミーティングは、受講者の研修転移を促進しうる 出所)Brinkerhoff et al. 1995. Partnerships for training transfer: Lessons from a corporate study. より作成 22
3.研修転移の促進策:職場環境 研修中の、受講者グループによる定期的な会合(ピアミーティング)の実施 研究目的 • 研修中の受講者グループによる定期的な会合(ピアミーティング)の実施が、研修転移の度合いに与える影響を調査 • 職場の風土(上司が、研修に対してどの程度好意的にとらえているか)が、研修転移の度合いに与える影響を調査 • 対象:チームマネジメントやプロジェクトマネジメントの研修に参加した管理職層 研究方法 • 施策:研修期間中に、外部コンサルタントが参加するピアミーティングを実施 ✓ スキルの実践に伴う問題、受講者が直面している問題やプレッシャーについて、受講者間で共有・議論 ✓ ピアミーティングへの参加は、受講者自身による任意選択 • 評価:研修の1週間前、研修の6週間後、3ヵ月後の3時点で、受講者に対してアンケート調査を実施 ✓ 職場の風土(受講者の上司が、研修をどの程度好意的にとらえているか)を5段階で評価 ✓ 研修中に扱った13のスキルについて、職場での実践度(研修転移の度合い)を7段階で評価 • 職場の雰囲気に関わらず、ピアミーティングに参加した受講者は、研修転移の度合いが向上した → ピアミーティングは、職場が与える好ましくない影響を改善し、研修転移を促進しうる 結果 • 好ましい職場の風土を持つ(上司が研修に対してより好意的である)受講者は、より研修転移の度合いが向上した → 好ましい職場の風土は、受講者の研修転移を促進しうる 出所)Martin et al. 2010. Workplace climate and peer support as determinants of training transfer. より作成 23
3.研修転移の促進策:職場環境 研修前の情報提供、研修後の説明責任の付与 研究目的 • 研修についての事前情報の通知の有無や、説明責任の度合い、研修の強制の度合いが、研修転移への意欲に及ぼす影響を調査 • 対象:大手製造業技術部門の、製造適正基準や、効果的な会議の実施についての研修に参加した193人の受講者 • 施策:(特に介入/非介入のランダム化等は実施していない) 研究方法 • 評価:研修後に、受講者に対する以下のようなアンケート調査を実施 ✓ 事前情報:研修前に、研修について何らかの情報を与えられたかどうか ✓ 説明責任:研修後に、報告書作成や上司との面談など、説明責任の伴う義務が課されているかどうか ✓ 参加動機:参加が義務的であると認識しているか、自発的であると認識しているか ✓ 転移意欲(研修転移への意欲):研修内容を業務で実践しようとする意欲が高いかどうか • 事前情報を受け取っていたかどうかは、転移意欲との間に有意な相関があった → 研修前に、研修についての情報を受講者に与えることは、受講者の転移意欲を向上させうる 結果 • 研修に対して説明責任があると認識していたかどうかは、転移意欲との間に有意な相関があった → 研修内容について何らかの説明責任を課すことは、受講者の転移意欲を向上させうる • 参加が義務的であると認識していた方が、転移意欲との間に有意な正の相関があった。ただし、動機との関係性については見解が分かれて いる(他の研究と異なり、そもそも受講者が研修に好意的であったため、義務であることがマイナスに働かなかったとも推測されている) 出所)Baldwin et al. 1991. Organizational training and signals of importance: Linking pretraining perceptions to intentions to tran sfer. より作成 24
3.研修転移の促進策:職場環境 上司/同僚による同様の研修への参加、他者の研修転移の観察 研究目的 • リーダーシップ開発研修において、受講者の上司/同僚がすでに同様の研修を受講していたかどうか、 また、受講者が職場において、他者(上司/同僚等)の研修転移の様子を実際に見たことがあるかどうか、についての影響を調査 • 対象:大規模なリーダーシップ開発研修の参加者21名 • 施策:(特に介入/非介入のランダム化等は実施していない) 研究方法 結果 • 評価:研修後に、受講者とオブザーバー(受講者と十分な期間働いたことがあり、受講者の職場の様子を観察することができる上司/同 僚)に対する、アンケート・インタビュー調査を実施 ✓ 研修転移、労働環境などについて、 1=強く反対 ~ 5=強く賛成 の5段階で回答 ✓ 研修転移の具体例(受講者・オブザーバーが、自由回答形式で回答) ✓ 上司/同僚が同プログラムへ参加したか(受講者のみYes/Noで回答) ✓ 職場で他者(上司/同僚等)が研修内容を実践している(研修転移が起きている)のを見たか(受講者のみYes/Noで回答) • 上司が研修を受講したかどうかは、研修転移率と有意に相関した(相関係数0.47) → 上司が同様の研修を受講していることは、受講者の職場における研修転移を促進しうる → 職場の上位階層がまず研修を受け、その後、下の階層が順次その研修を受けていく、という展開が最も効果的と考えられる • 職場において、他者による研修内容の実践(研修転移)を見たかどうかは、研修転移率と有意に相関した(相関係数0.55) → 職場で他者の研修転移を見ることが、受講者の研修転移を促進しうる 出所)Gilpin-Jackson et al. 2007. Leadership development training transfer: a case study of post‐training determinants. より作成 25
4.研修転移の成果測定に係る研究結果 26
4.研修転移の成果測定に係る研究結果 研究論文サーベイの実施方法 調査の 対象 調査の 限界 ◼ カーパトリックの「4レベル評価モデル」のうち、レベル3に該当する効果の測定を行なった研究論文 ◼ 2000~2023年出版の国内・海外の研究論文 ◼ 必要に応じて、それ以前に出版された重要文献 ◼ 産業心理学・教育心理学分野のいくつかのJournalには、アクセス不能な文献があった ◼ アクセス不能な文献に関しては、その旨を記載し、文献情報とAbstructからわかる情報を記録した 上記を基に、研修転移の成果測定を実施している研究を抽出・整理 27
4.研修転移の成果測定に係る研究結果 研究結果の一覧 施策/文献 教員のICTスキル研修の効果測定 Koshimizu et al. 2014. JICA職員を対象としたマルチメディア応 用技術研修の効果測定 Tokumura et al. 2006. 研修転移の割合と持続性に関する調 査 Saks and Belcourt. 2006. 「研修転移」によって現れる行動を5タイ プに分類し、それぞれの実践度を5段階 評価 Ford et al. 2019. 研究手法 結果 • 研修2か月前、研修中、研修2か月後の、異なる 3時点で質問紙調査・ヒアリングを実施 • 上記の結果と、研修中に受講者が作成したICT 活用推進計画の内容から、意欲や実践度などを 評価 • 約半数の参加者が、立案した計画に基づいた推 進・実践を実際に行った(研修転移が起きてい た) • 研修の8ヶ月後に、アンケート調査を実施 • 研修終了後に活用したスキル、アクションプラン実 施状況などを評価 • 全回答者が、研修終了後もアクションプランがス キル活用に役立っていると回答した • 数人から、具体的な実践内容についての回答が 得られた • 150名の研究開発学会会員へのアンケート調査を、 研修後の異なる3時点で実施 • 研修内容を業務に活用している受講者の割合を 算出 • 研修内容を実践している従業員の割合(研修 転移の度合い)は、時間の経過とともに低下 (研修直後:62%、6か月後:44%、1年後: 34%) • ワークショップ参加者121人へのアンケート調査を 実施 • 研修内容を、「実行」「評価」「説明」「指導」「誘 導」したかどうかの実践度について、それぞれ5段階 評価で計測 • 「実行」は、平均使用頻度が最も高く、参加者間 での頻度の差も小さかった • 「指導」は、平均使用頻度が最も低いが、参加者 間での頻度の差が大きかった • 5種類のタイプが他のモデルよりもデータによく適合 し、タイプ間の区別の妥当性が支持された 28
4.研修転移の成果測定に係る研究結果 教員のICTスキル研修の効果測定 研究目的 • カークパトリックの「4レベル評価モデル」に基づく研修の評価方法を開発し、研修の効果を測定 • 対象:ICT活用推進のための研修(180分)を受講した小中学校の情報担当教員 • 評価: ✓ カークパトリックの「4レベル評価モデル」に基づく評価項目(レベル1~4)を作成 ✓ 質問紙調査を、異なる3時点で参加者に対して実施(研修2か月前、研修中、研修2か月後) ✓ 研修中に、受講者は今後のICT活用推進計画を作成し提出。これを専門家が評価・分類 研究方法 結果 受講者への主な調査内容 実施時点 調査項目 研修2か月前 • (受講者が普段実施しているICT活用推進についての内容報告) 研修中 • 今後の推進意欲、必要性の理解度、実践手段の獲得度 • (受講者が研修中に立案した「ICT活用推進計画」を提出) 研修2か月後 • 推進意欲、必要性の理解度、実践手段の獲得度、推進による気づき • (実践したICT活用推進についての内容報告) • 受講者のうち約半数が、研修中に立案したICT活用推進計画に基づく実践を行っていた • 特に、研修2ヶ月後に実践していた受講者は、ICT活用推進に対する意欲や、研修において「校内でICT活用を推進させる新たな手立てを得 ることができた」と考える度合いが有意に高かった 出所)Koshimizu et al. 2014. 校内におけるICT活用推進を促す教員研修の評価方法の提案と効果の検証. 日本教育工学会論文誌. より作成 29
4.研修転移の成果測定に係る研究結果 JICA職員を対象としたマルチメディア応用技術研修の効果測定 研究目的 • 研修期間中のアクションプラン(研修後の研修内容活用の計画)の作成が、転移に与える影響の評価 • 対象:JICA職員向けのICTスキル研修を受講した12名 研究方法 結果 • 評価: ✓ カークパトリックの4レベル評価モデルに基づく評価項目(レベル1~4)を作成 ✓ 研修終了から8ヶ月後に、メールで調査票を配付し、追跡調査を実施 ✓ レベル3(行動変容)に関わる内容について問う記述式アンケートとして設計 設問例) • 「今でも使っているスキルは何ですか?」 • 「アクションプランのいくつの項目を実行できましたか?」 • アンケートに回答した全研修生が、作成したアクションプランが研修後も役立っていると回答 • 数人の受講者より、具体的な実践内容(研修転移の内容)についての回答が得られた 出所)Tokumura et al. 2006. ICTスキル研修改善のためのアクションプラン導入手法. 日本教育工学会論文誌. より作成 30
4.研修転移の成果測定に係る研究結果 研修転移の割合と持続性に関する調査 研究目的 • 研修転移の頻度と持続性に関する調査 • 対象:研究開発学会会員150名(研修担当者など) 研究方法 • 評価: ✓ 研修直後、6か月後、1年後の3時点でアンケート調査を実施 ✓ 研修内容を職場で活用・実践している受講者の割合を調査 研修内容を職場で効果的に活用している受講者の割合の推移 62% 結果 44% • 研修直後には、62%の受講者が研修内容を職場で活用していた (研修転移が起こっていた) 34% • 6か月後には44%、1年後には34%に低下した 研修直後 6か月後 出所)Saks and Belcourt. 2006. An investigation of training activities and transfer of training in organizations. Human Resource Management. より作成 1年後 31
4.研修転移の成果測定に係る研究結果 「研修転移」によって現れる行動を5タイプに分類し、それぞれの実践度を5段階評価 研究目的 • 「研修転移」として現れる行動を、5つのタイプに分類(細分化)し、各タイプの実践度の違いを調査 • 対象:1995年から2012年にかけて、プライマリケア教員育成研修に参加した医師 • 評価: ✓ 「実行」「評価」「説明」「指導」「誘導」の5つ転移タイプの頻度を、アンケートにより調査 ✓ 各転移タイプの転移行動の頻度を、 1=まったく使用しない ~ 5=非常に頻繁に使用する の5段階で回答 研修転移が起こった場合、受講者のどのような行動に現れるか?:5つのタイプに分類 研究方法 結果 • • • • タイプ 行動の内容 実行 • 研修内容を実行する(例:研修内容を業務で応用して活用する) 評価 • 研修に基づき実施された内容を評価する(例:自分の資料の質を評価する) 説明 • 研修内容に関わる事柄を説明する(例:同僚に、研修内容を使用するよう説得する) 指導 • 研修内容を同僚への指導に使う(例:同僚に研修内容の使用方法を指導する) 誘導 • 研修内容に関わるルールを策定する(例:同僚に研修内容の使用を義務づける) 5タイプの平均使用頻度は 「時々使用する」という頻度に該当(2.95) 「実行」は、平均使用頻度が最も高く、参加者間での頻度の差も小さかった 「指導」は、平均使用頻度が最も低いが、参加者間での頻度の差が大きかった 5種類のタイプが他のモデルよりもデータによく適合し、タイプ間の区別の妥当性が支持された 出所)Ford et al. 2019. Beyond Direct Application as an Indicator of Transfer: A Demonstration of Five Types of Use. Performance Im provement Quarterly. より作成 32
4.研修転移の成果測定に係る研究結果 カークパトリックの「4レベル評価モデル」に基づく成果測定については、 レベルが上がるほど実施されない傾向にある 4段階評価の実施状況 (%) 77.2 77.6 81.7 74.0 反応(レベル1) 22.3 学習(レベル2) 36.5 39.8 行動(レベル3) 成果(レベル4) 12.0 14.4 16.8 6.6 7.4 9.8 51.4 日本 米国 カナダ 欧州 23.6 16.5 出所) 「公共能力開発施設の行う訓練効果測定 -訓練効果測定に関する調査・研究- 第6章 研修評価と効果測定の一般的な考え方と進め方」(2005年) 独立行政法人雇用・能力開発機構 職業能力開発総合大学校能力開発研究センター より作成(https://www.tetras.uitec.jeed.go.jp/files/kankoubutu/a-114-07.pdf) 33