5.5K Views
March 22, 22
スライド概要
おもに出版業界の新人の方に向けて、日本書籍出版協会2020年度新入社員研修会でお話した内容のスライドです。
タイトル、デザインについては、以下を例として挙げさせていただきました。
【タイトル】
●たった1日で即戦力になるExcelの教科書【増強完全版】
https://gihyo.jp/book/2020/978-4-297-11143-4
●スペースキーで見た目を整えるのはやめなさい
https://gihyo.jp/book/2020/978-4-297-11274-5
●わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる
https://gihyo.jp/book/2020/978-4-297-11153-3
【デザイン】
●ニューロテクノロジー
https://gihyo.jp/book/2019/978-4-297-10859-5
●巣ごもり消費マーケティング
https://gihyo.jp/book/2020/978-4-297-11442-8
●2060 未来創造の白地図
https://gihyo.jp/book/2020/978-4-297-11159-5
編集の価値をつくるための 超基本 技術評論社 傳 智之(でん ともゆき) 2020/09/15 日本書籍出版協会 2020年度新入社員研修会
■お話しするのは こんな人です 技術評論社 書籍編集部 500円台から5000円台まで IT入門・専門書や ビジネス書などを作ってき ました 【Twitter】@dentomo
このスライドは追って共有します (メールか、SlideShareを予定) メモは最低限で大丈夫です
■“編集”ってなにをすること? ・著者の方に原稿を依頼する ・原稿を読んで、意見を言う ・誤植がないかチェックする : どれも正しいが、十分ではない
■いろいろな人と関わって価値を生み、 関係者の利益を最大化する ・読者 ・印刷所、紙商 ・著者 ・書店、取次 ・デザイナー、 ・版元(自社) イラストレーター、 ・編集者(自分) 写真家
■読者が 手にするもの、手放すもの ●手にするもの ・楽しさ、感動 ・ノウハウ ・時間 (ほかの手段と比べ たときの差) ●手放すもの ・お金 ・時間
■著者が 手にするもの、手放すもの ●手にするもの ●手放すもの ・コンテンツの品質 ・時間 ・印税(保証) (違うことをすれば 手にできたもの) ・ビジネスチャンス ・自己成長(発信力、 ・イメージ 思考の整理) (悪評が出た場合)
■デザイナー、イラストレーター、 写真家が手にするもの、手放すもの ●手にするもの ・報酬 ・実績 (将来の仕事) ・スキル・ノウハウ ●手放すもの ・ほかの仕事をすれ ば手にできた利益 ・イメージ (ネガティブな評価、 固定化)
■印刷所、紙商が 手にするもの、手放すもの ●手にするもの ・利益 ・実績 ●手放すもの ・ほかの仕事をすれ ば手にできた利益
■書店、取次が 手にするもの、手放すもの ●手にするもの ・利益 (より利潤が大きい ポートフォリオ) ●手放すもの ・ほかの本を展開す れば手にできた利 益
■版元(自社)が 手にするもの、手放すもの ●手にするもの ・利益 ・認知度・信頼度 (社会資本) ●手放すもの ・損失 ・イメージ (悪評が出た場合) ・訴訟コスト
■編集者(自分)が 手にするもの、手放すもの ●手にするもの ・報酬 ・スキル・ノウハウ ・実績 ・将来の仕事・人脈 ●手放すもの ・時間(ほかの仕事 をすれば手にでき た利益) ・イメージ (悪評が出た場合)
■本をつくるために やるべきことはいろいろ ・いい企画を立てる ・タイトル・目次を 魅力的にする ・原稿を磨き上げる ・デザインを最善の ものにする ・進行を最適化する ・販促に力を入れる ・大量の仕事を捌い ていく
■4つの切り口でお話しします ・いい企画を立てる ・タイトルで興味を惹く ・デザインを最善のものにする ・つながりの中心となる
■いい企画を立てる □タイトルで興味を惹く □デザインを最善のものにする □つながりの中心となる
■一番大事なのが「企画」 ・価値ある仕事の設計図 (10倍、100倍以上の差が出る可能性も) ・やりたいことを仕事にするためのパスポート
■“企画”って? 「企」てる = 新しい世界を想像する +計「画」する = 価値を作る道筋を示す 著者で決まるところが大きい =「こんな本を作れば価値がある」という納得 →「思いつき」「アイデア」を立体化する
■「いい本」って? 「ためになる×お金になる」を最大化する (短期的・中長期的に) →「いい内容」だとしても、読んでもらえなけ れば価値が出ない →お金が得られることがすべてではないが、 お金が入らないと事業を継続できない
■企画に必要なもの ・著者 ・テーマ・タイトル ・目次(構成) ・想定読者 ・概要 ・体裁(判型/本文の色 数/ページ数) ・デザインイメージ ・価格 ・初版部数 ・制作費および採算 ・類書の売れ行き ・刊行時期 ・棚 ・売り方
■著者で決まるところが大きい ・人がいないとはじまらない ・人によって内容の質も売れ方も変わる ・個性は他人が“発想”できない (「企画を考えます」のウソ) ・タイトル、デザイン、目次も大きいけれど、 後から調整できる余地がある
■著者の何を見るか ・個性(No.1になるもの)があるか? ・仕事での経験・実績があるか? (「本を出しているか」ではない) ・文章で表現できるか? →特に目次を手がかりに
■なぜ企画が出せない・通らない? ・目の前の仕事に忙殺される ・観測範囲が狭い ・自信がない ・独自性が見えない
■「目先の仕事に忙殺される」 に対処する ・1日1時間は企画に使う(予定から天引きする) ・1ヶ月で100人と知己を得ることを目標にする ・より少ない時間で作業できるよう効率化する ・タスク管理をきちんとする
■「観測範囲が狭い」 に対処する ・さまざまなテーマの情報源を ブログ(RSS)やTwitterなどでフォローして 自然に目に入るように仕組み化・習慣化する ・自社の全ジャンルをカバーできるようになる つもりで、未知のテーマを優先する
■「自信がない」 に対処する ・「なぜ売れるか?」を言葉にする ・話を聞きにいく ・徹底的に調べて、考える 【参考】企画を立てる動機と質問 https://www.dropbox.com/s/itdm15n63ukwij u/QforPlanning.txt?dl=0
■「独自性が見えない」 に対処する ・テーマではなく人を起点に企画を立てる (著者の個性で差別化する) ・特徴をとにかく言葉として洗い出す ・具体的な構成案を検討する
■何を「失敗」と考えるか ・リスクをとらない(とれない)リスク ・利益が得られなくても、経験が得られるか (車輪の再発明の是非) ・著者の方に後悔が残らないか ・「年間で辻褄をあわせればいい」という楽観 →売れないことを恐れず、挑戦する
■打席に立つ回数を増やす ・キャリア年数と企画力は必ずしも比例しない ・もちろん、数さえ打てばいいわけではない 【参考】「売れませんでした」で終わらないた めのふりかえりチェックリスト https://www.dropbox.com/s/sfxuboaogkwkoh b/Review_publishing.txt?dl=0
□いい企画を立てる ■タイトルで興味を惹く □デザインを最善のものにする □つながりの中心となる
■タイトルや見出しの最終案は 編集者が出す場合が多い ・長文を書ける ≠魅力的なタイトルやコピーを書ける ・自らアウトプットしない(できない)分、 全体を見ることに注力する
■タイトル案によくある指摘 ・長い(野暮ったい、区切りがわかりにくい) ・堅い ・ありきたり、インパクトがない、そそられない ・煽りすぎ、釣りっぽい ・辛気臭い ・意味がわからない(知りたいとも思えない) ・内容と合ってない
■タイトルの要件1 「読みたくなる」 ・得られるメリットが明確になっている ・自分でもできると思える ・自分ごとに思える(煽り系も含む) ・共感できる ・興味をそそられる ・新規性がある(要件すべてに関係)
■タイトルの要件2 「知ってもらいやすい」 ・書店で目的の棚に置いてもらいやすい (意図しない棚に置かれない) ・検索キーワードにヒットしやすい ・覚えやすい/思い出しやすい (そのために省略しやすい)
■タイトルの作り方の基本 1. 2. 3. 4. 強みや特徴を表すキーワードをリストアップする。 リストアップしたキーワードに優先順位をつける。 キーワードを軸に、方向性と理由を考える。 ・メリット訴求型 【例】たった1日で即戦力になるExcelの教科書 ・問題提起型 【例】スペースキーで見た目を整えるのはやめなさい ・コンセプト型 【例】わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる 方向性をもとに、価値(実利、安心感など)を 訴求する言葉やその組み合わせ方を考える。
■メリット訴求型 ●たった1日で即戦力になる Excelの教科書 ・「1日で実務直結」の セミナーをわかりやすく ・安定感のある言葉で締める
■問題提起型 ●スペースキーで見た目を 整えるのはやめなさい ・命令形だけど共感される ・メッセージ性が強い場合は それに賭けるのも手
■コンセプト型 ●わたしが知らないスゴ本は、 きっとあなたが読んでいる ・ブログ名をそのまま採用 ・素材がいいならそれを活かす
■タイトルづくりの注意点 ・あくまで「読みたくなる」かどうか (本の全体像や“らしさ”を大事にしつつ) ・サブタイトルに逃げない ・全部タイトルで表現しようとしない (コピーにメッセージを分散させるのも手)
□いい企画を立てる □タイトルで興味を惹く ■デザインを最善のものにする □つながりの中心となる
■発注はだれでもできるようで難しい ・「探す」のはめんどうくさい ・「伝える」のはラクではない ・「決める」のは神経を使う (好みと売れ行きは必ずしも一致しない)
■人選を決める ・デザインは人選8割、依頼2割 ・「“で”いい」ではなく 「“が”いい」でお願いする ・「安くお願いできるから」で決めない
■イメージをできるだけ持っておく ・「探す」前に「知っておく」 ・ジャンルを問わずに常にチェック (大扉の裏、目次、奥付など) ・本のイメージをキーワードにしておく ・会社としての統一感に縛られすぎない
■1冊ごとにゼロベースで考える ・「その方がその本に最適か?」を考える ・記録・記憶のストック×今の感性で決める ・書店をまわりながらひっかかる例を見つける ・迷ったら新規の方に(知見も深まる)
■文字だけで ソリッドに ●ニューロテクノロジー (秦浩司さん) ・SFのような内容を、強く エッジの立った表現で ・赤い用紙に銀のインクで 鮮烈な印象を
■写真で 惹きつける ●巣ごもり消費マーケティング (金井久幸さん) ・タイトルをきちんと見せつつ 遊び心を ・トレンドを抑えつつ、 一過性ではないメッセージで
■イラストで 世界を表現 ●2060未来創造の白地図 (Bookwallさん、六七質さん) ・文字だけでは体現できない イマジネーションを補完 ・加工したように見える帯で さらにアクセントを
■依頼で気をつけたい5つのポイント ・連絡は早く ・「なぜ、お願いしたのか」を説明する ・自社の説明も忘れずに ・会わずにすませない ・なるべく先方のオフィスに伺う (表に見えない作品や仕事の環境を拝見する)
■力を引き出す ・「想像力を生かす」のが基本 ・「このとおりにやってほしい」と言わない ・細かい口出しはなるべくしないように ・案を複数出してもらうのが最善とは限らない ・タイトルとコピーを確定させておく
■齟齬をなるべく減らす ・「これだけはやめてほしい」を明確にしておく (タイトルの可読性、色づかい、特殊加工など) →そのうえで、アイデアに乗るのはアリ ・こちらのイメージはある程度固めないとブレる ・サンプル(≠ラフ)を用意しておく (「シンプル」は「そっけない」かもしれない)
□いい企画を立てる □タイトルで興味を惹く □デザインを最善のものにする ■つながりの中心となる
■関係者をつなぐ起点となるのが 編集者 ・「営業に営業する」のは編集者の仕事 ・動きまわり、いろいろな人とつながっておく ・ソーシャルネットで情報を発信/拡散する (自分のフォロワー数がすべてではない) ・裏話を語れるのは編集者
■「うまくつなげる」前に コミュニケーションの基本を大事に ・必要以上に色をつけない ・誤解をなくす ・流れを止めない その先に、質と速度を求めていく
■自分の個性(偏見)に向きあう ・自分の「いい」を疑い、見直し、信じる ・聞く、三角測量する ・異分野に興味をもつ
■「人によって変わる」前提で構える ・メールですべて伝わるとはかぎらない ・電話するのが丁寧とはかぎらない ・会うのが最善とはかぎらない 標準的な答えが相手にも“正解”とは限らない
■「事情は変わる」前提で構える ・話はよくあとから変わる (本人の性格もあれば、外部要因もある) ・許諾や名義など、必ず毎回確認する
■「完璧でない」前提で考える ・「そんなつもりじゃなかった」は日常茶飯事 ・相手がきちんと説明できるとは限らない (深堀りするとじつは違う意図だったり) ・違和感を噛み殺さない
■「連絡が届かない」可能性を考える ・メールはエラーでなくても届いてない場合も (迷惑メール、サーバーでのフィルタリング) ・既読でも「読んだ」とは限らない (たまたま開いてそのままに、など) ・返事がこなければ、ほかの手段で確認
■自分の状況を共有する ・「あれ、どうなりましたか?」の最小化へ ・対応できなくても受領のお知らせはすぐに ・「いつまでに」も添えられると理想的 【参考】署名やSNSプロフィールに記載 https://www.dropbox.com/s/6y5jz16umkgr4w h/den_workstyle.txt?dl=0
■自分の言葉で話す ・だれかの意向に従わざるをえないことはある ・それでも、主語を自分に (社外の人にはあなたが会社の代表)
□ □ □ □ ■おわりに
■才能が可視化されやすい時代 ・影響力が大きい ・知識はかなわない ・コンテンツを作る力もあったりする より価値を生むためにどんな貢献ができるか?
■試行錯誤を積み重ねる ・あっという間に時間はすぎていく ・若いうちに何をしたかで、5年後、10年後の 仕事のやりやすさが変わってくる ・目の前の仕事を全うしつつ、忙殺されずに
□ □ □ □ □ ■参考資料
■編集者の価値の参考 ・編集者だけが出版の未来を創る(渡邊民人さん) http://www.ajec.or.jp/%E6%B8%A1%E9%82%8A% E6%B0%91%E4%BA%BA%E3%81%95%E3%82%93 %E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%9 3%E3%83%A5%E3%83%BC/ ・【創作・投稿】編集者必要論(随時更新) https://togetter.com/li/1194910
■編集の考え方・実践の参考 ・AJEC(日本編集制作協会)編集教室レポート http://www.ajec.or.jp/special_interviews_arch ive/ ・編集の教科書 ※特にタイトルづけの参考に http://www.leadersnote.com/book_85/index. html
■コンテンツづくりの参考 ・コンテンツ・デザインパターン(技術評論社) https://gihyo.jp/book/2017/978-4-7741-9063-1 ・すべての企業に眠っているはずの、 「もったいない」素材リスト →個人に置き換えれば、通常の打ち合わせでも有用 https://note.mu/yu_pf/n/nb4432ffcb42a
■日本の出版業界の参考 ・出版状況クロニクル(小田光雄さん) http://odamitsuo.hatenablog.com/ ・新文化 https://www.shinbunka.co.jp/ ・文化通信 https://www.bunkanews.jp/news/news_list.php
■電子書籍など新しい動向の参考 ・HON.JP(鷹野凌さん) https://hon.jp/news/ ・マガジン航(仲俣暁生さん) https://magazine-k.jp/
■デザインの参考 ・装丁家坂川栄治氏が明かす意外なデザイン術 https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52530 ・カバーデザインはこうして決まった 『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』編集つぶ やき https://note.com/hiromi/n/n27f949108309
■本研修の補完 ・売れる本を作るために編集ができること https://www.slideshare.net/TomoyukiDen/ss140421774 ・売れる本の作り方、見せ方 https://www.slideshare.net/TomoyukiDen/ss78215546