AI_法務の現在地

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AI、法務の現在地 AIと法務の交差点を概観する 2026年4月 TMI総合法律事務所 弁護士 蕪城 雄一郎

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目次 1 弁護士法の規制概要 2 従来の法務AIサービス 3 生成AIの登場と法務への影響 4 裁判におけるAI活用の研究 5 AIの法務(補論) 弁護士法72条と法務省見解 契約書レビューを中心に リサーチ・エージェント機能の進化と今後の可能性 最高裁での検討と主張整理の調査研究 AI倫理とガバナンス 2

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1 弁護士法の規制概要 3

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1.弁護士法の規制概要 弁護士法72条:「法律事務」の該当性が問題となる 弁護士法72条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で…一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解 その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない 72条の趣旨と解釈 72条は、弁護士でない者が報酬を得る目的で業として法律事務を取り扱うことを禁止する規定。親族の相談などは問題ないが、 有料プランを用意している場合などは問題がある。 AI契約書レビューサービスとの関係では、当該サービスが「法律事務」の取扱いに該当するかが問題となる。 法務省見解「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」 (令和5年8月) ✓ AI契約書レビューサービスが72条に違反するかは、提供するサービスの具体的内容と、利用者が誰かによって判断が分かれる ✓ 弁護士・弁護士法人向けの補助ツールとして提供する限り、直ちに72条に抵触するとは考えにくい(弁護士が最終的な法的判断 を行うため) ✓ 一般の事業会社に対して、個別具体的な法的判断を含む回答や修正提案を行うサービスは、72条に抵触する可能性がある ✓ 最終的には裁判所の判断による 新たな動き: 2026年1月、規制改革推進会議デジタル・AIワーキング・グループにおいて、72条とAIリーガルテックの関係が議 題に。法務省はガイドラインがサービス開発を萎縮させた可能性を認め、運用見直しに向けた検討会を設置する方針 4

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1.弁護士法の規制概要 Nippon Life v. OpenAI:AIの「非弁行為」が争われた事例 参考:米国事例(2026年3月 米国イリノイ州北部地区連邦地裁) 事案の概要 日本生命の米国法人(Nippon Life Insurance Company of America)の長期障害保険の元受給者が、給付打切りをめぐる訴訟 で和解成立後、和解内容に不満を持ち担当弁護士とのメールをChatGPTにアップロードして相談 → ChatGPTは弁護士の対応を批判し、和解破棄・訴訟再開のための法的分析と助言を提供 → 元受給者は弁護士を解任し、ChatGPTの出力に基づく大量の申立てを裁判所に提出 日本生命の請求(3つの法的根拠) 請求根拠 内容 ① 契約への不法干渉 成立済みの和解契約を破棄させ、訴訟を蒸し返させた ② 訴訟手続の濫用 根拠のない大量の申立てにより日本生命に約30万ドルの弁護士費用を負担させた ③ 無資格での法律業務 ChatGPTが弁護士資格なく法的助言・訴訟書面の起案を行った(非弁行為) ※ 米国法に基づく事例である。 6

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2 従来の法務AIサービス 7

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2.従来の法務AIサービス 契約書レビューが法務AI市場の中心 サービス名 主な特徴 LegalForce AIによるリスク検知・条項抽出・契約管理の包括的プラットフォーム OLGA AI契約リスク検知から契約管理まで自動化 LeCHECK 中小企業でも導入しやすい価格帯のレビューツール LAWGUE 契約書を含む各種文書の作成・レビュー支援 主な機能カテゴリ リスク検知 条項抽出 契約管理 契約書内の不利な条項や リスクのある条項を自動検出 契約書から重要な条項情報を 構造化して抽出 締結後の契約書情報を データベース化して管理 8

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3 生成AIの登場と法務への影響 9

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3.生成AIの登場と法務への影響 法務AIサービスの進化:リサーチからエージェントへ? 従来型 生成AI搭載型 エージェント型 ルールベース 自然言語リサーチ 自律的タスク実行 → → 複合的リサーチの自律実行 契約書テンプレート照合 自然言語での法令・判例検索 リスク条項の自動検出 論点整理の自動生成 条項データベース検索 ドラフト起案支援 契約書の作成からレビューまで 法務相談の自動回答 ※ 弁護士法上の制約があり、弁護 士が判断の責任主体にならなければ ならない。 エージェント型の例: LegalOn Agents(法務相談・リサーチ・契約書作成を自律処理)、リーガルブレインエージェン ト(弁護士ドットコム。数時間のリサーチを数分に短縮) 10

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3.生成AIの登場と法務への影響 生成AIの法務活用:数字と現場の温度差 報道されている数字 76% 現場の実感 の企業が法務で生成AIを活用 日本経済新聞(2026年1月) 40% の法務担当者が業務で活用 もっとも、「活用」の定義は広く、現場の実感としては まだ大きく変わっていないという声も多い。 現状の主な用途は、個人レベルでのリサーチ補助・ドラ フト起案の壁打ちが中心であり、業務プロセスそのもの が変革されたとまではいい難い。 LegalOn Technologies調査 報告されている主な活用場面 論点整理 リサーチ ドラフト起案 翻訳・要約 ※ いずれも個人レベルでの利用が中心。組織的な業務プロセスへの統合は途上 11

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3.生成AIの登場と法務への影響 将来の可能性:汎用AI+個別カスタマイズという方向性 Zack Shapiro 弁護士(米国・Rains LLP)のポスト "The answer, increasingly, is Claude. That's basically it. Not Harvey. Not CoCounsel. Not Spellbook. A general-purpose AI that I've taught how I practice law." この事例のポイント Shapiro氏は2人の弁護士で約200社のスタートアップと投資家を代理しており、 法務特化AIではなく汎用AIに自身の実務判断を教え込むというアプローチを採っている。 テンプレートの自動適用ではなく、弁護士個人の判断プロセスそのものをAIに移植するという考え方は、 法務特化サービスから汎用AI+カスタマイズへのパラダイムシフトの可能性も。 ※ アメリカと日本との違い:アメリカはオンライン上で判決が公開されており、学習データが多いが、日本は判 決の公開は限定的であり、学習データに十分な量があるか不明。 12

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4 裁判におけるAI活用の研究 13

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4.裁判におけるAI活用の研究 最高裁で裁判へのAI活用の議論が本格化 2025年 最高裁で議論本格化 裁判手続へのAI活用の可否について検討開始 2026年1月 民事裁判での補助的活用の研究開始 主張要約・証拠整理等での生成AI活用を検証 参照元:日経新聞2026年1月20日 2026年5月 改正民事訴訟法の全面施行予定 訴訟記録の全面デジタル化(AI活用の基盤整備) ※AI以前より予定されていた改正 最高裁長官(今崎幸彦長官)の発言 「司法判断へのAI関与もあり得ない話ではない」 ただし、セキュリティ・信頼性・著作権の課題を指摘。行政手続への適用は十分に考えられるとも発言 14

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4.裁判におけるAI活用の研究 主張整理におけるAI活用の調査研究(2026年2月) 目的 民事訴訟における裁判官の主張整理にAI技術をどのように活用し得るかを検討 方法 模擬事件記録3件 × LLM 3種類(GPT5.2、Gemini3、Claude Sonnet4.5)で主張整理メモを生成・検証 研究者 名古屋大学法学研究科(宮木教授、村上教授)、弁護士チーム(上松・蕪城・木場)他 2つの試行による比較検証 試行1:調整なし シンプルなプロンプトのみ: 「あなたは調査官です。事件概要を まとめて争点を明確にしてください」 → 要件事実論の知識なしで、LLMの 素の能力を検証 試行2:要件事実論で調整 民事訴訟特有の思考方法をプロンプトに追加 要件事実論の基本的な考え方として、 約2,500字の指示 → プロンプトのみによる改善効果を検証 15

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4.裁判におけるAI活用の研究 試行1:事実把握は高精度だが、法的構造化は不十分 高い事実把握能力 要件事実論への変換は失敗 • • • • • • • • 複数の書面にまたがる事実の統合 原告・被告双方の主張の正確な抽出 時系列の再構成 事案の全体像の把握に有用 訴状のストーリーをそのまま要約 請求原因・抗弁・再抗弁の構造不明 否認と抗弁の区別ができていない 立証責任の所在の整理なし 重要な知見 LLMの事実把握能力は、法科大学院・司法修習でトレーニングを受けた者に 匹敵する水準に達している。 一方、要件事実論に基づく法的構造化は、そのままのLLMでは不可能 16

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4.裁判におけるAI活用の研究 試行2:プロンプト調整で確実な改善 検証項目 試行1 試行2 訴訟物ごとの整理 × ○ 攻撃防御構造の意識 × △〜○ 否認と抗弁の区別 × △(モデルにより差) 間接事実の位置づけ × ○ 研究全体の結論 ① 事実把握能力は高水準 LLMは民事訴訟の主張書面をかなりの程度正確に読解する ② プロンプト調整だけでも確実に改善 約2,500字の要件事実論の説明で出力品質が顕著に向上 ③ 今後の鍵は要件事実の体系的知識の導入 RAG・ファインチューニング等による精度向上が期待される 17

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5 AIの法務(補論) 18

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5.AIの法務(補論) AI倫理の視点と、法務のこれから(私見) ガバナンスの前提 AIのリスクは技術そのものではなく、設計・運用する人間の側にある 大屋雄裕「AIによる危機,AIをめぐる危機」公共政策研究21号(2021) AIエージェント時代の法務はどう変わるか? ルーチン的な法務作業 非定型的な法務作業 AIによる自動判断が進む? → 承認は必要だとしても、 自動化は進むと予測される アウトプットの時間はAIが短縮 → レビューとインプットの比重は? 法務の仕事は一層高度化する? 19

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まとめ 1 弁護士法72条との関係で、AI法務サービスの提供形態には注意が必要。「法律事務」の該当性が問題 2 法務AIは契約書レビュー中心から、生成AI搭載のリサーチ・エージェント型へ進化しつつある 3 汎用AI+個別カスタマイズという方向性も台頭。業務プロセスの変革はこれからが本番 4 裁判所でのAI活用も研究段階に。LLMは事実把握に高い能力を持つが、法的構造化には調整が必要 5 法務の仕事は、ルーチンなものは自動化に近づく一方で、非定型なものは一層高度化する可能性も ご清聴ありがとうございました 20