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第5回 | すうがく徒のつどい
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すうがく徒のつどいでルート系の話をしました #tsudoionline - usami-k 数学日記
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既約ルート系の分類定理の証明 宇佐見 公輔 第 5 回 すうがく徒のつどい 1/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
自己紹介 宇佐見 公輔(うさみ こうすけ) 本業はプログラマー 大学院で数学専攻、修士卒業後は趣味としてやっている Lie 代数やその周辺を好む 2/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
今日の話 今回はタイトルにあるように既約ルート系の分類定理について話 します。 予定では完全な証明を述べるつもりでしたが、準備と分量の都合 上、証明のさわりを述べる程度になってしまいました。すみませ ん・・・。 ルート系の定義から丁寧に説明できればと思います(以前のすう がく徒のつどい@オンラインで話したことがある内容に近くなり ます) 。 3/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
ユークリッド空間 Definition (ユークリッド空間) ℝ 上の有限次元ベクトル空間で、内積(正定値対称形式)が定義 されているものをユークリッド空間と呼びます。 𝐸 をユークリッド空間とするとき、𝛼 ∈ 𝐸 と 𝛽 ∈ 𝐸 の内積を ⟨𝛼 ∣ 𝛽⟩ と書くことにします。 4/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
超平面 Definition (超平面) 𝐸 をユークリッド空間とします。𝛼 ∈ 𝐸 に対して、超平面 𝑃𝛼 を 𝑃𝛼 ∶= { 𝛽 ∈ 𝐸 | ⟨𝛼 ∣ 𝛽⟩ = 0 } と定義します。 𝑃𝛼 𝛼 5/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
鏡映を考える 超平面 𝑃𝛼 に関する鏡映 𝜎𝛼 を考えます。 𝛽 𝑃𝛼 𝛼 𝜎𝛼 (𝛽) 6/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
鏡映の計算 𝛽 𝑃𝛼 𝑡𝛼 𝛼 𝜎𝛼 (𝛽) ⟨𝛽 + 𝑡𝛼 ∣ 𝛼⟩ = 0 ⇔ ⟨𝛽 ∣ 𝛼⟩ + 𝑡⟨𝛼 ∣ 𝛼⟩ = 0 ⇔ 𝑡 = − ⟨𝛽 ∣ 𝛼⟩ ⟨𝛼 ∣ 𝛼⟩ したがって、 𝜎𝛼 (𝛽) = 𝛽 − 2⟨𝛽 ∣ 𝛼⟩ 𝛼 ⟨𝛼 ∣ 𝛼⟩ 7/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
鏡映の定義 定義として改めて述べると、次のようになります。 Definition (鏡映) 𝐸 をユークリッド空間とします。𝛼 ∈ 𝐸 に対して、写像 𝜎𝛼 を 𝜎𝛼 ∶ 𝐸 → 𝐸 𝛽 ↦ 𝛽 − 𝑐(𝛽, 𝛼)𝛼 と定義し、超平面 𝑃𝛼 に関する鏡映と呼びます。ここで、𝑐(𝛽, 𝛼) は 次のように定義します。 𝑐(𝛽, 𝛼) ∶= 2⟨𝛽 ∣ 𝛼⟩ ⟨𝛼 ∣ 𝛼⟩ 8/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
ルート系の定義 Definition (ルート系) 𝐸 をユークリッド空間とします。𝐸 の部分集合 𝛥 がルート系であ るとは、次の条件を満たすことです。 1 𝛥 は 0 を含まない有限集合で、𝐸 を張る。 2 𝑡 ∈ ℝ、𝛼 ∈ 𝛥、𝑡𝛼 ∈ 𝛥 ならば、𝑡 = ±1。 3 𝛼 ∈ 𝛥 ならば、𝜎𝛼 (𝛥) = 𝛥。 4 𝛼, 𝛽 ∈ 𝛥 ならば、𝑐(𝛽, 𝛼) ∈ ℤ。 定義の 2 では 𝛼 ∈ 𝛥 に対して −𝛼 ∈ 𝛥 であることを含みません。 しかし、𝜎𝛼 (𝛼) = 𝛼 − 𝑐(𝛼, 𝛼)𝛼 = 𝛼 − 2𝛼 = −𝛼 ですから、定義の 3 から、𝛼 ∈ 𝛥 ならば −𝛼 ∈ 𝛥 となります。 9/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
ルート系の例 2 次元ユークリッド空間のルート系の例を挙げます。 10/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
ルート系の同型 Definition (ルート系の同型) 𝛥 を 𝐸 のルート系、𝛥′ を 𝐸′ のルート系とします。𝛥 と 𝛥′ が同型 であるとは、次の条件を満たす線型同型写像 𝜙 ∶ 𝐸 → 𝐸 ′ が存在す ることです。 𝑐(𝛽, 𝛼) = 𝑐(𝜙(𝛽), 𝜙(𝛼)) なお、ルート系の同型写像では内積が保たれている必要はありま せん。 11/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
2 つのルートのなす角 ここから、2 つのルートの関係を考えていきます。 𝛥 を 𝐸 のルート系とし、𝛼, 𝛽 ∈ 𝛥、𝛼 と 𝛽 は線型独立とします。 𝛼 と 𝛽 がなす角を 𝜃 とします(0 ≤ 𝜃 ≤ 𝜋)。定義から ⟨𝛼 ∣ 𝛽⟩ = |𝛼||𝛽| cos 𝜃 です。したがって、 𝑐(𝛽, 𝛼) = 2⟨𝛽 ∣ 𝛼⟩ 2|𝛽||𝛼| cos 𝜃 2|𝛽| = = cos 𝜃 |𝛼| |𝛼|2 ⟨𝛼 ∣ 𝛼⟩ となるので、 𝑐(𝛼, 𝛽)𝑐(𝛽, 𝛼) = 2|𝛼| 2|𝛽| cos 𝜃 cos 𝜃 = 4 cos2 𝜃 |𝛼| |𝛽| となります。 12/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
2 つのルートのなす角 𝑐(𝛼, 𝛽)𝑐(𝛽, 𝛼) = 4 cos2 𝜃 ですが、ルート系の定義 4 から 𝑐(𝛼, 𝛽) ∈ ℤ、𝑐(𝛽, 𝛼) ∈ ℤ です。し たがって、𝑐(𝛼, 𝛽)𝑐(𝛽, 𝛼) ∈ { 0, 1, 2, 3, 4 } です。 𝑐(𝛼, 𝛽)𝑐(𝛽, 𝛼) = 4 の場合は cos2 𝜃 = 1 より、𝜃 = 0 または 𝜃 = 𝜋 で す。どちらの場合も 𝛼 と 𝛽 が線型独立ではないので除外します。 𝑐(𝛼, 𝛽)𝑐(𝛽, 𝛼) = 0, 1, 2, 3 の場合、それぞれなす角が求まります。 1 𝑐(𝛼, 𝛽)𝑐(𝛽, 𝛼) = 0 のとき、𝜃 = 𝜋。 2 1 2 3 1 3 3 4 1 4 5 6 6 𝑐(𝛼, 𝛽)𝑐(𝛽, 𝛼) = 1 のとき、𝜃 = 𝜋、𝜃 = 𝜋。 𝑐(𝛼, 𝛽)𝑐(𝛽, 𝛼) = 2 のとき、𝜃 = 𝜋、𝜃 = 𝜋。 𝑐(𝛼, 𝛽)𝑐(𝛽, 𝛼) = 3 のとき、𝜃 = 𝜋、𝜃 = 𝜋。 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明 13/38
2 つのルートの可能な組み合わせ 𝑐(𝛼, 𝛽)𝑐(𝛽, 𝛼) 0 1 1 2 2 3 3 cos2 𝜃 0 𝜃 1 2 1 1 4 3 1 2 4 3 1 1 2 4 1 3 2 4 3 1 4 6 3 5 4 6 |𝛽| 𝑐(𝛼, 𝛽) 𝑐(𝛽, 𝛼) 𝜋 0 0 任意 𝜋 1 1 1 𝜋 −1 −1 1 𝜋 1 2 √2 𝜋 −1 −2 √2 𝜋 1 3 √3 𝜋 −1 −3 √3 |𝛼| 14/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
ルートの和と差 Theorem 𝛥 を 𝐸 のルート系とします。𝛼, 𝛽 ∈ 𝛥、𝛼 と 𝛽 は線型独立としま す。このとき、次が成り立ちます。 1 ⟨𝛽 ∣ 𝛼⟩ > 0 ならば、𝛽 − 𝛼 ∈ 𝛥。 2 ⟨𝛽 ∣ 𝛼⟩ < 0 ならば、𝛽 + 𝛼 ∈ 𝛥。 𝛽−𝛼 𝛽 𝛽 𝛼 𝛽+𝛼 𝛼 15/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
ルートの和と差 Proof. ⟨𝛽 ∣ 𝛼⟩ > 0 の場合を示します。先ほどの表から、𝑐(𝛼, 𝛽) = 1 また は 𝑐(𝛽, 𝛼) = 1 です。𝑐(𝛽, 𝛼) = 1 のとき 𝜎𝛼 (𝛽) = 𝛽 − 𝑐(𝛽, 𝛼)𝛼 = 𝛽 − 𝛼 となりますが、ルート系の定義 3 から 𝜎𝛼 (𝛽) ∈ 𝛥 です。したがっ て、𝛽 − 𝛼 ∈ 𝛥 です。 同様に 𝑐(𝛼, 𝛽) = 1 のとき、𝜎𝛽 (𝛼) = 𝛼 − 𝛽 から 𝛼 − 𝛽 ∈ 𝛥 です。 よって、𝛽 − 𝛼 = −(𝛼 − 𝛽) ∈ 𝛥 です。 ⟨𝛽 ∣ 𝛼⟩ < 0 の場合も同様です。𝑐(𝛼, 𝛽) = −1 または 𝑐(𝛽, 𝛼) = −1 で あることから示せます。 16/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
ルート列 Theorem 𝛥 を 𝐸 のルート系とします。𝛼, 𝛽 ∈ 𝛥、𝛼 と 𝛽 は線型独立とします。 𝑝 ∶= max{ 𝑘 ∈ ℕ | 𝛽 + 𝑘𝛼 ∈ 𝛥 } 𝑞 ∶= min{ 𝑘 ∈ ℕ | 𝛽 + 𝑘𝛼 ∈ 𝛥 } とするとき、次が成り立ちます。 1 𝑞 ≤ 𝑘 ≤ 𝑝 ならば、𝛽 + 𝑘𝛼 ∈ 𝛥。 2 { 𝛽 + 𝑘𝛼 | 𝑞 ≤ 𝑘 ≤ 𝑝 } は 𝜎𝛼 で不変。 𝛽−𝛼 𝛽 𝛽+𝛼 𝛼 17/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
ルート系の底 Theorem 𝛥 を 𝐸 のルート系とします。𝛥 の部分集合 𝛱 で、次の条件を満た すものが存在します。 1 𝛱 は 𝐸 の基底。 2 𝛽 ∈ 𝛥 を 𝛽 = ∑𝛼∈𝛱 𝑘𝛼 𝛼 と表すとき、各 𝑘𝛼 は整数で、すべて 0 以上またはすべて 0 以下。 Definition この 𝛱 を 𝛥 の底と呼びます。 また、𝛽 = ∑𝛼∈𝛱 𝑘𝛼 𝛼 の各 𝑘𝛼 が 0 以上のとき 𝛽 を正のルート、0 以下のとき 𝛽 を負のルートと呼びます。 18/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
ルート系の底 底の例を挙げます。 𝛼2 𝛼2 + 𝛼 1 −𝛼1 −𝛼2 − 2𝛼1 𝛼2 + 2𝛼1 𝛼1 −𝛼2 − 𝛼1 −𝛼2 { 𝛼1 , 𝛼2 } がルート系の底になっており、図の中で赤いものが正の ルート、青いものが負のルートです。 19/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
ルート系の同型と底 Theorem 𝛥 と 𝛥′ を 𝐸 のルート系とします。𝛥 の底を 𝛱 = (𝛼1 , … , 𝛼𝑛 )、𝛥′ の底を 𝛱 ′ = (𝛼′1 , … , 𝛼′𝑛 ) とします。また、𝑐𝑖𝑗 ∶= 𝑐(𝛼𝑗 , 𝛼𝑖 )、 ′ 𝑐𝑖𝑗 ∶= 𝑐(𝛼𝑗′ , 𝛼′𝑖 ) とします。このとき、次は同値です。 1 𝛥 と 𝛥′ は同型。 2 底の番号づけをうまく入れ替えると、任意の 𝑖, 𝑗 に対して ′ 𝑐𝑖𝑗 = 𝑐𝑖𝑗 。 20/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
カルタン行列 Definition (カルタン行列) 𝛥 を 𝐸 のルート系とします。𝛥 の底を 𝛱 = (𝛼1 , … , 𝛼𝑛 ) とします。 𝑐𝑖𝑗 を次のように定義します。 𝑐𝑖𝑗 ∶= 𝑐(𝛼𝑗 , 𝛼𝑖 ) このとき、𝑛 次正方行列 𝐶 = (𝑐𝑖𝑗 ) を 𝛥 のカルタン行列と呼びます。 先ほどの定理から、ルート系が同型であるとき、底の番号づけを うまく入れ替えるとカルタン行列が一致します。 21/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
カルタン行列の例 ( 2 0 ) 0 2 ( 2 −1 ) −1 2 ( 2 −2 ) −1 2 ( 2 −3 ) −1 2 22/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
コクセターグラフ Definition 𝛥 を 𝐸 のルート系とします。𝛥 のカルタン行列を 𝐶 = (𝑐𝑖𝑗 ) としま す。𝛥 のコクセターグラフを次のように定義します。 1 頂点は 𝑛 個とします。 2 頂点 𝑖 と 𝑗 を、𝑐𝑖𝑗 𝑐𝑗𝑖 ∈ { 0, 1, 2, 3 } 本の辺で結びます。 23/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
ディンキン図形 Definition 𝛥 を 𝐸 のルート系とします。𝛥 のカルタン行列を 𝐶 = (𝑐𝑖𝑗 ) としま す。𝛥 のディンキン図形を次のように定義します。 1 頂点は 𝑛 個とします。 2 頂点 𝑖 と 𝑗 を、𝑐𝑖𝑗 𝑐𝑗𝑖 ∈ { 0, 1, 2, 3 } 本の辺で結びます。 3 |𝑐𝑖𝑗 | < |𝑐𝑗𝑖 | のとき、頂点 𝑖 から頂点 𝑗 に向きをつけます。 24/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
ディンキン図形からカルタン行列を復元する 2 −1 0 0 ⎛ ⎞ −1 2 −1 −1 ⎜ ⎟ 0⎟ ⎜ 0 −1 2 2⎠ ⎝ 0 −1 0 25/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
ディンキン図形を分類する 連結なディンキン図形のなかで可能なものを調べます。 そのために、次のような 𝜖 系を考えます(一般的には呼び名がつ いていませんが、便宜上名前をつけておきます)。 ユークリッド空間 𝐸 の部分集合 𝐴 が 𝜖 系であるとは、次の条件を 満たすことです。 1 𝐴 = { 𝑒1 , … , 𝑒𝑛 } の元は単位ベクトルで、線型独立。 2 ⟨𝑒𝑖 ∣ 𝑒𝑗 ⟩ ≤ 0(𝑖 ≠ 𝑗)。 3 4⟨𝑒𝑖 ∣ 𝑒𝑗 ⟩2 ∈ { 0, 1, 2, 3 }。 ルート系の底のそれぞれを正規化して単位ベクトルにすると、𝜖 系になります。 26/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
𝜖 系のコクセターグラフ 𝜖 系のコクセターグラフを考えます。 𝐴 = { 𝑒1 , … , 𝑒𝑛 } を 𝜖 系とします。𝐴 のコクセターグラフを次のよ うに定義します。 1 頂点は 𝑛 個とします。 2 頂点 𝑖 と 𝑗 を、4⟨𝑒𝑖 ∣ 𝑒𝑗 ⟩2 ∈ { 0, 1, 2, 3 } 本の辺で結びます。 𝜖 系のコクセターグラフをすべて求めることができれば、ディン キン図形をすべて求めることができます。 27/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
𝜖 系の性質 𝜖 系は基底であるという条件がないため、次が言えます。 Lemma 𝜖 系から元を取り除いても 𝜖 系になります。 Proof. 𝜖 系の定義の中には、元を取り除くことで満たさなくなる条件は ありません。 コクセターグラフで言えば、頂点を取り除いても 𝜖 系のコクセ ターグラフになります。 28/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
𝜖 系の性質 Lemma 𝐴 = { 𝑒1 , … , 𝑒𝑛 } を 𝜖 系とします。⟨𝑒𝑖 ∣ 𝑒𝑗 ⟩ ≠ 0(𝑖 < 𝑗)となる 𝑖 と 𝑗 の組の個数は 𝑛 より小さいです。 コクセターグラフで言えば、辺でつながる頂点の組の数(=重複 度を除いた辺の数)は頂点の数より小さいです。 29/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
𝜖 系の性質 Proof. 𝑛 𝑒 ∶= ∑𝑖=1 𝑒𝑖 とします。𝜖 系の元の線型独立性から、⟨𝑒 ∣ 𝑒⟩ > 0 で す。⟨𝑒 ∣ 𝑒⟩ を考えると次のようになります。 𝑛 ⟨𝑒 ∣ 𝑒⟩ = ∑⟨𝑒𝑖 ∣ 𝑒𝑖 ⟩ + ∑⟨𝑒𝑖 ∣ 𝑒𝑗 ⟩ = 𝑛 + ∑ 2⟨𝑒𝑖 ∣ 𝑒𝑗 ⟩ 𝑖=1 𝑖≠𝑗 𝑖<𝑗 ここで、⟨𝑒𝑖 ∣ 𝑒𝑗 ⟩ ≠ 0 となる組を考えます。このとき、⟨𝑒𝑖 ∣ 𝑒𝑗 ⟩ ≤ 0 と 4⟨𝑒𝑖 ∣ 𝑒𝑗 ⟩2 ∈ { 0, 1, 2, 3 } より、2⟨𝑒𝑖 ∣ 𝑒𝑗 ⟩ ≤ −1 です。 2⟨𝑒𝑖 ∣ 𝑒𝑗 ⟩ ≤ −1 となる 𝑖 と 𝑗 の組が 𝑛 個以上あるとすると、 ⟨𝑒 ∣ 𝑒⟩ > 0 に反します。したがって、⟨𝑒𝑖 ∣ 𝑒𝑗 ⟩ ≠ 0 となる組の個数 は 𝑛 より小さいです。 30/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
𝜖 系の性質 Lemma 𝜖 系のコクセターグラフはサイクルを含みません。 Proof. サイクルをなす 𝑘 個の頂点を考えます。これは辺が 𝑘 本必要で す。このため、サイクルは 𝜖 系になりません。 𝜖 系から元を取り除いても 𝜖 系にならなくてはならないため、𝜖 系 のコクセターグラフはサイクルを含むことができません。 31/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
𝜖 系の性質 Lemma 𝜖 系のある頂点から出る辺の本数は、重複を含めて 3 本以下です。 これにより、頂点のまわりのパターンがかなり限定されます。 とくに次がわかります。これにより、以降は頂点を結ぶ辺の本数 は 2 本以下のみ考えれば十分です。 Lemma 3 本の辺で結ばれた頂点の組を含む 𝜖 系のコクセターグラフは、 次のひとつしかありません。 32/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
𝜖 系の性質 Lemma 次のように 1 本の辺で結ばれた頂点のグループを、ひとつの頂点 に置き換えても 𝜖 系になります。 これと先ほどの補題から、2 本の辺で結ばれた頂点の組はひとつ しかないこと、分岐はひとつしかないこと、その両方を含むもの はないこと、がわかります。 33/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
𝜖 系の性質 2 本の辺で結ばれた頂点の組があるとき、グラフの長さが限定さ れます。 Lemma 2 本の辺で結ばれた頂点の組を含む 𝜖 系のコクセターグラフは、 次のふたつしかありません。 34/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
𝜖 系の性質 分岐があるとき、グラフの長さが限定されます。 Lemma 分岐を含む 𝜖 系のコクセターグラフは、次のものしかありません。 35/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
𝜖 系のコクセターグラフの分類 Theorem 𝜖 系のコクセターグラフは次のものしかありません。 36/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
ディンキン図形の分類 𝜖 系のコクセターグラフそれぞれに対して、同じコクセターグラ フを持つルート系が存在することは、別途確かめることができま す。これは実際にカルタン行列を復元してみればわかります。 これにより、ディンキン図形の分類も導くことができます。 Theorem ディンキン図形は次のものしかありません。 𝐴𝑛 (𝑛 ≥ 1) 𝐵𝑛 (𝑛 ≥ 2) 𝐶𝑛 (𝑛 ≥ 3) 𝐷𝑛 (𝑛 ≥ 4) 𝐸6 , 𝐸7 , 𝐸8 𝐹4 𝐺2 37/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明
参考文献 Introduction to Lie Algebras and Representation Theory, James E. Humphreys, 1972 リー環の話, 佐武一郎, 1987 はじめて学ぶリー環, 井ノ口順一, 2018 Humphreys の本や佐武の本には分類定理の証明が書いてありま す。井ノ口の本は分類定理の証明はありませんが、ルート系の説 明が丁寧です。 38/38 宇佐見 公輔 既約ルート系の分類定理の証明