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July 10, 21
スライド概要
OpeLa プロジェクトの概要と OpeLa 言語、コンパイラの内部仕様を紹介します。2021 年 7 月の Kernel/VM online3 向けの発表資料です。
サイボウズ・ラボ株式会社で教育向けのOSやCPU、コンパイラなどの研究開発をしています。
OpeLa セルフホストなOSと言語処 理系を作るプロジェクト Kernel/VM探検隊online part3 2021年7月10日 @uchan_nos
自己紹介 内田公太 @uchan_nos サイボウズ・ラボ株式会社 OSと言語処理系の研究開発 趣味:自作OSコミュニティ「osdev-jp」の運営 著書: ゼロからのOS自作入門 自作エミュレータで学ぶx86アーキテクチャ
本日の発表のコンセプト 誰 言語処理系やOSの自作やセルフホスト に興味がある人に 何 OpeLaプロジェクトの存在と中身を知り 自分も設計や開発に参加してみたい と言ってもらいたい!
目次 MikanOSとOpeLa OpeLa言語 OpeLaコンパイラの内部 構文に関する考察
OpeLaとは……の前に、MikanOSとは 「ゼロからのOS自作入門」で作る サンプルOS 30章で作れる! 現代的な構成 UEFIによる起動 64ビットモード プリエンプティブマルチタスク ページングによるメモリ管理 FAT32ファイルシステム パイプ、リダイレクト MikanOSの30章後の姿 日本語の教科書が完備された、現 代的なPCで動作する教育用OS
MikanOSはまだまだ進化中 「ゼロからのOS自作入門」の最後のバージョンを元に、GitHub上 で開発継続中 タスクバーの時計 マンデルブロ集合の描画アプリ USB CDCデバイスの(一部)サポート 各種バグ修正 プルリクエスト大歓迎 有用なプルリクなら受け取ります 見ていて面白いアプリ、便利なアプリ アプリが必要とするシステムコール ドキュメント、OSのロゴ これまでに(uchan除く)7人からプルリクを受け付けた
改めて、OpeLaとは Operating & Language processing system OSと言語処理系のセルフホストを目指すプロジェクト 言語処理系:コンパイラ、アセンブラ、リンカ、ライブラリ等 セルフホスト:自分自身をビルドすること GCC on LinuxでGCCとLinuxをビルドすることと同類 OSの ソース コード 言語処 理系の ソース コード Linuxの ソース コード GCCの ソース コード 自作言語処理系 GCC 自作OS Linux
OpeLaプロジェクトの目的 1. コンピュータが動く仕組みを深く学びたい人の教材となる 2. uchanの技術的興味を満たす OS:MikanOSを採用予定 教科書が完備されていて学習しやすい + OpeLa 言語処理系:新しく作る 現在はOpeLaコンパイラを実装中 セルフホストを目指すことで、自ずと必要な機能が定まってくる OS:言語処理系が動く程度の機能 言語処理系:言語処理系やOSを記述できる程度の機能
OpeLaプロジェクトで作る物と順序 作った物をできるだけ活用する、という方針で順序を決定 1. セルフホストなOpeLaコンパイラ(C++で実装) 2. アセンブラ、リンカ(OpeLaで実装) この時点で言語処理系が全部自作に切り替わる 3. ビルドツール(makeみたいなやつ) 4. MikanOSをOpeLa言語に移植 5. 言語処理系にMikanOS向けアプリ生成オプション追加 6. 言語処理系をMikanOSに移植
目次 MikanOSとOpeLa OpeLa言語 OpeLaコンパイラの内部 構文に関する考察
OpeLa言語 func main() int { printf("hello, world\n"); } extern "C" printf func(*byte, ...) int; OSを書くための言語(ついでにアプリも書ける) 言語機能はCに近く、構文はGoに近い セフルホストを目指し、C++ on Ubuntuで実装中 設計と実装は道半ば
OpeLaコンパイラの現状 OpeLaコンパイラの機能を一覧するなら、テストケース https://github.com/uchan-nos/opela/blob/master/compiler/v2/test.opl テストケース自体をOpeLa言語で実装してある 2021/07/05現在の主要な機能 四則演算、制御構文(if, for)、変数定義 任意ビット幅整数、ポインタ、配列、構造体、型変換 ジェネリック関数 同梱してるサンプルアプリ rpn: 逆ポーランド記法計算機 list: 線形リストの実装サンプル sdl: SDL2を使った画面表示デモ
SDL2を使ったデモアプリ カーソルキーでロゴ 移動 スペースキーで背景 色変更 外部関数呼び出し機 能でSDLの関数を呼 び出す Cのヘッダファイル を読めないので、構 造体は自前で定義
OpeLa言語の特徴 OSを書くために設計されている 「uint3」などの任意ビット幅の整数型 「アドレス型」という、整数とポインタのあいのこの型 構造体に関連する特殊な機能 マルチタスク未サポートで使えるコルーチン CPU固有命令をネイティブにサポート
アドレス型 func notifyEndOfInterrupt() { // 組み込みのアトミック読み書き関数を使ってレジスタアクセス var eoi *uint32 = 0xfee000b0 @ address; AtomicStore(eoi, 0); // same as: AtomicStore(0xfee000b0@address@*uint32, 0) } 「@」は型変換演算子で、「値 @ 型」と使う address型の値は、任意のポインタに代入可能 Cのvoid*のような役目 アドレス値を直書きしている箇所をgrepしやすい!
構造体に関連する特殊な機能 type idtEntry packed_struct { Offset(15:0) address16; SegmentSelector uint16; IST uint3; _ uint5; Type uint4; _ uint1; DPL uint2; P uint1; Offset(31:16) address16; Offset(63:32) address32; _ uint32; }; Offsetフィールドは分割されている 後方互換性のための工夫
構造体に関連する特殊な機能 type idtEntry packed_struct { Offset(15:0) address16; SegmentSelector uint16; IST uint3; _ uint5; Type uint4; _ uint1; DPL uint2; P uint1; Offset(31:16) address16; Offset(63:32) address32; _ uint32; }; idt[21] = { .Offset = &intHandler21, .SegmentSelector = 1 * 8 .Type = 14, .DPL = 0, .P = 1 }; Offset(msb:lsb)でビット範囲を指定 共通の接頭辞がグループ化される Offsetは1つのフィールドを構成する グループ化されたフィールドは、連続 であるかのように読み書きできる
OpeLa言語の設計方針 OSを書くために便利な機能を入れる セルフホストを達成するために必要な機能を入れる OSを書くのに不要な機能は入れない 例外やGCなど 機能の選択はバランスを考える 機能の 便利さ 機能追加 コスト
目次 MikanOSとOpeLa OpeLa言語 OpeLaコンパイラの内部 構文に関する考察
Ver.1とVer.2 OpeLaコンパイラは大きく2つのバージョンがある Ver.1: 2020年に作っていたスタックマシン型コンパイラ Ver.2: 2021年から作っているレジスタマシン型コンパイラ 機能は(やっと)Ver.2 > Ver.1 性能も Ver.2 > Ver.1
スタックマシンでのコード生成 OpeLaコンパイラVer.1のコード生成は愚直に木をたどる Gen(N): // ノードを評価し、結果をスタックにPush If N is 整数リテラル: Push(N) N Else: Gen(Left) L R Gen(Right) Pop(RDI) Pop(RAX) Op(RAX, RDI) Push(RAX) ノードを評価した結果は、必ずスタックトップに書かれる
具体例:1+2+3 コンパイル対象の式 抽象構文木 1+2+3 出力コード + + 1 3 2 push 1 push 2 pop rdi pop rax add rax, rdi push rax push 3 pop rdi pop rax add rax, rdi push rax
愚直にレジスタマシンに変換してみる スタックにPushする代わりに、レジスタにMov Gen(R1, N): // ノードを評価し、結果をレジスタR1に格納 If N is 整数リテラル: Mov(R1, N) Else: Gen(R1, Left) R2 = GetFreeReg() Gen(R2, Right) Op(R1, R2) AddFreeReg(R2) N L R ノードの評価値の格納先をGenの引数で指定する
レジスタ消費が少ないケース 左側にだけ発達している木に対し、出力コードは次の通り コンパイル対象の式 抽象構文木 RAX + 1+2+3+4 RAX + RAX + RAX 1 レジスタ消費は高々2 4 R10 3 R10 2 R10 出力コード mov mov add mov add mov add rax, r10, rax, r10, rax, r10, rax, 1 2 r10 3 r10 4 r10
レジスタ消費が多いケース 右側に発達している木に対し、出力コードは次の通り コンパイル対象の式 1+(2+(3+4)) 抽象構文木 出力コード RAX + + R10 RAX 1 R10 2 + R11 R11 3 レジスタ消費は高々4 明らかに無駄なレジスタ割り付け 4 RDI mov mov mov mov add add add rax, r10, r11, rdi, r11, r10, rax, 1 2 3 4 rdi r11 r10
レジスタ割り付け戦略 A) スタックマシンとして構成したコンパイラを、愚直にレジスタマ シンに変換する 木の形によっては容易にレジスタが枯渇 レジスタが枯渇したらメモリに逃がす(spill) B) スタックマシンでIRを出力し、後からレジスタ割り付け IRでは仮想レジスタ(無限個ある)を使う IRを読み、仮想レジスタと物理レジスタの対応を頑張って決める C) スタック使用を許しつつも、ある程度の最適化を達成する D) 木のたどり方を工夫して最適なレジスタ割り付けを決める
最適なレジスタ割り付けを決める Ershov数を使うアルゴリズム 「コンパイラ―原理・技法・ツール」より Ershov数=そのノードを評価するのに必要なレジスタの数 Ershov数の求め方 1. すべての葉のラベルを「1」とする 2. 1つの子だけ持つ中間ノードのラベルは、 子と同じ数値とする 3. 2つの子を持つ中間ノードのラベルは a. b. 子の数値が異なる→大きい方と同じ数値 子の数値が等しい→それより1大きい数値 + 3 + 2 + 2 1 2 3 1 1 1 + 2 5 6 1 1
実装して実験 OpeLaコンパイラに実装して実験した echo 'func main() int { return (1+2) + ((3+4) + (5+6)); }' | ./opelac mov mov add mov mov add add mov mov add add eax, edi, rax, edi, esi, rdi, rax, edi, esi, rdi, rax, 3 4 rdi 5 6 rsi rdi 1 2 rsi rdi 生成された計算プログラムは 3つのレジスタを使う最適なものになった ※eaxなどのレジスタを使うのは 演算順序とは関係ない最適化を施したため
Ver.1とVer.2の性能比較
func main() int {
return fib(40) != 102334155;
}
func fib(n int) int {
if n <= 1 {
return n;
} else {
return fib(n-1) + fib(n-2);
}
}
コンパイラ
実行時間
(5回の最良)
アセンブラ行数
OpeLa Ver.1
1.36秒
104
OpeLa Ver.2
0.629秒
69
GCC 10.2 -O0
0.664秒
GCC 10.2 -O3
0.170秒
Python3
28.6秒
Core i7 1165G7 2.80GHz/32.0GB RAM/Ubuntu 20.04 on WSL2
使用したOpeLaは6/30の時点のもの
コミットID eb6fd5643447858094263bb7d744de74189440ac
GCC -O0に勝った!
目次 MikanOSとOpeLa OpeLa言語 OpeLaコンパイラの内部 構文に関する考察
定義を後置できることによる難しさ OpeLaでは変数、関数、型の定義を後置 できる 識別子を見た時点では区別できない Cの型変換は紛らわしい (foo)(bar) fooが変数名ならfooの評価結果を使った関数 呼び出し fooが型名なら型変換 ジェネリクスが登場するとなお難しい foo<bar>(0) (foo < bar) > 0 かもしれない func main() MyInt { return Add(2, 3); } func Add(a, b int) int { return a + b; } type MyInt int64;
型変換の構文 OpeLaでの型変換は「値 @ 型」 x := 42@int8; xは8ビット整数型となる @はC/C++で奇跡的に空いてる演算子だった ダブルミーニング 型変換→Cast→cAsT→AT→@ 型→Kata→kATa→@
ジェネリクスの構文 C++では foo<bar> 構文解析時に意味解析の結果(fooやbarが指すものの情報)が必要 Rustでは foo::<bar> 通常は値を期待している文脈で型を指定するとき、::<>を使う ::<> Turbofish構文(魚ロケット) OpeLaでは foo@<bar> 型変換演算子を拡張し、型リストを取れるようにした 「@の後ろには型が来る」という一貫性ある拡張
協力者募集
OpeLaプロジェクトは協力者募集中です OpeLaプロジェクトのロゴ製作 言語の設計に関する議論の話し相手 ex「a==bで両辺の型が違うとき、どこまで暗黙的な型変換を許すか」 OpeLa言語を使ったサンプルアプリ開発 コンパイラ開発 コンパイラのAArch64移植 アセンブラ、リンカ、ライブラリ、ビルドツール開発 OpeLa言語へのMikanOS移植 興味ある方はお声かけください。開発用Slackにご招待します。
まとめ MikanOSとOpeLa OpeLaはセルフホストなOSと言語処理系を作るプロジェクト OpeLa言語 OSを書くのに便利な機能(アドレス型とか)がある OpeLaコンパイラの内部 Ershov数を用いたレジスタ割り当て 構文に関する考察 後方定義、型演算子@ 協力者募集
質疑応答用スライド
Ershov数を使ったコード生成 準備 レジスタに通し番号を振る:R[0], R[1], …… コード生成 ルートから開始し、再帰的に実行 ラベルkを持つ中間ノードのコード生成は、k個のレジスタだけを使う • 番号のベース値「b」から始まるk個:R[b], R[b+1], …… R[b+k-1] • 評価結果は常にR[b+k-1]に格納される + 3 + 2 0 1 2 + 2 1 2 3 1 1 1 評価結果が格納されるレジスタ + 2 5 6 1 1
2つの子のラベルが等しい場合 評価対象ノードのラベルを「k」とすると、子のラベルは「k-1」である 1. ベース値「b+1」を使い、右辺のコードを再帰的に生成 結果はR[b+k-1]に格納されることになる 2. ベース値「b」を使い、左辺のコードを再帰的に生成 結果はR[b+k-2]に格納されることになる 3. Op(R[b+k-1], R[b+k-2]) + 3 0 1 2 + 2 1 2 1 1 0 1 2 + 2 0 1 2 + 2 0 1 2 0 1 2 5 6 1 1 0 1 2
2つの子のラベルが異なる場合 評価対象ノードのラベルを「k」とすると、 大きい方の子は「k」、小さい方の子は「k-1」 1. ベース値「b」を使い、大きな子のコードを再帰的に生成 結果はR[b+k-1] 2. ベース値「b」を使い、小さな子のコードを再帰的に生成 子のラベルをmとすると、結果はR[b+m-1] m<kなのでR[b+k-1]は使用されない 3. Op(R[b+k-1], R[b+m-1]) あるいは Op(R[b+m-1], R[b+k-1]) Mov(R[b+k-1], R[b+m-1]) 大きな子が左右どちらにあるかに応じて + 3 + 2 0 1 2 + 2 0 1 2 0 1 2 3 m=1 <2 1 5 6 1 1
Ver.1とVer.2の出力コードの比較
今回注目する部分
func fib(n int) int {
if n <= 1 {
return n;
} else {
OpeLa Ver.1の出力
mov qword ptr [rbp+-8], rdi
push rax
lea rax, [rbp-8]
push qword ptr [rax]
push 1
pop rdi
pop rax
cmp rax, rdi
setle al
movzx eax, al
push rax
pop rax
test rax, rax
jz LABEL0
OpeLa Ver.2の出力
mov qword ptr [rbp-8], rdi
mov rax, qword ptr [rbp-8]
mov edi, 1
cmp rax, rdi
setle al
movzx eax, al
test rax, rax
jz LABEL1