患者報告式アウトカム尺度における臨床的意味のある変化の定め方

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行動医学に活かす医療統計のcurrent topics

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一般社団法人臨床疫学研究推進機構

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1.

行動医学に活かす医療統計のcurrent topics 患者報告式アウトカム尺度における 臨床的意味のある変化の定め方 奥村泰之 一般財団法人 医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構 研究部 研究員 第21回日本行動医学会学術総会 2014/11/22 (土) 11:50~12:50 早稲田大学所沢キャンパス 201教室

2.

構成 はじめに 測定領域の選び方 測定尺度の選び方 変化量の解釈 検出可能な最小限の変化の定め方 最小限の重要な変化の定め方 臨床データベースの構築 2

3.

「患者報告式アウトカム尺度」とは 患者の健康状態を患者自身の直接的な報 告から情報を得て,患者の回答に関して 臨床家などによる修正や解釈を介さない 尺度 U.S. Department of Health and Human Services: Guidance for Industry: Patient-Reported Outcome Measures: Use in Medical Product Development to Support Labeling Claims. 2009 (http://www.ispor.org/workpaper/FDA%20PRO%20Guidance.pdf) 3

4.

「臨床的意味のある変化」とは 標的集団において,事前に定められた期 間に,重要な治療の有効性が得られたと 判断できる,ある患者個人のある尺度の 得点の変化 – Responder definition — A score change in a measure, experienced by an individual patient over a predetermined time period that has been demonstrated in the target population to have a significant treatment benefit. U.S. Department of Health and Human Services: Guidance for Industry: Patient-Reported Outcome Measures: Use in Medical Product Development to Support Labeling Claims. 2009 4 (http://www.ispor.org/workpaper/FDA%20PRO%20Guidance.pdf)

5.

演習: 体重減少の意味のある変化 P : I : 過体重/肥満 (BMI: 25~37kg/m2) の18~60歳の男性 O : T : Body Mass Index 面談 (75分) 体重と食事のセルフモニタリング 治療開始1年後 Morgan PJ et al: Obesity (Silver Spring). 2011 Jan;19(1):142-51. 5

6.

演習: 体重減少の意味のある変化 3名の尺度得点の変化 (170cm/45歳) ID A B C 基準時 (kg/m2) 31.0 26.0 26.0 評価時 変化量 (kg/m2) (kg/m2) 27.5 3.5 22.5 3.5 25.8 0.2  ①3名とも意味のある変化が起きたか?  ②最も意味のある変化が起きた人は? Morgan PJ et al: Obesity (Silver Spring). 2011 Jan;19(1):142-51. 6

7.

演習: 症状軽減の意味のある変化 P I O T : : : : 18~65歳の慢性統合失調症患者 抗精神病薬 陽性・陰性症状評価尺度 (PANSS) 治療開始6か月後 Hermes ED et al: J Clin Psychiatry. 2012 Apr;73(4):526-32. 7

8.

演習: 症状軽減の意味のある変化 3名の尺度得点の変化 (得点可能範囲: 30~210点) ID A B C 基準時 評価時 変化量 120 75 90 100 55 85 20 20 5  ①3名とも意味のある変化が起きたか?  ②最も意味のある変化が起きた人は? Hermes ED et al: J Clin Psychiatry. 2012 Apr;73(4):526-32. 8

9.

体重減少の解釈が易しい理由は? アンカー (頼みの綱) を無意識に使用 見た目が変わる 経験を無意識に使用 体重が重い方が痩せやすい 答え 測定誤差に関する無意識な知識 0.2kg/m2 (0.6kg) は直近の水分摂取量で変わる 9

10.

症状軽減の解釈が難しい理由は? 測定単位に慣れることが難しい 類似概念の尺度が多数開発されている 臨床のルーチンとして活用されていない 研究用に使われるだけ 答え ひとつの尺度を使い続けるだけで 解釈は易しくなる Crosby RD et al: J Clin Epidemiol. 2003 May;56(5):395-407. 10

11.

Take Home Message ルーチンで使う尺度を決めよう 11

12.

測定領域の選び方  研究疑問の定式化  コアアウトカム 12

13.

通常診療下の研究疑問の定式化 Patients...患者 Intervention...介入 Comparison...比較対照 Outcome...アウトカム Time...時間 中川敦夫: 臨床研究の歴史、意義、研究の定式化 (2012年度版). (http://www.icrweb.jp/) 13

14.

研究疑問の定式化の事例 P : I : O : T : 12~18歳の慢性疲労症候群の患者 インターネット支援型認知行動療法 授業の完全出席率/疲労の重症度/身体機能 治療開始6か月時点 Nijhof SL et al: Lancet. 2012 Apr 14;379(9824):1412-8. 14

15.

アウトカムの6領域 領域 死亡 疾患 不快 障害 不満 貧困 事例 症状,臨床化学検査値異常など 痛み,吐き気,呼吸苦,掻痒,耳鳴 日常生活の機能,就労や余暇 疾患やその介護に伴う感情 (悲しみ,怒り) 個人や社会の疾患に伴うコスト 中川敦夫:臨床研究の歴史、意義、研究の定式化. 2012. (http://www.crt-web.com/) 15

16.

コアアウトカムセット (COS) 特定領域におけるすべての臨床試験で測 定すべきと,合意の得られた必要最小限 のアウトカム集合 COMET Initiative (http://www.comet-initiative.org/) 16

17.

COS,リウマチ領域 アウトカム 1. 圧痛関節数 (68関節) 2. 腫脹関節数 (66関節) 3. 患者による疼痛評価 (VASなど) 4. 患者による疾患活動性全般の評価 (VASなど) 5. 医師による疾患活動性全般の評価 (VASなど) 6. 患者による運動機能評価 (AIMSなど) 7. 急性期反応蛋白 (血清CRP値など) 8. X 線検査,または他の画像検査 Felson DT et al: Arthritis Rheum. 1993 Jun;36(6):729-40. 17

18.

28件ヒット,発達・メンタルヘルス領域 COMET Initiative (http://www.comet-initiative.org/) 18

19.

COS,脳性麻痺-自閉症-てんかん領域 アウトカム 1. コミュニケーション 2. 感情的ウェルビーイング 3. 痛み 4. 動作性 5. 独立性/セルフケア 6. 心配/メンタルヘルス 7. 社会活動 8. 睡眠 Morris C et al: Health Services and Delivery Research 2: 15, 2014 (http://www.york.ac.uk/inst/spru/pubs/pdf/neurodisability.pdf) 19

20.

COS,児童思春期の双極性障害 アウトカム 1. 躁病エピソード (YMRS) 2. うつ病エピソード (CDRS) 3. ADHD症状/攻撃性/認知機能/臨床全般印象改 善度/生活の質 Carlson GA et al: J Child Adolesc Psychopharmacol. 2003 Spring;13(1):13-27. 20

21.

誰がアウトカムを決めるか? 臨床家 研究者 患者/介護者 規制当局/政策決定者 答え 製薬企業 Gargon E et al: PLoS One. 2014 Jun 16;9(6):e99111. 21

22.

Take Home Message COMETでコアアウトカムを検索しよう 22

23.

測定尺度の選び方  COSMINチェックリスト  尺度の評価研究 23

24.

COSMINチェックリスト 健康関連尺度の選択に関する指針 COSMIN (http://www.cosmin.nl/) 24

25.

尺度特性に関する4領域の新定義 Mokkink LB et al: J Clin Epidemiol. 2010 Jul;63(7):737-45. 25

26.

COSMINの使用目的 COSMIN (http://www.cosmin.nl/) 26

27.

検索,尺度の評価研究 27

28.

ASD患者の不安,尺度の評価研究 8つの尺度について, 7つの尺度特性を評価 研究 内容的 構造的妥 内的 信頼性 一貫性 妥当性 当性 仮説 検定 基準関 連妥当 反応性 性 Anxiety Disorders Interview Schedule (ADIS) Brown2011 ? ? ? ? ○ ? ? Canavera 2009 ? ? ? ? ○ ? ? Spence Children’s Anxiety Scale (SCAC) Essua2011 ◎ ? ? ◎ ○ ? ? Nauta2004 ◎ ? ? ◎ ○ ◎ ? ◎ excellent; ○good; △ fair; ×poor; ? not avilable Wigham S et al: PLoS One. 2014 Jan 21;9(1):e85268 28

29.

Take Home Message COSMINによる尺度の評価研究を探そう 29

30.

変化量の解釈 30

31.

測定の流れ図 現在 症 例 登 録 未来 基 準 時 の 測 定 介 入 評 価 時 の 測 定 31

32.

基準時と評価時の変化量 ID 基準時 評価時 変化量 絶対値 A 88 88 0 0 B 57 54 -3 3 C 82 68 -14 14 D 59 53 -6 6 E 75 80 5 5 F 70 45 -25 25 32

33.

変化量の絶対値 意味のある変化が起きた人は誰か? A 0 B ED 2 4 6 C 8 F 10 12 14 16 18 20 22 24 33

34.

2つの解釈基準,MDC<MIC 検出可能な最小限の変化 (MDC) 最小限の重要な変化 (MIC) 誤差を超えるが 重要でない変化 重要でなく 誤差の範囲の変化 誤差を超える重要な変化 不変 最大の変化 MDC MIC 34

35.

2つの解釈基準,MIC<MDC 検出可能な最小限の変化 (MDC) 最小限の重要な変化 (MIC) 重要だが誤差の範囲と 区別できない変化 重要でなく 誤差の範囲の変化 誤差を超える重要な変化 不変 最大の変化 MIC MDC 35

36.

Take Home Message 変化量の解釈はMDCとMIC 36

37.

検出可能な最小限の変化の定め方

38.

測定の流れ図 安定した状態の2時点で測定 現在 症 例 登 録 未来 時 点 ① の 測 定 時 点 ② の 測 定 38

39.

留意事項 実施の独立性を担保する 測定①の結果を,測定②の時に参照しない 実施の類似性を担保する 測定①と測定②の実施形態を等しくする Mokkink LN et al: COSMIN checklist manual. 2010 (http://www.cosmin.nl/images/upload/File/COSMIN%20checklist%20manual%20v6.pdf) 39

40.

留意事項 実施間隔を適切にする 測定①の結果を記憶してない程度に長い 患者の状態が変化しない程度に短い 状態の安定性を保証する 変化の全体評定を測定②の時に併せて測定 1 2 3 4 5 6 7 時点①と 比べて, 以 いまの自分の状態を評価して下さ い 前 よ り 悪 化 Mokkink LN et al: COSMIN checklist manual. 2010 か な り 悪 化 少 し 悪 化 不 変 少 し 改 善 か な り 改 善 完 全 に 改 善 (http://www.cosmin.nl/images/upload/File/COSMIN%20checklist%20manual%20v6.pdf) 40

41.

級内相関→測定誤差→MDC 級内相関係数 ICCagreement  測定誤差 δ 2 p 2 t δ  (δ  δ ) 2 p 2 e SEM agreement  δt2  δe2 検出可能な最小限の変化 MDC  1.96  2  SEM agreement de Vet et al: Measurement in medicine. Cambridge University Press. 2011 41

42.

Take Home Message MDCは安定した状態の2時点で測定 42

43.

最小限の重要な変化の定め方

44.

測定の流れ図 変化が期待できる2時点で測定 現在 症 例 登 録 未来 基 準 時 の 測 定 介 入 評 価 時 の 測 定 44

45.

評価時にアンカーを併せて測定 患者報告式アウトカム尺度と,類似概念 をアンカー (頼みの綱) により測定 Wyrwich KW et al: Qual Life Res. 2013 Apr;22(3):475-83. 45

46.

3種類のアンカー 自己記入式評価指標 変化の全体的評定,健康状態の改善の程度, 機能障害の程度など 他者評定式評価指標 変化の全体的評定 客観的評価指標 復職,予定外の受診 Wyrwich KW et al: Qual Life Res. 2013 Apr;22(3):475-83. 46

47.

自己記入式評価指標の事例 P: セルトラリン治療開始したうつ病 O: Patient Health Questionnaire-9 A: 治療開始12週間後の機能障害の程度 Löwe B et al: Psychosomatics. 2006 Jan-Feb;47(1):62-7. ファイザー製薬: こころとからだの質問票 (http://cocoro-h.jp/depression/checksheet/file/checksheet.pdf) 47

48.

他者評定式評価指標の事例 P: 統合失調症 O: 陽性・陰性症状評価尺度 (PANSS) A: 臨床全般印象改善度 (CGI) あなたの判断では, 治療によっ て全般的にどの程度 改善, あるいは悪化しましたか?こ の治療にと り か かる前の状態と 比較して下さ い。 0 = 評価不能 4 = 不変 1 = 著明改善 5 = 軽度悪化 2 = 中等度改善 6 = 中等度悪化 3 = 軽度改善 7 = 著明悪化 Hermes ED et al: J Clin Psychiatry. 2012 Apr;73(4):526-32. 48

49.

客観的評価指標の事例 P: 休職中の作業関連筋骨格系障害 O: Oswestry Disability Indexなど A: リハビリ1年後の復職状況 復職群: パートタイム,時短,フルタイム 非復職群: その他 Wilson HD et al: Spine (Phila Pa 1976). 2011 Mar 15;36(6):474-80. 49

50.

アンカーの要件 直感的な意味を持つ 患者報告式アウトカムよりも解釈しやすい 患者報告式アウトカムと十分な関連がある |r| = 0.3 or 0.5以上が推奨 Wyrwich KW et al: Qual Life Res. 2013 Apr;22(3):475-83. 50

51.

事例,MICの定め方 アンカーで「最小限の変化群」を定義 治療前と 比べて, いまの自分の状態を評価して下さ い 1 2 3 4 5 6 7 以 前 よ り 悪 化 か な り 悪 化 少 し 悪 化 不 変 少 し 改 善 か な り 改 善 完 全 に 改 善 van Kampen DA et al : J Orthop Surg Res. 2013 Nov 14;8:40. 最小限の変化群 51

52.

事例,MICの定め方 「最小限の変化群」における変化量の平 均値をMICとする van Kampen DA et al : J Orthop Surg Res. 2013 Nov 14;8:40. 52

53.

Take Home Message MICは評価時にアンカーを併せて測定 53

54.

臨床データベースの構築

55.

NHS病院,4手術全例,PRO測定 Department of Health: Guidance on the routine collection of Patient Reported Outcome Measures (PROMs). 2008.(http://www.mstrust.org.uk/competencies/downloads/NHS-PROMS.pdf) 55

56.

測定の流れ図 現在 鼠 径 ヘ ル ニ ア 未来 術 前 の 測 定 ヘ ル ニ ア 手 術 3 か 月 後 の 測 定 Health and Social Care Information Center: Finalised Patient Reported Outcome Measures (PROMs) in England: April 2012 to March 2013. 2014. (http://www.hscic.gov.uk/catalogue/PUB14574/final-proms-engapr12-mar13-fin-report-v1.pdf) 56

57.

研究疑問の定式化 P : I : O : T : 12歳以上の鼠径ヘルニア患者 ヘルニア手術 (腹腔鏡下手術/開腹手術) 生活の質/患者満足度/再入院 手術後3か月時点 Health and Social Care Information Center: Finalised Patient Reported Outcome Measures (PROMs) in England: April 2012 to March 2013. 2014. (http://www.hscic.gov.uk/catalogue/PUB14574/final-proms-engapr12-mar13-fin-report-v1.pdf) 57

58.

術後のアウトカム 生活の質 (=改善) 49% 満足度 (=満足) 71% 再入院 (=あり) 6% 0 20 40 60 80 Health and Social Care Information Center: Finalised Patient Reported Outcome Measures (PROMs) in England: April 2012 to March 2013. 2014. (http://www.hscic.gov.uk/catalogue/PUB14574/final-proms-engapr12-mar13-fin-report-v1.pdf) 100 58

59.

腹腔鏡は開腹よりQALY良好 腹腔鏡 0.923 (0.859, 0.988) 開腹 0.817 (0.782, 0.852) 0.7 0.8 0.9 1.0 QALY (質調整生存年) Coronini-Cronberg S et al: J R Soc Med. 2013 Jul;106(7):278-87. 59

60.

データベースの基本構造 施設情報 病院区分/病床数 患者情報 性別/年齢/診断名/重症度 介入情報 日付/種類/量 アウトカム情報 特定時点の測定結果 62

61.

Take Home Messages ルーチンで使う尺度を決めよう COMETでコアアウトカムを検索しよう COSMINによる尺度の評価研究を探そう 変化量の解釈はMDCとMIC MDCは安定した状態の2時点で測定 MICは評価時にアンカーを併せて測定 リアルワールド臨床データベースを作ろう 69