≪ 2024年12月10日(火) / コネクトリンク勉強会:ポルテホール ≫ 『子どもへの性加害』 性的グルーミングとは何か ~加害者臨床の知見を通して考える~ 西川口榎本クリニック 副院長 演者:斉藤章佳(精神保健福祉士/社会福祉士) E‐mail:akiyoshi_saito@enomoto-clinic.jp TEL:048-240-1051(代表)/FAX:048-240-1050
【「小児性愛という病-それは、愛ではない」】 150名の加害者分析から ➢ 「純愛幻想」と「飼育欲」 ➢ 小児期逆境体験(ACE)と の関連性 ➢ 加害行為の引き金となる「 児童ポルノ」 ➢ 意外に多い男児の性被害 ➢ 犯行現場はトイレが多い? ➢ いつか子どもを殺してしま う・・・ (「ブックマン社」より刊行)
【参議院法務委員会(R5.6.13)】 https://www.youtube.com/watch?v=8nfh6XhZ4Aw 参考人 ① 小西聖子(武蔵野大学副学長/精神科医) ② 島岡まな(大阪大学副学長/刑法学者) ③ 嶋矢貴之(神戸大学大学院教授/刑法学者) ④ 斉藤章佳(大船榎本クリニック精神保健福祉部長/ソーシャルワーカー)
【性犯罪刑法改正(R5.7.13)】 刑法性犯罪規定(改正ポイント) ① 「不同意性交等罪」を創設 ② 性交同意年齢の引き上げ(5歳差要件) ③ 「性的グルーミング」を処罰対象に ④ 公訴時効の5年延長 ⑤ 身体の一部や物の挿入も「性交」扱いに ⑥ 「撮影罪」の新設(※新法で規定)
【日本版DBS記者会見(R6.6.20)】 寺町東子弁護士 私(加害者臨床) 石田郁子さん
【キッズライン事件(別紙参照)】 モノのように扱われた生い立ち 20人に加害した「自己治療」 の闇(朝日新聞.2022.8.3) ➢ 「おまえなんて産まなければよかった!」 ➢ アルコール依存症の母親は、まだ幼かった自分にこう言った。 酒を飲むと物を投げて暴れた。「刺し身包丁を投げられた時 の、ニタニタ笑う母親の顔が忘れられない。」 ➢ 8歳の時、母親は働いていた居酒屋の店主と不倫して家を出 て行った。小6の時、心筋梗塞で亡くなった。小学校でも中学 校でもいじめられた。それが嫌で不登校になると、父親にあ ざができるまで顔を殴られた。 ➢ 「母親からの愛情に飢えており、その代わりになるものを探し ていた」東京地裁の法廷で橋本晃典被告(31)はこう語った。
【四谷大塚事件】 教え子盗撮の四谷大塚元講師に保護観察付判決「専門の指導 が必要」(朝日新聞.2024.3.26) ➢ 塾講師の立場を利用し、被害者らに十分な性意識や警戒心が ないのをいいことに撮影した。発覚しづらく、被害者の性的自 由を侵害する危険性が高い犯行。各犯行は被告の性的嗜好に 根ざしており、再犯防止には専門機関の指導が必要として、懲 役2年保護観察付執行猶予5年をつけた。 ➢ 『私は成人女性どころか中学生にも欲情できない純粋型の小 児性愛障害なので、合法的に性欲を発散させる方法がほとん どありません。法を遵守すること自体が生きづらさにつながり ます。だからこそ、同じ生きづらさを持っている人たちとオンラ インでつながるようになったのですが、それがまさに犯行のトリ ガーになりました(プログラムでの発言より)。』
【某累犯刑務所にて・・・】 『先生、オレこのまま刑務所 からでたくないよ。また絶 対に小さい子をやってしま うのわかってるから・・・。』 ➢ 彼のメッセージはいったい何を意味しているのか?
【シームレスな伴走型の関わり】 司法サポートプログラム(2011年4月~) ①性犯罪で逮捕 ≪刑務所≫ (手紙のやり 取り・出所 前の面会) ②勾留・起訴 (略式命令) ≪④裁判≫ ※家族は家族支援グループ( 通称:SFG)へつながる (家族はSFGへ) 専門治療・社会復帰 までのサポート体制 【執行猶予】 (弁護人を通して面 会・資料提供など) ③刑事施設で面会 【SAGプログラム】 ・専門家証人 ・意見書作成
【子どもへの性加害の実態】 性犯罪の中でも子ども性加害は別格。その常習性と衝動性 は他の性加害の群を抜いている。子どもを見ると、まるでそ れに吸い込まれるように近づいてしまうんだ(当事者談)。 ➢ アメリカのジョナサン・エイブルの研究では「未治療の性犯罪 者が生涯に出す被害者は平均380人であり、延べ518回の 加害行為に及ぶ」と言われている(あらゆる性暴力を含む)。 (Abel G,et al.:Sex offenders:Result of assessment and recommendations for treatment.In:Ben-Aaron MH,et al.,eds.:Clinical Criminology:The Assessment and Treatment of Criminal Behevior.M&M Graphics,1985:207-220) ➢ 性犯罪の有罪確定後、5年以内の再犯率は13.9%、法務総 合研究所の調査(2015)によると子どもへの性犯罪前科2 回以上の者の再犯率は84.6%。
【小児性愛障害について】 子どもに性的な関心を持つ人は、男性では人口の5%(女性 は1~3%)、その対象は異性・同性どちらもある。 ➢ Seto,M.C(2009).Pedophilia.The Annual Review of Clinical Psychology,5,391-407 小児性愛障害のタイプ ① 純粋型:13歳未満の児童のみが対象 ② 混合型:13歳未満もそれ以上(成人)も対象 ➢ 『子どもへの性暴力は防げる!加害者治療から見えた真実』福井裕輝.時事通信社.2022 小児性愛障害の診断の留意点 ➢ 児童への性的嗜好は、必ずしも直接的な加害行為を含むわ けではない。児童への性交を想起しながらも、生涯加害行為 を実行に移さない人も一定数存在する。 ➢ 児童ポルノと加害行為の関連性と「セクシャリティ」の複雑さ。
【性暴力とは①】 『性暴力は、性的欲求や衝動にのみよるものではな い。それは支配や優越、強さの主張といった様々な 欲求から行われる。性犯罪は決して衝動的に行わ れるものではなく、自己の欲求を充足させるため、 合目的的に、いわば計画的に行われる。性犯罪は決 して一過的な性の試みとして行われるものではなく 、性犯罪行動の変化にターゲットを絞った特別な治 療をしない限り、何度も繰り返される非常に習癖性 の高い行動である。しかし、性犯罪者の査定と治療 には特別な困難が伴い、従って特別な訓練が必要と される』 (Perry&Orchard,1992)
【性暴力とは②】 学習された行動 ➢『痴漢として生まれてくる男性は いません。痴漢になりたくて生ま れてきた男性もいません。彼らは 社会の中で、自ら痴漢になるの です。』 (『男が痴漢になる理由』はじめにより)
【性的グルーミングとは?】 ① 顔見知りの人からの性的グルーミング (親・兄弟・教師など) ② 顔見知りでない人からの性的グルーミング (近所の人や通りすがりの人など) ③ SNSでのグルーミング (Instagram・Twitter・ゲームアプリなど)
【漫画『言えないことをしたのは誰?』】
【権力関係を利用したグルーミング】
【性的グルーミングの手口】 セルフグルーミングという概念(加害者構文) あくまでこれは性教育 なのだ。優しく教えてあ げるのだから、犯罪では ないんだよ(口外禁止)。 この子もいずれセックス を経験する時が来る。 その前に僕が教えてあ げる(二人だけの秘密)
【性的グルーミング(対面を想定)】 (Craven et al.,2006) Selfgrooming Grooming the environment and significant others •加害者が自分の行動や認知を正当化していく •子どもの環境や重要な他者に働きかけていく •孤立しやすい、脆弱な子どもを見極めて近づく •身体的-子どもの信頼を得て、境界線を侵害し始める Grooming •心理的-孤立させ、味方になり、二人だけの秘密を作る the child 被害者の行動や環境をコントロール
【性的グルーミングモデル】 (Winters et al., 2020) グルーミングモデルの段階 主な特徴と行動 Victim selection (被害者の選択) ・自信の欠如、孤独、困っている子ども、貧しい子ども、物理的 心理的に親が近くにいない、シングルマザーで「父親」を求め ている。 Gaining access and isolation (子どもにアクセスし分離を進める) ・子どもを対象としたボランティア団体への関与、家族をコン トロールしてアクセスする、大人がいない/子供だけの活動、 お泊まり会、友達や家族から子どもを引き離す。 Trust development (信頼を発展させていく) ・魅力的、愛情深い、周囲の信頼を得ている、子どもに関心を 向ける、褒め言葉、特別な関係、子どもとのコミュニケーション を増やす、子どもの好きな活動に関心を示す、報酬を与える、 薬物やアルコールを提供する。 Desensitization to sexual content and physical contact (性的コンテンツや身体的接触に鈍麻 させていく) ・子どもの性的経験や関係について質問する、彼ら自身がし た性的なことについて話す、性的な言葉やジョークを言う、子 どもに性教育をする、偶然の接触を行う、子どもが服を脱ぐ のを見る、一見無邪気な接触をする、裸を見せる、児童ポルノ を見せる、身体接触に馴れさせて性的接触を増やす。 Post-abuse maintenance (虐待後の維持行動) ・誰にも言わないように言う、秘密だという、「あなたを愛して いる/あなたは特別だ」、報酬を与える、罰を取り下げる、正常 なことだと伝える、身体接触について誤った基準を伝える、責 任を抱かせる、家族が壊れると脅す。
【加害者の考える性的同意】 小児性加害者の考える「同意」とは、自分の行為は受け 入れられて当然であるという認知の歪みに支えられて いる(性加害と歪んだ承認欲求)。 ① 純愛幻想:子どもはだまって受け入れてくれていた(黙 る=受容)。子どもの無知や弱さを巧みに利用する。 ② 飼育欲:子どもは何も知らないまっさらな存在。自分 が教え、育てることで肉体的にも精神的にも成長させ てあげることができる(ペット化している)。 ③ 支配感情:「かわいい」という価値について、「相手を絶 対に脅かさないという保証」がそこには含まれる。 ➢ 彼らの同意とは「支配-被支配」関係の中で成立する。
【認知の歪み(自己正当化理論)】 ➢ 『先生は、今まで食べたパンの枚数を覚 えているのですか?』 ➢ 『私は他の加害者とは違います。だって 挿入時は、ローションを使ってこどもが痛 みを感じないように配慮しています。』 ➢ 相手が3歳だと記憶には残らないから ある意味「win-win」ですよね。
【認知の歪みの本質】 https://www.nhk.or.jp/minplus/0026/topic127.html 子どもを狙う盗撮・児童ポルノの闇(NHKスペシャルより)
【まとめ】 性暴力への認識をアップデートする! ① 刑罰や監視によるアプローチの限界と、医療モデル・ 教育モデル・社会福祉モデルを統合的に加えたアプ ローチの普遍化(Andrews&Bonta,2010)。 ② 関わる援助者が子どもへの性暴力に対する正しい知 識と認識を持つこと(男児も対象になることやカミン グアウトには相応の時間がかかること)。 ③ 沈黙する第三者(サイレントマジョリティー)への啓発。 沈黙は加害行為に間接的に加担すること。 ④ 性犯罪の一次予防(啓発と教育)・二次予防(早期発見・治 療)・三次予防(再発防止)について。
【新刊「子どもへの性加害」】 「かわいいね」から始まる性 的グルーミングとは何か ➢ 「簡単に言えば、ジャニーさん のことが嫌いじゃない。むし ろ好きなんで、僕は......。いま でも大好きですよ」 ➢ なぜ被害者は数年たった今で も加害者を尊敬しているのか 。加害者のグルーミングの実 態を知ることで性被害の防 止に役立つ希少な1冊。 (R5.11.29 幻冬舎新書より発売!)