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March 23, 25
スライド概要
2025年電気学会全国大会での発表スライドです。
神奈川大学工学部准教授。電力・エネルギーシステム研究室を主宰。電力システム工学,オペレーションズ・リサーチが専門。電力需給シミュレーションや再生可能エネルギーの発電運用最適化,エネルギーデータの確率モデリングに関する研究に従事。 研究室サイト:https://powersysgroup.jp/
2025.03.18 電気学会全国大会 講演番号:6-188 確率論的スマートハウス運用モデルに 関する基礎検討 ◎根岸信太郎(神奈川大学) 2025/3/23 1
研究背景・目的 需要家アグリゲーション デマンドレスポンスやバーチャルパワープラントなど需要家側の エネルギーリソースを使って電力需給調整に貢献させる取り組みが増加 一般家庭で対象となりうるエネルギーリソース • 蓄電池 蓄エネデバイスは • 電気自動車 需要家の効用を損ねない範囲で • ヒートポンプ(HP: Heat pump)給湯機 自由に動作タイミングを調整可能 • 照明・空調 • コジェネレーションシステム 2025/3/23 確率的に発生する需要行動を 踏まえて管理する必要性 2
研究背景・目的 管理がうまくいかないと… 需要家が電気・お湯を アグリゲータがDRを 配電網の物理的制約を 使いたいときに使えない 実行したいときにできない 違反してしまう 先行研究 • 少数の時系列シナリオに基づいた需要家側機器の運用最適化[Ref. 1,2] • 需要家が行動するタイミングに対してロバストな運用最適化[Ref. 3] (精度の高い予測が必要という先入観からか)需要行動の詳細なモデル化や それに基づく運用モデルに関する検討が少ない 需要家行動に関する時系列的な確率分布が分かれば, リスク回避的な意思決定は可能 研究目的 電灯需要・給湯需要の不確実環境下において,需要家の需要行動を できるだけ阻害しない需要家側機器運用計画を得る 一般家庭の電灯・給湯需要を確率モデル化し,需要家の電気料金の 期待値を最小化できる最適化モデルを提案 [Ref. 1] 尾添・田中・福島, 電学論B, Vol.131, No. 11, pp.885-895 (2011) [Ref. 2] D. Thomas, O. Deblecker, K. Genikomsakis and C. S. Ioakimidis, Proc. of IECON 2017, pp. 3644-3649 (2017) 2025/3/23 3 [Ref. 3] C. Wang, Y. Zhou, J. Wu, J. Wang, Y. Zhang and D. Wang, IEEE Transactions on Smart Grid, vol. 6, no. 4, pp. 1806-1818 (2015)
提案手法の全体像 想定するエネルギーフロー 2025/3/23 4
提案手法の全体像 提案手法の情報フロー 学習データ • 電灯需要 • 給湯需要 モデリング シナリオ生成 運用計画 • 機器運用 • 売買電 運用計画の 最適化 スマートハウス モデル 需要の確率モデル 2025/3/23 5
需要の確率モデリング 需要の 状態𝒔 𝑝11 (1) 𝑝01 (1) 𝑠=0 なし 時刻 1 あり 𝑝10 (1) 𝑝00 (1) 𝑝11 (2) 𝑝01 (2) なし 2 あり 確率密度 𝑓𝑡 𝑥|𝑠 = 1 確率密度 𝑓𝑡−1 𝑥|𝑠 = 1 … 𝑝10 (2) 𝑝00 (2) 需要量 [MJ] 需要量 [MJ] 需要量 [MJ] 需要量 [MJ] あり 確率密度 𝑓3 𝑥|𝑠 = 1 確率密度 𝑓2 𝑥|𝑠 = 1 確率密度 𝑓1 𝑥|𝑠 = 1 𝑠=1 需要量 [MJ] 給湯需要[Ref. 1] 非斉時マルコフ連鎖を用いたモデリング あり 𝑝11 (𝑡 − 1) 𝑝01 (𝑡 − 1) なし … 3 … なし 𝑡−1 あり 𝑝10 (𝑡 − 1) 𝑝00 (𝑡 − 1) なし 𝑡 [Ref. 1]永野・根岸:「ヒートポンプ給湯機の確率的経済モデル予測制御手法に関する基礎検討」, 6 電気学会電力系統技術研究会資料,PSE-24-010 (2024)
需要の確率モデリング 電灯需要 多次元正規分布で1日分の日負荷曲線をモデル化 パラメータ推定方法 給湯需要発生の確率モデル 各時間スロットにおいて需要発生の有無をバイナリで表現 スロット間の各状態遷移の回数をサンプルサイズで除して算出 給湯需要量の確率モデル 状態(𝑠 = 1)の条件付き確率とするため, 需要発生時のサンプルのみ抽出し確率密度関数のパラメータを推定 電灯需要量の確率モデル 1日ずつに分けた電灯需要の時系列データについて, 多次元正規分布の平均ベクトル,分散共分散行列を推定 7
提案するモデル リコース付き確率計画問題を混合整数線形計画問題として定式化 目的関数 :需要家の電気料金(期待値) 𝑇𝑁𝑢𝑚 シナリオ𝑖での 追加購入 シナリオ𝑖での 売電減少分 𝑇𝑁𝑢𝑚 𝑁 𝜆𝑏 𝑡 𝑃𝐺𝐵 𝑡 − 𝜆𝑠 𝑡 𝑃𝐺𝑆 𝑡 𝑡=1 1 + 𝜆𝑏 𝑡 𝑃𝐺𝐵 +𝑡,𝑖 + 𝜆𝑠 𝑡 𝑃𝐺𝑆 +𝑡,𝑖 𝑁 𝑡=1 𝑖=1 電気料金 需要家内のインバランス時にかかる 追加コスト・機会損失の期待値 制約条件 • • • • • • • • • • 電気エネルギーバランス制約 (計画用・リコース変数付き) 売買電契約容量制約 リコース変数の方向制約(売買電) HP給湯機の熱製造量上下限制約 HP給湯機の消費電力と加熱量 起動停止制約 シナリオの期待値による貯湯量更新制約 蓄熱量容量制約 最低運転時間制約 リコースを考慮した蓄熱量容量制約 (湯切れ量・貯湯量余剰) 2025/3/23 • • • kW容量,kWh容量制約 蓄電量更新制約 始端・終端の境界条件 (貯湯量・起動停止変数・蓄電量) 確率的な需要による 計画からのずれを時間で積算し シナリオ𝑖での追加購入量・売電減少量・ 湯切れ量などを評価 8
提案するモデル エネルギーフローとの対応関係 需要の不確実性やそれに伴う機器の 追加動作をモデル化することで 電力系統側から見たときの ネット需要の不確実性を評価可能 𝑷𝑮𝑺 +𝒕,𝒊 , 𝑷𝑮𝑺 −𝒕,𝒊 𝑷𝑮𝑺 𝒕 𝑷𝑮𝑩 𝒕 𝑷𝑮𝑩 +𝒕,𝒊 , 𝑷𝑮𝑩 −𝒕,𝒊 𝑷𝒅 𝒕,𝒊 𝑯𝒅 𝒕,𝒊 𝒚+𝒕,𝒊 , 𝒚−𝒕,𝒊 :湯切れ・余裕量 湯切れ量の期待値を小さくする 運用計画により需要家の不効用を回避 2025/3/23 𝒛+𝒕,𝒊 , 𝒛−𝒕,𝒊 :湯余剰・余裕量 9
数値実験 実験条件 • 時間粒度:30分 • 電灯・給湯需要データ: 日本建築学会「住宅におけるエネルギー消費量データベース」 関東戸建04(埼玉県春日部市),2003年4月1日~2004年3月31日(15分値) 給湯需要は元々ガス給湯器のガス消費量[MJ]なので,効率(0.8)をかけた上で30分値化 • 気温・水道水温(COPの算出に使用): 同時期の埼玉県春日部市の気温,埼玉県の水道水温を使用 電気料金単価: 28.99円/kWh(午前7時~午後11時),12.16円(それ以外) • • 学習期間: 2003年4月1日~9月30日 • シミュレーション対象: 2003年10月1日~2004年3月31日 • 最適化ソルバ:gurobi optimizer 11.0.1 比較手法 • ナイーブ手法:需要を学習データの期待値(平均値)として解く場合 • 提案手法:需要を確率変数としてリコース問題を解く場合 2025/3/23 10
数値実験 結果|需要家運用結果(2日間) (a) ナイーブ手法 (b) 提案手法 • ナイーブ手法では,単純に正味コストを最小化するため売電を大きく取り, 安価な時間帯に買電を行う • 提案手法では,基本的に蓄電池からの放電により供給する運用となった 系統からの充電+HP給湯機の運転のために買電を行う運用が得られた 2025/3/23 11
数値実験 結果|HP給湯機の運用結果(2日間) (a) ナイーブ手法 (b) 提案手法 • ナイーブ手法では,学習した需要の平均値を固定値として扱っているため, HP給湯機の動作は最低限 • 提案手法では,湯切れリスク回避のため蓄熱量を高めに維持しつつ 電気料金単価の安価な時間帯に動く計画が得られた 2025/3/23 12
まとめ 研究成果 • 一般家庭の電灯・給湯需要の確率モデリング手法と そこから生成される確率シナリオを用いた需要家側機器の 運用最適化手法を提案 • 数値実験により,需要家の効用をできるだけ損なわない 運用計画が得られていることが確認できた 今後の課題 • 実測値を交えた制御性能評価 • 機器運用を踏まえたネット電力需要の確率分布評価 • 最適化計算の高速化(機械学習の適用) 2025/3/23 13
謝辞 本研究の一部は,2023年度八洲環境技術振興財団研究助成の 一部として行われ支援を受けた。 2025/3/23 14