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September 27, 26
スライド概要
中小ソフトハウスの生き残り方
AI 変革時代における成長戦略と事業構造転換 2026 年 8 月 25 日 堀 越 政 美 はじめに わが国の AI 市場は、年率 35% を超える勢いで急速に拡大しており、2029 年には 4.2 兆円規模に達すると予測されています。一方、経済産業省および IPA の公表データによれ ば、IT 分野の人材は 2030 年に最大 79 万人が不足する見通しとなっており、とりわけ先 端技術分野における人材の確保は極めて困難な状況となっています。 こうした環境のもと、特に従業員 300 人規模 図表 1 AI 市場規模と IT 人材不足の見通し を中心とする中堅ソフトハウスは、「規模では 大企業に勝てず、価格では小規模事業者に 勝てない」という従来からの構造的な課題を 抱え続けてきました。この難局を乗り越え、今 後も持続的に成長していくためには、AI とい う技術革新を最大限に活用し、これらの課題 を根本的に転換することが不可欠です。 その実現に向けて、図表 1 に示すように、私 たちは「①自社の AI 化 → ②同業者向け AI 支援事業の展開 → ③同業者との人材連携 → ④新たな市場の拡大 → ⑤特定業種へ の専門化」という五つの戦略を、循環的かつ一体的な取り組みとして推進いたします。 本資料では、それぞれの戦略の背景にある問題意識、具体的な取り組みの内容、見込ま れる効果と想定される課題、そして実行に至る道筋について詳しく記述し、今後の貴社の将 来展望の一助とすることを目的としております。 図表 2 AI 戦略 5 つの循環モデル
1. 【戦略① 自社内での AI 活用と人材育成戦略】 1.1 本戦略の意義と基本的な考え方 私たちが最初に取り組むべきことは、「他社に AI の活用を提案する前に、まず自らが変 わる」という姿勢です。AI を単なる費用削減のための手段として捉えるのではなく、「社員一 人ひとりの能力を高め、より付加価値の高い業務へと転換するための人的資産への投資」で あると位置づけることが、この戦略の根本的な考え方です。 現在の開発現場では、コーディング、ドキュメント作成、各種テストといった定型的な作業に、 多くの時間が費やされています。これらの作業を AI によって効率化することで、社員は本来 注力すべき「顧客の課題を解決すること」「新たな価値を創造すること」といった業務に、より 多くの時間を割けるようになります。その結果、生産性の向上と利益率の改善が実現される だけでなく、社員の働きがいの向上と成長機会の拡大にもつながっていくのです。 1.2 AI 活用の具体的な方向性と現場での変化 開発プロセス の各段階において、AI 図表 3 開発工程別 AI 導入効果 を計画的に導入し、段階的にその効果を 拡大してまいります。 まずコーディングの分野では、生成 AI によるコードの自動生成や補完、過去の 事例を参照した適切な実装方法の提案、 さらにはコードのレビューや不具合の事 前検知などを積極的に活用し、作業時間 を大幅に削減すると同時に、開発品質の 均一化も図ります。 仕様書や設計書、手順書といったドキュメント作成の分野では、文章構成案の作成、表現 の統一、誤記や矛盾点の指摘などを AI が支援することで、技術者が本来注力すべき「記載 内容の正確性や業務への適合性の検証」といった核心的な業務に、より多くの時間を割ける ようにいたします。テスト工程においては、過去の不具合データを活用したテストケースの生 成、不具合発生リスクの高い箇所の優先的な抽出、障害発生時の原因推定などを AI が支 援し、検証品質を保ちながらも検証期間の短縮を実現いたします。さらに顧客への提案や見 積作成の段階では、過去の膨大なプロジェクト実績を AI が分析し、工数や期間についてよ り正確な見通しを提示するとともに、顧客の課題に応じた最適な提案の方向性を示唆するこ とで、受注活動のスピードと精度を高めてまいります。 開発工程別の AI 導入による効果は、現時点での実績では全体で約 15% の作業効率化 が確認されており、今後活用習熟度が高まるにつれて改善効果はさらに拡大し、2030 年頃 には約 30% の生産性向上が達成されるものと予測されています。 1.3 人材育成の方針と教育体制の詳細 AI を活用できる人材を計画的に育成するため、「少数の中核人材を育成すること」と「全社員 の基礎的な活用能力を高めること」を両輪として、育成を推進してまいります。 まず技術部門全体の中から、意欲と素養を兼ね備えた約 10 名を中核推進要員として選抜 し、将来の AI 技術推進の担い手として重点的に育成いたします。初動の負担を抑え、確実
にノウハウを定着させるため、最初は少数精鋭で活動を開始し、段階的に対象範囲を拡大す る方針といたします。選抜にあたっては年齢や勤続年数、役職といった基準にとらわれること なく、実際の業務への適用実績、学習に対する姿勢、周囲への波及効果などを重視し、公平 な評価に基づいて積極的に登用してまいります。 選抜された中核推進要員は「AI 推進担当」として位置づけ、自社内に常駐して活動いたしま す。自らが AI を実務で実践して技術を磨くと同時に、社内全体の AI 活用を牽引し、ノウハ ウを蓄積し、社内の誰もが AI の使い方や困りごと、トラブルについて相談できる「社内 AI の相談窓口」としての役割を担います。「導入してからが本番である」を合言葉に、実務に寄り 添った伴走型の支援を展開する中核的な拠点となることを目指します。 全社員を対象とした学習体制については、Google 社の「20% ルール」を参考に、勤務時間内 に 1 日 1 時間程度の学習時間を確保する制度を導入し、継続的に学べる環境を整備する ことが理想です。ただし、請負契約が中心のソフトハウスでは比較的実施しやすい一方、多く の中小ソフトハウスでは顧客先に常駐する SES 契約が多く、全社員に対して体系的な研修 を実施することは容易ではありません。また、自宅でのオンライン研修については、通信環境 やツール設定、機密情報管理上の対応など、多くの調整が必要となります。このため当面は、 帰社して受講する集合研修を基本とし、安定した学習環境を確保した上で進めてまいります。 また、顧客先常駐が多い場合の代替手段として、e ラーニングや非同期型学習、情報管理 の枠組みについても、並行して検討を進めてまいります。 具体的には、複数のグループに分かれて週に半日は帰社し、集合研修を実施する体制を構 築いたします。勤務時間内の限られた時間を効率的に活用し、実習と講義を中心にカリキュ ラムを進めることで、通常の業務に過度な負担をかけることなく、計画的に技術を習得できる よう配慮いたします。AI 技術が日進月歩で進化する状況に対応するため、おおむね 6 か月 をめどに、全社的な活用の定着を目指してまいります。 研修カリキュラムは難易度に応じて 図表 4 AI 活用教育カリキュラム 三段階に分け、段階的にステップア ップできる構成といたします。 入門編:AI の基礎的な仕組みや業 務での活用事例、情報セキュリティ や倫理的な留意点などを学び、安 心してツールを使い始められる状態 を目指します。 応用編:プロンプトエンジニアリング の技術、自社のシステムと AI を連 携させるための基礎的な手法、RAG(検索拡張生成)の仕組みと活用方法などを実習形式で 学び、自らの担当業務に合わせて AI を活用できる力を養います。 発展編:AI モデルの選定やファインチューニングの手法、顧客の課題に応じた AI 活用提案 を行うための知識などを習得し、将来的には顧客向け AI 関連プロジェクトを主体的に推進 できるレベルを目指します。 教育にあたっては、公認された外部のオンライン講座や実習教材を活用すると同時に、社内 での過去の事例データ、勉強会、メンター制度などを組み合わせ、理論と実践の両面から社 員の成長を支援してまいります。
1.4 公的支援制度の活用と投資の考え方 AI ツールの導入や教育研修にはまとまった費用が必要となるため、国や自治体の公的支援 制度を最大限に活用し、初期投資の負担を計画的に抑えてまいります。 2026 年度より、中小企業庁においては「デジタル化・AI 導入補助金」が大幅に拡充され、AI ツールの導入費用や研修費用、クラウド 図表 5 公的機関からの支援体制 サービスの利用料などに対して、最大 450 万円、補助率は 2 分の 1 から最大 5 分の 4 までの支援を受けることが可能 となっています。また、東京都をはじめとす る各自治体からも、同様の支援を受けら れる仕組みが整えられております。特にソ フトハウスの場合、これらの支援の対象と なるのは、資本金 3 億円以下または従 業員 300 人以下の事業者であることが明確となっており、多くの企業にとって活用しやすい 内容となっております。 こうした国や地方自治体の制度を軸に、複数の補助金枠や助成制度を組み合わせて申請す ることで、費用負担のさらなる軽減を図ってまいります。 投資の考え方としては、短期的な利益の減少を一定期間許容することを、あらかじめ経営方 針として定めておきます。人材の育成や新 図表 6 AI 導入による生産性向上率 しい技術の習得には時間がかかるため、 投資を開始した直後は一時的に利益率が 低下することが予想されます。そこで今後 3 か年の計画期間中は、「利益率の高低」 ではなく「生産性がどれだけ上昇したか」 「AI を活用した案件の受注比率がどれだ け伸びたか」を最も重視する経営指標とし て、進捗を管理してまいります。そして 3 年目以降には、生産性の向上と新規受注 の拡大によって、売上高の拡大と利益率 の回復の双方を同時に実現することを目 指します。 1.5 想定される課題とリスクへの備え AI 活用と人材育成を進める上では、技術の習得速度に個人差が生じること、業務の合間に 学習時間を確保することへの抵抗感、情報漏洩などのセキュリティ上の不安、費用対効果が 実感しにくいといった、さまざまな課題が予想されます。 これらの課題に対しては、習熟度に応じたクラス分けや、先輩技術者によるメンター制度を導 入し、一人ひとりの理解度に応じたきめ細かな支援を実施してまいります。また、社内で利用 を許可する AI ツールを事前に定め、安全な利用方法や機密情報の取り扱い基準を明確に 示したガイドラインを整備することで、安心して AI を活用できる環境を整えてまいります。 さらに、各部署での AI 活用事例や削減できた作業時間の実績を、定期的に全社で共有い
たします。AI によってどれだけの時間と 労力が節約できているかを「見える化」す ることで、導入の効果を実感してもらい、 社内全体の理解と協力を広げてまいりま す。 加えて、補助金が採択されなかった場合 に備えて予備費を確保するとともに、採 択される可能性の高い複数の制度に並 行して申請する方針とし、資金面のリスク を分散させてまいります。 図表 7 想定リスク 2. 【戦略② 同業中小ソフトハウス向け AI 導入支援事業】 2.1 事業の意義と市場の背景 現在、日本全国には私たちと同じような中堅・小規模のソフトハウスが数万社存在しておりま す。これらの企業の多くは、AI が今後の事業にとって極めて重要な存在であることを認識し ているにもかかわらず、「社内に AI に関する専門的な人材がいない」「何から始めればよい のか分からない」「補助金の申請手続きが複雑で対応しきれない」といった共通の課題を抱え、 AI 導入になかなか踏み切れない状況にあります。 一方、私たちは自らが AI を導入し、実際に活用していく経験を通じて、「何が導入の上での 難所なのか」「どのような手順で進めれば失敗を回避できるのか」「補助金を最大限に活用す るためにはどうすればよいのか」といった、机上の理論ではない実践的なノウハウを蓄積する ことができます。 こうして自社で得た経験を、他の同業企業に対する支援サービスとして提供することは、単に 新たな収入の柱を育てるという目的にとどまりません。将来的に互いに連携して大規模な案 件に対応したり、技術者を相互に融通し合ったりすることのできる、信頼できるパートナー企 業を少しずつ増やしていくことにもつながる、戦略的な意義の非常に大きな事業なのです。 2.2 段階的な事業の展開とサービス内容 本事業は最初から多くの機能を盛り込んだサービスを一斉に展開するのではなく、顧客から のニーズが最も強く、私たちのノウハウを早期に活かせる分野から順次展開していく「段階的 な拡大」を基本方針といたします。 第 1 段階では、「補助金申請支援」を中心としたサービスを開始いたします。多くの企業が AI 導入の最大の関心事の一つとして補助金の活用を挙げているにもかかわらず、煩雑な申 請書類の作成、事業計画の策定、要件に適合したツールの選定、導入後の実績報告といっ た手続きに、大きな負担を感じているのが実情です。そこで私たちは、補助金の採択に向け た事業計画の作成支援、導入予定の AI ツールが補助金の対象となるかどうかの適合性判 定、申請書類の作成代行、さらには導入後の定期的な報告書類の作成支援までを一貫して サポートいたします。これにより顧客企業は、複雑な事務手続きに多大な労力を費やすことな く、本来の AI の導入と活用に集中することができるようになります。
第 2 段階では、実際に AI ツ 図表 8 同業ソフトハウス支援 ールを活用する段階での支援 を拡充いたします。顧客の業務 内容や抱える課題に適した AI ツールの選定から、安全かつ効 率的に利用するための環境設 定、管理ルールの整備、そして 顧客企業の社員向けの導入研 修や活用方法の指導までを支 援し、「ツールを購入しただけで 導入が完了した」という状態に するのではなく、「実際に現場で 使えるようになるまで」責任を持って伴走いたします。 第 3 段階では、顧客の個別の業務プロセスに合わせた AI のカスタマイズや、既存のシス テムと AI ツールを連携させるための簡易的な開発支援、さらには AI を活用して業務を改 善するための継続的な助言や業務プロセス改革の支援など、より付加価値の高いサービス を順次展開してまいります。 最終的な第 4 段階では、AI 導入の先進的な事例を持つ企業同士として、共同で案件を受 注したり、技術者を相互に派遣し合ったりすることのできる、信頼関係に基づいたパートナー シップ体制を構築し、互いの企業の強みを活かし合って事業を拡大する関係を目指してまい ります。 2.3 事業の優位性と市場の見通し 私たちの支援サービスの最大の強みは、「顧客の実際の費用負担を大幅に抑えることができ る」点にあります。補助金を最大限に活用することで、顧客企業の実質的な費用負担額は通 常の価格の 5 分の 1 から 2 分の 1 に抑えることができ、同じ内容のサービスであっても、 他社よりもはるかに低い予算で導入することが可能となります。 また、私たち自身が実際に AI を導入し、活用している経験に基づいた「理論だけではない 実践的な助言」を提供できることも、他の支援事業者との大きな差別化のポイントとなります。 本事業の立ち上げにあたっては、最初の 6 か月間を検証期間と位置づけ、まずは 5 社程 度の協力的な顧客に対して試行的な支援を実施いたします。試行を通じて、実際の支援に要 する時間や労力、顧客からの要望や改善点、補助金の採択実績などのデータを収集・分析し、 採算が成り立つ適正な料金体系と標準的な作業手順を確定させ、その後本格的な営業展開 へとつなげてまいります。 2.4 営業展開の道筋と今後の拡大計画 試行期間での実績とノウハウが蓄積できた段階で、業界団体や中小企業団体、商工会議所 などと連携し、AI 活用や補助金に関するセミナーを開催して広く同業他社に対して情報提供 を行うと同時に、私たちの支援内容を紹介してまいります。 すでに支援を受けていただいた企業からの紹介を重視し、「実際に補助金を活用して AI 導 入に成功できた」という確かな実績の輪を少しずつ広げていくことで、信頼を基盤とした着実 な顧客層の拡大を目指します。また、AI 導入に成功された企業を「AI 活用認定パートナー」
として位置づけ、単なるサービスの提供先として扱うのではなく、共に業界全体の発展を支え ていくパートナーとして、長期的な信頼関係を深めていく方針です。 3. 【戦略③ 同業者連携による SE 人材プールの構築】 3.1 人材不足という業界共通の課題と解決の方向性 IT 分野の人材不足は今後ますます深刻化し、2030 年には最大 79 万人に達すると予測さ れています。これは単一の企業の努力だけで解決できる問題ではなく、業界全体で一体とな って取り組むべき構造的な課題となっています。 特に中堅規模の企業においては、必要なときに必要な数の技術者を確保することが極めて 難しい一方で、案件と案件の合間といった繁忙期以外には技術者の稼働率が低下するとい う、「必要なときには人が足りないのに、不要なときには人が余る」という人材の過不足のミス マッチが常態化しています。また、採用競争の激化により人材の獲得コストは年々上昇し、技 術者を教育するための費用と時間的な負担も増大し続けているのが現状です。 こうした課題に対する解決策として、欧州では複数の企業が保有する技術者の情報を共通の 基盤に登録し、必要なときに必要なスキルを持った技術者を、必要な期間だけ活用し合う「タ レントプール型」の仕組みが広く普及し始めています。この仕組みにより、技術者の稼働率の 平準化、採用や教育に関するコストの削減、そして受注可能な案件の範囲の拡大など、多く の効果が実証されつつあります。 私たちはこの考え方を参考に、日本のソフトウェア業界の実情に合わせた仕組みを構築し、 同じような課題を抱える中堅ソフトハウス同士が互いに連携し、人材という貴重な経営資源を 効率的に活用する新しいモデルを実現してまいります。 図表 9 同業ソフトハウス SE 人材プール 3.2 仕組みの詳細と段階的な構築計画 人材プールの構築は、いきなり大規模に展開するのではなく、考え方に賛同していただける 信頼できる企業と段階的に連携の範囲を広げていくことを重視いたします。 第一段階では、人材情報を共有するための共通基盤を整備することに注力いたします。各社 の技術者が持つスキル、経験年数、保有資格、過去に担当した業務の種類、現在の稼働状 況や今後の見通しなどの情報を、参加企業の間で共通のフォーマットで把握・共有できるよう
にするためのデータベースと管理システムを構築いたします。この段階では共有する情報の 範囲を必要最小限に抑え、参加企業の事務的な負担を最小限にとどめると同時に、個人情 報の保護と情報セキュリティ対策には万全の配慮を行い、安心して情報を提供していただけ る環境を整えてまいります。 第二段階では、この共通基盤を活用し 図表 10 SE 人材グループ構築 て実際の人材のマッチングを開始いた します。新たな案件が発生したときに、 必要なスキルと経験を持ち、かつ稼働 状況に余裕のある技術者を、参加して いる複数の企業の中から速やかに探し 出し、必要な期間だけプロジェクトに参 加していただく体制を構築いたします。 また、業務委託の契約形態や料金体 系、作業の責任範囲といった運用ルー ルについても、事前に参加企業間で統一的な基準を定め、手続きの迅速化とトラブルの未然 防止を図ってまいります。 第三段階では、単なる技術者の融通にとどまらず、技術者の教育や評価の基盤を共通化す ることを目指してまいります。AI 技術などの最新スキルを習得するための共通のカリキュラ ムを参加企業同士で共同開発し、教育にかかる費用を分担することで、一社単独では実施 が難しい充実した教育機会を安価に提供することが可能となります。さらに、スキルの評価基 準を統一することで、どの企業の技術者であっても能力を客観的に把握し、適材適所の人員 配置を実現することができるようになります。 3.3 人材プールがもたらす多角的な効果 この人材プールの仕組みが軌道に乗ることで、参加する各社には多様な効果がもたらされま す。 第一に、技術者の稼働率がグループ全体で平準化され、一社単独ではどうしても避けられな かった人員の過不足の波を、参加企業同士で補い合うことができるため、全体としての生産 性が向上し、貴重な人材をより効率的に活用することができます。 第二に、採用や教育にかかる費用を参加企業全体で分担することで、一社あたりの費用負 担を大幅に削減することが可能となります。 第三に、各社が持つ異なる技術や経験を有した技術者の情報が一箇所に集まることで、これ まで自社だけでは対応が難しかった分野や規模の案件についても、グループ全体として受注 することが可能となり、事業の幅が大きく広がります。 さらに、大企業からの大規模な一括案件に対しても、複数社の技術者を組み合わせることで 柔軟かつ迅速に対応できるようになり、中堅企業グループとしての総合的な競争力を飛躍的 に高めることができます。 3.4 課題への配慮と着実な推進 企業間で人材情報を共有し、技術者を相互に活用し合うという仕組みに対しては、「自社の人 材情報を外部に開示することへの不安」「企業ごとのスキル評価基準の違いから生じる混乱」
「利害関係の対立や契約上のトラブルの発生」「技術者の転職につながることへの懸念」など、 参加を検討する各企業にはそれぞれ多様な懸念が生じることが予想されます。 これらの懸念に対しては、最初から広範囲 図表 11 SE 人材プールの効果 の情報を共有するのではなく、必要最小限 の情報から始めて実際の効果を確認しな がら徐々に範囲を拡大すること、運用ルー ルや契約約款を事前に明文化し参加企業 全員の合意を得ること、「この仕組みは一 時的な業務支援であり、転職のあっせんを 目的とするものではない」ことを明確に位置 づけることなどにより、一つひとつの不安を 解消しながら、信頼関係を基盤とした仕組 みをゆっくりと、確実に育て上げてまいりま す。 4. 【戦略④ 一般中小企業向け AI 導入支援サービス】 4.1 大手が対応しきれていない未開拓の巨大市場 AI の導入は大企業で急速に進んでいる一方で、中堅・中小企業における導入率は依然とし て低い水準にとどまっています。2026 年現在の調査によれば、大企業では約 7 割が AI を 導入済みであるのに対し、中堅企業では約 4 割、中小企業では約 3 割、小規模企業に至 ってはわずか 1 割強にとどまっており、こ 図表 12 企業別 AI 導入率(2026) の格差は年々拡大する傾向にあります。 大手のシステムインテグレーターは、どうし ても一定規模以上の大企業案件に経営資 源を集中させる傾向が強く、「予算が限られ ている」「小さく段階的に始めたい」「身近に 相談できる相手が欲しい」といった中小企 業の細やかなニーズには、十分に対応しき れていないのが実情です。 実際に中小企業の皆様から、AI 導入に踏 み切れない理由として最も多く挙げられる のは「導入や運用にかかる費用が高い」という点であり、次いで「社内に導入を推進するノウ ハウがない」「そもそも何から始めればよいのか分からない」という不安です。さらに、ようやく 導入に踏み切った企業のうち、実に 7 割近くが「せっかく AI を導入したのに、社内でうまく 使いこなせていない」と感じているという調査結果もあります。つまり「導入した段階で支援が 終わる」のではなく、「実際に使いこなせるようになるまで長期的に付き合う」という「伴走型の 支援」こそが、現在最も強く求められているにもかかわらず、十分に届いていない価値なので す。 4.2 「提案・導入・定着」まで寄り添う伴走型支援の本質 私たちが提供するのは、単に AI ツールを販売したり技術的な設定を代行したりするだけの
サービスではありません。長年にわたってシステム開発を通じて多くの企業の業務に接してき た経験を活かし、「最先端の技術だけでなく、お客様の業務そのものを深く理解する」ことを最 大の特長とし、顧客企業の経営上の課題や日常の業務の流れに真から寄り添い、一緒にな って AI の価値を創り上げていく「伴走型の支援」を提供いたします。 最初の提案段階では、いきなり高額で大掛かりなシステムを売り込むようなことは決していた しません。まずは顧客企業の経営上の課題や日々の業務の中でのお困りごとを詳細にお聞 きし、「何を、どこまで、いつまでに改善したいのか」を私たちが一緒になって整理いたします。 その上で、費用対効果の見通しが明確で、かつ実現可能な範囲から段階的に着手する計画 を提案し、「壮大な構想を掲げたものの、結局使われないままになってしまった」というような 失敗が起こらないよう、最大限の配慮をいたします。 続く導入段階では、補助金や助成金を最大限に活用していただき、顧客企業の実質的な費 用負担を最小限に抑えるための申請支援を行うと同時に、ツールの初期設定や必要なデー タの準備、試験運用の実施、現場の担当者向けの教育研修などを責任を持って支援いたし ます。「技術的には動く状態になっている」というだけではなく、「実際に現場の方々が使える 状態になる」まで徹底的にサポートいたします。 そして導入後の定着段階こそが、私たちの支援の真髄です。AI は導入した直後が最も難しく、 「期待したほどうまく動かない」「思ったより便利ではない」といって放置されてしまうケースが 非常に多いのが現状です。そこで私たちは導入後も、定期的に訪問またはオンラインでの定 例会を実施し、実際の活用状況を確認しながら効果を測定いたします。「使ってみたけれどう まくいかない」という点があれば、一緒に原因を探り、設定を変更したり運用方法を改善したり して、真に効果が実感できるまで根気強く伴走し続けます。この「導入してからが本番である」 という姿勢こそが、他の多くの競争相手との決定的な違いであり、私たちの最大の強みとなる のです。 4.3 選ばれる理由:四つの競争上の優位性 私たちの支援が多くの中小企業に選ばれる理由は、大手の事業者が真似しにくい四つの特 長にあります。 第一に、「過大な提案をしない」ことです。お客様の予算と実情に合わせ、本当に必要なところ から、必要な分だけを段階的に導入する計画を立てるため、無理のない範囲で AI の効果を 実感することができます。 第二に、「補助金を熟知し、最大限に活用できる」ことです。私たちの支援サービスの中には、 補助金申請のノウハウがあらかじめ組み 図表 13 中小企業に選ばれる特長 込まれているため、お客様は手間をかけ ずに費用負担を大幅に抑えることがで き、予算の限られる中小企業の皆様にと って、非常に大きな魅力となっておりま す。 第三に、「技術だけでなく、お客様の業務 を理解している」ことです。私たちは単な る AI の技術専門家集団ではなく、長年 にわたって多くの企業の業務システムを
開発し、運用してきた実績があり、「その業界の仕事の流れや慣習」を熟知しています。その ため、机上の提案ではなく、実際の現場で本当に役立つ AI の活用方法を提案することがで きるのです。 そして第四に、「効果が出るまで付き合う」という覚悟です。導入してすぐに支援を打ち切るの ではなく、お客様ご自身だけで AI を運用し、効果を出せるようになるまで、伴走し続けること をお約束いたします。この姿勢によって、初めて AI を導入される企業の皆様の不安を解消 し、安心して取り組んでいただくことができるのです。 4.4 着実な顧客拡大と収益基盤の構築 この伴走型支援サービスを軌道に乗せるために、最も確実で効果的な方法は、「すでに信頼 関係のある既存のお客様から優先的に展開する」ことです。長年のお取引があり、私たちの 仕事ぶりを評価していただいている顧客企業に対して、AI という新たな価値を提案すること から始めることで、最初の顧客をスムーズに獲得しやすくなり、また導入後の伴走支援も、お 客様の状況をよく知っているがゆえに、きめ細かくかつスムーズに進めることができます。 こうして AI 導入の成功事例を数多く積み重ねることで、それが次の顧客への強力な説得力 となり、「あの会社ができたのなら、うちでもきっと大丈夫だろう」という安心感を持って検討し ていただけるようになります。 さらに、商工会議所や中小企業団体、地域の金融機関、自治体の DX 推進部門などとも連 携を図り、公的な認定支援事業者として登録することで、社会的な信頼性を高めながら、より 広範な顧客層に対して AI 導入の価値をお届けしてまいります。 また、導入後の定着支援を月額のサポート契約として提供することで、AI ツールを導入する 際の一時的な収入だけでなく、長期的で安定した収益の柱を形成することができ、事業として の持続可能性を高めてまいります。 5. 【戦略⑤ 専門領域への特化 — 差別化戦略】 5.1 「広く浅く」から「深く特化する」への転換 これまで私たちは「どのような業種・業務の案件でも幅広くお引き受けいたします」という姿勢 で事業を拡大してまいりました。しかし「何でも対応できる」ということは、裏を返せば「どの分 野についても際立って詳しいわけではない」ということと同義です。その結果、いつも価格の 安さだけで他社と比較され、厳しい価格競争に巻き込まれ、十分な利益を確保できないまま 仕事を続けるという悪循環に陥りがちでした。 私たちはこの収益構造を根本的に転換し、「何でもできる会社」ではなく、「この業界のことな ら誰よりも詳しい会社」になることを目指します。 具体的には、これまでの長年にわたる実績と取引先からの評価を詳細に分析し、「特に多く の導入実績があり」「顧客から高い評価をいただいている」「AI を活用することによる効率化 の効果が特に大きい」と見込まれる業種または業務領域を、二つないし三つに絞り込み、会 社全体の経営資源をそこに集中的に投入いたします。事業の規模を追って手を広げるので はなく、一つの分野を深く掘り下げ、他社の追随を許さない専門的な知見を蓄積することで、 「価格が安いから選ばれる」のではなく「この業界のことなら、この会社に頼みたい」と顧客か ら自発的に選ばれる、価格競争に依存しない確固たる地位を確立してまいります。
5.2 業種別ノウハウの体系化と再利用 得意とする専門分野を定めた後は、その 図表 14 暗黙知の形式知化と再利用 分野に関する私たちの知識と経験を徹底 的に整理し、体系的な形で蓄積してまいり ます。これまでは技術者個人の経験として 蓄積され、属人化していた「その業界特有 の業務の流れ」「長年の慣習となっている 商習慣」「プロジェクトで常に課題となる共 通の問題点とその解決の方向性」「業界で定められた用語や帳票・書類の形式」といった暗 黙知を、一つひとつ文書化・形式知化し、会社全体でいつでも参照・共有できるナレッジベー スとして整理いたします。 さらに、その業種の共通課題に対して AI をどのように活用すれば最も効果的かを徹底的に 研究し、「この定型業務にはこのツールをこのように活用する」「この繰り返し作業は特定の手 順で自動化できる」といった標準的な活用パターンをパッケージ化いたします。過去の事例を 基にした「業種別提案書のひな形」「作業工数と見積金額の標準的な算出方法」「導入時に必 ずいただく質問とその回答集」などを整備することで、個別の案件ごとに一から資料を作成す る手間を大幅に削減し、質の高い提案を速やかに提示できるようになります。このように「過 去の経験を会社の資産として再利用する」仕組みを築くことで、提案の質とスピードを高める と同時に、個別の作業工数を減らし、利益率を着実に改善していくことができるのです。 5.3 利益率の改善と持続的成長への道筋 「広く浅く」受注する従来の体制から、「事業領域を絞り、深く専門性を高める」体制へと転換 することは、単に技術や知識の蓄積を容易にするだけでなく、会社の収益構造そのものを根 本的に改善する効果があります。 従来は案件ごとに顧客の要望が異なり、仕様もまちまちであったため、毎回ゼロから企画を 立て、開発を進める必要があり、多くの時間と労力が費やされ、結果として利益率が低くなる 傾向がありました。しかし、対象とする業種を絞り、共通の機能やノウハウを再利用できるよう になれば、一つひとつの案件にかかる作業工数を大幅に削減することができ、それに比例し て利益率が着実に向上することになります。 また、「この業界のことを最もよく知っている 図表 15 特化戦略による収益構造転換 会社」という地位を確立できれば、価格の高 低ではなく知識や経験の差、提案の質の高 さによって顧客から選ばれるようになるた め、過度な値引き競争に参加する必要がな くなり、「提供する価値に見合った対価をい ただく」という健全な取引関係を築くことがで きるようになります。 さらに、特定の業界に深く入り込んで顧客と 共に成長していくことで、「今後顧客が何を求め、何に困るのか」をいち早く察知し、AI を活用
した新しい提案を継続的に行うことができるようになります。これにより、単発のシステム開発 を都度受注する下請け的な立場から脱し、「顧客の成長を長期的に支える戦略的なパートナ ー」へと、私たちの存在意義そのものを進化させていくことができるのです。 6. 【まとめ:3 か年で築く新しい事業構造】 以上の五つの戦略は、それぞれが独立したものでは決してなく、互いに深く結びつき、補い合 いながら一つの大きな循環を形作っています。 まず戦略①で自らが AI を活用して生産性を高め、実際に技術に触れ、課題を乗り越えた経 験から貴重なノウハウを蓄積いたします。その自社の経験を基に戦略②を展開し、同業他社 への AI 導入支援を開始することで、信頼できる仲間を増やすと同時に、新たな収益の柱を 育ててまいります。戦略③では、そうして築かれた信頼関係のもとに人材を相互に活用する 基盤を構築し、業界全体の悩みである人材不足を共に乗り越えてまいります。戦略④では、 大手の事業者が手を差し伸べにくい中小企業の現場に私たちが寄り添い、きめ細かな伴走 型の支援を通じて AI の真の価値を届け、未開拓の大きな市場を開拓してまいります。そし て最後に戦略⑤において、これら一連の活動全体で得られた経験と知識を「特定分野の深い 専門知見」という形で整理・蓄積し、他社が決して真似のできない私たちだけの強みへと昇華 させ、将来にわたる持続的な成長を支える確固たる収益基盤を確立するのです。 最初の 1 年目は「自らが変わる年」と位置づけ、社内の体制と基盤を整え、試行錯誤を重ね ながら新しい事業の種を蒔く期間といたします。2 年目は「事業を展開する年」として、自社の 生産性向上の効果を確かなものとし、新たな支援事業を軌道に乗せ、人材プールの基盤を 実際に稼働させてまいります。そして 3 年目には「体制を定着させる年」として、AI が社内の 当たり前の働き方となり、新規の支援事業が会社の収益を支える大きな柱へと成長し、「この 分野のことなら、この会社に相談しよう」と広く認知される確固たる地位を築き上げてまいりま す。 市場は急速に成長し、技術は日進月歩で進化し、そして優れた人材はますます希少になって いきます。多くの企業が「AI を活用したいと考えてはいるものの、何から始めればよいのか 分からない」と立ちすくんでいる今こそ、私たちが先に変わり、知恵を出し合える仲間と連携し、 そして何よりも AI を必要としている顧客に真の価値を届けるときです。 「自らが先に変わり、仲間と共に進み、顧客に寄り添い続ける」—— この一貫した姿勢を全社 で共有し、一歩一歩着実に歩みを進めてまいります。 図表 16 3 ケ年で築く新しい事業構造