デジタルプラットフォームとエコシステム

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April 15, 23

スライド概要

現代は、デジタル化とあまねく普及した接続性によって「デジタルプラットフォームとエコシステム」というような新たな組織形態に移行している時代だと思う。しかし、その実態がどのようなものなのか?またそのような変化に適応してゆくにはどのような点に注意してゆくべきなのか?などは、あまり分かり易く紹介されてこなかったように思う。そこで、本稿は、「デジタルプラットフォームとエコシステムの関係」、「エコシステムの類型化」および「新しい組織形態の中心であるエコシステムのアイデンティティ確立のプロセス」などに焦点を当てて、新たな組織形態とは何かの検討に取組む。そして、検討結果や考察から、今後に向けての知見抽出や今後への対応についても考えてみる。

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定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。

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各ページのテキスト
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デジタルプラットフォームとエコシステム - デジタル時代の新たな組織形態 B-frontier 研究所 高橋 浩

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自己紹介 - B-frontier研究所代表 高橋浩 • 略歴: • 元富士通 • 元宮城大学教授 • 元北陸先端科学技術大学院大学 非常勤講師 • 資格:博士(学術)(経営工学) • 趣味/関心: • 温泉巡り • 英語論文の翻訳 • それらに考察を加えて情報公開 • 主旨:“ビジネス(B)の未開拓地を研究する” 著書: 「デジタル融合市場」 ダイヤモンド社(2000),等 • SNS: hiroshi.takahashi.9693(facebook) @httakaha(Twitter)

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目的 • デジタル技術は接続性が隅々にまで普及したグローバル技術社会環 境を作り出し、継続的にデータ収集が可能な前例のない機会を創り 出した。 • そして、それを支える「デジタルプラットフォームとエコシステ ム」はデジタルイノベーションで到達した主要な組織形態となった。 • このことから、「デジタルプラットフォーム企業とそのエコシステ ムで形成される組織形態」は、今後のデジタル時代を象徴する新た な組織形態と言えるのではないか? • このような視点で、新たな組織形態の明確化を目指す。 3

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目次 1. 2. 3. 4. はじめに 新規プラットフォームの参入 – Uberの場合 – プラットフォームとエコシステムのモデル エコシステムの類型化とガバナンス • エコシステムの類型化 • エコシステムのガバナンス • 正当性確立のプロセスモデル 5. デジタルプラットフォームとエコシステムの今後 4

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1.はじめに 新組織を支えるデジタル化プロセス デジタル化によるプロセスの例 • 接続性の普及はデータ共有、データ消費に留まらず組織間をリ ンクし、時間の経過とともにトランザクションコストを削減し、 企業境界やバリューチェーンを変化させる。 • 常時接続への移行は各種リソースを正式な所有権無しで管理で きるようにし、企業はリモートエージェントとリソースに接続 するだけで企業のスコープを狭められる。 • これらの結果、プラットフォーム企業はパートナー企業や個人 を含むエコシステム全体の民間規制者として行動でき、ビジネ ス、データ交換、取引などが行える。 5

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デジタルプラットフォームが価値を 生み出すメカニズム デジタルプラットフォームはデジタル技術でもたらされた低コスト 検索機能を利用して効率的マッチングを可能にできる。その結果、 代表的には次の3つのパターンが生じる。 • トランザクションプラットフォーム • 情報、商品、サービスの交換 • 例:Amazon Market place, Airbnb, Uber • イノベーションプラットフォーム • 3rdパーティー企業が補完サービスや製品を追加 • 例:Google Android, Apple iPhone, AWS, Kindle • ハイブリッドプラットフォーム • 上記の組合せ 6

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3つのプラットフォームタイプ トランザクション トランザクションプラットフォーム このプラットフォームは、ネットワーク 効果の影響を受けて、直接交換ま たはトランザクションの仲介者として 機能する。 イノベーションプラットフォーム イノベーション ハイブリッドプラットフォーム ハイブリッド 企業群 このプラットフォームは、他の企業が 補完的なイノベーションを開発する ための技術的基盤として機能する。 事例1 Kindle 事例2 電子書籍端末 ・・Cusumano,2019 7

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各事例には歴史がある 事例1:Uberの場合 • Uberの成立までに は、創業者/CEOカ ラニックを中心とし たグループが既存タ クシー事業者、規制 機関(自治体、裁判 所など)、Uberの 運転手等と交わした 壮絶な活動の歴史が ある。 事件1 • Uberの運転手と乗客になった カラニックが報酬をめぐって 口論している映像が公開され た(Youtubeだけで300万回 近く視聴)。 • これを機会にカラニックは退 陣を余儀なくされた。 事件2 • また、Uberに顧客を奪われ たと、タクシー業界運転手 が不満を募らせ、Uber運転 手たちに対する犯罪が相次 いで、社会問題化した。 8

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2.新規プラットフォームの参入 - Uberの場合 - プラットフォーム参入と既存企業との競争 • 伝統的形式の組織に代わってプラットフォームベースの新ビジ ネスモデルが導入されると激しい競争が起きる(典型例:Uber, Airbnbなど)。 • 新規参入者の組織的特徴例: • 大幅に制限が少なく柔軟な参加契約で自律性を優先 • 参加/離脱の仕組み、雇用モード、資産の所有形態、など • 効果的インセンティブ戦略が不確実なため、途中でルール変更の可能 性が存在 • プラットフォームガバナンスにおける「オープン」化の度合いが変動 する可能性も 9

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既存企業との競争で優位になる可能性 • プラットフォームへ参加のルールで、自発的関係者の参加を容 易化する結果、補完者(Uber運転手など)が増え、異質なため、 特定タスクの調整がより困難になりうるが、 • 同時に、イノベーションや望ましい交流が発生する可能性が高 まり、従来の企業が満たしていなかった顧客ニーズを発掘でき ることがある。 10

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事例1:Uberのケース 歴史: • • • • 2008年設立。2010年サンフランシスコで初参入 その後僅か10年で世界700都市、500空港に参入 その間、多数の障害、制限に遭遇 ポイントはUberはプラットフォームだが、ローカル性、即ち、「グ ローバルなネットワーク効果ではなく、ローカルなネットワーク効 果の醸成」に苦労 • ローカル地域でのクリティカルマス獲得がポイント • 各都市毎の重複する規制の林に遭遇 • これらへの対応には技術的、経済的(顧客を引き付けるインセン ティブ、など)変革だけでなく、社会政治的課題への対応の成否が 重要であった。 11

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障害や制約の例 • 新規プラットフォームとして既存市場に参入した際、下記の正 当性の課題に直面した。 • 既存の市場関係者(タクシー事業者)に理解されない。 認知的正当性の欠如 • 従来のビジネスモデル用に設計されていた規制に準拠していな いし、規制機関からの理解も得られない。 社会政治的正当性の欠如 • 結果的に、市場関係者への認知を獲得する活動を先行させた結 果、社会政治的正当性を悪化させ、規制当局の許可を得ずに参 入する羽目になった。 • そのため、各種対立、規制当局との争い、などが発生した。 12

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Uberロゴ変遷の背景 • シェアリングエコノミーのプラットフォームは公共インフラで のプライベート資産に関わるため、正当性の課題はより重要で あった。 • 最初、社名/ロゴともにUberCabで出発した。 • そして、規制当局には無許可のまま参入した。 • しかし、程なく、排除措置命令が出たため、運送サービス会社 ではなく、公共インフラを支えるテクノロジー会社を強調する ため、社名をUber Technologiesに変更し、ロゴも変えた。 13

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正当性確保の戦い • 既存規制に準拠するとコアバリューが損なわれると判断し、無 許可で参入した。 • その後の市場戦略、非市場戦略の例を下表に示す。 市場戦略 初期にドライバーを増やすため、 • Uberアプリ・プレロードのiPhoneを 無料配布 • 1時間25ドルの収益を保証 • 認知を高めるイベントの開催 ✓ 地元メディア、ブログ、SNS、無料 バーベキュー、他 非市場戦略 法廷で規制当局の要求(例:ドライバーを 従業員【雇用者】と見做せという労働者分 類への圧力)に異議を唱える行動ほか • 連邦控訴裁判所への集団訴訟 • キーマンをスカウトしロビー活動 • ライドシェアに有利な規制制定の可能性 のある州議会に規制案提出 • その他、各都市、各規制当局に応じた要 求の提示や妥協など 14

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正当性確保の戦い(続) • 非市場戦略は各都市/各地域毎に異なるので、各地域対応マネ ジャーがかなりの自由度をもって個別に対応することになった。 • 結果的にトップダウンアプローチはボトムアップアプローチに 変更された。 • 規制当局や地方自治体が非妥協的だった場合、主要な社会的グ ループ(“シェアリングエコノミー”に関心、など)と連携した り、暫く無視したりの作戦も取った。 • また、市場戦略と非市場戦略のポジティブな連携も活用した。 • 例:規制機関が安全性の懸念を主張するだろうと予想し、アプリにド ライバー、乗客の相互評価システムを組み込んだ。 15

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Uber参入のプロセス ① 既存システムが安定したアイデンティティ(タクシー業界と 規制機関、乗客など)の相互作用によって成立していること を確認した。 ② 新モデルは認知的正当性を欠くが、独自価値を損なわずに サービス提供しようとすると、規制当局の許可を得ずに参入 せざるを得ないと判断した。 ③ その際、認知的正当性と社会政治的正当性の欠如に対処する ため市場戦略と非市場戦略の両面戦略を採用した。 ④ 徐々に理解は進んだが、それでも予期しない懸念や新たな課 題が発生し、サービスの変更が発生するなどの調整が現在も 続いている。 16

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3.プラットフォームとエコシステムのモデル プラットフォームとエコシステムのモデル エコシステムとは: ◆「階層的に独立しているが相互に依存している異種の参加者の コミュニティで、通常は主要な技術(プラットフォームなど) またはその他のリソースを所有する焦点アクターによって調整 されているもの」と捉えられる。 ・・・Thomas&Autio,2019 構造的問題点が存在: ◆エコシステムは「法的に自律的で雇用関係を通じてリンクされ ていない」異種アクター間の複雑な体系的相互連携に依存して いるため、エコシステム文脈での正当性の獲得が極めて難しい。 17

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事例2:電子書籍端末のケース Apple iPad電子書籍 • コンテンツとデバイス Amazon Kindle の分離によって電子書 籍端末の登場は予想さ れていた。 ダウンロード • 様々な試みが登場した ダウンロード が失敗が続いた。 • 結局、プラットフォー ムとデバイスの両方を 持つ大手2ベンダーの 思いがけない連携に よって始めて立上げ (正当性の獲得)に成 功した。 Amazon Kindle登場のわずか18ヵ月後にApple iPadが登場した 18

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Kindle vs iPad電子書籍(1) どちらが使い易い どちらが読み易い Kindle iPad 顧客がKindleとiPadを機能の良否(あるいは好み)で選択できる環境が整えられた19

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Kindle vs iPad電子書籍(2) AmazonがiPadにKindle由来のリーダーアプリを提供することで、両社はエコ システムパートナーになった。 コンテンツ層 サービス層 Amazon KindleとApple iPadは競合 AmazonがiPadにリーダーアプリケーショ ンを提供し連携 ネットワーク層 デバイス層 Amazon KindleとApple iPadは競合 20

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デジタル化とプラットフォーム化の概念図 デジタルプラットフォームの登場 デジタル化 • • デジタルデー タの収集/格 納が容易化 多くのシステ ム/デバイス で利用可能に エコシステム デジタル補完品(各種アプリ)など プラットフォーム化 • • • 新しいビジネス モデル登場 まったく新しい 市場の登場 潜在市場が拡大 デジタルインフラストラクチャ (インターネット、スマホ、GPS,IoT他) デジタルプラットフォームアーキテクチャ モジュール化 製品境界/組織構造の拡張 産業構造:独立型⇒相互競争型へ 21

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正当性確保の戦い • KindleとiPadは対抗製品であるにもかかわらず、Appleは AmazonからのiPad向けリーダーアプリケーション提供を受け 入れた。 • この結果、Kindle/iPad向け書籍コンテンツは双方の機器でダ ウンロード可能になり、純粋に同一書籍コンテンツ操作の機能 的差異(使い勝手、読みやすさ、価格など)で競えるように なった。 • この結果、Kindle、iPadを合わせた総合的共創力で電子書籍端 末の正当性を訴求できるようになり、早期に正当性確立の道を 拓いた。 22

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4.エコシステムの類型化とガバナンス エコシステム検討の枠組み • 2事例の成立までの経緯でも見られるように、新規に「プラッ トフォーム+エコシステム」を成立させるプロセスはそれぞれ に個別性が極めて強く、中でも特に、正当性の確立は最も困難 で重要な目標になる。 • 以下、3つの側面を検討する。 ◆エコシステムの類型化 ◆エコシステムガバナンスの例 ◆正当性確立のプロセスモデル 23

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エコシステムの類型化 エコシステムの4つの共通点 ◆エコシステムは以下の4つの特性を同時に保有する。 • 参加者の異質性 • さまざまな役割の異質な参加者で構成 • エコシステムとしての出力 • 単一の参加者が単独で提供できるよりもより包括的な出力を提供 • 参加者の相互依存 • エコシステム参加者間に相互依存の性質が存在 • 非契約的ガバナンス • 役割の定義、モジュール性を越えた補完性、プラットフォームに よって提供される協調性、など 24

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エコシステム関連の用語 用語 定義 エコシステム エコシステムの成果を集合的に生成する、階層的に独立しているが相互 に依存している異質な参加者のコミュニティ イノベーション エコシステム 階層的に独立しているが相互に依存している異質な参加者のコミュニ ティであり、且つ、定義された対象者に対してエコシステムの成果と関 連する価値提供を集合的に生成する。 起業家エコシステム 階層的に独立しているが相互に依存している異質な参加者の地域コミュ ニティであり、且つ、革新的なビジネスモデルと起業家精神にあふれた 新しいベンチャー立ち上げと規模拡大を促進する。 知識エコシステム 研究知識の進歩を製品やサービスに変換することを促進する、階層的に 独立しているが相互に依存している異質な参加者の地域コミュニティ エコシステムの成果 異種のエコシステム参加者によって集合的に生成されたシステムレベル の成果 エコシステムの価値提供 特定の顧客を対象としてニーズ対応に役立つエコシステムの成果 25

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エコシステムの類型 重点の置き方 エコシステムの成果 コミュニティのダイナミクス あらかじめ定義された 顧客を対象としたエコ システム価値の提供 ベンチャー企業による ビジネスモデルの革新 新しい研究ベース の知識 空間的に限定されないエコシステム アウトプットの共創 相互依存性の管理 イノベーションエコシステム ビジネスエコシステム モジュラーエコシステム プラットフォーム エコシステム 起業家エコシステム 知識エコシステム 空間的に限定されたエコシステム 26

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イノベーションエコシステム • エコシステムの成果を、定義された対象者に対して首尾一貫し た方法で価値提供するエコシステム • これを支えるため、多くの場合、プラットフォームあるいは一 連の共有された技術的互換性の基盤をもつ。 • 次の3つのタイプを包含している。 • ビジネスエコシステム • モジュラーエコシステム • プラットフォームエコシステム 27

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• ビジネスエコシステム • 共有の一連の標準や認知スキーマなど共同調整構造の周辺で活動する アクターのコミュニティを広く包含したエコシステム(例:Uber(事 例1),Airbnb、など) • アクターの役割が固定されていないことが多くのイノベーションを可 能にする余地を産む。 • モジュラーエコシステム • 定義された顧客を対象としたエコシステム成果の集合的価値提供を強 調(例:半導体リソグラフィ装置システム(事例3) 、太陽光発電パネ ルシステム、など) • さまざまな出力が連携して包括的なエコシステム価値提供のための充 分な一貫性保持が必要になる。 • プラットフォームエコシステム • 技術的依存性の役割を強調するエコシステム(例:電子書籍端末シス テム(事例2)、iPhone AppStore、など) • 主要なガバナンスの課題は技術仕様、コンポーネント内の互換性の確 保、アクターのインセンティブ維持、などがある。 28

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事例3:半導体リソグラフィ装置シス テムのケース ASMLの新型リソグラフィ装置に適合するレジスト、マスクの提供等で競う (1) EDA (electronic design automation)ベンダー (シノプシス、ケイデンス、メンター) (2) レジスト供給業者 (JSR,東京応化工業) (3) リソグラフィー装置供給業者 (ASML,キャノン) 半導体製造企業 (TSMC、サムソン、 Intel) (4) マスク供給業者 (フォトロニクス、凸版、保谷) (5) その他の装置供給業者 (Applied Materials,東京エレクトロン) 29

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起業家エコシステム • 定義された対象者にエコシステム価値を提供するのではなく、 • 寧ろ、斬新な方法で「何が機能するか」について共有知識ベー スを育成することに重点を置く。 • 従来の経験を利用して利益を産む可能性のある新しいビジネス モデルの実践による発見で構成される。 • 「何が機能するか」の発見プロセスは絶え間ない実験と地域の エコシステム内での成果の共有によって推進される。 30

31.

知識エコシステム • 集団的学習と知識交換プロセスが重視される。 • そのため、主に地域レベルの分析や競争状態に入る以前の環境 に対応づけられる。 • 中心的活動と新しい知識の共同研究により、エコシステム参加 者の目標は単一の参加者が単独では作成できない共有リソース の作成に置く。 • 主に、大学、公的研究機関、ビジネスの橋渡しをする仲介組織、 および競争前の環境で新しい知識を作成するために協力する営 利企業などで構成される。 31

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エコシステムのダイナミックス • 出現 • (空間的に限定された)起業家エコシステムや知識エコシステムでは、出現 プロセスが必ずしもゼロからの新規エコシステム構築を示すとは限らない。 • 他方、(空間的に限定されない)エコシステムは多くの場合、新たな創造物 であるため、出現には積極的な機関/アクターが必要になることがある。 • 競争 • 競合各社が特定の規模の市場をめぐって競争するゼロサム ゲームではなく 、 エコシステムはできるだけ多くの顧客ニーズを満たす方法に焦点を当てて競 争する(但し、空間的に限定されたエコシステムと限定されないエコシステ ムは区別される)。 • 共進化 • 環境の変化とエコシステム参加者の変化が相互に影響し合い、相互の調整を 促すプロセスを通じて共進化する。 • 回復力 • 資産固有性と契約関係が相対的に欠如しているため、環境変化に直面した際 に回復力を発揮できる側面がある。 32

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エコシステムガバナンスの例 プラットフォームガバナンスの開発 主としてイノベーションエコシステム領域に対して • 認識すべき課題はイノベーションを制約することなくエコシス テム参加者の行動を適切に制御するガバナンスメカニズムをど のように確立するかである。 • 組織は、イノベーションとプラットフォーム制御間の微妙なバ ランスを管理できるように設計されなければならない。 • また、「安定していて、且つ同時に進化可能」な特性が達成さ れなければならない。 33

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新たなプラットフォームガバナンスの特徴 • 集中型ガバナンス構造とは根本的に異なる。 • プラットフォーム所有者とエコシステム参加者(アプリ開発者 等)との意思決定権の定義が必要になる。 • プラットフォーム所有者は、制御メカニズムにより、参加者 (アプリ開発者等)の行動に報いたり罰を課し、プラット フォームでベストプラクティスを確立する規則を実施する。 • 制御メカニズムの例: • SDK,APIなどの境界資源 • プラットフォーム、HW/OS他へのアクセス権限 • 各種メトリックス、ゲートキーピング、など 34

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その他の関係者に影響を与えるイン センティブ構造の特徴 • プラットフォーム所有者は戦略的な行動をとり、エコシステム 参加者に対して、「エコシステムにおける純粋な価値創造から 離れ、プラットフォームの利益を高める行動に向けてゆがめ た」規則や規制を加える場合がある。 • 背景: • プラットフォーム所有者の優先事項は、プラットフォームの価値 創造に貢献する生産者と消費者の利益を確保しながら、 • その一方で、自分の利益を保護し、競争上の地位を確立すること にあるため 35

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制御のための可能な手段例 • • • • 取引手数料 アクセス手数料 アクセスの強化とキュレーション強化のための手数料 一方に請求しながら他方に補助金を支払う非対称型価 格設定方式 • アプリ開発者のイノベーションをプラットフォームに 組み入れてしまう規則 • 消費者が追加費用なしでこれらの機能を利用できる サービス提供の規則 • プラットフォーム所有者が品質保証を目的としてアプ リ開発者のアクセスを制限する規則、など 価格 戦略 規則 規制 36

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正当性確立のプロセスモデル 正当性とは • 正当性の定義: • 「社会的に構築された規範、価値観、信念、定義のシステム環 境の下で、エンティティの行動が望ましい、適正、あるいは適 切であるという一般的な認識が可能な状態」 • あるいは「関連する規則や法律と調和が取れていると認識でき、 規範的な支援、および部外者に見える方法での文化的認知の枠 組みとの整合性が反映されている状態」 37

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新興エコシステムはどのようにして 正当性を獲得するか • 3つのエコシステム正当性獲得のプロセスがある。 • エコシステムの受容と理解を促進する言説による正当性 • エコシステムの実行可能性を実証する実行による正当性 • エコシステムのアイデンティティ構築による正当性 38

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エコシステムの正当性出現のプロセスモデル エコシステムを正当化 するアクター達 オーケストレーター 補完者 ユーザー 外部アクター 言説による正当化 フレーミング; センスメイキ ング; ポジショニング; 認識 実行主導に よる言説の 正当化 言説主導に よる実行の 正当化 言説主導によるアイデ ンティティの構築 アイデンティティ主導 による言説の正当化 アイデンティティ主導 による実行の正当化 エコシステムのアイデンティ ティ構築による正当化 実行による正当化 戦略的行動; 価値の実現; 採択; 介入 実行主導によるアイ デンティティの構築 39

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エコシステムを正当化するアクター達 • オーケストレーター:エコシステム内外で他アクターにエコシ ステム価値提案を提唱する中心核で、具体的で技術的なガバナ ンス機構と、よりリレーショナルなガバナンス手段を使用 • 多くの場合、デジタルプラットフォームはエコシステム参加者が自分 の能力を向上させ活力を高める調整フレームワークとして機能 • 補完者:エコシステムの価値提案に貢献するインプット(製品、 サービス、など)を提供するエコシステムの参加者 • 補完者はエコシステムを巡る言説にも参加することで、認知の正当性 に繋がる可能性がある。 • ユーザー:エコシステムの価値提案を採用することで正当化に 貢献 • 外部アクター:各種の支援あるいは採用/不採用を通じて正当 性に重要な影響を付与 40

41.

言説による正当化 • エコシステムを受入れ参加するように他者を動機づけし、説得し、 より広い経済的/社会的環境とその目的についての共通理解を構築す ること(主にエコシステムダイナミックスの出現に関係) • フレーミング:エコシステムの特徴をどのように形成するかをオー ケストレーターが担当(エコシステムが代替案より優れている理由 を提示)(例:Uberは自モデルの訴求に“シェアリングエコノミー” のレトリックを最大活用(事例1)) • センスメイキング:エコシステム参加者が洞察を開発して共有し実 現可能で技術的に望ましい見解を形成する参加型プロセス • ポジショニング:ユーザーがエコシステム価値提案の独立性、関連 性に集合的にコミットすることで構成される形態 • 認識:エコシステムの部外者がそれを認識した場合に限って認知的 正当性が成立 41

42.

実行による正当化 • より広い社会環境に対するエコシステムの実行可能性を示し規範的 正当性に繋がる。補完者はエコシステムに参加するという決定を通 じて実行に影響を与える。 • 戦略的行動:参加者は実行可能性を向上させる特定の戦略的行動を 通じてパフォーマンス向上に貢献(例:ASMLの新型EUV露光装置 に適合するレジスト、マスクの投入戦略などで貢献(事例3)) • 価値実現:エコシステム価値提案の実現成功によって実証可能に。 有効性は集合体として収益あるいは「満足」で確認 • 採択:実行可能性は補完者、ユーザーによる採択を通じて提示 (例:iPadでKindleアプリの採用をAppleが採択することで電子書 籍端末の正当性が促進(事例2)) • 介入:外部関係者の介入が正当性に影響を付与する可能性 42

43.

エコシステムのアイデンティティ 構築による正当化 • エコシステムアイデンティティは当該エコシステムを他エコシ ステムから質的に区別する共通の認識と行動の基盤を形成する。 • エコシステムアイデンティティは「エコシステムの価値提案の 中心的で永続的で独自な特性に関するエコシステム参加者の相 互理解の集合」と定義される。 • エコシステムアイデンティティは(共有された理解というより は)参加者の相互理解で構成されるアイデンティティという点 が重要になる。 • 即ち、アイデンティティ確立には「ある種の共同体が存在する との共通理解と中心的で永続的な価値命題についての相互理解 の両方の出現」が必要になる。 43

44.

3者間の相互作用 • エコシステムアイデンティティは言説による正当化と実行によ る正当化との相互作用を通じて構築される。 • 言説とアイデンティティの相互作用:言説主導のアイデンティ ティ構築は言説的慣行で始まり、メンバー間の相互作用と交渉 を通じて形成される。そして、信頼の判断がエコシステム全体 に広がるに連れてアイデンティティ認知は強化されて行く。 • 実行とアイデンティティの相互作用:参加者はエコシステムパ フォーマンスを観察することで実現可能性に確信を持ちやすく なる。これが相互作用を共進化させ共同専門化や資産特異化に 繋がる。 • 言説と実行の相互作用:参加者はエコシステムの意味と目的お よび価値命題を理解するに連れて、正当化がプラスに影響し合 う。 44

45.

正当性確立のプロセスモデル(中間まとめ) • エコシステムおよびエコシステム補完者は競合関係になること がある(例:UberとLyft,およびUberの運転手とLyftの運転手) • しかし、それにも関わらず、エコシステムは依然として正当化 されていることが多い。 • この事実は単にオーケストレータの統合能力を超えて集合的な アイデンティティ正当化が成立していることを示唆する。 • 但し、エコシステムは出現を越えて保守や更新などダイナミッ クな再統制が続き流動的なものでもある。 • 新しいエコシステムが不確実な技術や新たな経済論理とともに 出現する場合、エコシステム出現の社会的側面が技術的および 経済的側面より優先されることが起こり得る。 45

46.

5.デジタルプラットフォームとエコシステムの今後 プラットフォームとエコシステムの関係 • • コミュニケーションのダイナミックス 相互依存の管理 プラットフォーム エコシステム 空間的に限定されないエコシステム トランザクションプラットフォーム ハイブリッドプラットフォーム イノベーションプラットフォーム ・ ア ウ ト プ ッ ト の 共 創 ビジネスエコシステム * 1 モジュラーエコシステム イノベーションエコシステム プラットフォームエコシステム * 2 起業家エコシステム * 3 知識エコシステム *1:あらかじめ定義された顧客を対象としたエコシステム価値の提供 *2:ベンチャー企業によるビジネスモデルの革新 *3:新しい研究ベースの知識 空間的に限定されたエコシステム

47.

デジタルプラットフォームとエコシ ステムの今後(概観) • 各種エコシステムの個別性が具体化し、詳細化し、定型化され て行く。 • それと共に各ジャンルでの新たな取組みが継続し進化する。 • その際、エコシステムの方がプラットフォームよりも概念のス コープが広い面があり、エコシステムの差別化が進む。 • プラットフォームはエコシステムを成立させる主要な技術の一 つではあるが、これに代わる資源などでエコシステムが成立す ることがある。 • 現在、イノベーションエコシステム領域の問題点がクローズ アップされており、解決に向けた活動が一層重要化してゆく。 47

48.

イノベーションエコシステム領域に おける問題点と影響 • デジタル技術はデータの使用を通じてユーザー、機械および部 門間の補完性を特定し、ソフトウェアおよびネットワークを活 用する機会を拡大させた。 • 企業は全て自前でイノベーションする必要がなくなり、消費者に提供 する全ての資産も所有する必要がなくなった。 • 結果、価値創造は分散型で出現したが、価値獲得は集中型で進 むことになった。 • これがプラットフォーマーが民間規制者として行動してエコシ ステムメンバーへの権力濫用あるいはプライバシーや労使関係 を含む広範な領域で懸念を生じさせることになった。 48

49.

事例 • GoogleはFitbit買収でApple Watchに対抗するスマートウォッ チを市場に投入した。 • Fitbitとは、心拍数、睡眠、ストレス状態などの記録・分析で日々の健 康状態を把握する機能(および開発企業) • 問題点:ユーザーのスマートウォッチ購入によって健康に関す るデータの収集・分析が拡大し、結果、Googleが人々を監視し 影響を与えるような前例のない機会に繋がる懸念が生じた。 • ユーザーは自分の行動が果たす役割を常に認識している訳ではないが、 Googleは既に(広告モデルなどで)収益化を実現させている。 • これをもって「広範囲の監視と絶え間ない巧妙な操作によって 非倫理的、非人道的な行為」拡大に繋がるとの批判がある。 • 生データだけでなく、ビッグデータ、アルゴリズム、予測分析、機械 学習などを駆使して個人に関する予測値を作成できることもその背景 49 にある。

50.

今後の課題と今後への対応、他 課題: • 新たな組織形態としての安定性の確保に向けた活動 • 特にイノベーションエコシステム領域における特定プラットフォー ムの民間規制者としての振舞いによる不適切な影響の抑止に関する 各種規制の整備、など 対応: • 現プラットフォーム企業の不適切な振舞いへの適切な規制事項や抑 止手段を制定してゆく活動を注視あるいは制定に貢献してゆく。 • 多様なエコシステム形態の適切な進化と活用に向けて主体的に貢献 してゆく。 • Chat GPT登場等による影響も踏まえ、今後のあるべき姿にプロアク ティブに関わってゆく。 50

51.

デジタル時代に支配的な組織形態の形成 に向けて • 新しい技術的、経済的力は、デジタルプラットフォームとエコ システムの新しい組織形態をますます生み出してゆく。 • 代表例のビッグテックプラットフォーム企業は、分散型の価値 創造と集中型の価値獲得を巧みに利用してきた。 • しかし、市場が一旦傾くと、プラットフォーム企業がボトル ネックになり、中心的位置を過剰に利用したいとの誘惑に抵抗 するのが困難になる危険がある。 • これらは長期的にエコシステムの持続可能性を脅かす。 • デジタル化と普遍化した接続性は、ビッグデータ分析やAIなど と組み合わされて、企業のあり方と行動の本質を変えてゆく。 • 現状は、新しい組織形態への移行フェーズに入ったが、真に新 しく安定した組織形態の定着には長い試行錯誤が続く。 51

52.

文献