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September 23, 16
スライド概要
シェアリングエコノミー、その中でも最も純粋なサービスに近い相乗り(Ridesharing)を扱っている論文の紹介を通して、最近話題のIoT,Fintech,シェアリングエコノミーに共通の特性を考えてみた。IoTは「モノとIT」、Fintechは「金融とIT」、シェアリングエコノミーは「“モノの共有”とIT」と、共通に捉えれば「XXとIT」の組合せ、あるいは融合と見ることができる。そして、そのいずれもXXとITの何れに主導権があるかと言えば、全てITに主導権がある。そこで「XXとIT」と括った全体共通特性を知ることは重要と思われるから。
定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。
ピア・ツー・ピア・サービス共有 プラットフォーム マススケールでのサービス共有駆動と更なる発展に向けて B-frontier研究所 高橋 浩
• 今話題の分野はIoT、 Fintech 、シェアリングエコ ノミーなど • これらは「XXとIT」の組合せと括ることができる。 – IoT(モノとIT) – Fintech(金融とIT) – シェアリングエコノミー(“モノの共有”とIT) • これらはいずれも主導権はIT側にある。 • そのIT側に最近何か技術イノベーションがあった かと言えば特に無い(ブロックチェーンを除いて) • 変化の駆動力は下記などである。 – インターネット適応範囲の拡大 – 接続デバイス数の増加 – 新たなインターネット活用法の創造、など 2
• そして、いずれの分野でも新ビジネスモデル・ イノベーションが発生、と大騒ぎしている。 • これは、対象分野に捕らわれずビジネスモデ ル・イノベーションに着目すれば、「XXとIT」を 跨ぐ共通特性が発見できる可能性を示唆す る。 • このような観点から、シェアリングエコノミーで 最も純粋サービスに近い相乗り(Ridesharing) を扱っている論文によって「XXとIT」に共通な 特性の知見抽出を試みる。 3
背景と問題意識 • 初期のピア・ツー・ピア交換プラットフォーム は、Napster(ファイル共有)、eBay(商品取引) などを可能にしてきた。 • ところが、最近登場している新手のピア・ ツー・ピア交換プラットフォームはサービス領 域をかなり拡張している。 • 純粋のサービスは無形性、同時性、異質性、 消滅性など、物理的実体を伴うモノとは本質 的に異なる性質を持つ。 どの領域まで拡張されているのだろうか? 最前線の課題は何だろうか? 4
はじめに • 世界的不況をきっかけに現行の基本 Rachel Botsman 消費パターンが批判されて来た。 オックスフォード 大学客員研究員 ・・Botsman and Rogers 2011 • 2013年の経営アカデミーの主要テーマに「問 題のある資本主義」が登場した。 • 長期間周辺に位置づけられてきたシェアリン グ・エコノミーが学術研究だけでなく主流の経 済としても地歩を獲得し始めた。 ・・ Botsman and Rogers 2011; Gansky 2010他 5
ピア・ツー・ピア交換プラットフォームは交 換されるモノに依存して分類できる M. Andersson, A. Hjalmarsson and M. Avital, “Peer-to-Peer Service Sharing Platforms: Driving Share and Share Alike on a Mass-Scale”, Thirty Fourth International Conference on Information Systems, Milan 2013. ① プラットフォーム コペンハーゲ ン大学ビジ ネススクール 教授 ② P to Pファ P to P イル共有 商品取引 シェアリング・エコノミー領域 ③ ④ P to P 商品共有 P to Pサ ービス共有 無形の出会 い Yes 交換の目的 物理的モノ 有形財 有形財 タイミング No 要件 ミーティング No 要件 必ずしも必 要無い No 必ずしも必 要無い 必ずしも必 要無い 事例 eBay AirBnb Napster Yes Avego 例:Ridesharing 6 (車の相乗り)
③ピア・ツー・ピア商品共有プラットフォーム • 所有権の移転を伴わないため、②ピア・ツー・ ピア商品取引とは根本的に異なる。 • 設定された料金内での限られた時間アクセス や使用を可能にする。 • 比較的高価な物理媒体へのアクセスを調整 できる。 – ピア・ツー・ピア車レンタル(例:Relay rides) – 駐車スペース(例:ParkatmyHouse) – 宿泊(例:Airbnb) 7
最近、④ピア・ツー・ピア・サービス共有 プラットフォームが浮上 • ピア・プロバイダとピア・コンシューマが同じ場 所で相互に有益な出会いを実現するために 協力し合わなければならない。 • 厳しく定義された時間枠内での資源の高度に 調整されたアレンジを伴う。 • ①②③3種のピア・ツー・ピア交換プラット フォームより間違いなく複雑になる。 ⇒この複雑性に対応する特別に設計された構造 を体系的に分析しその特性を明らかにする。 8
研究の取組み方法 • 探索的ケーススタディ・アプローチ を採用する。 ・・Yin 2013 Robert K. Yin • 探索ケースは柔軟でオープンであることが必 要なridesharing領域を選択する。 • 4ケースを予備検討した後、41プラットフォーム を選択し大規模データセットを作成する。 • データはモバイル・アプり、ニュース記事、ブロ ガー記事、など、インターネット世界の公開さ れている多様な情報源から 9
分析と調査結果 Ridesharingとは: • 乗車地点から目的地へと走行する際、ドライバと 一緒になって車を共有し、一人以上の乗客の参 加を伴う行為 • サービス前またはサービス中に、乗車・降車位置、 待機時間、音楽再生、禁煙政策、補償など様々な 要素について合意が必要 • 活動は短命で、各個別サービスのパフォーマンス 期間中、ピア・プロバイダとピア・コンシューマーの 同乗を必要とする。 ~純粋サービスの要件にかなり近いサービス~ 10
ridesharingプラットフォームの特徴 • 複雑なインセンティブ構造が存在する。 • 移動コストを削減したり、環境への影響を最小 限に抑えるように努めるなど – HOV(High-Occupancy Vehicles)レーンへのアクセ ス許可方式も • 相乗りを推進することで走行する車の数を減らし、渋 滞緩和と排気ガス排出削減を狙った制度 • 但し、課題や欠点も – 公式の承認(例:保険適用範囲)が欠如 – 所有権無しでのセキュリティ、ステータス、プライ バシー認知や消費への疑念 11
ステップ1 4プラットフォームを選択し予備検討 1)Blablacar:2004年にフランスで設立 • 毎月約50万のメンバーによって使用されている。 • ユーザーはWeb上で他ユーザーが特定地域へ乗 車の情報を検索できるように乗車要求や乗車申し 出を投稿する。 • ドライバ・乗客相互作用をサポートするモバイル機 能は当初なく、全ての通信は電子メールによって 管理していた。 2)Skjutsgruppen:2007年に開始(主にスエーデン) • 約3万人がメンバー登録 • 完全にFacebookが基盤(SNSに情報投稿。それを 各自がスクロール検索) • 支払いは完全にプラットフォーム外で調整 12
3)Avego :アイルランドのキンセールが拠点 でサービスは世界に拡大 • 最初は実験的旅行ネットワーク・プロトタイプ として2008年にリリース • 元はアップルiOSプラットフォーム上。その後 Android上でもサポート • カジュアル共有乗り、支払い、ナビゲーション、 追跡、ピア評価など多様な機能がある。 4)iCarPool:米国で7年間利用 • 企業の雇用者や大学のような組織を対象に 普及している。 13
ステップ2 41プラットフォーム分析により3タイプ抽出 遅延、再発、即時を特定した。 ①遅延は一回限りのサービス共有(ユニークな1 回限りの旅行ニーズ向け) • 広告、マッチング、共有間の時間の長い期間が 特徴 • マッチング交渉はインスタントメッセージングなど で Zimride(米国最大の都市間ドライバー、ライ ダー接続プログラム)は、自分のFacebookアカウ ントを通じて、Zimrideにサインアップ 同じ企業で働く、同じ学校に行く、相互に Facebook友人などの人々を接続することで見知 らぬ人との相乗りの不安を減少させている。 14
②再発は乗車共有の繰り返し • 通常は一度計画され、その後再発ルートに従っ て所定間隔で連続して利用 • 安定性は、しばしば特定雇用主への通勤などで • 給与の利点、無料駐車場などを通じて当局に利 用を後押ししてもらうインセンティブも特徴 rideshare.com簡易通勤プラットフォームは乗 車マッチングに加えて、旅行追跡、環境とコスト 削減インパクト情報提供、職場からの通勤方法 へのアドバイスなどカスタマイズ可能な再発通 勤プラットフォームを提供 オールインワンで従業員が持続可能な通勤向上 を図れる情報を見れるポータルも提供 15
③即時は1回限りのサービス共有 • 遅延とは異なり、広告、マッチング、共有間の 時間短縮によって特徴付けられる。 • 安定供給は瞬時マッチングを可能にするプ ラットフォーム投入によって実現される。 • 一般市民や一般グループがターゲット • スマホや決済サービス、ナビゲーションなど 高度な機能が必要 SideCar はサンフランシスコを拠点に運用さ れるサービス Lyftもすぐドライバに要求できるLyftアプリを 通じて類似サービスを提供 16
ridesharingサービス共有プラットフォームの3タイプ P to Pサービス 共有タイプ 遅延型 再発型 即時型 計画の視点 全てのサービスを 最初のサービスを 全てのサービスを 共有するための 共有するための 共有するための 長い計画期間 長い計画期間 短い計画期間 サービス共有の 特徴 各サービスの共 有インスタンスは 一意で、新しいイ ンスタンス配置 用プラットフォー ムを必要とする 最初のサービス 共有が成功した 後、プラット フォームはピア にとってもはや 必要でない Zimride Rideshare.c SideCar, om Lyft 事例 各サービスの共 有インスタンスは 一意で、新しいイ ンスタンス配置 用プラットフォー ムを必要とする 17
結果の評価 • ピア・ツー・ピア交換プラットフォームを3形態 (ファイル共有、取引、商品共有)とサービス 共有を比較することで検討した。 • ピア・ツー・ピア・サービス共有プラットフォー ムにおけるサービスの目的はピア・プロバイ ダ(例:ドライバー)と、少なくとも一人のピア・ コンシューマー(例:乗客)間の無形の出会 い!である。 ⇒他の3交換タイプでは必ずしも必須でない時 間と場所で会う必要が生じる。 18
3タイプのプラットフォーム設計への要請 • 遅延サービス共有をサポートするプラット フォームでは時間は重要ではない。 • 代わりに、サービス共有プラットフォームに よって提供される様々な交換機会の豊かさ (例:誰がどのような目的地に何時旅行したい か、など)が重要になる。 • 誰がどのような目的地に旅行したいかを知れ ば、ユーザーは成功する乗車共有につなが る交渉や調整を開始することができる。 19
• 再発サービス共有プラットフォームでは、豊か さも迅速な交流機会も重要ではない。 • 代わりに、再発共有サービスを排他的にサ ポートするプラットフォームは、プラットフォー ムへの信頼性重視設計が必要になる。 – 信頼性が、再び再発サービスを共有するかどう かに関わる。 – しかし、安定性が必ずしも長期的利用に変換され ないこともある。 – これは、再発サービス共有が確立されてしまうと、 プラットフォームの必要性が大幅に減少してしま うからかもしれない。 20
• 即時サービス共有を排他的にサポートするプ ラットフォームは利用可能なサービス交換の 機会をシンプルに表示する設計が必要になる。 – 交流機会に関する知識を即座に得るための迅速 な会議/対話やタイミング要件達成が基礎になる。 – ユーザーは短い時間空間内でA地点からB地点 に自分を移動させてくれるドライバの可用性を知 る必要がある。 – このような状況での主な原理は、プラットフォーム が提供するサービス交換に豊かさを示せるプラット フォームである。 21
プラットフォーム採択に到る過程 • いずれのタイプでも当該プラットフォームでク リティカルマスが得られなければ成功しない。 • そのためには必要最小限の促進機能(マッチ ング)を実現する単純化されたプラットフォー ム設計を行うことが重要になる。 • 高度なモバイル機能に焦点を当てることが必 ずしも重要な訳ではない。 ⇒プラットフォームのオープンな性質が事実上無 制限な成長の可能性を示唆している。 22
クリティカルマスの到達要件 • 即時サービス共有プラットフォームは急速に クリティカルマス到達が要件であるため大規模 なスループットが必要になる。 • そのためにはピア・プロデューサー(例:ドライ バ)が当該プラットフォームに魅了される必要 がある。 • しかし、タイミングの厳格な要求はピア間の非 常に少ない接続でしか生成されない。 23
• サービス共有の重要な構成要素としてのモ バイルコンピューティングの仮定に反して、苦 労しているプラットフォームのほとんどは、クリ ティカルマス達成のため広範なモバイルコン ピューティング機能を上手く利用できていない。 • この課題に対応するには、即時タイプに基づ いたプラットフォームは、再発または遅延タイ プを含むことで進化できるかもしれない。 – 単なる即時からハイブリッド・プラットフォームへ 移行の例:Avego 24
即時Ridesharingの今後の方向性 • 案1:ドライバー利用可能性を一段とレベル アップすることでドライバーを一層引き付けク リティカルマス拡大を促進して結果的に一層 新しいライダーを引き付ける。 • 案2:即時サービス共有プラットフォームに遅 延タイプによって創設され成功した大きなプ ラットフォーム(例:Carpooling)を結合させ、 新しいライダーを引き付ける。 25
まとめ ① ピア・ツー・ピア・サービス共有プラット フォームの成功・失敗には時間と空間に 関わる重要な要件があった。 ② 3つの異なる時間パターンに関わるタイ プ:遅延、再発、即時を識別した。 ③ 多くのrideshareプラットフォームは3つの 異なるタイプの一つ以上を満足すること を目標にしていた。 26
参考資料 引用したRidesharing事例の評価 Rideshare プラットフォーム 予 備 検 討 事 例 3 パ タ ー ン 対 応 例 活動 レベル 技術プラットフォーム 地理的カバー領域 定常 モバイル US EU Blablacars X X X Skjutsgruppen X Avego iCarpool N/A Zimride Rideshare.com N/A 遅延 再発 X X X X X X X X X X X X X X X X SideCar X 他 サービス共有パターン X X X 瞬時 X X X X X X X X Lyft X X X Carpooling X X X X X X 27
参考情報 Uberの代表的ライバルであるLyftとは? Lyftの共同創業者兼CEO ローガン・グリーン(32歳) ライバルのUberが世界各地 で規制当局やタクシー業界と ぶつかるのに対し、リフトは規 制当局や自動車産業と協調 路線を取っている。 米国のみでサービス展開。 200以上の都市で、月間 1000万回の乗車。登録ドラ イバーは31万5000人。 一緒に創業したジョン・ジマー CEOは、米コーネル大学ホテ ル経営コース出身でホスピタリ ティ重視。 運転手に尊厳を持って対応す ることを心がけており、運転手 には乗客とフレンドリーに接し てほしいとお願いしている。 2007年Lyftの前身長距離ライド・シェアリング企業 Zimrideを設立。Zimrideのビジネスモデルは、留 学先のジンバブエで近隣や地域の人々の間での 相乗りが通常の交通手段として使われていたこと により着想。カリフォルニア大学サンタバーバラ校 在学中に初めてのカーシェアリング・プログラムを 立ち上げ、サンタバーバラ郡都市圏交通局 (MTD)の理事も務めた。 彼自身もLyftのドライバー。2012年6月のサービス 提供開始とともに、Lyftは最も急成長するテクノロ ジー企業の1つとなり、ゼネラルモーターズ、Didi Kuaidi、アンドリーセン・ホロウィッツ、楽天、アリバ バ他から資金調達。 28
マススケールでのサービス共有駆動と更 なる発展に向けて • クリティカルマスを獲得するための初期のあらゆ る努力が先決 • アイディア、タイミング、ブランド、ターゲット顧客、 ネットワーク効果、あらゆることを味方に • でも、それに続いて類似の取組みが乱立するは ず。適切なバランス点を発見するのは至難の業 • だから種々の想定を事前にして置くことが必要 • 技術要因よりは時間と空間に関わる(ビジネスモ デル志向的)要因の方が重要 • 3タイプ:遅延、再発、即時を参考に独自の進化 プロセスを想定しておくことが必要 29
• ITが駆動する新たなサービス創造のプロセス には独特の特徴がある。 – 多様な試案の乱立 – クリティカルマス獲得の競争 – 特定パターンの発生 → パターン毎の特性強化 の試み – 持続性確保のための連立・提携の試み、など • 組合せ数が増大している中で「各活動主体は それぞれのネットワークを基盤にしながら期 待とビジョンに基づいて各要素間の結合を シームレスに発生させる」形態でダイナミック な変革に挑戦している、と考えられる。 30