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July 10, 21
スライド概要
デジタル化が進展し、競争の土俵がエコシステムにシフトした。エコシステムは各パートナーが全体の状況を把握し、それに価値を付加することで、競争と協調を持続させることが特徴である。今まで自動車業界は、Tier1,Tier2というような垂直統合型のサプライチェーン構造を特徴としてきたが、その自動車業界においても、いよいよ、エコシステム構造に移行し、補完的付加価値を提供し合うパートナーとしての関係性が登場している。例えば、自動運転ソフトの担い手(Waymoなど)やライドシェアのプラットフォーマー(Uberなど)などがその典型例である。そして、彼等は既存のサプライチェーンの構成メンバーとは一線を画しており、既存自動車業界への価値の補完者であることは明確だが、しかし一方では、彼等は単なる外部からの参入者ではなく、自動車業界の構造にも通暁している。このようなパートナーが加わったエコシステム構造への自動車業界全体の移行の影響力は凄いことが予想される。そこで、そのような状況への変化の評価と再整理を試みる。
定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。
補完品による破壊的 イノベーション - これからの自動車業界を例題にして - B-frontier研究所 高橋 浩
問題意識 • デジタル化が進展し、競争の土俵はエコシステム にシフトした。 • その結果、従来想定されなかったイノベーション が登場、あるいは予想されている。 • 例えば、自動車業界は少し前までは成熟した業 界の代表と考えられてきた。 • しかし、今では100年に一度の大変革の業界と 見做されている。 – ここでは、補完品(例:自動運転ソフト、ライドシェアな ど)が、従来のコア(例:ガソリンエンジンなど)を変革 する敵対者?として登場しているかのようである。 • そこで、どのようなイノベーションが登場している のか? 新たな評価と再整理を試みる。
正しいゲームの勝ち方: 変化する世界での攻撃、防御、デリバリーの仕方 • 競争の基盤が変化している。競争は、 明確に定義された産業からより広範な エコシステムへとシフトしている。 1) 自動車からモビリティ プラットフォームへ、 2) バンキングからフィンテックへ、 3) テレビ放送から動画ストリーミングへ • あなたの競合他社は、新しい方向から 到来しており、おなじみのライバルとは 異なる目標を追求している。 • この世界では、古いルールで成功する ことは、新しいゲームに負けることを意 味する可能性がある。 本資料は右書籍と関係する下記論文などを基にしている。 Ron Adner, Marvin Lieberman, “Disruption Through Complements”, Strategy Science 6(1):91-109, 2021
目次 1. 2. 3. 4. はじめに 自動車業界の新たなイノベーション その背景と過去の事例 デジタル戦略の変化 - 量的変化か ら質的変化へ 5. これからのデジタル化世界
1. はじめに “破壊的イノベーション”の系譜 • クリステンセンの有 名な「破壊的イノ ベーション」と対比し て、 Clayton Cristensen 1997年発刊 • 広範なエコシステム へのシフトで登場し た「新たな破壊的イ ノベーション」を考え る。 Ron Adner の新著 2021年10月5日発刊予定
古典的な“破壊的イノベーション” クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」は競争 的”代替“にフォーカスしていた。 例:14インチのHDドライブは8インチのHDドライブに 置き換えられた。
広範なエコシステムの拡大によって発生している 補完による混乱と破壊とは・・ • エコシステムの拡大は”代替“を超えて、補完 品が既存企業の競争力に多大な影響力を拡 大させている。 • 混乱させる補完者は新規参入者ではない。 • 補完による破壊はユーザーに向上した価値 を提供するにもかかわらず、既存企業の価値 を減少、あるいは破壊する脅威を与える。
既存企業の収益性と市場シェアへの脅威 (1) クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」的代替 内部的機能障害 (能力の喪失) “古典的 破壊” 標準的な 競争プロ セス 漸進的な変化: 補 完品が代替になる 既存企業 補完的ライバル (3):補完品が直接のライバルとして参入する 製品を代替 補完品がエ コシステムの 力と制御を 獲得する 補完的製品 (2):補完品が付加価値を押し下げる (4):補完品が価値反転によって代替になる 隣接するビジネスに参入 エコシステムの拡大によって登場してくる新たな領域
(1):代替による混乱と破壊 クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」 • ローエンドまたは新市場を足掛かりとして発 生。その後、メインストリーム市場に参入 クリステンモデルの要点: 「最初は優れたパフォーマンスを提供しな い新技術が市場を席捲することがある」 「新技術の技術的パフォーマンスが顧客 の要件を超えた時に発生する」
(2)(3)(4):補完による混乱と破壊 エコシステムの役割の拡大 • 補完品は元々は業界のコアオファーを強化 する製品またはサービスとして登場する。 • しかし、現状の収益性や市場シェアの継続性 に影響を与えることがある(前々頁図参照)。 • 結果、ビジネスエコシステム内で「友人」を「敵」 に変えるダイナミックな変革が起こり得る。 ⇒自動車業界の場合: 次頁と2節で ⇒その背景と過去の事例: 3節で
これからの自動車業界(ラフスケッチ) • キーワードはCASE C:コネクション ・・・5G A:Autonomous(自動運転車)・・・Waymo S:Share(共有) ・・・Uber E:Electric(電子化) ・・・Tesla • C(コネクション)は、技術もその生産者も補 完的軌道から逸れないかもしれないが、 • 他の 3 つは“破壊”を招く可能性がある。 “E” 単独で は代替的 A:Autonomous(自動運転車)・・・Waymo S:Share(共有) ・・・Uber E:Electric(電子化) ・・・Tesla “A,S” は 補完的 Tesla社は代替 /補完の両方
2.自動車業界の新たなイノベーション 自働車業界の新環境 • 自働運転車(例:Waymo)もライド シェア(例:Uber)も既存自動車 業界(製造企業からタクシー会社 まで)にとっては補完品 • 補完品の拡大は自動車業界の 既存サプライチェーンをエコシス テムに変質させる。 • このような状況下で各補完品の 相補性と連携は当然の取組み • このような前提で想定される自 動車業界の破壊的脅威を次頁 以降に示す。 Waymo、ルノー・日産 と自動運転分野で提携 日本でもタクシー会社と連 携しUberアプリを使用し たUberタクシーが登場
自動車業界で想定される破壊的脅威 代替による破壊 (1):古典的破壊 ・EV化(エンジンからモーターへ) 既存企業 トヨタ、GM,フォード、 VW,BMW、ホンダ,・・ (2):コモディティ化 ・自動運転による(Waymoほか) ・ライドシェアによる(Uberほか) (3):隣接企業として参入 ・WaymoやUberが、もし (契約メーカーを使用して) 車両生産に参入したら (4):価値反転による変位 ・ライドシェアによる車両の効率的使 用が車両数の減少を引き起こしたら ・安全を実現する自動運転技術が保 険を不要にしたら エコシステムの拡大に伴う補完による破壊
自動車業界OEM(既存企業)への破壊的脅威 既存企業は 破壊の形態 何を失う か? (1) 代替品 が市場シェ 市場シェア アを獲得(古 典的破壊) 自動車業界の事例 既存企業(OEM)はどの ように対応できるか? • EV と ICE は代替パワー。 • OEM は、自社の車 時間の経過とともに EV が の設計と生産設備を ICE に置き換わる。 ICE から EV に変換する。 • AV の「頭脳」が車両の中 心的な構成要素になる。 頭脳プロデューサーと他 (2) 補完品 の AV コンポーネント サプ が付加価値 マージン、 ライヤーとの相互作用が を押し下げ 影響力、支 重要になる。 • ライド シェアリング プラッ る(コモディ 配力 ティ化) トフォームは、ユーザーが 車両と対話する主要な方 法になり、OEM ブランドと の直接的な関係を壊す。 ・ICE:内燃機関(internal combustion engine) ・AV:自動運転車(autonomous vehicle) • OEM は、社内開発 や買収を通じて、AV 技 術を社内に取り込む。 • OEM は、ライド シェ アリング プラットフォー ムを開発したり、既存 プラットフォームと提携 したりする。
自動車業界OEM(既存企業)への破壊的脅威(続) 既存企業は 破壊の形態 何を失う か? (3) 直接のラ イバルとして 補完品が参 入(隣接す るエントリ) (4) 補完品 が代替にな る(価値反 転による変 位) 自動車業界の事例 • 頭脳 プロデューサー 市場シェア、 (Waymo など) および/また 影響力、支 はライド シェアリング プラッ 配力、交渉 トフォーム企業 (Uber など) 力 が (おそらく契約メーカーを 使用して) 車両生産に参入 市場規模 • ライドシェア プラット フォームにより、より効率 的な車両の利用が可能に なり、市場にサービスを提 供するために必要な車両 数が減少 • AV 技術により安全性が 向上し、ドライバーのエ ラーに対する保険が不要 に 既存企業(OEM)はどの ように対応できるか? • OEM は参入障壁を上 げるための措置を講じ 得る。 • OEM は、自社の製品 を新規参入者に販売が 可能になる。 • 自動車市場がライド シェア車とRV(レクリ エーション)車に二分す るにつれて、OEMは高 性能セグメントに後退 する。 • 保険会社(当初は自 動車の主要な補完品を 提供)は、仕事を失う。
(1):古典的破壊 • ICE(内燃機関)車とEV(電動車)は代替技術 – 従って、EVはICE車の代替製品 • 既存企業のICEに関する膨大な資産と機能は EVの製造には基本的に役立たない(「イノ ベーションのジレンマ」)。 • 既存企業は製品アーキテクチャとサポートイ ンフラの根本的変革が必要になる。 • 現在、EV化への技術的代替曲線の傾きは緩 やかそうだが、今後どう変化するかは分から ない。
(2):コモディティ化 • 自動運転技術とライドシェアプラットフォームは お互いに補完し合える。 • 2つの補完品は最終的には既存企業の付加価 値を押し下げる可能性がある。 • 次世代の自動車エコシステムの主導者の候 補は下記3者 A)変革を遂げた既存企業 B)AVなど新たな「頭脳」生産者が全体統括に変身 C)ライドシェアプラットフォーム運用者が統括
将来の自動車エコシステムの可能性 • 車の「頭脳」(AVをサポートする制御システム)が 顧客にとっての車の価値と機能に重要になる。 • そこで、Waymoなど「頭脳」生産者が自動車エコ システムの中心になるかもしれない。 • また、「頭脳」サプライヤ、複雑なセンサーサプラ イヤ、データプロバイダー等の間には新しい関 係性が登場する。 • これらの企業はAVエコシステムを継続的に強化し 学習を可能にするための緊密な連携が必要 • この相互連携の調整は「頭脳」が決定要因なた め、これが各商品・機能の場所を決定する。
A)変革を遂げた既存企業 • 従来からの既存企業が引き続き中心的な 調整の役割を果たす。 標準、 システム、 インフラストラクチャー 「頭脳」サプライヤ センサーサプライヤ 既存企業 ディーラー? ライドシェア企業 制御器など 顧客
B)AVなど新たな「頭脳」生産者が統括 • 「頭脳」サプライヤがエコシステムの中心になる。 • 「頭脳」サプライヤは既存企業から車を調達し、 販売チャネルや顧客と直接接触する。 標準、 システム、 インフラストラクチャー アセンブラー センサーサプライヤ 「頭脳」 サプライヤ ディーラー? 顧客 ライドシェア企業 制御器など • Waymoは「頭脳」システムを制するだけでAV市場で支配的プレイ ヤーになることに賭けている。・・・Keith and MacDuffie,2018
C)ライドシェアプラットフォーム企業が統括 • ライドシェア企業が自動車エコシステムの中心になる。 • このシナリオではライドシェア企業が車両と乗客の主 要な接続ポイントになる。 標準、 システム、 インフラストラクチャー 「頭脳」サプライヤ ディーラー センサーサプライヤ 既存企業 ライドシェア 企業 顧客 制御器など • 差別化は既存の車ブランドからライドシェアプラットフォーム ブランドにシフトする。
(3):隣接企業として参入 • 「頭脳」サプライヤやライドシェア企業が自動車製 造に直接参入する。 • 彼等は請負組立業者と契約して車を製造し、既 存企業の役割を引き継ぐことが出来る(例:Apple 車?)。 標準、 システム、 インフラストラクチャー 「頭脳」サプライヤ センサーサプライヤ 請負契約 組立企業 制御器など ライドシェア 企業 顧客
(4):価値反転による変位 • ライドシェア車両がより集中的に使用されると、 長期的には自動車販売総量を減少させる可 能性がある。 • 更に、ライドシェアは運転手が自分の車を使 用する現在のビジネスモデルを超える進化の 可能性がある(例:ライドシェア企業が所有す る自動運転車の利用)。 • このような用途向けの車両は機械的に単純 な、性能の低い設計になる可能性がある。 – 乗客は高性能や高加速を望んでおらず、優れた エンターテインメント性を備えた車両が好みかも しれない。
価値反転による変位(続) • ライドシェアと自動運転車のこのような複合効果 は、今日よりもよりニッチで、より競争の激しい自 動車市場を到来させるかもしれない。 • 1つの想定は、ライドシェア用のローエンドで比 較的シンプルな車と個人向け楽しみのために運 転されるハイエンド車への二分の可能性である。 • 既存企業の一部は首尾よくハイエンド市場に撤 退するかもしれないが、それに失敗する企業も 出るかもしれない。 • 保険会社は、更に深刻な置き去りにされる可能 性があるかもしれない。
自動車業界の新たなイノベーション(中間まとめ) • 自動車生産の複雑さに対応する既存企業の能 力を考えると、既存企業の多くは新たな自動車 市場でも生き残れる可能性が高いかもしれない が? • しかし、新しい環境への変革は必須で、自動車 エコシステムの可能な進化の道筋をよく理解し 対応する必要がある。 • こうしたことが、進化するエコシステムの破壊的 経路に沿って自らを活性化させてきたTeslaのよ うな新規参入企業の適切な理解につながる。 – Teslaの強力なポジションはEV,AV,ビッグデータ などの融合にあると思われる。 ⇒次頁と4節で
3.その背景の理論と事例 代替品と補完品の相違 • 代替品は対象産業の付加価値にマイナスの影響 を与えるが、 • 補完品は基本的に業界のコアを強化する(プラ スの影響を与える)製品やサービスを提供する。 • しかし、それにも関わらず、補完品は業界のコア にマイナスの影響を与えることがある。 • エコシステムの拡大の下で、注目すべきは既存 企業の収益性や市場シェアの継続性に与える 影響である。 ⇒代替と補完(3パターン)による破壊を次頁表に示す。
代替と補完(パターン1,2,3)の破壊前・破壊後 破壊の形態 期間 1 (破壊前) 期間 2 (破壊後) (1)代替 当初は劣る代替品が 市場シェアを獲得する (古典的破壊) •既存の技術 A は、新しい技術 B よりも優れ たパフォーマンスを提供している。 — ほとんどの顧客にとって、A の価値は B の価 値を超えている。 —B はニッチな市場に参入する。 —A は B を無視するか、効果的に応答しない。 • B は、十分なパフォーマンスを達成することにより、主要市場で A に取って代わるところまで改善する (Christensen 1997)。 • 代替は、部分的または全体的である可能性がある。 (2)補完パターン1 補完が付加価値を減 少させる(コモディティ 化) • 既存企業 A のオファーは、補完品 B の可用 性から利益を得る。 • A は中心的で強力である。 • B の改善は、A の価値創造を増加させる。 • 補完品 B が差別化の場所となり、Aが競争するための参入障 壁を減少させる。 • A は独自性を失い、システム内でより弱い交渉ポジションに移 行するが、置き換えられるわけではない。A と B は共存し続ける。 影響: 技術 A のコア需要が減少する。 A を生産している既 存企業は、縮小する市場で市場シェアを維持する可能性があ る。 影響: 既存品 A は、マージン、交渉力、影響力を失う。 A の 需要は変わらないが、Bが新規参入すると既存企業の市場 シェアは減少する可能性がある。 (3)補完パターン2 補完が直接のライバル として参入する(隣接 参入) • 既存企業 A のオファーは、補完品 B の可用 性から利益を得る。 • A は中心的で強力である。 • A と B は競合しない。 •B は A のビジネスに直接参入し、補完品とコアの両方を提供す るため、バンドルされた A-B オファーを販売することができる。( A と B を分けておくことはできるが、価格を引き下げる) •A は、市場規模が拡大し、B の需要の増加から非対称的に恩 恵を受けるが、その一方、Bは 業界経験のない新規参入者と異 なり、既知のブランド、関連するチャネル、消費者との関係から利 益を得ることができる。 影響: 既存企業は、市場シェア、影響力、支配力、および/ま たは交渉力を失う。市場のサイズは維持または成長する。 (4)補完パターン3 補完が代替になる(価 値反転による変位) • A と B は補完品である。 • B の改善は、最初は A の価値創造を増加さ せる。 •B の継続的な改善により、A の必要性がなくなる。 •したがって、B は、A と B の組み合わせを徐々に置き換える。 影響: B が A に置き換わるため、A のコア需要は減少する。
補完パターン1,2,3の共通性 • 補完者は能力向上により、ある時点でエコシ ステム内のコア企業を犠牲にして行動する可能 性がある。 • その場合、いずれがコアか、補完かは視点の問 題となる。 • 特定企業は、自分をコアとして認識し、エコシス テムの残りの部分を補完と見做すことができる。
補完パターン1:コモディティ化 • 代替品とは異なり、この影響はコア需要の減 少ではなく、影響力とマージンの減少である。 • 補完品は、 – 1) 参入障壁を引き下げたり、 – 2) 差別化の主要推進力になったり、 – 3) 品質を向上させたりする。 • これらの要因は相補的であり、組合わせて同 時に発生させることもある。
補完パターン1の過去の典型例 • PC アセンブラー (IBM) は Wintel (Microsoft, Intel)に よってコモディティ化され た。 • Nokia他の総合ハンドセッ ト メーカー は、Android OS によってコモディティ化さ れた。 The Compaq Portable (初めての100% IBM PC互換機) 世界最初の Androidスマート フォンT-Mobile G1
補完パターン2:隣接企業として参入 • 補完者がコア分野に直接参入することを伴う。 • 補完者が参入し価格競争が激化すれば、コ ア需要そのものは維持か拡大するが、 • 既存企業は市場シェア、マージン、場合に よっては支配力を失う可能性がある。 • 参入企業はエコシステムに根差しているとい う点で単純な外部からの参入者とは異なる。 • 補完者はエコシステムのパートナーと統合あ るいは連携して競争力を高めることができる。
補完パターン2の最近の典型例 • Netflix が映画制 作に参入。既存 の映画スタジオ と競合 • Amazon が映画 制作に参入。既 存の映画スタジ オと競合 「Amazon Prime Video」 Netflixオリジナルシリーズ Amazonプライム会員なら対象作品が見放題
補完パターン3:価値反転による変位 • 補完品の継続的 発展は3つのパス を生じる可能性が ある。・・右図 • 補完品の改善が 自然にコア製品の 価値を損なう場合 がある・・・動的な 価値の反転 補完品の有効性と焦点企業の競争 力間の 3 つの可能な関係性
補完パターン3の最近の典型例 • 農機メーカー世界最大手のディア・アンド・カン パニーは2017年農業ロボット開発のBlue River Technology(機械学習×農機の注目の スタートアップ)を買収した。 機械学習×農機でAgTech化 • 雑草など作物の育成を阻害する 対象物が存在する場所にのみ除 草剤をピンポイント散布 • そうすることで除草剤の使用量を 90パーセント減らした。 • その延長で種子、肥料などの使用 量も減らした。
価値の反転 • 初期の相乗効果の後に、エコシステム中で補 完品がコア(焦点企業のオファー)の価値を 消し始める時に価値の反転が発生する。 • 自動車関係を除く、過去および現状の代替と 補完パターン1,2,3(3は価値の反転のみ) の事例をまとめて次頁表に示す。
代替と補完(パターン1,2,3)の事例のまとめ 破壊の形態 事例 (1)代替 当初は劣る代替品が市場 シェアを獲得する(古典的 破壊) 1. 14 インチのコンピュータのハード ディスク ドライブは、8 インチのハード ディスク ド ライブに置き換えられた。(クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」の事例) 2. ケーブル式の土工建設機械は、油圧式の土木建設機械に置き換えられた。 (2)補完パターン1 補完が付加価値を減少さ せる(コモディティ化) 1. PC アセンブラー (IBM) は Wintel (Microsoft, Intel)によってコモディティ化された。 2. 総合ハンドセット メーカー (Nokia、他) は、Android オペレーティング システムに よってコモディティ化された。 3. Amazon のオンライン書店が小規模な出版社の能力とリーチを強化するにつれて、 書籍の出版社は力を失った。 (3)補完パターン2 補完が直接のライバルと して参入する(隣接参入) 1. Amazon は、UPS や FedEx と競合して、荷物配達に参入した。 2. Netflix と Amazon がそれぞれ映画制作に参入し、既存の映画スタジオと競合した。 3. Microsoftは、ワード プロセッサでは WordPerfect、スプレッドシートでは Lotus 1-23 を上回るために、Word と Excel をバンドルして成功した。 4. Microsoft は、Windows の優位性を維持するために、家庭と企業の両方の購入 者に無料のブラウザを提供することで、Netscape を敗退させた。 (4)補完パターン3 補完が代替になる(価値 反転による変位) 1. 3D プリンターは、製造能力の需要を高めるプロトタイピングイネーブラーとして出 発したが、生産エンジンになり、工作機械に取って代わりつつある。 2. ソフトウェア シミュレーターは、最初は物理テストの生産性を高めたが、精度と予 測性が高まるにつれ、物理テスト (風洞、衝突試験など) の必要量を減少させた。 3. スマート トラクターは、植え付けの無駄を減らし、種子と肥料の使用量を減少させ た。 4. 高解像度のコンピュータとスマホの画面により、紙とプリンタの需要が減少した。 5. Amazon は著者に自費出版を許可したため、書籍出版社は売り上げを失いつつ ある。
4.デジタル戦略の変化 - 量的変化から質的変化へ 新たな変化の背景 • 補完品による破壊は外部参入者や既存のライ バルからではなく、・・・ • 補完者、即ち、エコシステムで既に価値創造に貢 献しているアクターから生じる。 • 従って、彼等は従来の潜在的脅威とは異なる資 源、能力、関係性、学習機会を持っている。 • その結果、補完者による破壊は業界の進化の方 向性を変える可能性がある。 • その根本的背景は、デジタル技術の台頭と進展 により、エコシステム内企業の位置と力の変化が 起きやすくなったことにある。
そこで、・・ デジタル化の進展を再考する ムーアの法則、 メトカーフの法 則などから・・ 処理能力 ストレージ容量 帯域幅、など の改善 ⇒ コストの改善へ ネットワーク密度 の向上/進化 接続ポイントの量的爆発 ⇒ 新しいビジネスや組織モデルの出現 • この一連の流れをデジタル音楽の例で考 えてみる。 ・・・次頁参照
デジタル化の進展プロセス デジタル音楽を例にして 変化する内容 LP,カセットテープ (物理的マーカー) 表現形式の変化 CD 既存の成長論 (イノベーション論) (デジタルマーカー) ネットワーク経済 (プラットフォーム理論) エコシステム理論? (まだ充分解明され ていない分野か?) (アナログ形式→デジタル形式) MP3ファイル (ダウンロード可能) 接続性の変化 (新しい接続ポイントの作成) on Napster,iTune (要求されたコンテンツ(応答ストリーミング)) Spotify (データ分析による推奨コンテンツ (予測ストリーミング)) アグリゲーション(集合)形式の変化 (オンデマンド接続→常時接続(データ 分析で推奨案提示))
量的変化から質的変化へ • 個々の媒体のデジタル化の影響はそれぞれ に重要ではあるが、 • それらが相互に作用し強化された時に、真に 劇的な変化が登場しうる。 • “表現”,“接続性”,“アグリゲーション”の変化が一 体となった/なる可能性がある事例として、自 動運転車、IoT活用媒体、Spotifyなどを認識 できる。
質的変化で先行しているTeslaを再考 • TeslaのビジネスモデルはEV車の販売(①直 販)、②サービス、③充電の3つに基づく。 – 車のインターネット販売も実施(①) – サービスは無線でデータアップロードも可能(②) – 最初から家庭や企業向けエネルギー貯蔵システム (Powerwall)も包含(③) • 販売チャネルを所有することで、製品開発で優 位に • また、現在発売のTesla車は全て自動運転を見 越した構造に • 結果、金融アナリスト、投資家はTeslaを(著名IT企 業に類似の)テクノロジー企業と見做している。 – これらもあって、独自の支持層を生み出し、独自のエ コシステム形成に成功した。 – これらが相まって株価高騰に寄与している。
5.これからのデジタル化世界 今後の方向性 • 総体として、デジタル技術が自動車業界の従 来のサプライチェーン構造をエコシステム構造に 変換させたと認識できる。 • その結果、既存企業も新しいパートナーにど う対処するかという新たな課題に直面してい る。 • 現在クローズアップされているAV、ライドシェ アだけでなく、各種パートナーとの新たな関係 性見直しは始まったばかりである。 • “エコシステムへシフト”の流れに沿った分析 が今後益々重要になる。
今後の方向性(続) • 現在、デジタル化の更なる活用である「デジタル ツイン」による新たなシミュレーションなどが考え られている(例:ジェットエンジンの摩耗・損傷)。 • このようなモデルは、単に予防保守に有用なだ けでなく、設計改善のための仮想実験にもつな がる。 • また、上述のプロセス(“表現”“接続性”“アグリ ゲーション”)間には強い補完性があり、 • このような活動からの洞察は人間の認知が難し い面がある(「人間の限定合理性」から)。 • そこで、今後、データ収集とそれに基づくアルゴ リズムからの洞察に向かう可能性がある。 • 結果、潜在的相補性がデジタル化の更なる劇的 な変化を生み出す可能性がある。
今後、既存企業は何をすべきか? • 所属業界の常識を突破するエコシ ステムを構想すべきである。 • エコシステムで実現したい目標、エ コシステムを主導する自らの役割/ 価値を実現(準備)すべきである。 • そして、エコシステムを持続的にア ピール/維持するビジョンと戦略を 立案すべきである。 ⇒右図参照 既存業界に おける価値 – Teslaのようにブランド化を指向するこ とも重要になる。 エコシステム – この延長線上で劇的変化を主導でき による新たな 付加価値 るかもしれない。 全体をコント ロールするビ ジョンと戦略
参考文献 • Ron Adner, Marvin Lieberman, “Disruption Through Complements”, Strategy Science, Vol.6, No.1, pp.91-109, 2021. • Ron Adner, Phanish Puranam, Feng Zhu, “What Is Different About Digital Strategy? From Quantitative to Qualitative Change”, Strategy Science , Vol. 4, No. 4, pp.253–261, 2019. • CM. Christensen, “The Innovator’s Dilemma: When New Technologies Cause Great Firms to Fail”, Harvard University Press, Boston, 1997 . • MG. Jacobides, C. Cennamo, A. Gawer, “Toward a theory of ecosystems”, Strategic Management J., Vol.39, No.8, pp.2255–2276, 2018. • Keith D, MacDuffie JP, “Turning points in the future mobility value chain”, Working paper, MIT Sloan School of Management, Cambridge, MA, 2018.