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August 13, 18
スライド概要
Society5.0が最初に叫ばれたのが2016年4月なので、2年ほど経過している。ところで最近、あちこちでSociety5.0が大規模に喧伝されていると思う(例:経団連HP)。でも、具体的にどのようなプロセスで進めようとしているのか、今一つ分からない印象を受ける。実際には具体的経済のことだから、社会的課題解決と言っても企業ビジネスと両立しなければ進展しない。その辺が地に着いた議論や研究がなされているのかな、などと考えた。そんな問題意識から、既存slideshare公開資料の中から、関係しそうな部分をピックアップして、新たな資料を作成してみた。
定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。
Society5.0型社会へのスキーム - 試みとしての2つの論理と量子コンピュータ視点からの観察 - B-frontier研究所 高橋 浩
問題意識 • AI、IoT、BD等があらゆる場面で活用され、 Society5.0型社会への志向が急速に進展 • 産業界においても新事業や融合型事業の開発・ 発展が期待され、従来、データが活用されて来な かった領域でもデータ志向の取組みが加速 このような大きな変化の時代の「変革の力学」は、技 術面以外の側面も考慮されなければならない。 想定される変化の構造をもっと明確にするための 枠組みの提示も望ましい。 そうでないと、これからの変化が速いだけに、思わぬ 混乱に突入する危険性がある。 2
目次 Ⅰ.デジタルイノベーション環境を考える 1. 2. 3. デジタル世界のイノベーション経営 IoT世界への適応 IoT/AI時代の新たな戦略思考 Ⅱ.MLP理論を元に考える 1. 2. MLP(Multi Level Perspective)の概要 MLPに基づく社会技術遷移経路の類型 Ⅲ.Society5.0型社会に向けた示唆 3
Ⅰ.デジタルイノベーション環境を考える データ主導社会ではIoT,ビッグデータ,AIは循環 モノ IoT リアル世界 ビッグデータ AI サイバー世界 4
しかし、 まず、消費者に選ばれるサービスが無ければならない! データは消費者が製品やサービスを利用する際に発生 そのデータを収集・一目瞭然化する新たな手段がIoT ビジネスモデルと関係付けるには大きな視野が必要 ビッグデータ IoT AI マネタイズは データ分析 から 製品/サービス 提供だけで は不十分 Pr. Annabelle Gawer’s slideshare 2016.11.29 5
新たな視野を必要とする・・ デジタルイノベーションの特徴は・・ • 新たなアーキテクチャ(階層モジュラーアーキテク チャなど)を招来させ、 • イノベーションプロセスと成果の本質を根本的に変 える。 ① デジタルテクノロジープラットフォーム ② 分散型イノベーション ③ コンビナトリアルイノベーション の3面について論述 Youngjin Yoo Professor of Management Information Systems and Strategy at Temple Univ. 6 Y. Yoo et al., “Organizing for Innovation in the Digitized World ”, Organization Science, Vol. 23, No. 5, 2012, pp. 1398-1408 .
デジタルイノベーションの特徴 特徴 ① デジタルテク ノロジープラッ 内容 企業はプラットフォームを 作成することでイノベート プラットフォームは、異種 トフォーム アクターを含むエコシステ ムを形成 ② 分散型イノ イノベーションプロセスを 「民主化」 ベーション イノベーション活動の場 所は益々組織の周辺へ ③ コンビナトリ ほぼ無限の再結合は、イ ノベーションの新たな源 アルイノベーショ 既存モジュールとも組み ン 合わせて、新しい製品や サービスを創出 戦略 要点は、如何に活 力あるプラット フォームを設計、 構築、維持するか 要点は、如何に組 織外の開発者を 活用するか 「全体的」設計図 を完全に把握でき なくても、頻繁に 設計し提供 (APIなど) 7
① デジタルテクノロジープラットフォーム:その含意 • 組織は、プラットフォーム上での微妙なバラン スを管理するように設計される必要がある。 【バランスを管理すべき課題】 組織がプラットフォームをあまりにも制御する と、サードパーティ開発者を駆逐する危険性 がある。 組織が何も制御しないと、プラットフォームは 断片化し、開発者と顧客の両方にとって役に 立たなくなる可能性がある。 8
② 分散型イノベーション:その含意 • イノベーションは、他の人(開発者)がイノベー トすることをますます必要としている。 • オープンデータ、API、SDKなどの新しい技術 的リソース提供で他人(開発者)活躍を有効 にできる。 • 高度に専門化されたニッチプレイヤー(開発 者)と、グローバルな支配力を達成する「スー パースター」の共存が、異種の知識体系を統 合する能力の結果として出現する。 9
③ コンビナトリアルイノベーション:その含意 • 伝統的な拡散モデルに替わって、SNSコンテ キストなどでのアイデア伝染の広がりが発 生する。 • アイデアは普及するだけでなく、普及につれ て突然変異し、進化する。 ー 従来の伝染モデルは、イノベーションが広 がるとは仮定しているが、変化しないとも 仮定している。【従来のイノベーション理論の限界】 10
IoT,ビッグデータ,AIが循環する新たな環境では、 ニーズ、ソリューション識別も大きな視野が必要 • コンビナトリアルイノベーションでほぼ無限 の再結合が可能なイノベーションの場で 問題解決の手法も変質するのでは? どのような問題解決手法を取るのが適 切か? ・・・新たな戦略思考の必要性が増大 11
1.デジタル世界のイノベーション経営 デジタル世界におけるイノベーション経営の再構築 • デジタル化の進展により、既存イノベーション理 論や関連組織学に疑問が提示されている。 グローバル・ブレイ ン:ネットワーク化さ れた世界でより速くス マートに革新するため のロードマップ Professor of Technology Management • デジタルイノベーションの多様性、出現形態、豊 富さを明確に組み入れた理論が必要 • デジタルイノベーションでは3つの重要かつ同時発 生の現象を捕捉すべき 2007刊 – ①イノベーションの成果、②デジタルツールとインフラ、 ③普及経路とプラットフォームでの使用状況 S. Nambisan, K. Lyytinen, A. Majchrzak, M. Song, “Digital innovation management: Reinventing innovation management research12 in a digital world”, MISQ, Vol.41, No.1, 2017.
デジタルイノベーション新理論 を構成し得る新しい論理の候補 実行可能なニーズ・ソリューションペアの 設計( Viable ‘Need–Solution Pairs’ Design) 社会認知的意味付与( Socio-Cognitive Sensemaking ) 技術的アフォーダンス オーケストレーション 他 2016 イノベーションの民主化 リードユーザー・イノベーション 13
例1:ニーズ・ソリューションペアの発見 • 企業の従業員が「何が新しいかを見る」新商 品展示会を歩いている。 • 特定のニーズを満足する新しい給与処理ソフ トを提供するブースに出くわした。 • “ああ - 給与処理に不備があるとは思ってい なかったが、今、我々はそうと認識し、また、 この新しいソフトはこれを解決するかもしれな い”。 • あるいは、 “ああ - この給与処理方式は、完 全に別の良い設計を作成するアイデアをもた らしてくれる。私が考えていなかったものを。" 14
例2:ニーズ・ソリューションペアの発見 • “店のウィンドウでその自転車のベビーキャリア を見た。 • それは非常に丈夫で安全なように見える。 • 私はベビーキャリアを必要としているとは思っ ていなかったが、今思い描いている新しい生 活パターンでは、非常に有用な解決策になる かもしれない。 • 私は車を使う代わりに、自転車を使って赤 ちゃんを保育所に運ぶことができるかもしれ ない”。 15
景観(Landscape)とは何か? ニーズ景観 ニーズ・ソリューション ペアの発見 ソリューション景観 von Hippel, E., and von Krogh, G. 2016, “CROSSROADS- Identifying Viable ‘Need–Solution Pairs’: Problem Solving Without Problem Formulation,” Organization Science (27:1), pp. 207-221.Figure 1. 16
• 景観はx軸y軸上の点が固有のニーズまたは ソリューションの場所を示す。3次元の面とし てニーズとソリューション両方の景観を表現 ニーズ景観でのある点のz軸「高さ」は、位置x、 yにおけるニーズの満足度によって達成される 利益を表す。 ソリューション景観でのある点のz軸「高さ」は、 位置x、yにおけるソリューションを提供するため のコストを表す。 ニーズ・ソリューションペアは、ソリューションから得られる利益 がそれを提供するコストと等しいか大きければ、「実行可 能」とする。 17
ニーズ・ソリューションペア発見と評価の特徴 ① 新しい、おそらく有用なニーズ・ソリューション ペアを発見する。 ② それを既存の状態(モノ)と比較して、優劣を 判断する。 ③ もし、従来のモノが劣っていると判断したら従 来のモノを「問題」と称してもよい。 ④ しかし、これは事後的にしか判断できない。 ⑤ 従って、問題の「定式化」からではなく、実行 可能な「ニーズ・ソリューションペア」の識別から 始まる問題解決プロセスを見ている。 18
実行可能なニーズ・ソリューションペア • 問題解決分野では一般に解決すべき「問題の 定式化」が解決策の探索に先行するとされて きたが、・・・ • この問題定式化先行には問題がある。 – 初期に問題が固定化され変更されないままになる。 • 問題定式化先行を回避する問題解決プロセス の新しい視点を開く必要がある。 ソリューション景観だけでなく、問題解決によっ て後続される問題定式化のより大きなプロセス に含まれる景観も観察する必要がある。 19
2.IoT世界への適応 IoTの世界とは・・ • 実世界の物理的物体を仮想世界に結びつけ ることで、何時でも、何処でも、誰とも、何に対 しても、繋げられる。・・・CERP-IoT. 2010 – IoTオブジェクトは、インターネットをインフラとし、測定や 動きの検知と制御を可能にするセンサーとアクチュエータを備 えた非デジタルデバイス・・・Turber et al.2014 • 機械同士のやりとりも可能・・Hoffman et al.2015 日常的物体がIoTオブジェクトに変わり、 オブジェクトと消費者間の関係が変わる。 マーケティングにも大きな影響を与える。 Arch G. Woodside マーケティング教授 Boston College 20 Arch G. Woodside and Suresh Sood, “Vignettes in the two-step arrival of the internet of things and its reshaping of marketing management’s service-dominant logic”, JOURNAL OF MARKETING MANAGEMENT, 33(1-2), pp. 98-110 ,2017
IoT利用シーンのビネット 物とサービスのビネット(Vignette:寸描) ID Thing 1 Inhaler 吸入器 喘息吸入器と携帯電話を接続。システムは、ユーザーデータの クラウドソーシングから吸入器の使用を予測する洞察を提供 https://www.propell erhealth.com/ 2 Mobile social 携帯電話は位置決めのために内部センサーを使用。個人的物 語を作成する写真やビデオをSNSに追加 https://www.snapch at.com/ 3 Lock 遠隔からインターネットで携帯電話制御によるドアロック。 ホテル では、携帯電話からのロック制御で、迅速なチェックインのために 受付をバイパス http://www.schlage.com/ en/home/keylessdeadbolt-locks/sense.html 4 Payment reader 携帯電話に小さなクレジットカードリーダーをプラグインすること で、どこからでもビジネス実施 https://squareup.co m 5 Commerc e button ボタンを押すとあらかじめプログラムされた項目のWi-Fi注文が開 始。ボタンは石鹸を含む既存の家庭用品に設置 http://www.amazon.com/ b?node=10667898011 6 Beacon 携帯電話ユーザー向けに位置情報や情報提供を送信するセン サー。 センサーは店のマネキンや棚の中に統合可能 http://estimote.com / 7 Smart glasses ハンズフリーオーダーピッキングを可能にする革新的な「ピック バイビジョン」 http://ubimax.de/ 8 Umbrella 取り忘れて残しておくとコネクテッド傘からアラートが送信。コミュ ニティにアラート提供機能が気象ステーションに https://oombrella.m e Web URL 21
① ④ ⑥ ③ ② ⑤ ⑦ ⑧ 22
IoTビネットの特性 • IoTは、人とモノとの相互作用によって発生す るビッグデータ(例:地理的位置、時間、速度、 加速度、気温、気分、歩いた歩数および心拍 数)の継続的情報源を提供する。 • IoTビネットは、消費者またはオブジェク トとオブジェクトとの対話(相互作用)の 最も重要な側面を捕捉し、使用中のオブ ジェクトの簡単な説明を提供する。 23
3.IoT/AI時代の新たな戦略思考 ニーズ・ソリューションペア発見とビネット • ビネットの定義:「回答者の意思決定または判 断プロセスにおいて最も重要な要素と考えられ るものに対する正確な言及を含む人や社会状 況の短い記述」 ・ ・・Alexander et al. 1978 • IoTビネットは、IoTデバイス、アプリケーション、 消費者/オブジェクトの相互作用の多様性を 顕在化させ、ニーズ・ソリューションペア発見 を探るのに最適な手法の一つと見做せる。 24
デジタルイノベーション経営とは 1. 「問題定式化」から出発して、それに拘束され ることのないように、柔軟に、 2. 「コンビナトリアルイノベーション」の特性を生 かしてイノベーションの新たな源を充分に活用し、 3. ニーズ・ソリューションペアの探索に鋭意傾注 するとともに、 4. 探索結果を意思決定または判断プロセスに載 せる表現を(ビネットも含めて)的確に実施し、 5. 人や社会の変化に適切に追随できるアジャイ ルな取組み方針を堅持する経営 25
例1: 吸入器のニーズ・ソリューションペア 【ニーズ】喘息持ちで吸入器を手放せない生活をし ている時に、自分の体調を絶えず追跡してくれて、 何時吸入器を使用したら良いかを予測し、最適な 健康維持ができるサービスを提供して欲しい。 【ソリューション】常時適切なIoT機器を携帯してもら うことで、普段の情報をクラウドに蓄積して分析し、 それを元に何時でも手持ちの携帯機器に吸入器 の使用時期を連絡するサービスを実現できる。 26
例2: Amazon Dash Button 【ニーズ】沢山の商品を探す煩わしさが無く、便 利に買い物ができて、値段も上がらず、自宅 で買い物ができるサービスを提供して欲しい。 【サービス】 主に、スナック菓子、飲料水、ジュース、洗剤 など(消費者の思考が購買に関与し難く適当 に買われる商品)向けにダッシュボタンを提供 する。 (自宅にWifiが前提。1年で使い捨ての割り切り) 27
IoT/AI時代の戦略思考 「新たな問題解決のプロセス」 構想 ビネット含 め種々の 方式で 探索 ニーズ・ソ リューション ペアの探求 評価 事後的問題 定式化で従 来型事前問 題定式化との 橋渡しも ビネット ニーズ・ソリュー ションペア探索 実用性評価 実施 比較 具体化(但し アジャイル に)変化には 素早いサイ クル実施 新たな方式 案も含めた 比較評価 既存との比較 問題定 式化 確認 新案実施に向 けた問題解決 案の具体化 28
新たな戦略による社会構築の可能性 • ニーズ・ソリューションペア設計やビネットは 従来見落としていた可能性を発見 • 「問題定式化無しで検索」、「重要な要素と考 えられるものの短い記述」などからの出発は 新たに登場し拡大してきたイノベーションの源 の活用策 • これらの手法の実践と構造化が新たな戦略に よる社会構築に到達する手段の一つ • 新たに発生する課題に対する新技術の活用 がセットで必要か(次頁:量子コンピュータから) 29
組合せ爆発への対応:量子コンピュータの活用 • ニーズ・ソリューションペア・リストが指数関数的 に増大 – この状況を直感的に示した枠組みがvon Hippelの Landscape図 • 但し、リストの数え上げ方、コスト評価式他は一 切不明 • 想定は、多数のデータを収集してそこから顧客 ニーズなどをリストアップ – Google,Amazon類似の手法で • このリストとソリューション・リスト(コスト含)との組 合せ爆発が発生(考慮要素数増加で指数関数的 に拡大) • このような状況から最適解を発見する手段として 量子コンピュータの役割が期待されるか! 30
Ⅱ.MLP理論を元に考える 1.MLP(Multi Level Perspective)の概要 • “社会的および技術的変化への洞察”を 提示する進化経済学と技術遷移の橋渡 しを試みた理論 • Frank W. Geels氏(マンチェスター大学ビ ジネススクール教授)などを中心に構築 されて来た。 • 導入的情報は下記に紹介されている。 http://projects.exeter.ac.uk/igov/wpcontent/uploads/2012/12/DOWNLOAD-Multi-Level-Perspectives.pdf 31
• MLPではニッチ・イノベーション、社会技術レ ジーム、社会技術景観の3つを区別する。 ・・・Rip and Kemp, 1998; Geels, 2002 ニッチ・イノベーションは根本的新奇性が出現す るミクロレベルを形成する。 社会技術レジームはNelson and Winter(1982) の技術レジームの拡張版で、広範な社会集団 コミュニティとその活動に対応する。 社会技術景観は、ニッチやレジーム当事者の 直接的影響を超えた外生的環境を形成する (マクロ経済、深い文化的パターン、マクロ政 治的発展など)。 32 Frank W. Geels , Johan Schot, “Typology of sociotechnical transition pathways”, Research Policy 36 (2007) 399–417
MLPにおけるアクティビティの構造 社会技術景観 (マクロレベル) 景観開発は斬新機会への 窓を創造し既得領域にプ レッシャーをかける 市場、顧 客の嗜好 社会技術 レジーム 産業 (メソレベル) 新領域が景観 に影響を与える 科学 政策 文化 技術 社会技術レジームは「動的安定」にあり、 異なる次元で進行中のプロセスがある (期待とネットワークを介して) ニッチに外部からの影響が発生 ニッチ・ イノベーション (ミクロレベル) 新設定は「機会の窓」を利用して突破する。 調整は、社会技術レジームで発生する。 要素はドミナントデザインで整列し安定 している。内部的駆動力が増大する。 活動主体の小規模ネットワークが、期待とビジョンに基づいて、新 規性をサポートする。学習プロセスが複数次元で発生し(共同作 業)、異なる要素間の結合努力がシームレスに発生する。 Fig. 1. Multi-level perspective on transitions (adapted from Geels, 2002, p. 1263)より 時間
MLPの遷移パターンは3つある 1. 学習プロセス、価格/性能改善、強力なグ ループからの支援を通じた内部的勢力増強 によるニッチ・イノベーション 2. ニッチ・イノベーションの機会の窓創成によ るレジーム不安定化(社会技術レジーム) 3. レジームの圧力創成による景観レベルの変 化(社会技術景観) 社会技術レジームと社会技術景観の発展に よってより広範に影響を受けることを示した ニッチ・レベルに向けての矢印(選択圧力) 34
• 選択圧力の例: – 経済的圧力(競争、税金、手数料、規制、・・) – 広範な政治的、社会的、経済的な社会技術景観 開発(例えば、人口動態の変化、消費文化の上 昇、グローバリゼーションの新自由主義モデル) などなど • 組織理論では「個人、組織サブシステム、組織、 組織人口、組織分野、社会、世界システム」な どの組織レベルを区別する。 • その中で、社会技術レジームの遷移は“組織” レベルに位置付けられる。 35
2. MLPに基づく社会技術遷移経路の類型 ニッチ・イノベーションと社会技術レジーム • 両者は類似の構造を持つ(規模と安定性が相 違するのみ)。 社会技術レジームはコミュニティが大きく安定 ニッチ・イノベーションはコミュニティが小さく不安定 • 両方とも組織の性質を保有している(両方と も行動を調整する特定のルールを共有)。 社会技術レジームはルールが安定しており明確に 表現済み ニッチ・イノベーションはルールが不安定であり「作 成途上」 36
一方、社会技術景観とは 【他の2レベルとは異なる種類の構造】 • 2レベルは社会学的構造を通じて機能するが、 社会技術景観は行動に異なった影響を与え る。 • 社会技術景観は決定しないが、他よりもより 簡単な行動を取る構造的「力の勾配」を提供 する。 比較的静的で、生物学的進化における土壌 条件、河川、湖沼、山脈などに匹敵する。 37
相互作用のタイミング • 特に重要なのは、ニッチ・イノベーションの 状況と社会技術レジームに対する景観圧 力のタイミング ニッチ・イノベーションがまだ十分に発達して いないときに景観圧力が発生すると、遷移経 路は完全に開発された時以上に異なってくる。 但し、ニッチ・イノベーションが「完全に開発さ れた」かどうかは完全には分からない。 38
相互作用の性質と4つの遷移経路 ① ニッチ・イノベーションは既存レジームを置き 換えることを目指す時、レジームと競争関係 になる。 ② ニッチ・イノベーションはパフォーマンス向上の ため既存レジームに能力強化アドオンとして 採用される時、共生関係を持つ。 ⇒この2つの基準の組合せを利用して4つの 遷移経路が定義できる。 39
遷移経路1 変換 • ニッチ・イノベーションがまだ十分発達してい ない時期に、中程度の景観圧力(「破壊的変 化」)がある場合、レジーム事業者は開発経 路とイノベーション活動の方向を修正すること によって対応する。 • 中程度の景観圧力は、破壊的な景観変化の 早い段階で発生する。 • ニッチ・イノベーションは十分に開発されてい ないため、レジームに景観圧力を利用するこ とができない。 40
一例は、汚水ダメから下水道システムへのオランダの衛生移行 桶収集システムの1892年の漫画 下水道システムは破壊的ではなかった (煉瓦、パイプ、水流、ポンプは既に存在)。下水 道管形状、下水道斜面、流速、土壌条件などが 追加知識 時間 レジーム知識との「距離」がそれほど大きくない場合、レジーム事業者は外部知識を取り込む。 共生的ニッチ・イノベーションはレジームを強化し、基本アーキテクチャを混乱させない。 41
遷移経路2 再構成 • ニッチで開発された共生的イノベーションは、 当初はローカルな問題を解決するためにレ ジームで採択される。 • その後、レジームの基本アーキテクチャにお ける更なる調整を引き起こす。 • 採択された新奇性が古い要素と新しい要素の新 結合を生み出し更なる調整につながる。 • これは、技術変更やユーザーの慣習、認識の変 化につながる。 • 時間経過とともに景観圧力の影響を受けてレ ジーム変更が起きる。 42
一例は、伝統的な工場から量産工場への米国の遷移 19世紀の工場の労働環境はシャフト、ベルトで構成されている 機械がラインシャフトに固定されており、配置の問題、摩擦や非柔軟性によるエ ネルギー損失があった。 電気モーターによるユニット駆動工作機械の登場で柔軟な配置や空間の有効 活用が可能になり、新しい工場レイアウトの機会が生まれた。 43
遷移経路3 置換 • ニッチ・イノベーションが十分に発達した瞬間 に、景観圧力(「特別ショック」「雪崩的変化」 「破壊的変化」)が大きければ、後者が既存レ ジームを破壊し置き換える。 • 根本的イノベーションが発生しているがレジームが安 定しているので立ち往生している。 • レジーム当事者は漸進的イノベーションで解決できると 考えている。 • 従って、ニッチ・イノベーションにほとんど注意を払わない。 • 景観圧力がなければ再生プロセスに留まる。 • しかし、「特別ショック」、「雪崩的変化」「破壊的 変化」が加わると技術的代替に追い込まれる。 44
歴史的事例は帆船が蒸気船に置換(英国) 帆船 vs 蒸気船 The Thomas Lawson, 1902-1907 蒸気船の登場にも関わら ず、帆船の大型化や高速 クリッパー船の開発は進 められていた。 しばしば現職企業の崩壊につながる! Frank W. Geels, “Technological transitions as evolutionary reconfiguration processes: a multi-level perspective and a case-study”, 45 Research Policy 31 (2002) 1257–1274
遷移経路4 整列解除と再整列 • 景観変化が極めて大きく突然の場合、レジーム 事業者への信仰が失われるかもしれない。これ がレジームの整列解除と腐敗を招く。 • ニッチ・イノベーションが十分に発達していない 場合、明確な代替案が存在しない。複数ニッチ・ イノベーション出現の余地があり、最終的には特 定イノベーションが支配的になり新しい再整列が 発生する。 • レジームは重大な内部問題、崩壊、侵食、整 列解除を経験する。 • 比喩的に言えば、レジームの「空洞化」につ ながる。 46
一例は、馬車から自動車への米国での遷移 市電は馬車会社によっても支 援され一時急速に広がった。 しかし、T-Ford(1908)が、 さらなる改善とプロセス・イ ノベーションの明確な指針 馬車 を提供するドミナント・デザ インを確立した。 市電 自動車 自転車 47
4つの遷移経路のまとめ 汚水垂れ流し ⇒下水道シス テム(オラン ダ) ・1850年代、医師から感染症と汚染水 の関連が指摘された。 ・1870年代~80年代工業化で環境悪化 ・1890年代、清潔さを求め衛生運動へ ・1893年初めてハーグ市に下水道シス テムが導入された。 下水道システムは技術的 には破壊的ではない。 既存知識にアドオンした共 生的ニッチ・イノベーション による変換 変換 伝統的工場⇒ 量産工場(米 国) ・既存工場は機械がラインシャフトに固定さ れていたため、配置、柔軟性に問題 ・電気モーターの登場でユニット駆動電動機。 機械の柔軟配置、スペースの有効利用が 可能になった。 一つの画期的イノベーショ ンで駆動されているのでは なく、複数融合。最終的に は基本アーキテクチャが変更 再構成 帆船⇒蒸気船 (英国) ・1850~60年代、帆船は大型高速化 ・蒸気船は存在していたがニッチ市場 ・蒸気船拡散加速事件が次々に発生 ・1870~90年代航海競争で帆船代替 ニッチ市場で新技術発生。 しかし、帆船メーカーは蒸気 に移行できず 置換 馬車⇒自動車 (米国) ・19世紀後半「雪崩変化」で馬ベース都 市交通に多様な問題発生(馬糞尿他) ・市電が登場。1890年代には自動車も ・1908年T-Fordがドミナント・モデルを確立 ・1920年代、市電と自動車の競争激化 1890年代には多数の新型 が登場し共存。市電がドミナ ント。それを自動車が代替。 整列解除と再構成 48
遷移の予想パターン • 景観圧力が「破壊的な変化」の形を取る場合、 遷移経路のシーケンスは、変換で始まり、そ れから再構成につながり、そしておそらく置換 または整列解除と再整列に続く可能性がある。 • 当初レジーム当事者は景観変化が緩やかだ と認識する。 • 景観圧力が高まり問題が悪化すると、共生的 ニッチ・イノベーションを組み込み、更には抜 本的ニッチ・イノベーションの発展を促す。 • しかし、レジーム問題が深刻化すると、現職事 業者たちへの信仰が失われ始める。 49
4つの遷移経路の特徴と行動パターン 遷移の経路 主要当事者 アクションのタイプ キーワード 変換 レジーム当 事者と外部 グループ(社 会運動) 部外者が批判。 現職当事者が レジーム規則を調整(目標、指 針、原則、検索規則などを) 外圧、制度的権力闘争、 交渉、レジーム規則の 調整 再構成 置換 整列解除 と再構成 レジーム当事者は新規サプライ レジーム当 ヤーによって開発されたコン 事者とサプラ ポーネント革新を採用。 新旧サ イヤー プライヤー間の競争 経済的および機能的理 由で、累積的コンポーネ ントを変更。 新しい組み 合わせ、解釈の変更、 新実施規定で継続 現職企業 vs 新規企業 新規参入者は既存レジーム技 術と競合する新奇性を開発 既存企業と新企業間の 市場競争と権力闘争 新ニッチ・イ ノベーター 深い構造変化がレジームに強 い圧力をかける。現企業は信仰 と正当性を失う。複数の新奇性 の出現が続く。新規参入者は、 資源、注意喚起、正当性を競う。 最終的に一つの新奇性が勝ち 残りレジーム再構築につながる。 侵食と崩壊、複数の新 奇性、長引く不確実性と 解釈の変化、新しい勝 者登場と再度の安定 50
ぶっちゃけ、MLP理論をざっくり謂うと • Rogersのイノベーション普及論などに比較し て、3レベル間相互作用のタイミングと性質か ら抽出した「変革の4類型」は過去の典型事 例との良好な総合的マッチング性が有る。 • 特に上からの景観圧力と下からの「機会の 窓」を利用した突破のせめぎ合いによる類型 化は現状のビジネス環境へ適合している。 • ただ、4類型を選択する基準が曖昧で、分類 した後の示唆・指針が不充分な印象がある。 • 分析対象のダイナミック性の可視化には有効 51
Ⅲ.Society5.0型社会に向けた示唆 • Society5.0型社会も全体としては次のよう なシーケンスを踏む可能性がある。 置換 変換 再構成 整列解除と 再構成 • その際、Society4.0(第3次産業革命)で良い成 果を挙げ得なかった日本が相対的には大き な障害に遭遇する可能性が想定される。 • 単に個別ニッチ・イノベーションに目を奪われ るのでなく、レジーム・レベルの取組みへの配慮 と戦略が必要である。 52
Society5.0型社会を構成する各分野の遷移経路(案) シェアリングエコノミー リソース共有・循環 旅行(民泊:Airbnb) 車・ライドシェア(Uber) 雇用市場 スマートファクトリー スマートリテール スマートグリッド スマートインフラストラクチャ スマートハイウェイ(自動運転) スマートシティ スマートホーム(エンターテインメント) スマートホスピタル(ヘルスケア) 整列解除と再構成 置換 整列解除と再構成 置換 整列解除と再構成 置換 整列解除と再構成 置換 変換 再構成 置換 変換 再構成 置換 変換 再構成 変換 再構成 整列解除と再構成 変換 再構成 整列解除と再構成 変換 再構成 置換 置換 置換 置換 置換 53
それぞれに存在する・・ 知識ギャップと優先事項など 1) 問題と潜在的解決策のために既存企業をよく理 解する必要がある。 ⇒ジレンマとSociety5.0 型社会指向への不確実性の理解が必要 2) イノベーション戦略は幅広い企業戦略によって 形成されている。 ⇒どのように/何時、企業は 実際に(「実験を超えて」)IoT他の新技術に取り 組むのか?決定はどのようになされるのか? 3) ICT、IoT、BD、AI、クラウドのような単独の技術 に集中していてはいけない。 ⇒複数のイノベー ションがどのように特定システム/セクターを再構 成できるかを分析する必要がある。 54
Society5.0型社会への移行も 全体としては緩慢かもしれない 1) 抵抗:フレーミング(炎上)化と政治戦略化(「あまりに も難しい、コストがかかりすぎる、問題が不明確」など など) 2) ヘッジ:a)抵抗を続ける、b)代替案を探求し積極的 約束や談話で補完する。 3) 多様化:a)既存の資産を活用する、b)新市場を開拓 する/ポジションを賭ける/先行者利得を確保する。 4) 再編:経済戦略を変える、使命を見直す、生産拡大 を図る(規模の経済)。 決定的プロセスはなく(「動けなくなったり、遅く なったりするかもしれない」) 55
現企業の抜本的組織改革はかなり難しい • サンク投資を保護するインセンティブの存在(移 行を遅らせる) • 戦略的な方向転換はリスクが高い(しばしば失 敗する) • 不確実な市場:消費者の需要、気まぐれな政策 慣性力とロックインを克服・脱却するには、企業に 対する外部からの圧力が必要なことも多い。 • 市場/消費者 • 政策立案者、など 56
結局、 Society5.0型社会は・・ 既存社会技術レジームへのアドオンでは済ま ないので全体としては変換ではない。 画期的な複数イノベーションに基づいているの で、再構成的性格は保有する。しかし、これに 留まらない分野も多いと思われる。 現在の安定に安住していると変化対応に出遅 れ置換に巻き込まれる危険性がある。 もっとも可能性がありそうなのは整列解除と再 整列の混乱に投げ込まれること。最終的ドミナ ントの成立までには時間を要すると思われる ので、この間を生き抜く戦略が求められる。 57
Society5.0型社会への取組みへの示唆 レジーム・アクター(改革責任者)の視点で・・ 単独技術ベースのニッチ・イノベーションにあまり 囚われない。 レジームに対する景観圧力とニッチ・イノベー ションの成熟度の関係、および導入時期のタイミ ング、性質(競争的か、共生的か)を把握する。 既存レジームから新規レジームへの遷移が発生 しそうな場合、遷移経路類型を推定し適切な対 応を企画する。 遷移経路は各国の産業、政治、科学、文化で異 なるので、米国、ドイツ他の情報に過度に依存 せず過度なベンチマーキングにも捕らわれない。 注意深い観察で独自の最適経路を発見する。 58
ぶっちゃけ、現状をざっくり謂うと • 今話題の技術はほどほど完成度が高いもの もあるが、それらを組み合わせてマネタイズす ることではまだまだ未完成 • そして、成功した場合、「破壊的な変化」が発 生することは証明済み~Uber,Airbnbなど • 低成長、少子高齢化、環境劣化、など景観圧 力増大の中で変革への期待は増幅中 複数のニッチ・イノベーション出現の余地 がある状況。そして、整列解除と再整列 による破壊的変化を想定して抜かりない 準備をすべき状況か 59
量子コンピュータ視点からの観察 • 最適解探索のニーズは膨大・・・ – 変化要因の多様化と組合せリストの爆発で変革 の枠組みは曖昧化している。 – 個々の変革はなし崩しに始まっており、多数デー タの蓄積も進行中 • このような状況から妥当な知見を抽出したいと のニーズは上昇するも、既存の延長線上では 適切な打開策は発見できないだろう。 • このような状況に対する対応策として、MLP +量子コンピュータによる最適解発見は有力手 段たりうるか(具体的ビジョンは不明だが)! 60