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June 11, 23
スライド概要
バイオメカニズムとは生物にヒントを得て、その知見を工学へ応用する学問です。「生物にヒント」のキーワードは、当時の流行で私もその考え方に魅力を感じていました。そして、さかんに触覚の生理心理文献を読みあさりました。今回の論文はその当時のものです。
ここで重要な点ですがバイオメカニズムの肝は、そのメカニズムの基本原理を解明し工学的に実現することで、単なる形や形式の模倣ではないと思っています。その意味では、今回の研究は生体触覚の基本原理を解明したことからは程遠く、単にアイデアをインスパイアされただけのものでした。
今回取り上げた研究は、アイデアとしては面白いと現在も思っていますが、工学的有用性については若干疑問を感じているのも現状です。
ただ、時間遅延の触覚センサへの応用については大変気になっており、常に頭の隅に置いてあるテーマです。次回のテーマもこの時間遅延を活用とした研究の紹介です
これまでに主に,ロボティクス・メカトロニクス研究,特にロボットハンドと触覚センシングの研究を行ってきました。現在は、機械系の学部生向けのメカトロニクス講義資料、そしてロボティクス研究者向けの触覚技術のサーベイ資料の作成などをしております。最近自作センサの解説を動画で始めました。https://researchmap.jp/read0072509 電気通信大学 名誉教授
遅延は情報処理の肝 開発センサ反省点その1 空間フィルタ形触覚センサを用いた能動的センシング 人間の触覚機構からのヒントに 基づき開発 下 条 誠 電気通信大学名誉教授 https://researchmap.jp/read0072509/ TheUniversityofElectro-CommunicationsDepartmentofMechanicalEngineeringandIntelligentSystem
発想の原点 1/2 人間の指先には1mm2あたり感覚受容 器は50個存在し、この50個の受容器 に対して大脳皮質へ行く神経線維は、 ほぼ1本の割合で分布している Harmon, L. D. (1984) Tactile Sensing For Robots Susan J. Lederman, Skin and touch, Encyclopedia of Human Biology, 7, 51-63, 1991 2
発想の原点 2/2 1. 神経線維の信号伝達遅れと組み合わせ ることで空間フィルタが構成される 人間の指先には1mm2あたり感覚受容 器は50個存在し、この50個の受容器 に対して大脳皮質へ行く神経線維は、 ほぼ1本の割合で分布している 2. さらに触運動が加わると信号の伝達遅 れにより空間フィルタ特性が変化する これが人間の触運動の秘密ではないかと、その時は考えた 神経線維の伝達遅れ 神経線維 𝑖=0 D D D x0 x1 刺激 x3 触覚受容器 𝑛 𝑠 𝑥𝑖 , 𝑡 − 𝑛 − 𝑖 𝐷 D x2 3 xn 空間フィルタ 指先の触覚系モデル(下条仮説)
まえがき 4 触覚は対象物に触れてはじめて情報が取れる感覚であり、また対象物に対して能動的な働きかけを行うことに よって対象物からより多くの情報を取り出す感覚である.しかしながら、従来触覚センサの研究としては、触圧分布 等を計測する検出系の研究(1)(2)が主であり触覚の能動性の意義に対する考察および能動性を積極的に計測 に応用しその有効性を利用した研究は少ない.例えば、Darioら(3)およびBajcsy(4)は、人工指に触覚センサを 取付け表面をなぞることで表面状態を検出することを行っているが、単に動作によるセンサ出力の時間変化を計 測したにとどまっている. 本論文では、この触覚の能動性の工学的可能性を探ることのーつの試みとして、触運動によって空間フィルタ特性 が変化する空間フィルタ形触覚センサを用いて、対象物表面の状態を計測するシステムを開発したので報告する. 計測は触運動を行わせることによって、センサ系のパラメータを適応させ、その適応後のパラメータ値を対象物の 測定値として計測している.具体的な計測量としては、対象物の表面アラサを測定した.ここで対象の表面状態を 計測するため触覚センサを対象に接触させる場合を考える.触覚センサがある面積をもち、しかも柔軟性が充分 でない場合、接触機構・制御方法を工夫しても均一な接触状態を保つことは困難であり、不均一な状態で接触す る場合が一般的であろう.このため、ある程度の不均一な接触状態に対しても、頑強な計測系であることが要求さ れる.その点、本論文で提案する空間フィルタ形触覚センサでは、多数のセンサェレメントの冗長構造を用いている ため、計測の頑強性は高い.また、能動性を取り入れたことで対象物表面状態の幅広い空間周波数に対応できる という特徴がある.本センサの応用分野としては、対象物の表面アラサ、パターンの計測のほか、対象物表面にパ ターンがある場合、これまであまり良いセンサがなかった滑り覚センサとしても応用可能と思われる. 以下では、まず空間フィルタ形触覚センサの原理と空間フィルタ特性について述べ、次に触運動を用い対象物表 面のアラサを測定するアルゴリズムについて説明したうえでそのシミュレーション結果を示し、最後に対象物の表 面アラサを測定した実験結果を示す. 下条誠, 石川正俊, 空間フィルタ形触覚センサを用いた能動 センシング, 電子情報通信学会論文誌, C-II, Vol.J74-C, No.5, pp.309-316, 1991 M.Shimojo, M, Ishikawa, An Active Touch Sensing Method Using a Spatial Filtering Tactile Sensor, IEEE Int.Conf.of Rotics and Automation (ICRA), pp.948-954, Atlanta, 1993.5
空間フィルタとは 𝑔(𝑥0 、 𝑦0 、 𝑡) 𝑥0 +𝑋 𝑔 𝑥0 , 𝑦0 = න 𝑑𝑥 න 𝑑𝑦 𝑓 𝑥, 𝑦 ℎ 𝑥 − 𝑥0 , 𝑦 − 𝑦0 𝑦0 ・・・(1) 𝑥0 = 𝑉𝑡 + 𝑐1 𝑦0 = 𝑐2 (注) 空間フィルタ (空間的荷重関数) (1)式は、x0のみが時間の関数であり、g(x0, y0)のx軸 方向の相関係数R(tx)を求めると次式になる y 𝑅(𝜏𝑥 ) ≡ 𝐸 𝑔 𝑥0 + 𝜏𝑥 , 𝑦0 𝑔 𝑥0 , 𝑦0 ℎ 𝑥、𝑦 V(速度) 𝑦0 +𝐿 𝑥0 集光レンズ (空間積分作用) (𝑥0 、 𝑦0 ) 5 計測対象はx軸の負の方向に一定速度Vで移動し、空間フィ ルタはx、 y方向の大きさがそれぞれX、 Lの長方形で観測 系に固定されているものとする.すると、検出される信号の瞬 時値 g(x0, y0) は次式となる 出力 光検出器 (光電変換作用) 1/2 L x ∞ ∞ = න න Φ 𝜇, 𝜈 𝐻 𝜇, 𝜈 2 −𝑗2𝜋𝜇𝜏𝑥 𝑒 ・・・(2) 𝑑𝜇𝑑𝜈 −∞ −∞ X 計測対象𝑓(𝑥、 𝑦、 ここで、H(μ,ν)はh(x, y)のフーリエ変換、 Φ(μ, ν) はf(x, y)のパワースペクトル密度関数である 𝑡) 一様光束 𝐿 空間フィルタによる速度計測系のモデル 𝐿 𝐻 𝜇、𝜈 = න 𝑑𝑦 න 𝑑𝑥 ℎ 𝑥, 𝑦 𝑒 −𝑗2𝜋 0 0 𝑇𝑥 𝑇𝑦 1 Φ 𝜇, 𝜈 = lim න 𝑑𝑥 න 𝑑𝑦 𝑓 𝑥, 𝑦 𝑒 −𝑗2𝜋 𝑇𝑥 、 𝑇𝑦 →∞ 4𝑇𝑥 𝑇𝑦 −𝑇 −𝑇𝑦 𝑥 内藤正, 狼嘉彰, 小林彬, 空間フィルタによる速度計測, 計測と制御, 7, 11, pp.761-772, 1968 ・・・(3) 𝜇𝑥+𝜈𝑦 2 𝜇𝑥+𝜈𝑦 ・・・(4) 注:c1, c2は対象と空間フィルタの相対的位置関係を代表する定数
空間フィルタとは 2/2 6 (2)からx方向の空間領域でのパワースペクトル密度関数Ψ(μ)は次のようになる ∞ Ψ 𝜇 ≡ න 𝑅 𝜏𝑥 𝑒 ∞ −𝑗2𝜋𝜇𝜏𝑥 ∞ 𝑑𝜏𝑥 = න න Φ 𝜇, 𝜈 𝐻 𝜇, 𝜈 −∞ 2 𝑑𝜈 ・・・(5) −∞ −∞ またx0=Vt+c1を考慮して実際に得られる出力信号の時間領域でのパワースペク トル密度関数Ω(f)も同じように計算される( f :時間的周波数) 1 ∞ 𝑓 Ω 𝑓 = න Φ ,𝜈 𝑉 −∞ 𝑉 𝑓 𝐻 ,𝜈 𝑉 2 𝑑𝜈 = 1 𝑓 Ψ 𝑉 𝑉 ・・・(6) 1. (5)式は測定対象および空間フィルタの特性が出力にどんな形で関与するかを示す.|H(μ、ν)|2は 空間フィルタによるフィルタリング効果そのものを代表している. 2. (6)式は速度Vにより出力特性がいかに変化するかを表わす.出力は速度Vに比例し、Ω(f)がそ の周波数軸を伸縮させる. ① たとえば(5)式において|H(μ、ν)|2がμ=μ0の所のみを選択するような関数になっているとする と、Φ(μ0、ν)≡0でないかぎりΨ(μ)がμ=μ0に急峻なスペクトルをもつようになるのでΩ(f)も f=Vμ0の所にきわだったスペクトルをもつ. ② したがってVに比例した周波数の正弦波状信号が出力として得られることになり、周波数 測定から速度計測が可能となる. ③ この点が空間フィルタを応用した速度計測の原理である.
空間フィルタ型触覚センサの構造 adaptive processing 神経線維の伝達遅れ D x0 D x1 7 神経線維 D D D weight x2 x3 xn 刺激 触覚受容器 +1 D -1 D +1 D -1 D +1 D -1 D +1 D ∑ -1 V h elastmer object 指先の触覚系モデル(下条仮説) 空間フィルタ型触覚センサの構造 1. センサ素子は遅延時間Dで積和演算するため、触運動Vがあると、センサ素子のピッチPは D・V 変化する.すなわちP=P0+D・Vとなる 2. このことは触運動速度Vによって空間フィルタ荷重関数h(x, y) を変化させる.すなわち、 触運動速度に応じた空間フィルタ特性で対象物表面の空間パターンf(x, y)をフィ ルタリ ングして計測する 触運動速度V→ 荷重関数h(x、y)の変更→ 触運動による可変フィルタリング
空間フィルタ荷重関数h(x,y)を求める 接触面側 感度特性曲線 sensivity curve 2a 𝑔 𝑟 P 𝑥, 𝑦 elastomer h 𝑓 𝑥, 𝑦 sensor array detector (こちら側がセンサ) P0 図4 感圧素子の空間的感度特性 𝑓 𝑥, 𝑦 = ඵ 𝑔 𝜉, 𝜂 𝑃 𝑥 − 𝜉, 𝑦 − 𝜂 𝑑𝜉𝑑𝜂 ・・・(3) 3𝑃 ℎ3 𝑔 𝑟 = 2𝜋 𝑟 2 + ℎ2 ・・・(4) 2.5 弾性体は半無限と仮定 𝐻 𝜇, 𝜈 2 8 4 = 16𝜋𝑎 sin 𝜋𝜇𝑃 ⋅ 𝐽1 2𝜋𝑎 2 𝜇2 + 𝜈 2 2𝜋𝑎 𝜇2 + 𝜈 2 sin 𝑁𝜋𝜇𝑃 2 sin 𝜋𝜇𝑃 2 2 ・・・(5) 1. 図4にセンサの検出部を示す.弾性体カ バー上での点荷重による検出素子上の 応力分布f(x,y)をg(x,y) と仮定した. また軸対称であるためg(r) と表せる 2. すると圧力分布f(x,y)は、弾性体カバー 上の圧力分布をP(x,y)とすると式(3)と なる 3. ここで弾性体カバーで保護した感圧素 子の空間的な感度特性曲線は g(r)/g(0) とした 4. また空間フィルタ特性|H(μ,ν)|2を計 算するに当り、便宜上感 度特性曲線を 図に示すような半径aの円筒形で置き 換え計算を行った 5. 以上、差動形触覚センサアレーの荷重 関数の計算結果を式(5)に示す
空間フィルタ荷重関数h(x, y)を求める 空間的感圧特性 𝑎Τ𝑃=0.25,𝑁=6 触覚アレーセンサで構成される空間フィル タのピッチP は触運動によって等価的に変 化する. ൗ𝐻 𝜌 2 その空間フイルタ特性を表す|H(μ,ν)|2 のピッチPによる変化を示す. 𝐻 𝜌 2 感度特性曲線は変化しないとしてよいから その等価円筒の半径aは一定とし,a/P を パラメータとして|H(μ,ν)|2の特性変化を 計算した. 𝜇𝑃 図5 空間フィルタ特性( N=6 ) 横軸のμは触覚アレーの軸方向の空間周波 数成分である波数を、P は触覚アレーのピッ チを表す. 縦軸は実験で用いる触覚アレーセ ンサの|H(μ, ν)|2で正規化した. 図5にはその一例として,a/Pが0.25, 0.5, 0.75 とした場合の計算結果を示した.空 間フィルタ特性は,a/Pに対応して明らかに 変化しているのが観察できる. 9
空間フィルタ荷重関数h(x, y)の特性 10 peak/peak(a/p=0.25,N=6) Noirmarized peak ピーク値と選択度Qのa/Pによる変化の計算結果 図6 には|H(μ、ν)|2のピーク値の変化を計算したものを 示す.横軸はa/P、縦軸は正規化したピーク値を表す. 図6では触覚アレーの素子数Nによる相違も示す. a/Pが大きくなるに従い、ピークが低くなる. a/P Noirmarized selectivity Q/Q(a/p=0.25,N=6) 図6 空間フィルタ特性: a/P値とピーク値の関係 ここでa/P=0.5 の状態は感度円筒が半分重なった状 態を表し,通常は感度円筒が重ならないα/P<0.5の範 囲で利用するのが望ましい. よって,この条件の下で等価的ピッチPの下限を広げ るためには,a を小さくする必要があり,弾性体カバー を薄くすること,感圧素子の開口部を小さくすることが 必要である. 図7 には|H(μ、ν)|2の選択度Q の変化を示す.選択度 Q はフィルタのパワー利得特性がピーク値の1/2 にな る2点間の周波数間隔で選択される周波数を除した 値で定義される. 選択度Q は,Nの増加により大きくなる. a/P の変化 の影響はほとんどない. a/P 図7 空間フィルタ特性:a/P値と選択度Q値の関係
計測実験 action sensation V 11 今回対象物表面の空間パターンとしてアラサを考え,これを 触運動を用いて計測することを想定した.計測値として触運 動の結果、アラサ成分がパラメータ値として計測される. 今回触運動方向は1方向とするため,以後表面アラサは1次 元の取扱いをする.また,触覚アレーセンサは,速度Vでアレー の配列方向に運動するものとした. ・・・(6) センサからの出力y(t)は,式(6)のように表せる.また触運動 はT0の時間間隔で対象物表面を往復させる動作を想定した. 適応は,式(7)で示されるようにセンサ出力の自乗平均Yが極 大となるよう遅延時間Dを変化させた. これは,対象物の空間 パターンとセンサの等価的ピッチが一致するに従いセンサ出カ が増大することから,センサ出カが極大値を示すセンサ系の等 価的ピッチをもって対象物の空間パターンの計測値とした. ・・・(7) 収束アルゴリズムとしては最急こう配法を用い1/ Yの極小値 を示すD の値を求めた. 式(8)(9)にはその計算式を記す. active touch sensing 𝑁−1 𝑦 𝑡 = −1 𝑗 𝑓 𝑗 𝐷 ∙ 𝑉 + 𝑃0 + 𝑉𝑡 𝑗=0 1 𝑇0 2 𝑌 = න 𝑦 𝑡 𝑑𝑡 𝑇0 0 ∇ℎ = 𝜕 1Τ𝑌 1 𝜕𝑌 =− 2 𝜕𝐷 𝑌 𝜕𝐷 𝐷𝑘+1 1 𝜕𝑌 = 𝐷𝑘 − 𝜆∇𝑘 = 𝐷𝑘 + 𝜆 2 𝑌 𝜕𝐷 ・・・(8) ・・・(9) ここでλは,ゲイン定数を示す.この場合触運動は往復運動で あるため,Vは正負の値を取る.この符号に応じてセンサの等 価ピッチは狭まったり,広がったりするため,運動系から事前情 報を処理系に伝達する. 本アルゴリズムの場合,触運動速度V と遅延時間Dは等価で ある. 今回は実験で実証するときの容易さを考慮して遅延時 間Dを変化させることにした.
計測実験 T2 T3 T4 T5 sampling signal P0T1 12 図12 実験系の概略図 T6 d = 3.09mm P0= 4.57mm この空間フィルタ形触覚センサの原 理を検証するための実験を行った. 実験は,触覚アレーのフィルタ特性 の確認と,触運動を用いた適応フィ ルタリングについて行った Ti : Tactile sensor chip D : Delay circuit Ci : Chip select signal 図12に実験系を示す. 感圧素子は,4.57mm角のシリコンチップ内部にダイヤフラムと出力制 御回路を集積化したものである.感圧素子の特性は,適応外カの範囲が0~9 N,最大誤差が 0.04 N である. センサはこの感圧素子6個を4.57mm間隔に配して,差動形の空間フィルタを構成したもので ある. 等価的ピッチの可変範囲は,0.1 mm~5mm程度とした. 触覚アレーセンサは,動きが 滑らかな1軸のマイクロテージに固定してバネを用いて測定対象物に押し当てている. 測定対象物は直径が3mmの電線を密に平面上平行に並べたものを用いた,触運動は測定対 象物をXYレコーダの可動部に固定しXYレコーダに加える電圧を制御することで与えている.
13 Equivalent pitch of sensor array [mm] 図13 触運動による等価ピッチ変 化とセンサ出力パワースペクトル Output Sensor output Normarized power spectrum 計測実験結果 Time [s] 図14 触運動による等価ピッチ変化 とセンサ出力 Number of adaptation 図15 適応動作実験結果 5.1 フィ ルタ特性 アレーセンサのピッチ変化分は触運動速度Vと遅延時間D の積V・D で定まるため,実験では V=64mm/s 一定としてD を変化させた. 図13 に実験で得たセンサ出力のパワースペクトルを示す. 横軸はセンサの等価的ピッチ,縦軸はピーク値で正規化したパワースペクトルを示す. また,図14には 等価ピッチが1.5mm と3.0 mmの場合のセンサ出力の時間変化を示す.センサ系のピッチが予想どお り変化するのが確認でき,またフィルタ特性も確認できた. 5.2 触運動を用いた適応フィルタリング 適応フィルタリングの簡単な実験を行った結果を図15に示す.対象物は前と同様の平行電線を用いた. 実験は触運動速度V=64 mm/sを一定とし,アルゴリズムは前章で述べたものを用いた.シミュレーショ ンの場合と実験では表面状態が異なるが,ほぽ同じような結果を示すことが確認された.
6. むすび 受動的性格が強い視覚・聴覚と比べ,能動性は触覚の本質的な特性であり,この触覚 の能動性の工学的能性を探るーつの試みとして,触運動によって空間フイルタ特性が 変化する空間フィルタ形触覚センサを開発し,対象物の表面アラサを計測することを試 みた. 本論文では,触覚アレーセンサによって構成される空間フィルタ特性の解析を行い,次 に触運動を用いて対象物表面のアラサをセンサ系のパラメータとして同定し計測値と する適応動作アルゴリズムについて述べた.確認のため不均一な接触状態における計 測のシミュレーションを行い,最後にこれらの検証実験を行い良好な結果を得た. 本センサシステムの特徴として,(1)不均一な接触状態に対する頑強な計測系である こと,(2)能動性を取り入れたことで対象物表面状態の幅広い空間周波数に対応で きること,等が挙げられる. またその応用可能性として,対象物の表面アラサ,パターン の計測のほか,対象物表面にパターンがある場合には,これまであまり良いセンサが なかった滑り覚センサとして利用可能と思われる.今後の課題として,計測アルゴリズ ムの収束条件の解明,そして2次元的な表面パターン計測を行いたい. 14
(あとがき) 15 バイオメカニズムとは生物にヒントを得て、その知見を工学へ応用す る学問です。「生物にヒント」のキーワードは、当時の流行で私もそ の考え方に魅力を感じていました。そして、さかんに触覚の生理心理 文献を読みあさりました。今回の論文はその当時のものです。 ここで重要な点ですがバイオメカニズムの肝は、そのメカニズムの基 本原理を解明し工学的に実現することで、単なる形や形式の模倣では ないと思っています。その意味では、今回の研究は生体触覚の基本原 理を解明したことからは程遠く、単にアイデアをインスパイアされた だけのものでした。 今回取り上げた研究は、アイデアとしては面白いと現在も思っていま すが、工学的有用性については若干疑問を感じているのも現状です。 ただ、時間遅延の触覚センサへの応用については大変気になっており、 常に頭の隅に置いてあるテーマです。次回のテーマもこの時間遅延を 活用とした研究の紹介です。