誰もが創作を通じて音楽を楽しめる世界を目指して(音学シンポジウム2021 招待講演)

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October 07, 24

スライド概要

音学シンポジウム2021にて講演した際に使用したスライドです。

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日本大学 文理学部 情報科学科 北原研究室。 「Technology Makes Music More Fun」を合言葉に、音楽をはじめとするエンターテインメントの高度化に資する技術の研究開発を行っています。

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各ページのテキスト
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音学シンポジウム2021 招待講演 誰もが創作を通じて 音楽を楽しめる世界を目指して 日本大学 文理学部 情報科学科 北原 鉄朗 Twitter: @tetsurokitahara

2.

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自己紹介 (誰も興味がない私の半生)

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小学生時代 (音楽篇) 某Y音楽振興会のジュニア音楽教室でピアノと作曲を学ぶ コースの概要 ● 個人レッスンとグループ レッスンの2本立て ● 個人レッスン:ピアノ演奏 ● グループレッスン:作曲法 ● 毎年、年度末に オリジナル楽曲を発表 ● ピアノグレードも受ける 通っていたYミュージック札幌センター(中島公園近く) (https://hre-net.com/keizai/keizaisougou/16306/) 作曲は楽しいけど、演奏は練習が面倒 そもそも、人が書いた楽譜通りに弾くのがつまらない

5.

小学生時代 (コンピュータ篇) 家に古いコンピュータ(たぶんFM-77?)が転がっていた それで遊んでいた(お絵描きとか) 『ダ・ビンチ』(グラフィックソフト) FM77(富士通) (いずれも http://fm-7.com/museum/ より引用)

6.

中学生時代 (コンピュータ篇) 家にPC-98のノートPCがやってくる N88-BASICでプログラミングをするようになる PC-9801N (通称:98ノート) N-88 BASIC (https://dbnst.nii.ac.jp/pro/detail/641) (https://ja.wikipedia.org/wiki/N88-BASIC)

7.

中学生時代 (音楽篇) お年玉をはたいて DTMキット『Hello! Music!』を購入 『Hello! Music!』にバンドルされていたソフトウェア のOEM元のソフトウェア(『Micro Musician II』) (http://slt.retroprograms.com/MM2.html) 『Hello! Music!』のパンフレット (藤本 健『DTMの原点』より)

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高校生~大学生時代 ● 新しいPCを入手し、本格的にDTMで作曲 ● 友人とバンドを組んでオリジナル曲を制作 ● 大学入学後は、本格的にプログラミングを学習 ● 研究室配属後は、音楽情報処理の研究をスタート Cakewalk (Wikipedia英語版より) ヤマハ MD8 (Wikimedia Commonsより)

9.

大学生のときに思った「問い」 「いいメロディ」「ダサいメロディ」の客観的基準はあるのか 「好み」から独立した普遍的なメロディの評価基準はあるか (あってほしい。作曲する立場からすると) 大学生なりに思ったこと 良さ 好み 音楽は物理現象で、物理現象は数式で 書けるんだから、メロディも数式で分析 すれば何かわかるんじゃない? メロディの「いい」「悪い」を判定するコンピュータを作る 「いいメロディ」を作れるコンピュータを作る

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今日のAgenda 1 作曲(編曲)するコンピュータ 2 人間の音楽活動 を手助けする 3 4 人と一緒に 作曲するコンピュータ コンピュータの手助けで 人が即興演奏をする ≒ コンピュータと一緒に 人間が作曲する 5 その他の話題 (時間があれば)

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[1] 作曲(編曲)するコンピュータ

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自動作曲の仕組み ● ルールベース – どんな条件を満たすとどんな音を出力するかをルール化。 ● ランダムベース – 乱数を使って曲を作る。 – 「まとも」な曲にするには、出力を選別する必要がある。 – 選別基準はルールだったり、学習ベースだったり。 ● 事例ベース – 既存の曲の断片をデータベース化し、組み合わせて作曲。 ● 学習ベース – 既存のメロディの特徴を学習し、それに基づいて作曲。 – ニューラルネットワークや確率モデルなどが主流。

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何を人手で与え、何を与えないか 具体 詳細 音符の具体的な選択ルール 音高の遷移確率などの確率パラメータ 和声音・非和声音、協和音程・不協和音程の知識 音階、リズム候補 抽象 楽曲の構造

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【事例1】 [S. Suzuki & T. Kitahara 2014] Bayesian Netを使った四声体和声生成 Model 課題 右の両方を考慮 経時的妥当性 同時的妥当性 Learning-based - Neural net (Hild ‘91) - HMM (Allen, ‘05) - Weighted finite transducer (Buys ‘12) Non-learning-based - Expert system (Ebcioglu ‘90) - Constraint satisfaction problem (Pachet ‘98) - GA (Phon, ‘99)

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コード(和音)ノード 従来研究の多くは、 コード(和音)名か和声機能を表すノードを導入していた C コードノードの問題点 Am G E C ヴォイシングを区別するとすると、 A E C C6 C6 on G C Am Am7 取り得る値が多すぎる ヴォイシングを区別しないとすると、 C Am あいまいすぎる コードノードを使わない方がいいのでは?

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与えられるか決定済み モデル コードノードはヴォイシング区別しない モデルは、楽曲の最初から最後にかけて順番に適用

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データ 学習データ ● 254個の讃美歌の メロディ ● ハ長調に移調 テストデータ ● 和声学の教科書 から抜粋した 32個のメロディ

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生成例 ▶

19.

【事例2】 LSTMを用いた四声体和声生成 [T. Yamada, T. Kitahara, H. Arie & T. Ogata 2017] Sop Alto Ten Bass Time steps

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【事例3】 [北原,勝占,片寄,長田 2009] Bayesian Netを用いたコードヴォイシング 与えられたコード進行に対して 実際の音符を割り当てる (エレクトーンを対象とする) ルールベース (Emura ‘08) 事例ベース推論 (Hirata ‘01) (研究事例は多くない) 課題 テンションノート 音の省略 転回形 e.g. 9ths, 11ths, … ジャズでは重要 不協和音を防ぐため 物理的な制約のため 時間的なつながりを なめらかにするため

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モデル {C, C#, …, B} ×{maj., min., …} {C, C#, …, B} {C, C#, …, B}+ {C, C#, …, B} To melody nodes From voicing nodes {0.0, 0.2, …, 1.0} 各ピッチクラスの 相対的な出現時間

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生成結果の一例 “Misty” 主旋律なし (by Erroll Garner) Left-hand voicing • テンションノートが付与 • 自然な転回形を選択 Bass • 多くの場合で、 ルート音を選択 b13th 9th Non-root note 9th Top tones are smoothly connected

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[2] 人間の音楽活動を手助けする

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人間の音楽活動 難? 即興演奏 ジャム セッション ジャムセッション ライブ出演 作曲 仲間と 共同制作 YouTubeなどで 発表 演奏 合奏 ライブ出演 鑑賞 ライブに参加 易? 単独 コミュニケーション

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技術上の課題 入力情報・入力UI 楽曲自動生成 「こんな曲」というあいまいな イメージしかないユーザに、 あいまいな入力データから どんなデータをどんなUIで 入力させるか どのように音楽的に妥当な 楽曲・メロディを生成するか

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[3] 人と一緒に作曲するコンピュータ (コンピュータと一緒に人間が作曲)

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【事例4】 旋律概形を用いたメロディ編集 [Y. Tsuchiya & T. Kitahara 2013] 想定場面 自動作曲結果が一部気に食わず、編集したい 問題 通常のメロディ編集ソフト(MIDIシーケンサ)では、 どの音を選べば伴奏との不協和を避けられるか分からない 解決策 旋律概形を描き直させる 旋律概形の抽出: 音高の軌跡をFFT →低次のみで逆FFT 旋律概形から旋律の生成: HMMを利用

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【事例5】 Smart Loop Sequencer 既存のループシーケンサ [T. Kitahara, K. Iijima, M. Okada, Y. Yamashita & A. Tsuruoka 2015] ● 短い音素材をつなぎ重ねて曲作り ● テクノ系の作曲には最適 ● 音楽に関する専門知識が不要 ● Audio-based なので高品質 Sony Creative Software: ACID Pro 7

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ループシーケンサの問題点 問題点 音素材が多すぎる 着眼点 テクノ音楽で大事なのは、盛り上がりの変化 解決策 盛り上がりの時間変化を描画させる その盛り上がりを実現する音素材を自動選択 5 盛り上がり度が高いほど 音素材を多く挿入する 1 盛り上がり度が高いほど 盛り上がり度の高い素材を選択

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HMMで定式化 観測信号 x に対して最ももっとも らしい [s1, ..., sN] を推定 音素材を入れるかどうかの組を状態として定義

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各音素材に対する盛り上がり度の計算 盛り上がり度が高い ←Drums Synth→ 盛り上がり度が低い ←Drums Synth→ Basic idea 1) 各時刻・各周波数における振幅を閾値処理 2) 閾値を超えている時刻・周波数の割合を計算

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【事例6】 [安坂, 北原 2020] 動画の盛り上がり度に基づく自動作曲 動画における動きの量から「盛り上がり度」を分析 ● Smart loop sequencerで音素材を自動で選択・挿入 ● ● テクノの典型的な曲構成になるように制約を付与 Demo

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[4] コンピュータの手助けで 人が即興演奏をする

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ある夜… 酒を飲みながら、1人でYouTubeを見ていた。 すると、こんなものがあるのを知った。 クリヤマコト NOTHIN' BUT JAZZ リリース記念 アドリブコンテスト2014 公式Webサイト http://music-seraph.com/contest/ 北原のお気に入り https://youtu.be/vr3zA_7M21o 大阪部門優勝 https://youtu.be/WAt5-c-5Z-k

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これを見て思ったこと ● 自分もこれだけ弾けたらいいな ● でも、練習するのは面倒だな ● 自分にはコンピュータがあるじゃないか

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【事例7】 JamSketch [T. Kitahara, S. Giraldo & R. Ramirez 2017] ピアノロール上に旋律概形を描くと、即座にメロディ生成 旋律概形が描画されると、 その小節のメロディを GAで自動生成

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リズムの決め方 (not with GA) 基本アイディア 傾きが急 → 短い音を多く ● 傾きが緩やか → 長い音を ● 3 アルゴリズムの詳細 0 リズム候補 1 仮リズムの決定 3 3 3 3 3 3 3 傾きを 閾値処理 2 リズムの本決定 最も近いもの をリズム候補 から選ぶ 3

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音高の決め方 基本アイディア 旋律概形への と 音楽的な 近さ 妥当性 3 を 両立する音高列を GA で探す C A F 定式化の詳細 個体の定義 N = (n0, n1, …, nL-1) (ni: note number) 適合度関数 旋律概形 への類似度 Bigram P(ni | ni-1) Delta bigram P(ni-ni-1 | ni-1-ni-2) F(N) = w0 sim(N) + w1 seq1(N) + w2 seq2(N) + w3 harm(N) + w4 ent(N) P(notes | chord) Entropy

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実験により得られた演奏 音楽経験 実験で使用 演奏 即興 KB Syst. ? System s2 ? System s1 ? KB (P2) u2 P1 Yes Yes Yes No P2 Yes No Yes Yes ? KB (P1) u1 P3 Yes No No Yes ? System s4 P4 No No No Yes ? KB (P5) u3 ? System s3 ? KB (P6) u4 P5 P6 Yes Yes No Yes Yes Yes Yes No STOP

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【事例8】 身体障碍者に対する即興演奏支援 [T. Kitahara, Y. Saito, S. Giraldo & R. Ramirez 2018] 市販のアイトラッカーで、 ユーザが見つめるディスプレイ上の座標を検出 その座標の動きを使って旋律概形を描画 Demo JamSketch Eye SteelSeries Sentry Gaming Eye Tracker (TobiiからのOEM)を使用

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議論 ● 作曲(編曲)するコンピュータ – 音楽理論を与えなくても、機械学習で実現可能 – 2016年ごろから世界的に競争激化の状況 – 結局、メロディの「いい」「悪い」の基準はわからず ● コンピュータの助けを借りて人が作曲・即興演奏 – 旋律の大まかなアイディアを表す「旋律概形」 – 旋律を素人がどのように認知し記憶するか → 知覚認知分野の研究者と協同すべき研究課題 – よりモダンな機械学習技術による質改善が急務

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Special Thanks (本講演で取り上げた研究に関わった皆様) 私の研究室の卒業生 ● 鈴木 峻平さん、土屋 裕一さん、山下 雄史さん、岡田 美咲さん ● 飯島 孔右さん、 鶴岡 亜也佳さん、安坂 文汰さん ポスドク時代の共同研究者 ● 片寄 晴弘さん、長田 典子さん、勝占 真規子さん LSTMを用いた四声体和声の共同研究者 ● 尾形 哲也さん、有江 浩明さん、山田 竜郎さん JamSketch / JamSketch Eyeの共同研究者 ● Rafael Ramı́rezさん、Sergio Giraldoさん、斉藤 康之さん