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October 07, 24
スライド概要
フルートは息の向きや吹く時の口の大きさを変えた時の音の変化量が大きい楽器である. そのため, 初学者にとって, 自分の音を聴いてどのように改善すればよいかを自ら判断するのは, 簡単なことではない. そこで本稿では, 吹いた音が良い音か, また, どのように修正すれば良い音になるのかを判断できるシステムの作成の実現のための音響分析を行う.
フルートの音響分析に関しては, これまで様々な研究がおこなわれていて, 音色の良し悪しと音響的特徴の関係を議論するものや, 正しい音を吹いているのかを判断するシステムなどがあった. しかしどのように修正すれば良いかを判断するには音響的特徴と吹き方の関係性を考慮することが重要である.
分析方法としてフルートの演奏音の吹き方や主観評価の違いによる音響特徴量の差を調べる. そのためにクラウドソーシングサイトにて演奏音と音に対する主 観評価の収集を行う. その音の振幅, 基本周波数, 振幅スペクトルから音響特徴量を得て, 自動評価である線形回帰と決定木を使い, 吹き方や主観評価ごとの分類を行う. 自動評価の精度から判定条件を考える.
集めた演奏音を分析した結果, 主観評価の良いものと悪いものの音響的特徴の差が現れ, 先行研究の知見と一致する部分も見つかった. しかし吹き方の違いによる特徴量の分布の違いは見られなかった. 線形回帰で得られた式を使用し, 主観評価の値を予測すると, 二乗平均平方根誤差 (RMSE) は0.7ほどであった. よって主観評価の予測はある程度はできると思われるが, 実際の評価が高い場合の予測はあまりできていなかった. 決定木で吹き方の分類を行うと[普通]と[その他]の識別率は7割ほど, さらに細かく分類すると識別率は5割以下となった. また主観評価の分類を行うと, 識別率が8割以上となり, 最大で9割を超えるものも存在した.
このことから, 音響特徴量の分析と自動評価の結果より, 適切な吹き方ではないこと, 主観評価の値はある程度判断できるといえる. 一方, 原因の特定は難しい可能性が高いと考えられる.
日本大学 文理学部 情報科学科 北原研究室。 「Technology Makes Music More Fun」を合言葉に、音楽をはじめとするエンターテインメントの高度化に資する技術の研究開発を行っています。
フルート演奏⽀援システムの ための⾳響分析 北原研究室(B4) ⼤下沙偉
研究背景・目的 背景 フルートは少し吹き⽅を変えると⾳が変わりやすい楽器だが、吹き⽅を調べると「良い⾳ が出る位置を探し慣れていく」と書いてあり、具体的な記述はなかった 具体的にどのように吹けばいいのかを教えてくれるようなものがあれば良い 目的 吹いた⾳からどのように修正すれば良い⾳になるのかを判定できるのかの分析 初⼼者には指練習やロングトーンなどに時間を使うことができ、中級者には癖の修正に利⽤でき、フルート の演奏の上達が早くなるのではないか 2
従来の研究など ニューモプロ • フルートの頭部管にくっつけることができるもの • 先にプロペラが複数あり,⾳域によって息を当てる 位置を変えるもの 3
従来の研究など 関連研究1 • 安藤 由典, ⾳楽・⾳楽学と楽器⾳響学 , 2003 ⾳域ごとの息の⾓度や強さを変更した時の鳴りやすい範囲や倍⾳の数の違い, 複数のフルートの違い • ⼩野⽊ 君枝, 横⼭ 博史, 飯⽥ 明由, フルートの吹き込み⾓度による⾳⾊変化のメカニズム解析, 2020 ⼈の演奏にどのように近づけるか • Nishimura A, Kato M, Ando Y, Effect of the Fluctuations of Harmonics on the Subjective Quality of Flute Tone, 2002 プロとアマチュアのフルートの⾳⾊の好みの違い • Ron Y, and John C, Using Spectral Analysis to Evaluate Flute Tone Quality , 2015 どのような⾳が好まれやすいのか • Fletcher. N. H, Acoustical Correlates of Flute Performance Technique, 1975 空気圧や唇の形や倍⾳が経験年数とどのような関係があるか ⾳響分析が主、吹き⽅との関連に関する記述がないもの 4
従来の研究など 関連研究2 • Wilcocks. G, Improving Tone Production on the Flute with Regards to Embouchure, 2006 フルートの⾳⾊改善を⽬的とし、推奨する教師や⽣徒の演奏練習⽅法や、⾳⾊が変化する演奏⽅法を提⽰ 良い⾳になる⽅法ではなく⾳⾊を変化させる⽅法から⾃分に合った吹き⽅を探すもの • Yoonchang H, Kyogu L, Hierarchical Approach to Detect Common Mistakes of Beginner Flute Players, 2014 頭部管関係、空気の圧⼒、運指を⾳から判断して正しい⾳を吹いているのかを判断するシステムを作成 良い⾳かどうかは判断していない 5
分析 まともな音 まともな⾳ まともでない⾳ 振幅 振幅、基本周波数の揺れが⼩さい 息の量が少ない まともでない音 振幅、基本周波数の揺れが⼤きい 息の量が多い 基本周波数 関連研究より 良い⾳は倍⾳が多い 1つの倍⾳が突出していないと良い⾳ 振幅スペクトル 振幅、基本周波数、振幅スペクトルを分析 6
分析 演奏音収集 4種類の楽譜, 5つの吹き⽅ 実験の内訳 [普通], [⼝⼤きめ], [⼝⼩さめ], [息上向き] , [息下向き] 楽譜は1つのみ使⽤ 7
分析 時間差変化のグラフ(X軸:時間、Y軸:値) 8 6 収集した演奏⾳の振幅・基本周波数・振幅スペクトルから吹き⽅や主観評価の違いによる 4 特徴量の差を分析する 2 0 振幅・基本周波数の時間変化に関する特徴量(時間差変化) 0 1 2 時間による値 3 4 5 6 時間差の絶対値 時間変化の平均(dv,df):オレンジの平均値 範囲(rv,rf):⻘の最⼤値ー最⼩値 振幅スペクトル 振幅スペクトルに関する特徴量 倍⾳の個数(os,oc):上に伸びているもの 全倍⾳中の基本周波数成分以外の割合(fs,fc) :倍⾳2本⽬以降の合計/倍⾳1本⽬ スペクトル全体における倍⾳成分の割合(ns,nc):倍⾳の値の合計/全ての値の合計 吹きはじめと中間部の2か所で調べる 8
分析 主観評価実験 収集した演奏⾳の⾳量を全て⼀定の⼤きさに調整した ものを使⽤ 回答の信憑性のために⾳楽⼤学や⾼校⾳楽科のフルー 実験の内訳 ト専攻の在学⽣または卒業⽣でなおかつフルート演奏 歴 12ヶ⽉以上の⼈に限定 7つの質問項⽬(5段階) 質問6で吹き⽅の予想 質問内容 9
分析結果 df :基本周波数の時間差の平均値 rv :振幅の範囲 rf:基本周波数の範囲 特徴量の分布のグラフよりdf ≥ 1.5, rv ≥ 1.0, rf ≥ 1.0 のものを外れ値と定義 普通に吹いたものには外れ値のものなし, 他全ての演奏⽅法には外れ値のある ものが存在. 外れ値の⾳の主観評価はほぼ全ての質問で低い評価 df と rf の両⽅が外れ値のものは「ほぼ空気」など特に低い評価 外れ値に対する吹き⽅の予想 息を上向きにして吹いたものの 1 つを除いた全ての⾳ に対して息が弱すぎると 選択 息を上向きにして吹いたものの 2 つを除いた全ての⾳に対して息の向きが下向 きすぎると選択 df , rv , rfの分布 普通,⼝⼤きめ,⼝⼩さめ,息上向き,息下向きの順 10
分析結果 df :基本周波数の時間差の平均値 rv :振幅の範囲 rf:基本周波数の範囲 振幅 評価の高かったものと低かったものの比較 振幅・基本周波数 評価の⾼い⽅が時間に対する変化量が少 ない 基本周波数 特徴量df , rv, rfで⽐較すると評価の⾼い⽅ が全ての値が良い 評価の低い⽅は外れ値の範囲ではないが 値が悪い 振幅スペクトル 振幅スペクトル 評価の⾼い⽅が⾼次倍⾳が豊富 関連研究の知⾒と⼀致 評価良 評価悪 11
X軸:実測値、Y軸:予測値 線形回帰・決定木 データ それぞれの⾳の特徴量と評価の値をまとめたもの 評価が複数ある場合は平均値を取っている 線形回帰 半分のデータを学習に使⽤ 平⽅根平均2乗誤差=0.64~0.67 主観評価をある程度予測できる 評価が⾼いものに対しての精度は⾼くない 上:外れ値含んだもの 下:外れ値除いたもの 12
線形回帰・決定木 識別率(括弧内は外れ値を除いたもの) 決定木(主観評価) 半分のデータを学習に使⽤ 外れ値の有無にほとんど関係なし 基本周波数の 差の平均値 条件には振幅と基本周波数関連の特徴量の みが使⽤ 最初の条件はdfが使われることが多かった 振幅の 時間差の平均値 主観評価の予測には振幅、基本周波数の特 徴量が重要 13
線形回帰・決定木 識別率(括弧内は外れ値を除いたもの) 決定木(吹き方) 半分のデータを学習に使⽤ 条件には振幅、基本周波数、振幅ス ペクトルの特徴量使⽤ 最初の条件はdf、rfが使われること が多かった 基本周波数 の範囲 ⾳量の範囲 全倍⾳中の基本周波数 成分以外の割合 吹き⽅の予測には振幅、基本周波 数、振幅スペクトルの特徴量が重要 14
まとめ 主観評価の良いものと悪いものの⾳響的特徴の差が現れ、関連研究の 記述と⼀致する部分が確認された 吹き⽅による特徴量の分布の違いは現れなかった 主観評価の予測は⾃動評価で8〜9割程度 適切な吹き⽅でないこと、良い⾳か悪い⾳かの判断は可能 その原因を特定することは困難である可能性⼤ 15
展望 演奏実験、主観評価実験の回答数の増加 評価のない⾳、1⼈に依存しているデータの減少 適切でない吹き⽅を判断できる可能性 他の楽譜での分析 ⾳域の差による特徴量の違い 複数の⾳符での判定 曲の1フレーズなどの判定ができるかも 16
フルートの⾳⾊向上のための初級・中級者⽀援システム 北原研究室(B4) ⼤下沙偉