186 Views
March 13, 21
スライド概要
“自動運転車:Connected Autonomous Vehicles(CAV)”のことは世間で盛んに話題にされている。関連して、トヨタのWoven Cityなども話題になっている。但し、自動運転車というのは、本当のところ、1) どういう経緯で普及していくのだろうか?とか、2) そのプロセスでの課題にはどんなことがあるのだろうか?などは、誰でも興味を持つテーマでありそうだが、案外明確にされていないのではないだろうか。そんな問題意識から、関係しそうな資料を探し出し、雑駁な資料を作成してみた。
定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。
自動運転車とMaaS - AIセントリック・スマートシティの構築に向けて - B-frontier研究所 高橋 浩
問題意識 • AIで再定義できる重要な領域の一つがモビリティ • 新しいAIベース・モビリティはユーザー、市場、社会 を理解し満足させるユーザー中心の技術が基盤 AIセントリック・スマートシティ(スマートモビリティ内包) • “自動運転車”も“MaaS”もこのような総合的ビジョ ンの元で初めて真の能力を発揮しうるか? – 現状は、自動運転車情報は技術情報過多か – MaaS情報はビジネスモデルが曖昧過ぎか – 単独で考えるのには限界があるのではないか? • このような問題意識から、少し将来のことにはなる が、主として(技術情報ベースでなく)社会技術的視 点から今後を考えてみる。 2
目次 1. はじめに 2. 自動運転車(CAV)の側面 3. MaaSの側面 4. スマートモビリティ像 5. これからの自動運転車とMaaS 3
1. はじめに はじめに • 自動運転車(CAV)もMaaSもまだまだ未熟 • スマートシティも未熟ではあるが、種々の要 素を統合して取組む姿勢が顕在化 • スマートシティは持続可能な世界を考える上 で新たな要素に挑戦する恰好な場 • 活発化しているスマートシティプロジェクトの 中で自動運転車とMaaSも統合して考える。 – 焦点領域をスマートモビリティと捉える。 – 統合手段の一環として高度なAI機能を想定する。
用語 • CAV:Connected Autonomous Vehicle – 周囲を理解し、人の入力なしに責任を持って移動、ナビゲート、 動作ができる車両 – 同時に、接続機能を備えているため、積極的、協調的、および 十分な情報に基づいて調整することができる車両 • MaaS:Mobility as a Service – 統合された旅行計画、予約、チケット、リアルタイム情報サービ スをオールインワンデジタルプラットフォームを通じて提供 – 自家用車に代替できるパーソナライズされたモビリティのマルチ モーダルサービスをサブスクリプションまたは「従量制」で提供 • Smart City: – 自律性、接続、共有、デジタル、クラウドベースの技術を戦略的 意思決定と運用に取り入れて統合 – 持続可能で、創造的で、情報に基づき、費用対効果の高いおよ び人々に焦点を当てた、総合的能力に重点を置いた都市環境
CAVの特性と狙い • • • • • • ドライバーの負担軽減に加えて、 エコドライブと省エネの重視 強化された安全性とセキュリティ より良い道路スペースの割り当て 適切な交通渋滞の管理 など
MaaSの特性と狙い • 包括的な旅行計画 – 予約、発券、各消費者のニーズに合わせたカスタ マイズ、調整されたリアルタイムの情報サービス、 など • 公共交通機関を補完し、カーシェア、ライド シェアサービスなどにおけるCAVの使用も組 み込みを視野に
CAVの評価は? • CAVは従来の自動車の後継車たり得るかもし れないが、 • その一方、車の制御と責任を人間から巨大な AIシステムおよびワイヤレス接続機能を備え た自律的マシンに移行するという大変革が伴 う。 • これらの大変革の妥当性の評価と判断がどの ように行われるかは現在不明(特に消費者の 反応)
スマートシティとの関係性 • スマートシティは自動車の所有権の削減など を通じて持続可能な成長を積極的に推進す る場 • 自動車業界は個人所有より共有所有への車 のビジネスモデル変革が必要になる。 • スマートシティへの対応の方が自動車業界に とっても対応が容易か?
AIの役割とスマートシティ • 特定領域対応のAIアルゴリズムを導入し、 データ収集とそれに基づく学習、適応が可能 • 自動運転車、MaaSなど、各要素技術、基盤 技術の組み合わせや調整が容易化
スマートシティの概要 Yigitcanlar, T.; Han, H.; Kamruzzaman, M.; Ioppolo, G.; Sabatini-Marques, J. The making of smart cities. Land Use Policy 2019, 88, 104187.
2.自動運転車(CAV)の側面 CAVのメリット • • • • より多くの自由時間 より安全な交通と事故防止 アクセシビリティ、快適性、乗り心地 カーシェア、ライドシェアの容易化 • 交通渋滞、環境悪化、大気汚染、騒音公害 の改善 • 運転できない人の社会的排除の抑止 • など
CAVの影響あるいは懸念事項 • • • • プライバシー喪失、旅行データの悪用 責任配分の見直し 車使用の増加の危険性 CAVが従来型車両と共存する移行期間中の 交通事故、混雑などへの対応 • 行動適応、状況認識、ユーザー抵抗など社 会的・心理的課題発生の懸念
CAVの今後 • 約束された豊富なメリットの存在にも関わら ず、現状の都市交通システムに簡単には統 合できないか? • 特に、一般の人々が、利益は兎も角、懸念事 項に対してどのように反応(対応)するか? • 技術主導での導入は、環境的・社会的持続 可能性と矛盾する可能性も
CAVの従来型自動車体制を超える役割 • • • • • 私的所有(自家用車など)の代替的輸送手段 「必要に応じた」共有オプション より包括的なモビリティの可能性 MaaSの戦略的中心となる可能性 公共交通と連携した相乗的効果達成の可能性 • ファーストマイル、ラストマイルのソリューション の可能性 • 旅行行動が不均衡に自動車にならない効果 • 都市および土地利用の観点からの理想的シナリ オの可能性
CAVの方向性 • 前提としては、これまで以上にクリーンである 必要性 • 電気自動車モデルの方がベターか? • 自律化(自動運転)と電動化の共有使用へ • 自律化(A)、接続性(C)、電動化(E)、共有使 用(S)⇒CASEビジョン
しかし、移行は単純ではない • • • • • • • • • • 更なる技術革新だけでなく、 法律の整備 危機と雇用に対する新たな倫理 道路インフラと土地利用の見直し 新たな交通安全の定義 サイバーセキュリティとプライバシー ビジネスモデル 交通渋滞と旅行行動 受容性、信頼性、顧客の準備 それらの統合、ほか これらが皆準備されたとしても、20XX年頃(?)までにほぼ同 質になり、且つ、CAV価格が適度に安価になることが条件
3.MaaSの側面 MaaSの現状 • 強力な概念ではあるが、本質的実装は未完 成(現状は初期の段階) • 一方で、非常に誇大宣伝されている。 • 最も純粋とされる未来型のMaaSは – 「旅行計画、予約、チケット、情報サービスを提供で きるオールインワンプラットフォームを使用して自動 車に代替できるマルチモーダルモビリティサービス」の 提供か?
MaaSが自家用車の真の代替となるなら • 車の使用を“必要に応じて”厳密に提供 • 道路上の車の数を劇的に減少させ、 • 移動遅延を大幅に削減させ、 • 大気汚染、騒音、エネルギー消費の抑止、交 通安全推進と事故の防止、健康と福祉、社会 的結束、アクセシビリティ、家計支出面の改 善、など • 居住空間を車の運行や駐車場から解放し、よ り人間中心の環境構築を実現へ
MaaSの初期の例 • • • • • • • ヘルシンキ、バーミンガム(whim) ヨーテボリ、ストックホルム(UbiGo) ハンブルグ、シュツットガルト(Moovel) ウィーン(WienMobilLab) イタリア(myCicero) ダンディー、ノースファイブ(スコットランド) ハノーバー、・・ いずれもまだまだ未完
MaaSとCAV • 理論的にはMaaSのカーシェアリング、ライド シェアリングスキームにCAVをコアとして組み込 むと、MaaSの可能性は最大化できるかも • CAVは公共交通へのファーストマイル、ラストマ イルの近接サービスと位置付けることができる。 しかし、 • 公共交通サービスと民間交通サービスの境 界を完全に統合させる必要があるか? • MaaSベースのAIセントリック・デジタルサービ スはこの前提の組み合わせを目標としうる か?
上記構想の課題1 • 文化的慣行への広範な影響 • 全ての人々の所有権に対する態度の変更の 催促 – 車の所有(自家用車)とリース、レンタル、シェア に対する態度は変化しつつはあるが – など
上記構想の課題2 • ビジネスモデルの不確実性 – 先行MaaSプロジェクトにおける大きな課題 • 結果として、MaaSを導入し、運用管理を開始 した場合のアクター間のコラボレーションの複 雑性 • モバイルプロバイダー間の利害の対立が発 生する懸念 – 特に公共交通機関事業者と各種民間サービス事 業者の間で
4.スマートモビリティ像 スマートモビリティのイノベーションは重複 技術寄りイノベーション AV(自動運転:A) 狭義CAV ITS 接続(C) EV(電動化:E) 広義CAV サービス寄りイノベーション シェア(S) DRT(デマン ド交通) サービス統合イノベーション MaaS MaaS DRT:Demand Responsive Transport スマートモビリティはスマートシティのコアに
スマートモビリティの全体像(例示) 狭義CAV 広義CAV ITS DRT AV EM/EV ST(共有) ・CAVはシェアサービス実装も可能 ・CAVはDRTサービス実装も可能 ・CAVはEVを実装も可能 Luke Butler, Tan Yigitcanlar, Alexander Paz, “How Can Smart Mobility Innovations Alleviate Transportation Disadvantage? Assembling a Conceptual Framework through a Systematic Review”, Appl. Sci. 2020, 10, 6306
スマートモビリティが生み出す価値 • 車にアクセスできない、または運転できない 人々の交通機関へのアクセスを改善 • ユーザーのニーズに敏感に対応できる輸送 サービスを実現 • 輸送システムの効率改善とシェアモビリティ への移行の促進 • 輸送中に費やされる「時間価値」の改善
スマートモビリティが生み出す価値(続) • ドアツードア輸送を提供するDRTサービスは 公共交通機関のファーストマイル、ラストマイ ルアクセスを実現可能 • シェアサービスは社会的相互作用を増加させ、 孤立感減少の効果も • 自動運転は、高齢者、障害者および免許不 要で、地域に不慣れな人の地域からの除外 緩和の効果も
但し、懸念事項も • アクセシビリティの向上は自家用車のアクセ シビリティも向上させ、全体としては、自動車 の所有需要を高め、一人当たりの走行距離 を増加させる可能性 • その結果、混雑の増加、都市スプロール現象 の拡大、インフラ投資や家計の交通費の増 大などに繋がる可能性
可能な懸念事項緩和策の例 • シェア(共有モビリティ)の利点の強調 • この変化は消費者にどのようにアピールする かに依存 • 自家用車への拘りは地域依存も大きい。 • 政策と規制、国民の意識向上、土地利用介 入などによってサポートされる文化的変化も 関係 • 従って、単純ではない。幅広い活動、息の長 い対応が必要に
MaaSの役割 • 複雑な利害関係者間のコラボレーションと情 報共有の促進に有用か • 潜在的なユーザーを最適プロバイダーに接 続させる可能性も • 輸送システム効率の改善を通じて管理コスト の削減効果も
CAVの役割 • ドライバーの必要性を排除することで、運用コ ストを大幅に削減する可能性も • 自家用車のインテリアを移動式オフィス、住 居、または娯楽、コミュニティハブに活用する 可能性も
空間的・時間的な影響 • サービス適用範囲と頻度の改善・調整で公共 交通サービスとのギャップを埋められる。 • 公共交通機関のノードや雇用拠点との接続 機能を調整することで、公共サービスとの接 続を強化できる。 • オンデマンドでサービスを提供することで、公 共交通機関の柔軟性を向上させられる。 • 結果、選択肢が限られている地域にもより多 くの選択肢を提供できる。
心理的・情報的な影響 • 旅行の安全性を向上させられる。 • 既存の交通手段の認識を改善させられる。 • 情報に基づいた意思決定を行う能力を向上さ せられる。 • これらを、交通弱者、高齢者など、消費者の 慣行とニーズに応じて適切に対応することが 必要である。
制度的側面 • 国内または国境を越えたデータ管理や共有 の基盤の確立 • 高齢者、移民、障害者など不利な立場にある グループの新技術への適応を支援する制度 の整備 • 自家用車の使用を抑止する駐車/駐車場制 限、および意思決定への一般市民の関与 • 公共の価値と社会的目標が維持されること の保証、など
5.これからの自動運転車とMaaS これからの自動運転車とMaaS • CAVは単に新たなサービスの創出だけでなく、 • DRTの新たなサービス提供形態の創出、 • 共有(シェアモビリティ)との組み合わせによ る新たなサービス提供形態の創出、 • 更には、DRT型CAVで近場の公共交通の駅へ。 公共交通で目的地近郊の駅から再びDRT型 CAVで目的地へ、など • 新たなサービスソリューションの選択肢拡大 にも有用
これからの自動運転車とMaaS(続) • MaaSは全体を統合するコンセプトとして、より 強力なサービスを総合的に提供するのに有 用 • しかし、このような成果を得るには、公共・民 間各事業者の連携の進化や、一般ユーザー の意識改革、制度面の改正など、多面的な 困難な課題の克服が必要
これからの進め方は? • 一挙に全体的な質の変革と同質化が期待で きる訳ではない。 • その際は、スマートシティと、その中核として のスマートモビリティの構築などへ • その成熟化を一定地域に限定して推進する ことから開始するのが現実的か
トヨタのWoven City
ドバイ シンガポール 深セン ベルリン 自動運転がスタンダードな存在へ
想定される移行プロセス(例) 2030? 第一 ステップ 2040? 20XX年頃 スマートシティ 内での試行 (開始済) 課題1 第二 ステップ スマートモビリティ の広域拡大 (開始済) 第三 ステップ 課題2 スマートモビリティと既存体系 の共存/移行の成熟化
暫定まとめ • スマートモビリティの実現には技術面のみで ない多様な課題の総合的克服が重要 • それには、スマートシティ内での先行実施など、 試行の場から踏み出すのが現実的 • それでも取り残される課題や状況に応じて対 応する必要のある課題は多い。 課題1 課題2 など • 柔軟なフレームワークを保有しつつ、データド リブン型でAIの高度活用も計った取組みが重 要か • 今後、多方面の課題詳細化が待たれる。
更なる課題の登場か (前提)コロナ禍の影響やデジタル化促進でモビリティのニーズも大きく変 化している(例:オンライン化の拡大やVRなどの影響の拡大、など) • CAVのビジョンはどのように変質するだろう か?(物理面以外の拡大は?) • MaaSのマルチモーダルが想定する各モード はどのように変質するだろうか? • 未来の公共・民間交通事業者はどのように変 質するだろうか? • AIの高度活用に不可欠なデータ整理と学習 はどのように成熟化するだろうか? – “安全”に関わる学習は高精度データによる高水準AIが要求されるので
関連Slideshare 画像をキッ クすると当 該slideshare にジャンプ MaaS