メタ組織としてのプラットフォーム

883 Views

May 03, 23

スライド概要

プラットフォームの適応範囲が広がり、プラットフォームが一種の新しい組織形態と考えられ始めている。そして、最近のTwitter買収に絡むようなプラットフォームの新しい課題はプラットフォームを組織と見做し組織論の立場から考えた方が適切な理解が得られると思う。このような問題意識から検討の切り口をプラットフォーム参入、プラットフォーム間競争、プラットフォーム内競争の3つ設定し、事例ベースで検討してみる。そうすることで、今後のプラットフォームベースビジネスの新たな戦略を再考する。

profile-image

定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。

シェア

またはPlayer版

埋め込む »CMSなどでJSが使えない場合

関連スライド

各ページのテキスト
1.

メタ組織としてのプラットフォーム - 新しいプラットフォーム戦略 - B-frontier 研究所 高橋 浩 1

2.

目的 • プラットフォームの適応範囲が広がっている。 • そして、プラットフォームは一種の新しい組織形態と しても考えられ始めている。 • そうであるならば、新しい組織形態ベースのプラット フォーム戦略がありうる。 • しかし、このような視点からの議論は少ない。 • そこで、このような視点からプラットフォームベース のビジネスや新しい組織形態の影響について考える。 2

3.

目次 1.はじめに 2.メタ組織としてのプラットフォーム 3.プラットフォーム参入と既存企業との競争 4.プラットフォーム間の競争 5.プラットフォーム内の競争 6.これからのプラットフォーム戦略 3

4.

1.はじめに はじめに • プラットフォーマーが市場の主役に – 時価総額上位10社中5社はプラットフォーマー • Apple、Amazon、Alphabet(Google)、Microsoft、Meta (Facebook)、など • Uber、Airbnbもプラットフォーマー • 新たな分野でもプラットフォームが登場 – 例:KeurigのK-Cup 自宅で美味しいコーヒーを飲めるように、有名コー ヒーショップの味とコーヒーマシンをセットで販売 コーヒーマシンがプラットフォーム。各店舗コーヒーが補完品 – 例:Spacehive 英国の市民向けクラウドファンディングプラッ トフォーム (ソーシャルミッションプラットフォーム(SMP)) 4

5.

他方、多様な価値観の参加者の増加に 伴い新たな課題も発生 • 事例: – ヘイトスピーチに対するTwitterの対応 • 中立性の立場から非介入を強調していたが、 • 2015年頃から一部偽情報への厳しい方針に転換 • これに対し、トランプ前大統領の行動や直近ではイーロン・マ スクのTwitter買収に発展(背景に「自由を認めよ!」) – フェークニュースに対するFacebookの対応 – 悪質ドライバーに対するUberの対応、など • プラットフォームの生きた経営形態としての組織体 の悩みか? 5

6.

プラットフォーム研究の現状と課題 • 既存理論は新たな傾向に対応できていない。 • 新たな試みの例: – 新しい組織としてのプラットフォームの組織境界、 ガバナンスメカニズム、プラットフォームスコープ に与える影響とは? – プラットフォームは本質的に動的に変化。それには どう対応すべきか? • 従来の取組みは静的レベルでの取り扱いが主 – 例えば「勝者総取り」は静的ビュー • プラットフォームを“新たな組織”という観点 で考え直してみる。 6

7.

2.メタ組織としてのプラットフォーム プラットフォームの新たな捉え方 • プラットフォームをメタ組織、即ち「企業より形 式的で階層が少なく、且つ、従来の市場よりも緊密 に結合されている『組織の組織』」と捉える。 – 「プラットフォームエコシステム」の延長のビュー • 典型的質問例: – プラットフォームの権限あるいは力の源は? – プラットフォームに参加者を引き付けるためのインセン ティブは? – プラットフォームの統合と調整の構造は? 7

8.

プラットフォームのマネージメント • このような構造を維持するには、プラットフォー ム・アーキテクチャの確立が前提になる。 – 設計ルールと包括的価値提案によってコンポーネントが 結合され、補完コンポーネントが相互に依存するシステ ムを成立させる。 – これが成立すれば、プラットフォームエコシステムはそ れ自体が組織(「メタ組織」)であって、 – それにも関わらず、従来の組織に見られる階層的構造も 大部分を調整する意思決定の権限機構も存在せずに組織 維持が可能になる。 8

9.

プラットフォームエコシステムの特徴 • 動的で異種の補完コンポーネントの集合と、それら とインタフェースして派生製品を生成するコア (「プラットフォーム」)間の相互依存が存在する。 • 事例: – プラットフォームとしてのeBayは標準化された比較的固 定した検索や取引機能を提供しており、 – 買い手と売り手は異種で絶えず進化する一連の売買の機 会を提供する補完者であって、 – 売り手が提供する製品はプラットフォームの派生製品と 見做すことができる。 9

10.

プラットフォームエコシステムの特徴(続) • プラットフォームエコシステム内の各補完者は法的 には独立しているが、 • しかし、多くの場合、共同専門分野に投資したり、 長期的関係を維持するために独占契約に署名したり もしている。 • そして、階層組織内の比較的永続的で、広範な関係 性の大規模コレクションによって特徴づけられる。 • 例を次頁に示す。 10

11.

Appleのプラットフォームエコシステム AppleのiPhoneはiOSプラットフォームをベースとした組織的ネットワーク(「正式な提 携」など)とエコシステムの組合せで構成されている。 正式な提携 エコシステム 実線(正式な提携): Apple製品向けサイバーセキュリティソリューション提供のための正式な提携 (この解は4社間の非一般的補完性(エコシステム)上に構築されている) 破線(非一般的補完性(エコシステム)) 非一般的補完性の完全なパターンがiPhone(iPad)エコシステムを形成

12.

メタ組織としてのプラットフォーム ①• 従来の階層型組織が生産に必要な資産の所有権に基 づくのと異なり、プラットフォームの権限は調整を 維持・管理する独自の能力に基づく。 – 事例: • モバイルアプリプラットフォーム(iOS、Android)のアプリ開発 者はユーザーベース、開発ツール、コミュニティからの収益獲得 の機会と引き換えに、利用規約に同意し、プラットフォーム料 金・手数料を支払うことで安定的に維持される。 • プラットフォームエコシステムでは従来組織のイン ② センティブ(給与など)に比較して、参加者自身が ビジネスに参加するため、インセンティブと報酬は より強力になる。 – 事例: • Airbnbではゲストの支払いはホストが受け取る。プラットフォー マーは単に手数料を受け取るのみ 12

13.

メタ組織としてのプラットフォーム(続) ③• プラットフォームでは、トップダウンの固定生産スケ ジュール、統合された製品ポートフォリオ選択を回避し、 参加者の相互作用の条件を緩和し、一定程度自由に交渉 できるようにしているが、 ④• その一方、取引パートナーが利用できる自由度を制限し、 次のような処置を行うこともある。 – – – – 相互運用のための標準の設定と強制 商品やサービスの流通の制御(Amazon,Uberなど) 情報交換の管理(Google,Facebookなど) また、新たな目標設定を行うこともある。 • • 従来は不可能であったトランザクションの設定(クラウドファン ディングなど) 社会的目標の設定(チャリティマイルなど) 13

14.

プラットフォームの種類と特徴(まとめ) • 事例は種々存在する。 – ニュースメディアの読者と広告主 – ライドシェアリングサービスのドライバーとユーザー (Uber,Lyft) – 標準関連組織でのテクノロジー企業間の協力と競争、他 • 特徴を総合すると: – 正式な権限に代わる力の源泉としてのエコシステムアー キテクチャの制御の重要性 – 継続的なイノベーションと質の高い貢献を奨励するイン センティブの重要性 14

15.

プラットフォーム戦略検討の切り口 • このビューの下でプラットフォーム参入から成長 の過程でのプラットフォーム戦略検討の切り口を3 つ設定する: 1. プラットフォームの設計と参入および既存企業と の競争 ・・・・・3節 2. プラットフォーム間の競争 ・・・・・4節 3. プラットフォーム内の競争 ・・・・・5節 (プラットフォームエコシステム内での参加者間の制御と利益分配) • 1,2,3を以降で詳述する。 15

16.

3.プラットフォーム参入と既存企業との競争 新規プラットフォームの参入 • 伝統的形式の組織に代わってプラットフォーム ベースのビジネスモデルが導入されるケースがあ る(典型例:Uber、Airbnbなど)。 • 組織的特徴の例: – 大幅に制限が少なく柔軟な参加契約で自律性を優先 • 参加/離脱の仕組み、雇用モード、資産の所有形態、など – 効果的インセンティブ戦略が不確実なため途中でルー ル変更の可能性がある。 – プラットフォームガバナンスにおける「オープン」化 の度合いが変動する可能性がある。 16

17.

既存企業との競争で優位になる可能性 • プラットフォームへ参加のルールで、自発的関係者 の参加を容易にする結果: – 補完者数が増え、異質なため、特定タスクの調整がより 困難になりうるが、 – しかし、同時に、イノベーションや望ましい交流が発生 する可能性が高まり、従来企業が満たしていなかった顧 客ニーズを引き付ける可能性がある。 17

18.

• 歴史: Uberのケース – 2008年設立。2010年サンフランシスコで初参入 – その後僅か10年で世界700都市、500空港に参入 – その間、多数の障害、制限に遭遇 – ポイントはUberはプラットフォームだが、ローカル性、 即ち、「グローバルなネットワーク効果ではなく、 ローカルなネットワーク効果の醸成」に苦労 • ローカル地域でのクリティカルマス獲得がポイント • 各都市毎の重複する規制の雑木林に遭遇 – これへの対処には技術的、経済的(顧客を引き付ける インセンティブ、など)変革だけでなく、社会政治的 課題への対応の成否が重要に 18

19.

障害や制約の例 • プラットフォームとして既存市場に参入した際、 下記の正当性の課題に直面した。 – 既存の市場関係者(タクシー事業者)に理解されない。 認知的正当性の欠如 – 従来のビジネスモデル用に設計された規制に準拠して いないし、規制機関からも理解されない。 社会政治的正当性の欠如 • 結果的に市場関係者への認知を獲得する活動を先 行させた結果、社会政治的正当性を悪化させ、規 制当局の許可を得ずに参入することに • そのため、各種対立、規制当局との争い、などが 発生することになった。 19

20.

Uberロゴ変遷の背景 • シェアリングエコノミーのプラットフォームは公 共インフラでのプライベート資産に関わる。 • そのため、正当性の課題はよりシビアになる。 • 最初、社名/ロゴともにUberCabで出発した。 • そして、規制当局には無許可のまま参入した。 • 程なく、排除措置命令が出たため、輸送サービス 企業でなく、テクノロジー会社を強調するため、 社名をUber Technologiesに変更。ロゴも変えた。 20

21.

正当性確保のための戦い • 既存規制に準拠するとコアバリューが損なわれ ると判断し、無許可で参入 • その後の市場戦略、非市場戦略の例(下表) 市場戦略 初期にドライバーを増やすため、 • Uberアプリ・プレロードの iPhoneを無料配布 • 1時間25ドルの収益を保証 • 認知を高めるイベントの開催 ✓ 地元メディア、ブログ、SNS、 無料バーベキュー、他 非市場戦略 法廷で規制当局の要求(例:ドライ バーを従業員【雇用者】と見做せと いう労働者分類への圧力)に異議を 唱える行動ほか • 連邦控訴裁判所への集団訴訟 • キーマンをスカウトしロビー活動 • ライドシェアに有利な規制制定の 可能性のある州議会に規制案提出 • その他、各都市、各規制当局に応 じた要求の提示や妥協など 21

22.

正当性確保のための戦い(続) • 非市場戦略は各都市/各地域毎に異なるので、各地 域対応マネジャーがかなりの自由度をもって個別 に対応することになった。 • 結果的にトップダウンアプローチはボトムアップ アプローチに転換した。 • 規制当局や地方自治体が非妥協的だった場合、主 要な社会的グループと連携したり、暫く無視した りの作戦も取った。 • また、市場戦略と非市場戦略のポジティブな相互 連携も活用した。 – 例:規制機関の安全性への懸念を予想して、アプリに ドライバー、乗客の相互評価システムを組込んだ。 22

23.

新規プラットフォーム参入時のプロセス ①• 既存エコシステムが安定したアイデンティティ(タ ②• ③• ④• クシー業界や規制機関など)の相互作用によって成 立していることを確認 新モデルは認知的正当性を欠くが、独自価値を損な わずにサービス提供しようとすると、規制当局の許 可を得ず参入せざるを得ないと判断 その際、認知的正当性と社会政治的正当性の欠如に 対処するため市場戦略と非市場戦略の両面が必要に 徐々に理解は進んだが、それでも予期しない懸念や 新たな課題が発生し、従来のサービスの変更が発生 するなどの調整が継続 23

24.

4.プラットフォーム間の競争 プラットフォーム間競争の課題 • 今までの研究は次のような点に焦点が当てられて きた。 – 標準獲得の競争、プラットフォーム・サイド間での差 別的価格付けの活用、補完品の提供、それらと関連し たネットワーク外部性の影響の分析、など • しかし、最近、プラットフォームのメタ組織的活 動にも注目が集まっている。 – 従来企業に比べて明確な権限が存在しない状態でのプ ラットフォームのマネージメント、プラットフォー ム・リーダーシップ、そのための手段としてのプラッ トフォームアーキテクチャの制御権の獲得、など 24

25.

プラットフォーム間競争の例 • IBM: – クラウドコンピューティングプラットフォーム (AmazonのAWS,MicrosoftのAzure等)に対抗して、 ハイブリッドクラウドプラットフォームを提供する ためにRedHatを取得 • Cisco: – 集中型クラウドコンピューティングの成立で、クラ ウドベースエコシステムの補完者(ルーター提供 者)に格下げされた環境からの再出発 – IoTなどデバイス側の急速な成長に呼応して分散デー タ処理に対応する中間的プラットフォームである フォグコンピューティングを提唱し普及に尽力 25

26.

• 歴史: Ciscoのケース – 1984年設立。ネットワーク機器の大手プロバイダー – 2009年頃、集中型クラウドコンピューティング成立によ り、補完者的役割に格下げ – その後、IoTから生成されるデータの驚異的成長により、 Cisco提供機能再評価のチャンスに遭遇 – フォグコンピューティング技術ベースのプラットフォーム コンセプトを確立。クラウドベースプラットフォームとの 新たな共存の可能性模索を開始 – しかし、多様な課題が発生 • 同業者(ネットワーク機器ベンダー)、その他ハードウェアベン ダー(Ericsson,Intel,Dell他)との関係性 • 利用シーン拡大でデバイス多様化、機能拡充要件爆発 • 多様なソフト開発ニーズが発生し、相互連携のための標準化の必 要性が拡大 – 時間的経緯を次頁に示す。 26

27.

フォグコンピューティング成立の経緯 第1期 クラウドと競合/共 存する包括的プラッ トフォームとしてフォ グを拡張 2015 2020 クラウドを補完す る専用プラット フォームとして フォグを開始 2013 クラウドにおける 周辺機器の役割 へ。シスココアビ ジネスの利益率 縮小 2011 2008 クラウドコン ピューティングの 台頭とネットワー ク機器のコモディ ティ化 第3期 第2期 最初のフォグ会議 開催。産業用アプ リケーションへの 試行 Ciscoがフォグコン ピューティング商 標を登録 OpenFogリファ レンスアーキテク チャ公開。フォグ 採用が急増 OpenFogコン ソーシアム設立 27

28.

新プラットフォーム成立への挑戦のプロセス 背景:IoTの勃興 第2期 第3期 メンバーシップの 拡大 初期メンバーの 組み立て 相互共生アプ ローチの開始 独占権の開 発 リーダーシッ プアイデン Fogのアイディア ティティの確 立 コラボレーションと 勢いの構築 共生の育成 新しいプラットフォームでのキーストーンの位置を確保 支配的プラットフォーム下における周辺企業の位置付けから 第1期 背景:より広いメンバーを引き付けるため 独占権の放 棄 リーダーシッ プアイデン ティティの長 期化 連携とス ケーリング 双方が利益を得る 共生の育成 28

29.

フォグコンピューティング経緯 • 第1期(2009-2013):クラウドプラットフォー ムエコシステムでネット機器は補完者の役割へ – Ciscoのハードウェアがコモディティ化 – Ciscoの粗利益が減少 • 2002年、Ciscoの時価総額は世界1位。しかし、2013年には 世界43位に転落 • Ciscoはクラウドベンダーに成ることも試みたが失敗 – このような中でIoTによる新たな変革が登場 • この変革にクラウドベンダーはアクセススピード達成やセ キュリティの顧客ニーズ対応に苦労 – そこで、再びCiscoにチャンス到来と判断 29

30.

フォグコンピューティング経緯(続) • 第2期(2013-2015):フォグコンピューティ ングプラットフォームの提案開始 – Ciscoは2013年、クラウドとエッジを繋ぐ新たな技 術プラットフォームを開発 – 2014年、初期メンバーによるエコシステム組立てを 開始し、多様な支援策を発動(投資、他) • スタートアップ支援、フォグ用ソフト開発誘導、賞金 • 一方で、商標登録、独占権確保への布石 – また、あくまで「フォグはクラウドの拡張」と宣伝 し、フォグはクラウドの脅威ではないとアピール – 一方、スケーラビリティの課題に直面。次第に単独 での対応は不可能との認識に傾く。 30

31.

フォグコンピューティング経緯(続) • 第3期(2015年-現在):フォグコンピューティ ングのスケール化 – Ciscoは2015年、標準化への取組みを開始し、 OpenFogコンソーシアムを設立 – 2017年、OpenFogは業界標準を促進するためリファレ ンスアーキテクチャをリリース – 2018年、OpenFogはIEEE2018:1934標準として採用 – この過程でCiscoの関連活動の多くはOpenFogコン ソーシアムに移管 – その後、OpenFogコンソーシアムは主要な利用者団体 であるIIC(産業インターネットコンソーシアム)とも 合併し定着したが、Ciscoの存在感は希薄化 31

32.

5.プラットフォーム内の競争 プラットフォーム内競争の課題 • プラットフォーム所有者と補完者間には通常、相 反する目標がある。 • この緊張は、特に主要な補完品も提供するプラッ トフォーム所有者にとっては重要になる。 • そこで、プラットフォームを戦略的に管理するた め、将来の相互作用を想定し、相互依存するメン バー間との協力と競争のバランスを取る方法を注 意深く理解する必要がある。 32

33.

プラットフォーム内競争の例 • 営利目的のプラットフォーム – AppleのiOSプラットフォームとアプリ開発者コミュ ニティとの関係性 – その他多くの商用プラットフォームの状況 • 社会的ミッション目的のプラットフォーム (一般にソーシャルミッションプラットフォーム(SMP)と呼称) – 特定ソリューション開発を民間、公共およびコミュ ニティセンターの利害関係者で効率的に達成 • 例:公園、遊び場、自転車道、歩道などの公共資産開発、 季節の照明、装飾などに向けた資金収集他 – 具体例:市民クラウドファンディングプラット フォーム(Spacehiveなど) 33

34.

• 歴史: Spacehiveのケース – 2011年設立。英国を拠点とする市民のためのクラウ ドファンディングプラットフォーム – 「出来るだけ多くの人々が市民環境に生き生きと生き ることを容易化すること」が使命 – 2018年末時点で英国全土349の市、町、村の市民プロ ジェクトのため1050万ポンド(約170億円)以上の資 金を調達 • Chris Gourlayによって創立 • 幾つかの受賞歴も – 成功裏に資金調達できたプロジェクトの調達資金から 5%を手数料として受け取る。 34

35.

Spacehiveのこれまでの経緯 • 初期: – 正当性確立と多様な利害関係者勧誘の創出のジレンマに苦労 • 中期: – ユーザー拡大が本来のミッションを脅かす影響を与える参加の ジレンマに遭遇 • 後期~現在: – 成長に伴い、正当性の確保、参加者の拡大、ミッションの維持 の各ジレンマへの総合的対応を認識 – これらをバランスさせながら推進すべき新たな取組みの工夫の 必要性が発生 • 基本的にはこれらへの対応に制度的インフラストラクチャ の育成のニーズが登場 • 制度的インフラストラクチャ育成の図式を次頁に示す。 35

36.

SMPユーザー成長のジレンマに対する制度的インフラストラクチャの育成 制度的インフラストラクチャ ガードレール* 制度的境界 多言語的アイデンティティ 制度的架け橋 多義的なテーマ 制度的青写真 脚本化 プラットフォーム統合の要求 ユーザー成長のジレンマ 正当性のジ レンマ 参加の ジレンマ 正当性のジ レンマ(再) プラットフォーム適応の要求 ガードレール 制度的インフラストラクチャ 多言語的アイデンティティ 制度的境界 多義的なテーマ 制度的架け橋 脚本化 制度的青写真 「参加者間の緊密な統合」と「より多くの自由度(適応)」間で発生 *:制度的インフラストラクチャは一連の象徴的ガードレールによって構成される。 ガードレールの目的はプラットフォームとその参加者が過度に統合または適応の一 方に偏らないようにガイドすること 36

37.

Spacehiveのこれまでの実績 • 初期:正当性のジレンマへの対応 – 同化と差別化を同時に実施⇒制度的境界を確立 • 例:公務員による作業を待つのでなく、選択した市民は当該プロジェク トに時間的貢献や寄付を実施 • 中期:参加者の増加がミッション逸脱を招くジレンマへ の対応 – セクター横断的な活動に従事することでプロジェクトの利害関 係者を繋ぐ⇒制度的架け橋を確立 • しかし、このことが元々のミッションへのコミットメントを逸脱するプ ロジェクトの増加に繋がった。 • 後期~現在:青写真を確立する脚本を通じて総合的にジ レンマを回避する対応 – 最終的に管理・制御する必要性が高まり緊張が発生 ⇒制度的青写真の描写・育成により社会的使命に対する制御の維 持と中立性のバランス確保へ 37

38.

6.これからのプラットフォーム戦略 プラットフォーム参入:Uberからの示唆 • 市場関係者への認知獲得に必要だという理由付けで 挙行された規制機関の許可なしプラットフォーム参 入は、革新性を棄損させないため、場合によっては 有り得た。 • このような行動は、しかし、最低限サービスとビジ ネスモデルの可視性を高める参入でなければならな い。 • こうであれば、意表な行動が直面する緊急性も新た な正当性を求める取組みとして、ビジネスの本質と ダイナミズムを変革する活動になりうることもある。 – シェアリングエコノミー勃興ともリンクした。 38

39.

プラットフォーム間競争:Ciscoからの示唆 • 確立されたプラットフォーム(クラウドコンピューティ ング)エコシステムの補完者としての地位を守りながら、 • 隣接する新たなプラットフォーム(フォグコンピュー ティング)エコシステムのリーダーとなる取組みを開始 した。 – 背景にIoTという新たな機会の登場が存在していた。 • 一定の成功を見たが、最後的にはOpenFogコンソーシア ム設立に落ち着いた。 • 一筋縄では行かなかったがCiscoは現在一定のスタンスを 維持している。 39

40.

プラットフォーム内競争:Spacehiveからの示唆 • 当初から統合要求と適応要求のバランス確保が重 要であった。 – 統合要求例:既存代替案との同化、異なる参加者間の 共有価値の維持、ミッションの基準の管理、など – 適応要求例:既存の選択肢との差別化、様々な参加者 の独自価値の支持、交換における中立性の維持、など • これらの要求は時間経過とともに顕在化した。 • そのため、組織は統合・適応の要求に同時に対処 しうる社会文化的メカニズムとしての制度的イン フラストラクチャ育成を迫られた。 • このような傾向は他の分野でも見られる。 40

41.

新しいプラットフォーム戦略 ① • プラットフォームをメタ組織(「組織の組織」)と見 做したプラットフォーム戦略が成立しうる。 – プラットフォーム参入、プラットフォーム間競争、プラッ トフォーム内競争の各場面などで • いずれの場合も既存の環境に対してかなり異質な変革 ② が伴うので、既存環境と折り合いをつけ、従来環境に 合流するには一定の時間とプロセスを踏む必要がある。 • 最初は「正当性の確立」に苦しむ。次にその壁を乗り ③ 越えると行き過ぎの懸念が生じる。それを克服して やっと従来環境も変化し調整が進む。 • このような経過を踏まえた戦略と対応が求められる。 41

42.

新しいプラットフォーム戦略(続) ④• しかし、この段階に達しても全体としては従来の 組織以上に管理と調整に注意と負担を強いられる 状況の維持が求められる。 ⑤• 従って、これに対する従来とは異なる仕組み実現 が望ましい。 – 一案は最も不安定と思われるSMP(Spacehiveの例) で登場した制度的インフラストラクチャとそれの維持 のガイドを担うガードレールの導入、など • これに類する制度的インフラストラクチャ育成と ⑥ それとセットのガードレール設定のような機能が、 SMP以外の分野でも新プラットフォーム戦略の 一部として有効な可能性がある。 42

43.

まとめ • “メタ組織としてのプラットフォーム論”は既存プラット フォーム論への批判というよりは、プラットフォーム適 用範囲の拡大に伴い登場してきたプラットフォームの新 傾向への対応策 • “制度的インフラストラクチャとガードレール”は適用分 野毎に経緯も方法も異なる。 – Uberの場合は規制機関や地方議会、更には法廷も加わったやり 取りで調整 – TwitterやFacebookの場合は市場さらにはEU/政府なども絡ん だやり取りで調整中 • 「勝者総取り」に代表される既存理論との棲み分けやバ ランス確保は、現在、市場や規制機関、消費者の反応を 通じて審議/調整中である。 • これらの活動全体がプラットフォームの組織体としての 認識の精緻化を推進させると考えられる。 43

44.

参考文献 • 2節は、主として、Tobias Kretschmer et al., “Platform ecosystems as meta-organizations: Implications for platform strategies”, Strategic Management Journal 43 (3), 405-424, 2022. を参考にして作成した。 • 3節は、主として、Raghu Garud et al., “Liminal movement by digital platform-based sharing economy ventures: the case of Uber technologies”, Strategic Management Journal 43 (3), 447-475 ,2022. を参考にして作成し た。 • 4節は、主として、Saeed Khanagha et al., “Mutualism and the dynamics of new platform creation: A study of Cisco and fog computing”, Strategic Management Journal 43 (3), 476–506 ,2022. を参考にして作成した。 • 5節は、主として、Danielle Logue and Matthew Grimes, “Platforms for the people: Enabling civic crowdfunding through the cultivation of institutional infrastructure”, Strategic Management Journal 43 (3), 663– 693, 2022. を参考にして作成した。 44