プラットフォーム エコシステム関連理論の概要

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February 16, 15

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定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。

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各ページのテキスト
1.

プラットフォーム/エコシステム 関連理論の概要 MQB:ドイツのフォルクスワーゲン グループが開発した4WD車用車台 高橋 浩 1

2.

目次 I. II. III. IV. V. プラットフォーム・リーダーシップ プラットフォームの経済学 エコシステム・イノベーション ビッグデータとプラットフォーム これからのビジネス戦略 2

3.

Ⅰ.プラットフォーム・リーダーシップ 3

4.

Web2.0時代のプラットフォーム・リーダーシップ・モデル イノベーション 能力 ネットワーク 効果 接続性 補完性 効率性 Sang M. Lee, Taewan Kim, Yonghwi Noh, Byungku Lee, “Success factors of platform leadership in web 2.0 service business” ,Service Business June 2010, Volume 4, Issue 2, pp 89-103 4

5.

インテル、マイクロソフト、シスコはどのよう にしてイノベーションを実現したか インテルのPCIバスの例 • CPUが世代交代しても変更不要なバスアーキテクチャ のプラットフォーム化を意図 – – – – • • • • 少数重要プレイヤーで規格作成 その後幅広く意見を聞き・・ 個々の企業が接続試験を行う機会を提供し・・ ソフトウェア、デバイス開発ツールを広く配布 市場が存在しないうちにPCIチップ生産を開始 マザーボード生産にも乗り出し業界にコミット 仕様知財と実装知財を分離し前者のみ公開 明確なビジョンによる組織的努力で信頼獲得 Gawer & Cusumano(2002) • 結果的に業界が発展することで自社CPU拡販を獲得 INSEAD MIT Sloan School

6.

シリコンバレーに学ぶ!日本企業の成長戦略 -技術力が世界一でも成功できない日本企業の課題とは- • 日本企業が成功できないのは「プラットフォー ムビジネス的視点が欠落しているから」 ・・・・宮本和明氏講演 – 製品を活用するプラットフォームを併せて構築して おくことができるかどうかがビジネス成功の鍵! • 事例: – GoPro(ウエアラブルカメラ)の普及 • ユーザーから動画を集め航空会社に提供 • 機内の映像プログラムにラインアップ・・・各種コンテンツ 活用の品揃え – 【カメラメーカーではなく、コンテンツプロバイダーとして成功】 6 ベンチャークレフの宮本和明代表 2014/10/16 http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/news/14/101601460/

7.

アップルが仕掛ける次のプラットフォーム “ホームキット”、“ヘルスキット” iPhoneやiPadで操作可能 なネット家電開発のための プラットフォーム iPhoneやiPadで健康コンディ ション維持や健康管理、医療 機関直結のためのプラット フォーム 7

8.

Ⅱ.プラットフォームの経済学 8

9.

市場の二面性 • 買い手がたくさん集まる場に は多くの売り手が集まり、多く の売り手が集まる場には多く の買い手が集まる。 • 「市場の二面性」(two-sided market)が近年産業組織論で 一躍注目を浴び、「プラット フォーム」という言葉と対に なって新たな研究領域を拡大 している。 (間接的ネットワーク効果) (直接的ネットワーク効果) http://mba.kobe-u.ac.jp/square/keyword/2006/no.14_two_sided_market.htm 9

10.

プラットフォームとは • 事例: – アプリケーション・ソフトを起動する基盤OS – 自動車のボディ設計の基本部分(車台) • プラットフォームとは、「複数の階層あるいは 補完的な要素で構成される産業やシステム 商品において、他の階層や要素を規定してい る下位構造」 • 「市場の二面性」とは、あるプラットフォームを 基盤として複数の異なるレイヤーや補完的な 要素について、市場で取引される際に働く相 乗効果 10

11.

物品所有権なしに買い手と売り手をマッチング Business Market-maker (プラットフォーム) Side 1 Side 2 コンピュータソフトウェア Matchmaker (プラットフォーム) examples Side 1 Side 2 不動産屋 仲介業者 売主 買主 Microsoft アプリケーション開発者 利用者 有価証券 証券取引所 売り手 買い手 Apple アプリケーション開発者 利用者 商業 ショッピングモール 加盟店 消費者 Open Source アプリケーション開発者 利用者 電子商取引 B2B, B2C exchanges (EBay, Purchase Pro) 売主 消費者 Palm (PDA) アプリケーション開発者 利用者 ビデオゲーム 広告支援メディア Two Sided Market Matchmaker (プ ラットフォーム) Side 1 Side 2 新聞 雑誌社 広告主 購読者 テレビ TV 局 広告主 視聴者 衛星放送 Radio Network (Sirius, XM) 広告主 視聴者 Webメディア Web sites (ex:facebook) 情報提供者 (広告主) 情報利用 者 Matchmaker (プラットフォーム) examples Side 1 Side 2 Microsoft (XBOX) ゲームソフト開発者 ゲーム愛好者 Sony ゲームソフト開発者 ゲーム愛好者 Nintendo ゲームソフト開発者 ゲーム愛好者 クレジットカード Side 1 Matchmaker (プラットフォーム) examples Side 2 VISA 加盟店 消費者 Mastercard 加盟店 消費者 AMEX 加盟店 消費者 2014年ノーベル経済学賞受賞のトゥルー ズ第1大学のジャン・ティロール教授 「プラットフォームの経済学」の創始者 クレジットカードの研究から Jean-Charles Rochet and Jean Tirole (2003), “Platform 11 Competition in Two-Sided Markets”, Journal of the European Economic Association, 1(4): 990-1029.

12.

市場の2面性を生かすビジネスが拡大中 異なる2種類のユーザー・グループを結び付けるビジネス ⇒一方を優遇または無料化することが多い*。 eマーケットプレイス オークション・サイト クラウド・コンピューティング 検索エンジン 新聞 クレジット・カード 「*消費者」 と「加盟店」 ショッピング・モール ウェブ・サイト OS 「 *消費者」 と「加盟店」 「*購読者」 と「広告主」 「 *検索者」 と「広告主」 「コンピュータ利用者」と 「 *アプリケーション開発者」 「 *情報利用者」 と「情報提供者」 「 *サービス利用者」 と「サービス提供者」 SaaS,PaaS,IaaS,・・ * 優遇または無料化 12

13.

ネットワーク効果とは ネットワーク効果とは同じ製品・サービスを利用する ユーザーが増えるとそれ自体の効果や価値が高ま ること ① 「サイド間ネットワーク効果(間接的ネットワーク効 果)」:一方のユーザー数が閾値を越えれば他方の ユーザーは高い対価を払ってでも参入する。 ② 「サイド内ネットワーク効果(直接的ネットワーク効 果)」:ユーザー数が増えれば、そのユーザー・グルー プは大きくなり易い。 2面市場:一方のユーザー・グループにとっての市場 価値が他方のユーザー・グループの数によって決ま る市場 「収穫逓増の法則」が働き激しい競争が発生する。  成熟化すると寡占化が発生する(例:クレジット・カード、 PCのOS)。 13

14.

(ユーザー/消費者側) (生産者/開発者側) 14 Geoffrey Parker and Marshall Van Alstyne (2005). “Two-Sided Network Effects: A Theory of Information Product Design.” Management Science, Vol. 51, No. 1

15.

モバイルビジネスにおけるベンダー間競合分析事例 開発者グループ・サイド 2面市場モデル 消費者グループ・サイド 2 1 1 アプリケーション開発ツール 3 2 モバイル・アプリケーション・ポータル 3 携帯電話 Holzer,A.,Ondrus,J.,”Mobile application market: A developer’s perspective”, Telematics and Informatics 28(2011)22-31. 15

16.

正の間接ネットワーク効果で捉えられる ①アプリケーションの増加が消費者の増加を誘発 ②消費者の増加が開発者に新アプリケーション開発を誘因 正のフィードバック・ループ アプリケーション・ポータルが2つのグループ間の仲介役を果たす。 Appleは有料アプリケーションダウンロード時、その価格の30%を仲介料として徴収し 16 ている。

17.

プラットフォーム・ベンダー間競争評価の図式 3軸(①、②、③)で6陣営を比較 3軸図 携帯電話 分散 3 6陣営 ・Google ・LiMo ・Nokia ・Apple ・RIM ・Microsoft 均一 クローズ技術 1 オープン技術 アプリケーション開発ツール 17

18.

1 アプリケーション開発ツール LiMoはLinuxベース GoogleはAndroid Nokiaは最初Symbian でクローズ型だったが、S ymbianソースを公開し オープン型へ変えた。 ・元々ソフトベンダーで独自のソフト開発経験を持つ ・特にAppleはMac時代から独自のクローズ技術保有 18

19.

2 モバイル・アプリケーション・ポータル ・Appleは厳しい審査過程のあるユニークで排他的なポータル ・Googleは登録前の審査無し。集中型ではあるが登録は容易 ・Appleが最初に集中型を導入。そのまま継続し、高い利益率。 ・Nokia,RIM,Microsoftも、最初は分散型だったが、その後、Appleに引きずら れて集中型に向かった。 ・LiMoは事実上、Apps流通段階で脱落 19

20.

3 携帯電話 ・Googleは最初Uniformだったが、多様な装置/ 端末に方針を変えた。OSSの特徴を活かすにはこ の方が有利 ・その結果、他社の戦略と衝突が発生している。 クローズOSベースの他社が価格面で困難に直面 ・Appleは4種の類似装置(iPhone,iPhone3G,iPhone3Gs,iPod Touch)のみで一様 20

21.

3軸図上で6陣営を位置づけ 既存端末産業の位置 LiMo 分散 移動 RIM 移動 Microsoft Google 6陣営 携帯電話 Nokia Google LiMo 中心ポータル断面 移動 Nokia 3 Apple Apple RIM 均一 Microsoft オープン技術 クローズ技術 1 アプリケーション開発ツール 21

22.

観察される事項 • AppleとLiMoが対極 • Nokia,Microsoft,RIMは最初同じ所に居たが、2方 向に分離 – Apple登場で既存位置が不安定化したため • RIMは端末の種類は多いが、Appleとかなり類似 • Nokiaは2軸とも変更し、現在はGoogleと同じ所 • Googleは最初の位置をほぼ継承したまま – 端末の種類が増えただけで本質は無変化 • GoogleとAppleは最初から中心ポータル重視で共通 • 結論:中心ポータルが最も重要な役割を担った! 22

23.

勝ち組 プラットフォーム間競争の顛末 • Appleは全項目で独自路線。且つ一貫性保持。 – 既存携帯事業秩序の破壊者 • GoogleはOSS(Android)で且つApple同様ポー タル重視。 – ポータル重視は先進インターネット企業の戦略 – 価格破壊で既存事業者に打撃 負け組 • RIMは比較的ブレず自主路線だが体力不足 • Nokiaは既存産業構造からの柵が最も大きく方 針変換で難渋 • Microsoftは早くから取組み、チャンスがあった にも関わらず既存PC路線を脱却できず後追い • LiMoは中心になって支える者が消滅し腰砕け 23

24.

Ⅲ.エコシステム・イノベーション 24

25.

変化の駆動力はエコシステム間競争 • 垂直統合でHAPが主導権を確保 – アップル: App Store – グーグル: Google Play • 垂直統合者 – 昔は、キャリア(NTTドコモ(i-モード)~日本型) – 近年は機器・OSベンダー(アップル、グーグル) • 統合水準 – きつい:アップル~クローズ – 緩い:グーグル~オープン 注:HAP(Handset Application Platform)携帯電話アプリケーション・プラットフォーム Thomas Hazlett, David Teece, and Leonard Waverman,“Walled Garden Rivalry :The Creation of Mobile Network Ecosystems”, George Mason University Law and Economic Research Paper Series 11-50 (2011). 25 Thomas Hazlett

26.

HAPの特性は多様 【RIMの例】デバイスが明確にクローズ。Appleよ りもよりアプリケーションを制御する傾向。但し 排他的キャリア戦略には関心を持っていな かった。 【Appleの例】デバイスがクローズ。加えて、キャ リアに排他的対応を行う戦略を実施した。 【Googleの例】最も“オープン”指向。しかし、 サードパーティ開発者によって提供されたア プリからの収入は共有を主張 26

27.

複雑化がエコシステムを形成 エコシステムの定義:『競合したり補完したりす る多数企業が一緒に動作して、新市場を創 造し、顧客へ価値ある商品やサービスを提供 すること』 1. エコシステムには、新組織、イノベーション、 新知識、選択、開発などが存在し、居住者 が共同で進化 2. エコシステムの生存率は、クリティカルマス、 生産性、イノベーション、学習と協力などに 依存 27

28.

アップル グーグル “塀に囲まれた庭”競争 RIM 28

29.

主導プレイヤーは何故入れ替わったのか • 顧客は先進的モバイルデバイスとモバイル サービスを求めていた。 1. HAPは、顧客に追加機能を獲得できるメカニ ズムを提供した。 2. HAPによって、小規模ソフトウェア、コンテンツ、 ワイヤレスサービスプロバイダは、簡単に彼 らの製品を顧客に提供が可能になった。 ⇒その結果、顧客に直接サービスを提供する HAPの主導権が強化された。 ⇒顧客に価値ある選択肢を提供し、選択が優れたモ デルを浮かび上がらせた(≒顧客との共創)。 29

30.

モバイル・エコシステム形成のインパクト エコシステム主導者はニーズ把握と自社優位性を基盤に、 パートナーとの最適コラボレーションを通してモバイル・エコ システムを構築することでシステミック・イノベーションを実 現した。 1. キャリアは主導権を新エコシステム主導者に 奪われた。 2. モバイル機器メーカーはコア機器提供者から サービス享受手段提供者にさせられた。 3. コンテンツ開発者は顧客への直結ルートを確 保した。(但し、門戸開放で競争は激化) 30

31.

“イノベーション·エコシステム”による価値創造 イノベーションの位置(場所)に注目! 1. 上流のコンポーネントの課題は焦点企業製 品の製造能力を制約することで価値創造を 制限する 2. 下流の補完品の課題は、焦点企業の製品 を消費することで最大利益を引き出そうとす る顧客の能力を制約する • エコシステム内の活動の相対位置を利用し て、異なる価値創造につながる課題の役割 を識別することができる。 「イノベーション·エコシステムにおける価値創造:技術的相互依存の構造が新技術世代で企業パフォーマンスに如何なる影響を与えるか 」 Ron Adner and Rahul Kapoor, “VALUE CREATION IN INNOVATION ECOSYSTEMS: HOW THE STRUCTURE OF TECHNOLOGICAL INTERDEPENDENCE AFFECTS FIRM PERFORMANCE IN NEW TECHNOLOGY GENERATIONS”, Strategic Management Journal., 31: 306–333 (2010) Ron Adner ダートマス大学教授 31

32.

エコシステム評価図式と課題の役割 製造側 供給者1 製品の ための 統合 消費側 補完者1 焦点企業 供給者2 コンポーネント ⇒焦点企業に影響する。 消費の ための 統合 消費者 補完者2 補完品 ⇒顧客に影響する。 32

33.

コンポーネントの課題の特性 • 先行者優位の鍵は、学習曲線を進行させる 製品開発と市場経験の機会の活用である。 • コンポーネントの課題は企業の学習機会を 拡大させ、ライバルに先立って学習曲線を進 行させる。 • コンポーネントの課題は焦点企業に帰属さ れるパフォーマンス上の利点を増加させる。 33

34.

補完品の課題の特性 • 多くのイノベーションはロックされている価 値を解除する補完品の可用性に依存する。 • 補完品の課題は、補完者が自分の技術的 ハードルを克服するのに苦労した結果など で、補完品の可用性に遅れが生じることで 起きる。 • 補完品の課題は焦点企業に帰されるパ フォーマンス上の利点を減少させる。 34

35.

イノベーション課題の影響評価フレームワーク 新技術世代では企業パフォーマンスに如何なる影響を与えるか 焦点企業はフォ ロワーに対して 優位性増大 低い エリア1: 内部的課題のみ 焦点企業のリー 補完品の課題 ダーシップはあまり 有益ではない。遅れ てきた参入者に対し 高い て少し不利な立場に エリア3: なることもある。 内部的課題 +消費に関する外部的制約 低い 最初のプレーヤーが成功する。 先行者優位は標準レベル 準備は急ぐが、待つのが適当 先行者優位は減少する。 焦点企業は 更に大きな競 争優位性を エリア2: 獲得 内部的課題 コンポーネ ントの課題 +製造に関する外部的制約 高い エリア4: 内部的課題 +製造に関する外部的制約 +消費に関する外部的制約 先行者は更に優位になる。 時と場合による。先行者優位は どの問題が最初に解決するかに よる。 出典:ワイドレンズ p.147 35

36.

本書に記載の成功/失敗の確認事例 • Nokiaの3G携帯電話の失敗 • Amazon Kindleの成功 SONY電子書籍端末の失敗 • Appleの成功 • 電気自動車の失敗 • ミシュランのランフラットタイヤの失敗 • 電子カルテの失敗 イノベーションを成功に導くエコシステム戦略 ロン・アドナー著 ダートマス大学教授 2013年東洋経済 新報社 (英語版2012年刊) 36

37.

モバイルビジネスにおけるノキアの失敗 製造側 ビデオ提供サービス 位置特定サービス 3Gサービスを提供 するキャリア システム・インテグレーション (課金認証他) ハードウェア ソフトウェア 消費側 新ビジョンを実現 するための多様 な製品・サービス の登場に依存 3G携帯電話競争時 のノキア 6650モデル発表 (2002年末) 道路の無い世界 でのフェラーリ 顧客 標準化 特許 出典:ワイドレンズp.40,p.41 37

38.

電子書籍端末におけるアマゾンの成功 ソニーの電子書籍端末 電子インク スクリーン その他の 補完品 ソニー DRM 2006年9月 ソニーの リーダー ユーザー 出版社 著者 2007年 アマゾン DRM 著者 出版社 ソニー・コネク ト・ドットコム 電子書籍ビジネス方針を 決めかねていた状況 加えてファイルフォーマット標 準不在 ワイヤレス・ ネットワーク その他の 補完品 小売業者 PCからリーダー へ転送 アマゾンのキンドル アマゾンの キンドル アマゾンの ウェブストア ユーザー アマゾンは出版社へ紙版表示価格の50%の手数料支 払い。一方電子書籍版販売価格は殆ど9.99ドル (実質的な出版業界への補助金の交付) 38 出典:ロン・アドナー著「ワイドレンズ」p.86,p.88

39.

Ⅳ.ビッグデータとプラットフォーム 39

40.

「無料顧客」価値は軽視されている! 他の顧客のおかげで無料サービスや少額料金 サービスにあずかれる例は多数ある。 • • • • • • ショッピング・モール 不動産仲介業 ITサービス・プロバイダー オークション会社 印刷媒体やオンライン媒体 求人や出会い系サービス など Sunil Gupta HBS教授 このようなビジネスモデルによる売上げが相当部 分を占める企業が世界主要100社中の60社 に上ると言われている。 Sunil Gupta and Carl F. Mela,”What is a free Customer Worth? - Armchair calculations of nonpaying customers' value can lead to flawed strategies.”, Harvard Business Review , November 2008 , 102-109. 40

41.

無料顧客が重要と分かっていても 何故過小評価されがちか? 1.売上げの大部分をもたらす顧客を重視してしまうから 2.無料顧客のCLV(顧客生涯価値)を計算する方法がない から 無料顧客のCLV把握は下記のような場合、特に重要である。 1.成長に向けた最適な方法~何時、どのような投資? 2.企業の真の価値~投資家、買収企業の企業評価? 3.最適な組織デザイン~無料顧客担当部門、有料顧客担当 部門に横断的な組織のあり方、報償制度? • このような場合、従来モデルは有料顧客のみを対象として おり、ほとんど役にたたない。 41

42.

ネットワーク効果を考慮した測定法 新モデルのポイント(~データ収集が前提:ビッグデータと接点) • 無料顧客、有料顧客双方の事業成長と価値創造を考慮 • 双方の顧客数がどのように影響しあうかを考慮 • マーケティング活動によってそれぞれの顧客数がどのよう に変化するかを考慮 新モデルのエッセンス • 無料顧客のCLV=「ある無料顧客が有料顧客、他の無料 顧客をどのくらい呼び寄せるか、また呼び寄せられた顧客 が他の顧客にどのような波及効果を及ぼすか」によって測 定* *:詳しくはSunil Gupta, Carl F. Mela Jose and M. Vidal-Sanz,” The Value of a "Free" Customer”,HBS Working Paper, August 23, 2006. 42

43.

無料顧客の価値を測定 大手オンライン・オークション会社の場合 • 従来は、もっぱら売り手(有料顧客)のために投 資してきた。 • 市場の急成長で競合他社が台頭してきた。 • そこで、新たな買い手(無料顧客)向け投資が重 要なのではないかとの疑問が登場してきた。 – 従来の枠組み: 「売り手に出品料、手数料の双方を 負担」 してもらい、「買い手は無料で入札/落札可能」 としていた。 ⇔料金は短期売上げ最大化に基づいていたが、 これは正しい顧客価値評価だったのだろうか? 43

44.

取組みステップ 1.履歴データを収集(売り手数・買い手数、それぞ れの増加率、料金、マーケティング支出、その変 化など) 2.3つの変化(マーケティング戦略、直接的ネット ワーク効果、間接的ネットワーク効果)を調査。 結果は・・・ ①直接的ネットワーク効果は両顧客で+であった。 ②間接的ネットワーク効果は両顧客で+であった。 ③買い手が売り手に及ぼす影響の方が、(売り手が 買い手に及ぼす影響よりも)大きかった。 ⇒無料顧客が極めて重要なことが再確認された。 44

45.

測定結果 価値の評価 ①創業当初の買い手の価値が最大であった。 ②時間とともに買い手の価値は減少した。 価格戦略の決定 案1:初期に売り手から高額の手数料を取る。その後手 数料を引き下げる(「スキミング・プライシング」)。 案2:初期に少額の手数料を取る。顧客を増やし、その 後手数料引き上げる(「ペネトレーション・プライシン グ」)。 案3:時期に関係なくすべての売り手から同額の手数 料を取る(「定額制」)。 ⇒案2が最も利益が高かった。 45

46.

オークションの場合(測定例) 買い手数、売り手数の推移 買い手:1000万人 当月:60ヶ月 売り手:200万人 200カ月 新規獲得した買い手の価値変化 買い手の価値: 2500ドル 213ドル 価格戦略が利益に及ぼす影響 ペネトレーション・プライシング: 13億6600万ドル 定額制: 7億9300万ドル スキミング・プライシング: 2億2000万ドル 買い手:アクセス無料顧客 売り手:出品手数料負担者 46

47.

以上の結果を踏まえた新たな施策 1.マーケティング活動を強化 – 買い手を増やすために新規スタッフを採用 – 顧客のインターラクションを数年に渡って分析 2.買い手に対するサービスを拡充 – 買い手を集めるために広告宣伝費を増額 – スムーズな商品選択が可能な新サーチエンジン を開発 3.投資家へ情報提供 – CLVと企業価値との関係を説明 47

48.

Ⅴ.これからのビジネス戦略 48

49.

これからの時代のビジネス戦略 Ⅰ.プラットフォーム/エコシステムの競合 状態をよく検討する。 Ⅱ.MVEを実行する。 Ⅲ.データを収集して分析する。 Ⅳ.適切な見直しと柔軟な軌道修正を行う。 49

50.

Ⅰ.プラットフォーム/エコシステムの競合状態をよく検討する 2面市場への取組み課題 1)「価格戦略」: どちらのユーザー・グループをどのくらい 優遇するか? Thomas R. Eisenmann ハーバードビ ジネススクール 教授 2)「一人勝ち」対応: 社運をかけた決断を如何におこなうか? 3)「隣接市場からの強敵参入」への対応: 如何に戦うか? Thomas R. EisenmannGeoffrey ParkerMarshall W. Van Alstyne, “Strategies for Two-Sided Markets”, Harvard Business Review, October, 2006 50

51.

第1の課題:価格戦略 「優遇側」と「冷遇側」の区分けを行う 一方のユーザーが増えれば他方のユーザーに価値 をもたらす場合、前者が優遇される側 2つのネットワーク効果を考慮する。 「サイド間ネットワーク効果(間接的ネットワーク効 果)」 ⇒一方のユーザー数が閾値を越えれば他方のユー ザーは高い対価を払ってでも参入してくる。 「サイド内ネットワーク効果(直接的ネットワーク効 果)」 ⇒ユーザー数が増えれば、そのユーザー・グループ は大きくなる。 51

52.

第2の課題:「一人勝ち」 市場を独占する条件が整っているか? コスト優位性、差別化による優位の他に下記なども 1. 見込みユーザーとの関係を構築しているかどう か? 2. 勝算が高いという期待が高められているかどう か? 3. 消耗戦に耐える資金が準備できているかどう か? ユーザー基盤の拡大を焦らない方が良い場合も  事業拡大の準備が充分整っていない場合  資金調達の術を充分確保できていない場合 52

53.

第3の課題:包囲の危機 隣接市場から新たなプラットフォーム・プロバ イダーが参入してきて、一人勝ちプラット フォームを包囲することがある。 各プラットフォームはしばしば重なり合う部分 がある。これをテコにしてまるごと飲み込むよ うな取組みが発生する。 • 技術進歩の速い2面市場では包囲状態が起きや すい。 • その結果、市場の境界が曖昧な収斂が起きる。 53

54.

Ⅱ.MVEを実行する イノベーション・エコシステム論によるアップル成功の解釈 54 David Matheson“INNOVATING TO CREATE AN ECOSYSTEM” http://smartorg.com/2012/10/innovating-to-create-an-ecosystem/

55.

• 多くのイノベーションはプロトタイプから出発 • 典型的ビジネス戦略はプロトタイプからパイ ロットへ機能拡張した上で、商用化し適応範 囲を拡大 • 「ロン・アドナーの理論」は、それとは異なる代 替戦略があるとの指摘 • 限定された機能セットのままで商用化を先行。 そして最小実行可能エコシステム(MVE)を先 に作ってしまう。 • アップルの場合: – (1) MP3+iTunes(音楽のみ)でMVEを作成する (これがiPod)。 – (2) パートナーを加えて機能拡大(iPodをiPhoneに 拡張するパートナーとしてAT&Tを加えた) 55 David Matheson“INNOVATING TO CREATE AN ECOSYSTEM” http://smartorg.com/2012/10/innovating-to-create-an-ecosystem/

56.

Ⅲ.データを収集して分析する 無料顧客価値の適正な評価 • 無料顧客価値評価はフリー時代に適合した 新たな均衡の理解とバランス確保の方法 • これからの時代への対応には無料顧客の CLV評価は必須 • このような取り組み拡充には、正しい理解と 過去数年分のデータ蓄積が必要 • このような取り組みに早期に着手し、ビジネス 環境に適合した顧客価値評価と、これらを基 盤とした新ビジネスモデル構築に挑戦するこ とが重要 56

57.

Ⅳ.適切な見直しと柔軟な軌道修正を行う まとめ ツー・サイド・プラットフォーム戦略は最近の ビジネス環境において新たな均衡発生の仕 組みと新しい均衡の創り方を提示している。 ビジネス環境やシステムの一層の複雑化に 伴い、エコシステム・イノベーションやMVEへ の取組みが重要になる場面が増加している。 事例を通して関連理論の正しい理解と実践 の勘所を体得し、柔軟なフィードバック、撤退 を含む素早い軌道修正を適確に行える準備 をしておく必要がある。 57