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December 17, 23
スライド概要
第14回横幹連合コンファレンス
OS10 学際領域としてのシビックテック・デザイン学の確立
伊藤昌毅 東京大学 大学院情報理工学系研究科 附属ソーシャルICT研究センター 准教授。ITによる交通の高度化を研究しています。標準的なバス情報フォーマット広め隊/日本バス情報協会
A-3-2 2023年12月17日 東京大学 本郷キャンパス 工学部3号館 第14回横幹連合コンファレンス OS10 学際領域としてのシビックテック・デザイン学の確立 専門性の高い領域におけるシビックテックの可能性 -交通分野へのIT・データ活用の試みを通して- 東京大学 大学院情報理工学系研究科 附属ソーシャルICT研究センター 伊藤昌毅
伊藤 昌毅 • • • • • • 東京大学 大学院情報理工学系研究科 附属ソーシャルICT研究センター 准教授 一般社団法人 日本バス情報協会 代表理事 静岡大学 土木情報学研究所 客員教授 専門分野 – – ユビキタスコンピューティング 交通情報学 – – – – – – – – 静岡県掛川市出身 2002 慶應義塾大学 環境情報学部卒 2009 博士(政策・メディア) 指導教員: 慶應義塾大学 徳田英幸教授 2008-2010 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別研究助教 2010-2013 鳥取大学 大学院工学研究科 助教 2013-2019 東京大学 生産技術研究所 助教 2019-2021 東京大学 生産技術研究所 特任講師 2021-現在 現職 – 運行管理者(旅客) 経歴 資格 2
2014年〜 静岡県でコミュニティバスのオー プンデータ化の取り組み • 県庁、市役所、地元IT企業等とGTFS、GTFSリア ルタイムによるオープンデータ化を実現 – Google Mapsへ提供可能に • アイデアソン、ハッカソンで地域でのデータ活用 を目指す
GTFS形式の公共交通オープンデータ整備が進行中 バス業界において「標準化」「オープン化」が同時に進行 路線 時刻 運賃 リアルタイム GTFS: 国際的な標準フォーマット(標準的なバス情報フォーマット・GTFS-JPと互換) 乗換案内・MaaS サイネージ・印刷物等 交通分析・計画 4
シビックテック Civic Tech • これまで関わり方が限られてきた公共領域への参加の方法が民主化 され、誰もが自分たちの好きな時に好きな方法で参画できるように する活動がシビックテック(関治之・デジタル庁blogより) – 市民が主体的に社会に関わり、あるべき社会について「ともに考え、ともにつくる」 人々が増えることでより良い民主主義社会を生むことが目的 – 市民が主体的に社会課題解決に貢献するための環境を整えることが、自分を含めた多様 な人たちをそれぞれ配慮することにつながり、結果的に民主主義を発展させる • Fin Tech, Legal Tech EdTechなどが、専門分野にITを導入し高度 化を狙うアプローチなのに対し、 Civic には専門性の含みがなく、 行政への住民参加の質や方法を高度化するようなニュアンスか – これまで: 選挙・署名・住民投票・パブコメ・審議会などへの参加 – 住民参加自体は、これまでも意識され行政プロセスに取り込まれてきた https://digital-gov.note.jp/n/n1d3a173a8393
日本政府のオープンデータの取り組み(2012〜) • 2012年7月:電子行政オープン データ戦略 – 透明性・頼性向上 – 国民参加・官民協働推進 – 経済活性化・行政効率化 • 2012年12月: 電子行政オープン データ実務者会議 • 初期から交通データは主要な対象 https://www.mlit.go.jp/common/001177089.pdf https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h25/html/nc121220.html
現在: 土木・都市・交通分野のオープンデータが拡大 • x
交通: 身近であるが一市民からは近寄りにくい • 高度に政治的であり議論の場が分かりにくい・参加しづらい – どこに新幹線・高速道路を造るか・・・ • 議論が専門的であり「市民目線」を活かしにくい – 個人の考えや経験から公共の「べき論」に昇華させるのは難しい • 事業者が民間企業主体であり営利に繋がらないことは取り組み づらい – 鉄道会社、バス会社、高速道路会社などは民営企業
交通のそれぞれの分野における シビックテックの可能性を検討 1. 2. 3. 4. 5. 6. 公共交通の事業運営・オペレーション領域 交通政策立案・交通計画領域 道路交通制御領域 交通サービス可視化領域 MaaS・データ活用領域 (番外編)調査・報道領域
1. 公共交通の事業運営・オペレーション領域 • 鉄道・バス・タクシー会社 – 国に届け出た上で一定の資格を持ったものを含んで運用する必要 • 道路、インフラ建設・運営 • 専門領域であり、一定の技能や知識を備えたものを十分な数集 めて運営するのが業務効率上も望ましい • ライドシェア(ライドヘイリング)サービスに参加している 「市民」は「シビックテック」とは言いづらい
Uber • 2010年 サンフランシス コで設立 • 2011年 NY、パリ進出 • 2013年 東京でタクシー 配車開始 • 2015年 CMUの研究者40 名を引き抜き • 2015年福岡市でライド シェア実証実験、国交省 が中止 • 2016年 トヨタと提携 • 2016年 京丹後市で「さ さえ合い交通」
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2310_05local/231106/local02_01.pdf
2. 交通政策立案・交通計画領域 • 交通計画 – 道路をどこに建設するか、公共交通網をどのように整備するかなどを議論、決定 – 行政機関、委託されたコンサルティング企業や大学の研究者などが関与 • 「地域公共交通会議」には市民代表の参加が一般的
熊本における実施例 • 2016年に熊本地震が起 こっても、粛々と計画作り が進む。。。 • 次は2022年度にPT調査を 実施(2023年度に延期) 2018 • 鉄道会社、バス会社は行政 の管轄下にあるわけではな いので、詳細な路線や運行 計画はこの計画に従うわけ ではない
交通計画 誰がど のように決めて る? • 熊本都市圏の例 • パーソントリッ プ調査 • 需要から計画を 作るための、4段 階推定法のよう な学術的な方法 論がある 2012 2013 2014 2015
基礎データのオープンデータ化が進む • 全国道路・街路交通情勢調査(道路交通センサス) – 国土交通省が実施し全国の道路の通行量などを調査 • 大都市交通センサス – 国交省が3大都市圏の公共交通利用の実態を調査 – 最新版(R4年度)はICカードデータを利用 • 全国都市交通特性調査(旧全国都市パーソントリップ調査) – 国交省が全国横断的に人々の移動(トリップ)の特性を調査 • 都市圏パーソントリップ調査 – 一部の地方自治体が実施。首都圏は一部オープン化されたが多くの自治体ではまだオープン化が進んで いない • データそのものも公開され、誰でも分析し交通政策を立案、検証出来る環境が整い 始めている。 • 公共交通オープンデータなど民間主体のデータ公開も盛んに
「シビックテック」は進まず:予想される原因 • 交通計画は計画から実施まで数年から数十年を要する長期プロ ジェクトであり、長期的な財政基盤人材が整った組織でないと 関わるのが困難 • データ処理には一定以上の高度な知見が必要であり、交通の知 見とデータ処理の知見を兼ね備えた人材が少ない • 課題の解決には交通ネットワーク全般を考慮する必要があり、 小規模に課題を切り取ることが難しい • 技術や知見を備えた人材はほぼ何らかの形で業務として交通に 関わっており、市民としての発信が難しい
3. 道路交通制御領域 • 交通制御とは – 交通安全や交通の円滑性のために道路走行に一定の規則を定め、道路標識や信号機などの形でそれを知 らしめたり、取締によってそれを守ることを求める • 公権力の行使として各都道府県警察が担当 – 交通管制センターに県内の交通量や渋滞など交通状況のデータが集められ、信号制御や運行規制などを 実施 – 交通違反に対する取り締まりを実施 • オープンデータ – 全国の交通規制情報、断面交通量情報、交差点制御情報(信号の動作に関する情報)をオープンデータ 提供 – 公益財団法人日本道路交通情報センター(JARTIC) • 権力の行使である道路交通制御の分野におけるシビックテックの可能性は?
4. 交通サービス可視化領域 • 分かりにくい交通サービスを 地図化、可視化し利便性を向 上 • オープンデータによって誰で も取り組める領域に バスマップ沖縄
バスマップ • わかりにくく、情報不足な路線バスを「バス マップ」で可視化 • 市民主体で、路線バスに知見を有するものが 地域全体のバスを一括して把握可能なマップ を作成し、その利便性を高めようという活動 • 路線バス会社の地図は情報が一社に限られる など利用者目線からは満足出来ないものが多 かった • バスマップサミット – 全国の実践者の交流イベント – バスマップ作成技術の情報交換など • 継続性に困難がある場合も多い
SNSで交通分析がバズる • 交通ビッグデータ をSQLとGISで可 視化・分析 – 今週:データ整形・分 析 – 来週:複数データの統 合・GISとの統合 https://twitter.com/kasobus/status/1650806981043814401 https://twitter.com/ShinagawaJP/sta tus/1649382482947739648
5. MaaS・データ活用領域 • 交通オープンデータを活用したアプリやサービス開発 • 東京公共交通オープンデータチャレンジ – 東京オリンピックに合わせて公共交通オープンデータ協議会が主催、データ公開 によって来訪者向けのアプリ開発が促されるなどデータ整備やデータ活用が促進 されてきた。 • MaaS (Mobility as a Service) – ITによって既存の公共交通を統合して一貫した利便性を実現するあたらしい公共 交通サービスの構想 – MaaSの実現のためには、公共交通オープンデータを活用してデータ基盤を開発 • オープンデータによって、公共交通事業者ではないプレイヤー が公共交通に関わるように
市民発のアプリも登場 • Aa 青バスなう! https://sonohino-kibunshidai.org/aobus_now/ UnoMap https://play.google.com/store/apps/details?id=work.momizi.unomap&hl=ja
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6. (番外編)調査・報道領域 • データを活用した調査報道の一環として、データを用いて交通 に関わる社会問題を明らかにした報道 – 交通安全に関わる顕在化していなかった社会課題に光を当てる試み • 読売新聞「危険なバス停」 – 交差点のそばにあるバス停の危険性を訴えた • 朝日新聞「みえない交差点」 – 全国の交通事故データを調査し、顕在化していなかった事故多発地点を調べた
まとめ • 交通領域における、市民によるIT・データ活用の試みや可能性を論 じた。 • オープンデータやデータ活用ツールの整備 – 道路交通、公共交通など様々な交通分野で、行政や交通事業者によるオープンデータが 進み、シビックテックの土台が整いつつある • 「シビックテック」以前から市民主体の活動も – ITやオープンデータによって高度化 • 専門性・組織性の必要性 – 交通は、多くの人の生活に関わる領域であり市民の関心が高い一方、データの活用や社 会実装などには高度な技術力や組織力などが必要になりシビックテックとして進めるに はハードルが高い。