エビデンスの統合から推奨の作成

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一般社団法人臨床疫学研究推進機構

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1.

エビデンスの統合から推奨の作成 奥村泰之 ⼀般財団法⼈ 医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構 研究部 主任研究員 臨床疫学研究における報告の質向上のための統計学の研究会 第27回研究集会 2016/12/17 (⼟) 15:50~16:40 東京医科⻭科⼤学 湯島キャンパス 1号館⻄7階 ⼝腔保健学科第3講義室

2.

推奨作成の流れ 2

3.

発表構成 エビデンスの要約 エビデンスから推奨へ 総体エビデンスの確信性 価値観と好みの不確実性と変動性 効果のバランス 資源利⽤ EtD Framework 3

4.

エビデンスの要約

5.

エビデンスプロファイル ⼼房細動へのダビガトランとワルファリンの⽐較 ①エビデンスの 確信性評価の要約 Alonso-Coello P et al: BMJ. 2016 Jun 30;353:i2089. ②結果の要約 5

6.

①エビデンスの確信性の要約 ⼼房細動へのダビガトランとワルファリンの⽐較 患者数 (研究数) 追跡期間 バイアス ⾮⼀貫性 ⾮直接性 不精確さ 出版 エビデンスの へのリス バイアス 確信性 ク 死亡 (重⼤なアウトカム) 12098 (1研究) 2年間 深刻 深刻な⾮ 深刻な⾮ 深刻な不 検出なし 中 (バイアスへの ⼀貫性な 直性なし 正確さな リスクのため) し し 脳卒中/全⾝性塞栓症 (重⼤なアウトカム) 12098 (1研究) 2年間 深刻 深刻な⾮ 深刻な⾮ 深刻な不 検出なし 中 (バイアスへの ⼀貫性な 直性なし 正確さな リスクのため) し し ⼼筋梗塞 (重⼤なアウトカム) 12098 (1研究) 2年間 深刻 深刻な⾮ 深刻な⾮ 深刻 ⼀貫性な 直性なし し Alonso-Coello P et al: BMJ. 2016 Jun 30;353:i2089. 検出なし 低 (バイアスへの リスクと不正確さ のため) 6

7.

②結果の要約 ⼼房細動へのダビガトランとワルファリンの⽐較 イベント発⽣率 (%) ワルファリン ダビガトラン 予想される絶対リスク 相対リスク (95%信頼区間) ワルファリン のリスク ダビガトランとの リスク差 (95% 信 頼区間) 0.90 (0.79~1.01) 81/1000 -8/1000 (-17~+1) 0.66 (0.54~0.82) 34/1000 -11/1000 (-15~-6) 1.29 (0.96~1.73) 12/1000 +4/1000 (0~+9) 死亡 (重⼤なアウトカム) 487/6022 (7.6%) 438/6076 (7.2%) 脳卒中/全⾝性塞栓症 (重⼤なアウトカム) 202/6022 (3.4%) 134/6076 (2.2%) ⼼筋梗塞 (重⼤なアウトカム) 75/6022 (3.4%) 97/6076 (2.2%) Alonso-Coello P et al: BMJ. 2016 Jun 30;353:i2089. 7

8.

相対リスクの選択法 (1) 基本はリスク⽐を選択 (2) リスク⽐>1かつ対照群のリスクが⾼い結果, 介⼊群のリスクが1を超える場合,オッズ⽐を選択 (e.g., 1.5 (RR)×0.67 (対照群のリスク) = 1.005 (介⼊群のリスク) 指標 リスク⽐ (risk ratio) オッズ⽐ (odds ratio) ハザード⽐ (hazard ratio) 解釈 絶対リスク 数学的 算出 への変換 性質 可能性 ◎ ◎ △ ◎ × △ ◎ ◎ △ × × × Guyatt GH et al: J Clin Epidemiol. 2013 Feb;66(2):158-72. 8

9.

予想される絶対リスクの推定法 ⼿順 事例 ①相対リスクの統合 1つのRCTから,リスク⽐を統合 (RR, 0.90) ②対照群のリスクの設定 観察研究から1000⼈に81名 ③介⼊群のリスクの推定 81 (対照群のリスク) ×0.9 (RR) = 73/1000 ④絶対リスクの推定 73 (介⼊群のリスク) − 81 (対照群のリス ク) =−8/1000 (理想的には,良くデザイン された観察研究から) Guyatt GH et al: J Clin Epidemiol. 2013 Feb;66(2):158-72. 9

10.

Summary of Findings (SoF) テーブル エビデンスプロファイルの結果の要約+コメント Carrasco-Labra A et al: J Clin Epidemiol. 2016 Jun;74:7-18. 10

11.

⼆分変数のSoFテーブル 慢性副⿐腔炎への副腎⽪質ステロイドとプラセボの⽐較 予想される絶対リスク (95% 信頼区間) アウトカム 患者数 (研究数) 相対リスク (95% 信頼 区間) ステロ イドなし ステロ イドあり 差 エビデン スの確信 性 どうなるか 気分変調 2週間 40 (1RCT) RR 2.50 (0.55~11.41) 100/1000 250/1000 +150/1000 (−45~+1041) ⊕⊕○○ ステロイド群の⽅ が気分変調の有害 事象が多いか不確 かである 胃腸障害 3か⽉ 187 (3RCTs) RR 3.45 (1.11~10.78) 47/1000 160/1000 +114/1000 (+5~+455) ⊕⊕○○ ステロイド群の⽅ が胃腸障害の有害 事象が多い 不眠 3か⽉ 187 (3RCTs) RR 3.63 (1.10~11.95) 23/1000 84/1000 +61/1000 (+2~+255) ⊕⊕○○ ステロイド群の⽅ が不眠の有害事象 が多い Head K et al: Cochrane Database Syst Rev. 2016 Apr 26;4:CD011992. 11

12.

量的変数のSoFテーブル 慢性副⿐腔炎への副腎⽪質ステロイドとプラセボの⽐較 予想される絶対リスク (95% 信頼区間) 相対リス ク (95% 信頼区 間) ステ ロ イド なし ステ ロ イド あり 差 エビデ ンスの 確信性 どうなるか 疾病特異的QoL (RSOM-31) 2週間 40 (1RCT) 介⼊群の⽅が 1.24SD低い (−1.92~−0.56) ⊕⊕○○ 得点が低いほど機能障害が改 善していることを⽰す。ステ ロイドの治療効果は肯定的で ある。標準化平均値差1.24は ⼤きな効果と考えられる。 ⾃⼰報告式の重 症度 2週間 114 (1RCTs) 変化量は介⼊ 群の⽅が 2.28SD低い (−2.76~−1.80) ⊕⊕○○ 得点が低いほどステロイドが 肯定的であることを⽰す。標 準化平均値差2.28は⼤きな効 果と考えられる。ステロイド 治療を受けている患者は, 2~3週間時点でかなり穏やか な症状になる。 アウトカム 患者数 (研究数) Head K et al: Cochrane Database Syst Rev. 2016 Apr 26;4:CD011992. 12

13.

量的変数の要約法 ①標準偏差の単位 ②最も⼀般的な尺度単位に変換 ③相対リスクと絶対リスクに変換 ④平均値の⽐ ⑤意味のある最⼩限の群間差の単位 Johnson BC et al: Health Qual Life Outcomes. 2013; 11: 211. Guyatt GH et al: J Clin Epidemiol. 2013 Feb;66(2):173-83.s 13

14.

①標準偏差の単位 (標準化平均値差) standard deviation units (standardized mean difference) 説明 ■標準偏差の単位で表現された平均値差 利点 ■広く使われている ⽋点 ■解釈困難 ■研究間の調査対象の異質性あるいは等質性が 強い場合に,推定値が偏る 推奨 ■唯⼀の⽅法として使うべきでない Johnson BC et al: Health Qual Life Outcomes. 2013; 11: 211. Guyatt GH et al: J Clin Epidemiol. 2013 Feb;66(2):173-83.s 14

15.

②最も⼀般的な尺度単位に変換 conversion into units of the most commonly used instrument 説明 ■最も⼀般的な尺度単位に線形変換 利点 ■良く知られている尺度があると解釈が容易 ⽋点 ■容易に解釈できるほど臨床で使われている尺 度が少ない 推奨 ■尺度単位の変換法は,標準偏差あるいは再ス ケール化に基づく⽅法がある。後者の⽅法が推 奨される。 Johnson BC et al: Health Qual Life Outcomes. 2013; 11: 211. Guyatt GH et al: J Clin Epidemiol. 2013 Feb;66(2):173-83.s 15

16.

③相対リスクと絶対リスクに変換 conversion to relative and absolute effects 説明 ■カットオフ値以上となる両群の割合を推計し, 相対リスクと絶対リスクに変換する 利点 ■臨床家にとって馴染みがある ■GRADEが定義する効果の⼤きさの基準を適⽤ できる ⽋点 ■統計学的に無理のある仮定を置く 推奨 ■意味のある最⼩限の郡内差がわかる場合,標 準化平均値差を使うよりも望ましい ■この選択肢を常に考慮すべきである Johnson BC et al: Health Qual Life Outcomes. 2013; 11: 211. Guyatt GH et al: J Clin Epidemiol. 2013 Feb;66(2):173-83.s 16

17.

④平均値の⽐ ratio of means 説明 ■介⼊群と対照群の平均値の⽐を求める 利点 ■臨床家にとって解釈しやすいかもしれない ■統計学的に無理のある仮定が少ない ⽋点 ■変化量には適⽤できない ■解釈には対照群の平均についての知識が必要 推奨 ■特に,相対リスクと絶対リスクの補完として 利⽤を考慮すべきである Johnson BC et al: Health Qual Life Outcomes. 2013; 11: 211. Guyatt GH et al: J Clin Epidemiol. 2013 Feb;66(2):173-83.s 17

18.

⑤最⼩限の意味のある群間差の単位 minimally important difference units 説明 ■最⼩限の意味のある群間差の単位で表現され た平均値差 利点 ■臨床家にとって解釈しやすいかもしれない ⽋点 ■最⼩限の意味のある群間差が知られている場 合にのみ利⽤できる 推奨 ■特に,相対リスクと絶対リスクの補完として 利⽤を考慮すべきである Johnson BC et al: Health Qual Life Outcomes. 2013; 11: 211. Guyatt GH et al: J Clin Epidemiol. 2013 Feb;66(2):173-83.s 18

19.

エビデンスから推奨へ

20.

4つの推奨, 「⽅向性」×「強さ」 強い 反対 弱い 反対 弱い 賛成 強い 賛成 連続体 Andrews J et al: J Clin Epidemiol. 2013 Jul;66(7):719-25. 20

21.

強い推奨の例 強い推奨 脳卒中のリスクが⾼い⼼房細動を有する患者 (例 えば,CHADS2スコアが2点以上) に対して,アス ピリンよりも経⼝抗凝固剤を推奨する Alonso-Coello P et al: BMJ. 2016 Jun 30;353:i2089. 21

22.

強い推奨の意味 意味 ■介⼊による望ましい効果 (重⼤あるいは重要なア ウトカム) が,望ましくない効果を上回ると強く確 信する 患者/臨床 ■全てあるいは殆ど全ての⼈は,介⼊に対する賛成 家の観点 (あるいは反対) の推奨を選択をしたいと思う 臨床家の 観点 ■介⼊選択の意思決定には⽐較的時間を使わず,実 施やアドヒアランスへの障壁を取り除くことに注⼒ する 政策担当 者の観点 ■個⼈や地域により,臨床実践に変動があることを 不適切と捉えうる ■医療の質の評価指標の候補となる Andrews J et al: J Clin Epidemiol. 2013 Jul;66(7):719-25. 22

23.

弱い推奨の例 弱い (条件付き) 推奨 脳卒中のリスクが中程度から⾼い⼼房細動を有 する患者 (例えば,CHADS2スコアが1点以上) に 対して,アドヒアランスが良好であるにもかか わらずワルファリンで奏功しない場合に限り, ダビガトランへ変更するといいだろう Alonso-Coello P et al: BMJ. 2016 Jun 30;353:i2089. 23

24.

弱い推奨の意味 意味 ■介⼊による望ましい効果 (重⼤あるいは重要なアウト カム) が,望ましくない効果を上回ると弱く確信する 患者/臨床 ■⼤抵の⼈が介⼊に対する賛成 (あるいは反対) の推奨を 家の観点 選択をしたいと思うが,そうでない⼈も相当数いる ■介⼊選択の意思決定には⽐較的時間を使う必要がある。 臨床家の観 意思決定共有の際,介⼊選択に対する個々⼈の価値観と 点 好みを確かめる。 ■個⼈や地域により,臨床実践に変動があることを適切 と捉えうる 政策⽴案者 ■医療の質の評価指標として不適切である の観点 ■政策⽴案には,⼗分な議論と多くの利害関係者の関与 を必要とする Andrews J et al: J Clin Epidemiol. 2013 Jul;66(7):719-25. 24

25.

推奨の強さの4要因 総体エビデンスの 価値観と好みの 確信性 不確実性と変動性 効果のバランス 資源利⽤ Andrews JC et al: J Clin Epidemiol. 2013 Jul;66(7):726-35. 25

26.

総体エビデンスの確信性

27.

総体エビデンスの確信性により 推奨の強さが変わる エビデンスの確信性が ⾼いあるいは中等度 ➡強い推奨 エビデンスの確信性が低い ➡弱い推奨 アウトカム エビデンスの確信性 ⾎栓後症候群 ⊕⊕⊕○ 静脈⾎栓塞栓症の再発 ⊕⊕⊕○ 総体エビデンスの確信性 ⊕⊕⊕○ Andrews JC et al: J Clin Epidemiol. 2013 Jul;66(7):726-35. 27

28.

アウトカムの重要性を事前設定 腎不全と⾼リン⾎症を有する患者へのリン低下薬の有効性 重⼤ 9 8 7 重要 6 5 死亡 急性⼼筋梗塞 ⾻折 痛み 重要でない 4 3 2 1 Guyatt GH et al: J Clin Epidemiol. 2011 Apr;64(4):395-400. 28

29.

アウトカムごとの確信性を評価 ⾜の急性深部静脈⾎栓症への弾性ストッキングの有効性 アウトカム ⾎栓後症候群 重要性 エビデンスの 確信性 重⼤ ⊕⊕⊕○ 静脈⾎栓塞栓症の再発 重⼤ ⊕⊕⊕○ ⾜の急な痛み 重要 ⊕⊕⊕○ ⽣活の質 重⼤ ⊕⊕⊕⊕ Kearon C et al: Chest. 2016 Feb;149(2):315-52. 29

30.

アウトカム全体の確信性を評価 ⾜の急性深部静脈⾎栓症への弾性ストッキングの有効性 (1) 重⼤なアウトカムに着⽬ (2) 全体の確信性は,最も低いものを採⽤ アウトカム ⾎栓後症候群 重要性 エビデンスの 確信性 重⼤ ⊕⊕⊕○ 静脈⾎栓塞栓症の再発 重⼤ ⊕⊕⊕○ ⾜の急な痛み 重要 ⊕⊕⊕○ ⽣活の質 重⼤ ⊕⊕⊕⊕ Kearon C et al: Chest. 2016 Feb;149(2):315-52. 30

31.

重⼤なアウトカムの事後的格下げ① 注) 慎重な判断が必須&滅多にない 事前 「吐き気」=重⼤ 系統的レビュー 「吐き気」の発⽣3%未満 有害事象の発現率が ⾮常に低いと判断 事後的格下げ 「吐き気」=重要 Guyatt GH et al: J Clin Epidemiol. 2013 Feb;66(2):151-7. 31

32.

重⼤なアウトカムの事後的格下げ② 注) 慎重な判断が必須&滅多にない (1) いくつかの重⼤なアウトカムの確信性が相対的に⾼い (2) (1) のアウトカムの効果推定値は介⼊効果を肯定 (3) ⼀部の重⼤なアウトカムの確信性が相対的に低い (4) (3) のアウトカムの効果推定値は介⼊効果を肯定 (5) (3) のアウトカムの重要性を重⼤から重要に格下げ 重⼤な アウトカム 死亡 エビデンスの 介⼊効果 確信性 の⽅向性 肯定 ⊕⊕⊕○ 急性⼼筋梗塞 ⊕⊕⊕⊕ ⊕⊕⊕⊕ ⊕⊕⊕⊕ 脳卒中 有害事象 Guyatt GH et al: J Clin Epidemiol. 2013 Feb;66(2):151-7. 肯定 肯定 肯定 32

33.

価値観と好みの不確実性と変動性 33

34.

価値観と好みの不確実性と変動性により 推奨の強さが変わる 価値観と好みの不確実性が低い あるいは変動性が⼩さい ➡強い推奨 Andrews JC et al: J Clin Epidemiol. 2013 Jul;66(7):726-35. 価値観と好みの不確実性が⾼い あるいは変動性が⼤きい ➡弱い推奨 34

35.

強い推奨となる価値観の不確実性の例 価値観の不確実性が低い 実証研究から,患者は,重篤な胃腸出⾎よりも, 障害が残る脳卒中を避けることに⾼い価値を置く ことが⽰されている Andrews JC et al: J Clin Epidemiol. 2013 Jul;66(7):726-35. 35

36.

弱い推奨となる価値観の不確実性の例 価値観の不確実性が⾼い 再⼿術を必要とする術後出⾎と,術後の重篤であ るが⾮致死的な肺塞栓を⽐べ,どちらを避けるこ とに患者が価値を置くかに関する実証研究がない Andrews JC et al: J Clin Epidemiol. 2013 Jul;66(7):726-35. 36

37.

強い推奨となる価値観の変動性の例 価値観の変動性が⼩さい リンパ腫を有する若い患者は必ず,化学療法によ る有害事象を避けるよりも,⽣存期間の延伸に⾼ い価値を置く Andrews JC et al: J Clin Epidemiol. 2013 Jul;66(7):726-35. 37

38.

弱い推奨となる価値観の変動性の例 価値観の変動性が⼤きい リンパ腫を有する⾼齢の患者の⼀部は,化学療法 による有害事象を避けるよりも,⽣存期間の延伸 に⾼い価値を置く,⼀⽅で,そうでない⼈もいる Andrews JC et al: J Clin Epidemiol. 2013 Jul;66(7):726-35. 38

39.

エビデンスが同⼀でも 価値観と好みにより推奨が変わる アテローム性⾎管疾患に対する アスピリンとクロピドグレル使⽤に関する推奨 クロピドグレルを推奨 脳卒中の⼩さな予防効果に⾼い価値を置く,⼀ ⽅で,薬剤費の最⼩化に低い価値を置く アスピリンを推奨 ⾎管イベントの⼩さな予防効果を得るために要 する,⼤きな薬剤費の削減に⾼い価値を置く Andrews J et al: J Clin Epidemiol. 2013 Jul;66(7):719-25.

40.

価値観と好みの実証研究例 患者61名,医師63名へのインタビュー調査 Devereaux PJ et al: BMJ. 2001 Nov 24;323(7323):1218-22 40

41.

①対照治療の呈⽰ (卓球法) 抗凝固剤不使⽤のアウトカム ■脳卒中のリスク...12/100 ■出⾎のリスク...3/100 Devereaux PJ et al: BMJ. 2001 Nov 24;323(7323):1218-22 41

42.

②実験治療の呈⽰1回⽬ (卓球法) 抗凝固剤使⽤のアウトカム ■脳卒中のリスク...0/100 ■出⾎のリスク...5/100 ⽐ 較 ■使⽤を推奨する➡呈⽰2回⽬へ ■使⽤を推奨しない➡閾値∞ 抗凝固剤不使⽤のアウトカム ■脳卒中のリスク...12/100 ■出⾎のリスク...3/100 Devereaux PJ et al: BMJ. 2001 Nov 24;323(7323):1218-22 42

43.

③実験治療の呈⽰2回⽬ (卓球法) 11 抗凝固剤使⽤のアウトカム ■脳卒中のリスク...11/100 ■出⾎のリスク...5/100 ⽐ 較 ■使⽤を推奨する➡閾値1% ■使⽤を推奨しない➡呈⽰3回⽬へ 抗凝固剤不使⽤のアウトカム ■脳卒中のリスク...12/100 ■出⾎のリスク...3/100 Devereaux PJ et al: BMJ. 2001 Nov 24;323(7323):1218-22 43

44.

④実験治療の呈⽰3回⽬ (卓球法) 1 抗凝固剤使⽤のアウトカム ■脳卒中のリスク...1/100 ■出⾎のリスク...5/100 ⽐ 較 ■使⽤を推奨する➡呈⽰4回⽬へ ■使⽤を推奨しない➡閾値11% 抗凝固剤不使⽤のアウトカム ■脳卒中のリスク...12/100 ■出⾎のリスク...3/100 Devereaux PJ et al: BMJ. 2001 Nov 24;323(7323):1218-22 44

45.

患者の74%,出⾎リスク2%増の状況で, 脳卒中予防効果1%を受容 (相対リスク0.91) Devereaux PJ et al: BMJ. 2001 Nov 24;323(7323):1218-22 45

46.

効果のバランス

47.

効果のバランスが明確/拮抗により 推奨の強さが変わる 望ましい効果と望ましくない 効果の差が⼤きい ➡強い推奨 望ましい効果と望ましくない 効果の差が⼩さい ➡弱い推奨 Andrews JC et al: J Clin Epidemiol. 2013 Jul;66(7):726-35. 47

48.

強い推奨となる効果のバランス例 望ましい効果と望ましくない 効果の差が⼤きい 急性⼼筋梗塞後のアスピリンは,最低限の毒性, 不便と費⽤であり,死亡を減少する Andrews JC et al: J Clin Epidemiol. 2013 Jul;66(7):726-35. 48

49.

弱い推奨となる効果のバランス例 望ましい効果と望ましくない 効果の差が⼩さい 脳卒中のリスクが中程度の⼼房細動を有する患 者 (CHADS2スコアが1点以上) に対する,抗凝固 薬とアスピリンを⽐較すると,脳卒中予防への 有効性は拮抗する⼀⽅で,出⾎リスクが増加す る Andrews JC et al: J Clin Epidemiol. 2013 Jul;66(7):726-35. 49

50.

効果のバランス評価の2領域 望ましい効果と 望ましい効果と 望ましくない効果の 望ましくない効果の 効果推定値 価値観と好み Andrews JC et al: J Clin Epidemiol. 2013 Jul;66(7):726-35. 50

51.

価値観と好みの観点が不可⽋ 化学療法による 死亡率減少の効果が⼩さい 化学療法による 有害事象発⽣の効果が⼤きい ⼤部分の患者は ⼩さな死亡率減少効果を ⼤きな有害事象発⽣効果より 重要視する 化学療法が良い 0 Andrews JC et al: J Clin Epidemiol. 2013 Jul;66(7):726-35. 化学療法が悪い 51

52.

資源利⽤

53.

資源利⽤により推奨の強さが変わる 介⼊の費⽤が安い 多くの資源が不要 ➡強い推奨 Andrews JC et al: J Clin Epidemiol. 2013 Jul;66(7):726-35. 介⼊の費⽤が⾼い 多くの資源が必要 ➡弱い推奨 53

54.

資源利⽤のSoFテーブル ヘロイン依存へのメサドンとブプレノルフィンの⽐較 予想される絶対リスク (95% 信頼区間) アウトカム 患者数 (研究数) メサドン ブプレノルフィン 差 エビデン スの確信 性 薬剤費 6か⽉ごと 405 (1RCT) 57 mg/⽇ 37 AU$/半年 11 mg/⽇ 459 AU$/半年 +422 AU$/半年/患者 ⊕⊕⊕○ 他のコスト (ス タッフの時間/診 断/設備費) 6か⽉ごと 405 (1RCT) 1378 AU$/半年 1270 AU$/半年 -108 AU$/半年/患者 ⊕⊕⊕○ Brunetti M et al: J Clin Epidemiol. 2013 Feb;66(2):140-50. 54

55.

資源利⽤の重要事項 重⼤あるいは重要な資源利⽤に限定して,エ ビデンスプロファイルに含める 介⼊群と対照群の資源利⽤の相違を⽰す推定 値を求める 資源利⽤は⾃然な単位 (在院⽇数や診療に要し た時間) で表現する 重⼤あるいは重要な資源利⽤のアウトカムご とに,エビデンスの確信性を評価する Brunetti M et al: J Clin Epidemiol. 2013 Feb;66(2):140-50. 55

56.

資源の種類① 保健医療資源 ⾮保健医療資源 • 介⼊ (薬剤,⼿術など) • 住宅の改修 • 検査 • 特別⾷ • 診察 • 保健医療施設への移送 • 救急搬送 • 社会福祉 (職業訓練など) • 救急受診 • 犯罪 (収監など) • ⼊院 • 専⾨医への受診 • プライマリケア医への受診 • 在宅医療 Brunetti M et al: J Clin Epidemiol. 2013 Feb;66(2):140-50. 56

57.

資源の種類② 患者と家族の資源 • 受診 • ⼊院 ⽣産性 • 疾病,治療や介護による 労働時間の損失 • セルフケアの時間 • 家族の時間 Brunetti M et al: J Clin Epidemiol. 2013 Feb;66(2):140-50. 57

58.

観点により含める資源が異なる 社会全体の観点 • 幅広い観点 • 保健医療資源,⾮保健医療資 源,患者と家族の資源などを 含む • 患者⾃⼰負担割合に依存しな 保健医療制度の観点 • 保健医療制度が負う費⽤の観 点 • 保健医療資源を含むが,⾮保 健医療資源などを含まない • 患者⾃⼰負担割合に依存する い 58

59.

Evidence to Decision (EtD) Framework

60.

エビデンスから推奨を導くための枠組み EtD Framework 疑問の定式化 エビデンスの Alonso-Coello P et al: BMJ. 2016 Jun 28;353:i2016. 評価 結論の導出 60

61.

疑問の定式化 P : I : C : O: 40~49歳の⼥性 2~3年ごとの乳がん検診 定期的な乳がん検診なし ■全死亡 (重⼤) ■乳がんによる死亡 (重⼤) ■乳房切除あるいは乳腺腫瘤摘出 (重要) ■偽陽性 (不必要な⽣検) ■検診の負担 Canadian Task Force on Preventive Health Care et al: CMAJ. 2011 Nov 22;183(17):1991-2001. https://ietd.epistemonikos.org/#/frameworks/54eba0482b38677807178979/question 61

62.

疑問の定式化 セッティング: ヨーロッパ諸国 観 点 : 厚⽣省の観点 ハイリスク者,乳がん検診を受けられな サブグループ: い層 Canadian Task Force on Preventive Health Care et al: CMAJ. 2011 Nov 22;183(17):1991-2001. https://ietd.epistemonikos.org/#/frameworks/54eba0482b38677807178979/question 62

63.

総体エビデンスの確信性 ■全死亡 重要性 エビデンス の確信性 重⼤ ⊕⊕⊕○ ■乳がんによる死亡 重⼤ ⊕⊕⊕○ ■乳房切除あるいは乳腺腫瘤摘出 重要 ⊕⊕⊕○ ■偽陽性 (不必要な⽣検) ︖ ⊕○○○ ■検診の負担 ︖ ⊕⊕⊕⊕ アウトカム Canadian Task Force on Preventive Health Care et al: CMAJ. 2011 Nov 22;183(17):1991-2001. https://ietd.epistemonikos.org/#/frameworks/54eba0482b38677807178979/question 63

64.

総体エビデンスの確信性=⊕⊕⊕○ ■全死亡 (重⼤) 重要性 エビデンス の確信性 重⼤ ⊕⊕⊕○ ■乳がんによる死亡 (重⼤) 重⼤ ⊕⊕⊕○ ■乳房切除あるいは乳腺腫瘤摘出 重要 ⊕⊕⊕○ ■偽陽性 (不必要な⽣検) ︖ ⊕○○○ ■検診の負担 ︖ ⊕⊕⊕⊕ アウトカム Canadian Task Force on Preventive Health Care et al: CMAJ. 2011 Nov 22;183(17):1991-2001. https://ietd.epistemonikos.org/#/frameworks/54eba0482b38677807178979/question 64

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価値観と好みの不確実性と変動性 アウトカムの重要性に関する研究は限られている 価値観の不確実性と変動性は不確かである ⼀般の⼥性は,乳がん検診により乳がんによる死亡 リスクが下がると信じている Canadian Task Force on Preventive Health Care et al: CMAJ. 2011 Nov 22;183(17):1991-2001. https://ietd.epistemonikos.org/#/frameworks/54eba0482b38677807178979/question 65

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望ましい効果 予想される絶対リスク (95% 信頼区間) アウトカム 患者数 (研究数) 相対リスク (95% 信頼 区間) 検診なし 検診あり 差 エビデン スの確信 性 どうなるか 全死亡 11.4年 211270 (2RCT) RR 0.97 (0.91~1.04) 1.81% 1.76% -5/10000 (-16~+7) ⊕⊕⊕○ 検診は,死亡率を殆 ど下げないあるいは 変わらないだろう 乳がんによる死亡 11.4年 348219 (8RCT) RR 0.85 (0.75~0.96) 0.32% 0.27% -5/10000 (-8~-1) ⊕⊕⊕○ 検診は,乳がんによ る死亡を下げるだろ う Canadian Task Force on Preventive Health Care et al: CMAJ. 2011 Nov 22;183(17):1991-2001. https://ietd.epistemonikos.org/#/frameworks/54eba0482b38677807178979/question 66

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望ましくない効果 予想される絶対リスク (95% 信頼区間) アウトカム 患者数 (研究数) 相対リスク (95% 信頼 区間) 検診なし 検診あり 差 エビデン スの確信 性 どうなるか 乳房切除あるいは 乳腺腫瘤摘出 11.4年 132321 (3RCT) RR 1.31 (1.22~1.42) 1.63% 2.15% +52/10000 (+36~+70) ⊕⊕⊕○ 検診は,不必要な⼿ 術を増やす 偽陽性 11.4年 3分の1が1度は偽陽性となり,595名が1度は⽣検 を受け,うち435名が陰性である ⊕○○○ 検診の偽陽性により, 多くの⼈が精密検査 を必要とする 検診の負担 検診による⼼理的,経済的,時間的負担 ⊕⊕⊕○ 検診により,負担を 感じる Canadian Task Force on Preventive Health Care et al: CMAJ. 2011 Nov 22;183(17):1991-2001. https://ietd.epistemonikos.org/#/frameworks/54eba0482b38677807178979/question 67

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資源利⽤ 国により検診の単価が異なる ノルウェーの単価は100ユーロ (⼈件費や場所代を含む) 300万⼈に対して,2年に1回の検診をすると,1年あ たり1億6000万ユーロの費⽤を要する Canadian Task Force on Preventive Health Care et al: CMAJ. 2011 Nov 22;183(17):1991-2001. https://ietd.epistemonikos.org/#/frameworks/54eba0482b38677807178979/question 68

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費⽤対効果 3~4年ごとの検診による1QALY延⻑あたりの費⽤は 10万ユーロ (約1200万円) 2年ごとの検診による1QALY延⻑あたりの費⽤は20 万ユーロ (約2500万円) Canadian Task Force on Preventive Health Care et al: CMAJ. 2011 Nov 22;183(17):1991-2001. https://ietd.epistemonikos.org/#/frameworks/54eba0482b38677807178979/question 69

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資源利⽤の確信性 費⽤や費⽤対効果は,不確実性が⾼い モデルなどの変動性が⼤きいことに加え,対象とす る集団が40~49歳に限らない 40~49歳において,検診が費⽤対効果的であること はありそうにない Canadian Task Force on Preventive Health Care et al: CMAJ. 2011 Nov 22;183(17):1991-2001. https://ietd.epistemonikos.org/#/frameworks/54eba0482b38677807178979/question 70

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結論の導出,推奨 40~49歳の⼥性に対して,2年ごとに乳がん検診する ことを推奨しない (弱い推奨; 中等度の確信性) 乳がん検診をする医師は,乳がんのリスクを説明し, 患者の好みを個別に考慮すべきである Canadian Task Force on Preventive Health Care et al: CMAJ. 2011 Nov 22;183(17):1991-2001. https://ietd.epistemonikos.org/#/frameworks/54eba0482b38677807178979/question 71

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結論の導出,正当性  検診により全死亡が減少しない,乳がんによる 死亡も僅かにしか減らないことを⽰す中等度の エビデンスがある  過剰診断により不必要な⼿術,⽣検や不安を多 くの⼥性が経験する  検診による望ましくない効果は,望ましい効果 を上回る Canadian Task Force on Preventive Health Care et al: CMAJ. 2011 Nov 22;183(17):1991-2001. https://ietd.epistemonikos.org/#/frameworks/54eba0482b38677807178979/question 72

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ガイドラインにより推奨が異なる Oeffinger KC et al: JAMA. 2015 Oct 20;314(15):1599-614. 73

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推薦⽂献 74