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May 05, 24
スライド概要
サイボウズ株式会社 / 株式会社知財塾 / Smart-IP株式会社
2C11 FRAND訴訟からみる 標準必須特許の合理的な 実施料算定方法に関する研究 次世代パテントプラットフォーム研究会 上池 睦, 小林 和人, 平塚 三好 Next-generation patent platform research group
はじめに 各FRAND訴訟の概要 算定された実施料の比較 実施料算定方法の分析 実施料算定方法の導出 Next-generation patent platform research group 2/48
はじめに 各FRAND訴訟の概要 算定された実施料の比較 実施料算定方法の分析 実施料算定方法の導出 Next-generation patent platform research group 3/48
FRAND? Next-generation patent platform research group 4/48
標準規格 特許 標準必須特許 (標準規格を使用する場合に必ず実施することになる特許) Next-generation patent platform research group 5/48
標準必須特許の 特許権者 標準化団体 標準を使いやすい条件で 特許の実施許諾の意思がある ことを宣言してくれ これがFRAND条件 Next-generation patent platform research group 6/48
FRANDとは • Fair, Reasonable, and Non-Discriminatory =公平、合理的、かつ非差別的 • 標準必須特許のライセンス条件を特許権者が自由に設定できて しまうと、標準規格の普及に支障が出る • 標準規格を低額で普及させることと、特許権者が特許実施料を 確保することを両立するためにできた条件 Next-generation patent platform research group 7/48
先行研究 特許庁(2018/6/5) 「標準必須特許のライセンス交渉に関する手引き」 複数の判決をまとめて以下等の内容を示した • 合理的な実施料を決めるための考慮要素 • 実施料算定方法の類型 • 比較可能ライセンスアプローチ 比較可能なライセンスを参照する方法 • トップダウンアプローチ 対象製品において上限となる実施料を標準必須特許の総件数で按分す る方法 Next-generation patent platform research group 8/48
現状の問題 「合理的」な額が決まっているわけではなく、 算出するための明確な判断基準もない 実施者 標準必須特許の この条件で特許実施料を払ってね 特許権者 FRANDな条件ではないのでは? Next-generation patent platform research group 9/48
つまり、、 「合理的」を独自に判断すると交渉がスムースに進まず、 不要な係争コストが発生し得る 具体的にどのように実施料を 算定するかが課題となる Next-generation patent platform research group 10/48
研究の目的 • 合理的な実施料算定方法の整理 • 算定方法の類型をどのように選択すればよいかの判断の提示 円滑な合意形成 Next-generation patent platform research group 11/48
研究方法 • FRAND訴訟における実施料算定方法の分析 • Microsoft v. Motorola(米国/ワシントン西区連邦地裁/2013.4) • Innovatio v. Cisco(米国/イリノイ州北区連邦地裁/2013.9) • Huawei v. InterDigital(中国/広東省高級人民法院/2013.10) • Apple v. Samsung(日本/知財高裁/2014.5) • CSIRO v. Cisco(米国/テキサス州東区連邦地裁/2014.7) • Unwired Planet v. Huawei(英国/高等法院/2017.4) • TCL v. Ericsson(米国/カリフォルニア連邦地裁/2017.11) • 算定された実施料の比較 • 実施料の算定に用いられた各要素の抽出 • 実施料算定方法の導出、アプローチ類型の選択 Next-generation patent platform research group 12/48
はじめに 各FRAND訴訟の概要 算定された実施料の比較 実施料算定方法の分析 実施料算定方法の導出 Next-generation patent platform research group 13/48
Microsoft判決 • 概要 • 国:アメリカ • 権利者:Motorola、実施者:Microsoft • 標準規格:H.264, 802.11 • 類型:トップダウン, 比較可能ライセンス • 特徴 • Georgia-Pacific factorの修正を行って判断基準を明らかにした • パテントプール形成時に議論に上がった実施料や特許評価会社の指標 を採用することで、実施料を範囲で算定した • XBoxの算定ではトップダウンアプローチによる算定結果と、他社への ライセンス、特許評価会社の指標の3つを比較して、これらの平均値か ら具体的な額を特定した Next-generation patent platform research group 14/48
Innovatio判決 • 概要 • 国:アメリカ • 権利者:Innovatio、実施者:Cisco • 標準規格:802.11 • 類型:トップダウン • 特徴 • 適切な実施料の算定基準を「発明を実行することができる最小販売単 位(SSPPU)」である無線LANチップと認定した • 製品当たりの上限となる実施料の基準や標準必須特許の総数を詳細に 判断し、トップダウンアプローチを用いて算定した Next-generation patent platform research group 15/48
Huawei判決 • 概要 • 国:中国 • 権利者:InterDigital、実施者:Huawei • 標準規格:3G • 類型:比較可能ライセンス • 特徴 • InterDigitalが平和裏に契約を行ったAppleに対する実施料率を基準と した Next-generation patent platform research group 16/48
Apple判決 • 概要 • 国:日本 • 権利者:Samsung、実施者:Apple • 標準規格:3G • 類型:トップダウン • 特徴 • 基準実施料率のベースを「対象製品の価格」でなく「対象製品に標準 規格の貢献の割合を乗じた金額」を採用した Next-generation patent platform research group 17/48
CSIRO判決 • 概要 • 国:アメリカ • 権利者:CSIRO、実施者:Cisco • 標準規格:802.11a • 類型:比較可能ライセンス • 特徴 • Ciscoの子会社であるLinksysとCSIROとの間でライセンスしていた 実施料を基準とした • 調整のためにLinksysとCiscoの売上総利益率の比率を乗算した Next-generation patent platform research group 18/48
Unwired Planet判決 • 概要 • 国:イギリス • 権利者:Unwired Planet、実施者:Huawei • 標準規格:2G, 3G, 4G • 類型:比較可能ライセンス, トップダウン • 特徴 • 対象特許を元々保有していたEricssonのライセンスを実施料率を基準 とした • EricssonとUnwired Planetがそれぞれ保有する特許ポートフォリオ数 を比較してその比率を乗算した • 実施料率の合理性を検証するためにトップダウンアプローチを用いた 算定も行い、Apple判決で基準となった実施料率と近しいことから、 実施料率が適正な範囲であると判断した Next-generation patent platform research group 19/48
TCL判決 • 概要 • 国:アメリカ • 権利者:Ericsson、実施者:TCL • 標準規格:2G, 3G, 4G • 類型:トップダウン、比較可能ライセンス • 特徴 • 4Gにおいては、実施料率上限を業界の基準とEricssonの主張の2種、 標準必須特許の総件数を両当事者の専門家からの技術分析結果の2種を もとに、それらの組み合わせの4種の実施料率を示した • Ericssonの他社へのライセンスの情報を比較対象とすることで、トッ プダウンアプローチによる算定結果を含めた複数の実施料率から、合 理的な実施料率を特定した Next-generation patent platform research group 20/48
はじめに 各FRAND訴訟の概要 算定された実施料の比較 実施料算定方法の分析 実施料算定方法の導出 Next-generation patent platform research group 21/48
特許1件当たりの実施料 (円) 2.00 1.80 1.60 1.40 1.20 1.00 0.80 0.60 0.40 0.20 0.00 H.264 802.11 Microsoft Next-generation patent platform research group 802.11 (Xbox) 802.11 Innovatio 3G (iPhone4) 3G (iPad2) Apple 802.11a CSIRO 22/48
特許1件当たりの実施料率 (%) 0.035 0.030 0.025 0.020 0.015 0.010 0.005 0.000 3G Huawei Next-generation patent platform research group 2G 3G Unwired Planet 4G 2G 3G 4G TCL 23/48
考察 • 算定額の合理性 • 実施料は1円前後 • 4Gの世界的な契約数は32億件 (https://gsacom.com/press-release/global-number-of-lte-subscribers-grows-by-almost-a-billion-in-the-last-year/) → 標準規格として広く普及することから、特許1件当たりの実施料は 低額であっても投資回収可能な合理性がある • アプローチ類型による差異は無い • 合理的な実施料を算出した各訴訟の算定要素を分析すれば、 合理的な実施料算定方法を導出可能 Next-generation patent platform research group 24/48
はじめに 各FRAND訴訟の概要 算定された実施料の比較 実施料算定方法の分析 実施料算定方法の導出 Next-generation patent platform research group 25/48
実施料算定の要素 • 対象製品の価格 • 比較実施料・実施料率 • 比較の調整値 • 基準実施料・実施料率 • 標準の寄与率 • 保有特許件数の比率 • 特許の価値 Next-generation patent platform research group 26/48
対象製品の価格 • 概要 • 全体市場価値ルール(The entire market value rule)において考え る場合は完成品 • SSPPUにおいて考える場合は最小販売単位である部品 製品価格 実施料 Next-generation patent platform research group 100% 実施料率(%) 27/48
対象製品の価格 • 判決における判断 • Innovatio判決:「発明を実行することができる最小販売単位」である 無線LANチップと認定 • CSIRO判決:本件特許が無線LANチップ以外に係る機能も有している と認定し、対象製品を無線LANルーターとした Next-generation patent platform research group 28/48
比較実施料・実施料率 • 概要 • 比較可能ライセンスアプローチにおける比較対象となる実施料(率) • 判決における判断 • Microsoft判決:実施者と他社とのライセンス、特許評価会社の指標 • Huawei判決, TCL判決:特許権者の他社へのライセンス • CSIRO判決:実施者の子会社と特許権者とのライセンス • Unwired Planet判決:対象特許を過去に保有していた企業と実施者と のライセンス Next-generation patent platform research group 29/48
比較の調整値 • 概要 • 比較可能ライセンスアプローチにおいて、比較した実施料を実際の当 事者の条件に沿うように調整するための値 比較の調整値 比較実施料(率) Next-generation patent platform research group 算定される 実施料(率) 30/48
比較の調整値 • 判決における判断 • Microsoft判決:参照した各ライセンスの平均 • CSIRO判決:売上総利益 • Unwired Planet判決:比較対象企業と特許権者の保有する特許件数の 比率 Next-generation patent platform research group 31/48
基準実施料・実施料率 • 概要 • トップダウンアプローチにおいて基準となる実施料(率) • パテントプールの実施料や、業界で基準となっている製品当たりの上 限となる実施料率 • 判決における判断 • Microsoft判決:パテントプールの実施料(H.264において0.3%、 802.11において4.2%) • Innovatio判決:ロイヤリティ上限(平均売上高利益率12.1%) • Apple判決, Unwired Planet判決:ロイヤリティ上限(業界基準の 5%) • TCL判決:ロイヤリティ上限(業界基準とEricssonの主張) Next-generation patent platform research group 32/48
標準の寄与率 • 概要 • 製品中において標準が貢献した割合 • トップダウンアプローチにおいては、本要素と基準実施料率を乗算し た値が、標準必須特許全ての実施料率を合わせた製品中の実施料率の 上限という位置づけになる → ロイヤリティスタッキング問題の回避 • 対象製品が部品の場合には、その部品中で標準が寄与する割合は高く なるため、対象製品が完成品の場合より寄与率は高い値となるのが妥 当 Next-generation patent platform research group 33/48
完成品 標準の寄与率 基準実施料(率) 部品 標準の寄与率 基準実施料(率) Next-generation patent platform research group 34/48
標準の寄与率 • 判決における判断 • Innovatio判決:製品にとっての重要性を考慮 • Apple判決:売上の中で規格が貢献した割合 → iPhone4において約13%、iPad2において約10% Next-generation patent platform research group 35/48
保有特許件数の比率 • 概要 • 特許権者が保有する標準必須特許の件数を標準必須特許全体の総件数 で除算することで算出する比率 • 比較ライセンスアプローチにおいて、比較の調整値として用いられる • トップダウンアプローチにおいて、製品の上限の実施料率の按分に用 いられる ・必須特許件数が1000件 ・保有特許件数が20件 = 比率は2% Next-generation patent platform research group この範囲の2%が実施料 36/48
保有特許件数の比率 • 判決における判断 • Microsoft判決:パテントプールで許諾されている特許件数から、保有 特許件数の比率を算定 • Innovatio判決:裁判所による推定 • Apple判決:特許評価会社のレポートを採用 • Unwired Planet判決:両当事者が算定した件数を裁判所が調整 • TCL判決:両当事者が算定した件数を採用 Next-generation patent platform research group 37/48
特許の価値 • 概要 • 特許権者が保有する標準必須特許の技術的な価値や標準への貢献度を 個別的に分析し、重みづけを行うための値 • 価値の高い場合は1を超える数、価値の低い場合は1未満の数になる • 判決における判断 • Microsoft判決:標準または製品に重大な技術的価値に貢献していない • Innovatio判決:中度、又は中度から高度の重要性 → 重要度は上位10%であり、その特許の標準への貢献度は84%であ ると認定 • Huawei判決:特許の質を考慮する • Apple判決, Unwired Planet判決, TCL判決:全て同等 • CSIRO判決:特許の価値は高いが、実施者のビジネスリスクと相殺 Next-generation patent platform research group 38/48
はじめに 各FRAND訴訟の概要 算定された実施料の比較 実施料算定方法の分析 実施料算定方法の導出 Next-generation patent platform research group 39/48
比較可能ライセンスアプローチ 【実施料】=【比較実施料】 ×【比較の調整値】×【特許の価値】 =【対象製品の価格】×【比較実施料率】 ×【比較の調整値】×【特許の価値】 Next-generation patent platform research group 40/48
比較可能ライセンスアプローチ 【実施料率】=【比較実施料率】 ×【比較の調整値】×【特許の価値】 =【比較実施料】÷【対象製品の価格】 ×【比較の調整値】×【特許の価値】 Next-generation patent platform research group 41/48
トップダウンアプローチ 【実施料】=【基準実施料】×【標準の寄与率】 ×【保有特許件数の比率】×【特許の価値】 =(【対象製品の価格】×【基準実施料率】) ×【標準の寄与率】×【保有特許件数の比率】 ×【特許の価値】 Next-generation patent platform research group 42/48
トップダウンアプローチ 【実施料率】=【基準実施料率】×【標準の寄与率】 ×【保有特許件数の比率】×【特許の価値】 =( 【基準実施料】÷【対象製品の価格】) ×【標準の寄与率】×【保有特許件数の比率】 ×【特許の価値】 Next-generation patent platform research group 43/48
アプローチ類型の選定 • 比較可能な実施料を特定できる場合 → 比較可能ライセンスアプローチを用いる方が 合意に至りやすい • トップダウンアプローチは特許件数の比率を算出するために標準必須 特許の総件数の特定が必要となるため • Unwired Planet判決においては、特許権者は実施料を高額にするため に総件数を少なく見積もり、一方実施者は多く見積もったため、両者 が算出した総件数に5倍以上の開きが発生した Next-generation patent platform research group 44/48
アプローチ類型の選定 • 比較可能ライセンスアプローチを用いた場合であっても、標準 必須特許の総件数の特定が可能であれば、トップダウンアプ ローチによる検証が有効 • 両アプローチを用いて実施料を範囲として算出し、その中から 対象製品における標準の寄与率や特許の価値の違いによって製 品ごとに実施料を変えることで合理性を高めるといった手法も 可能 Next-generation patent platform research group 45/48
まとめ Next-generation patent platform research group 46/48
• 複数のFRAND訴訟を分析した上で、標準必須特許の実 施料算定の「アプローチ類型」ごとに共通する実施料 算定の要素を抽出し、各アプローチ類型での算定方法 を導出した • 訴訟での個別の事情等の特徴からいずれのアプローチ 類型を選択するのが適当であるかの考え方を示した Next-generation patent platform research group 47/48
ご清聴ありがとうございました Next-generation patent platform research group Enjoying and doing something new challenge by power of iP with members together Next-generation patent platform research group