好み価値観フレームワーク2023

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August 01, 23

スライド概要

Zeng L, Helsingen LM, Bretthauer M, Agoritsas T, Vandvik PO, Mustafa RA, Busse J, Siemieniuk RAC, Lytvyn L, Li SA, Yang M, Yan L, Zhang L, Brignardello-Petersen R, Guyatt GH. A novel framework for incorporating patient values and preferences in making guideline recommendations: guideline panel surveys. J Clin Epidemiol. 2023 Sep;161:164-172. doi: 10.1016/j.jclinepi.2023.07.003. Epub 2023 Jul 13. PMID: 37453455.

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各ページのテキスト
1.

A novel framework for incorporating patient values and preferences in making guideline recommendations: guideline panel surveys https://www.jclinepi.com/article/S08954356(23)00175-0/fulltext

2.

1. Introduction 信頼できる臨床診療ガイドラインを作成するための基準には、患者の価値観と嗜好に基 づいた推奨が必要であることが含まれている [1,2]。患者の価値観と嗜好とは、様々な 管理選択肢の潜在的な利益、有害性、負担、コストを考慮する際に、個人が適用しうる 健康と生活に対する信念、期待、親和性、優先順位のことである [1]。 ガイドライン作成者にとって、患者の価値観や嗜好は、研究エビデンスを解釈し、推奨 を策定する上で極めて重要である [3] 。この25年間で、特に臨床的意思決定やガイドラ インにおける患者の価値観や嗜好の重要性がますます認識されるようになってきた。 1999年、JAMAの医学文献に関する利用者ガイドは、臨床診療ガイドラインに患者の価 値観や嗜好を明示的に取り入れる必要性を指摘し [4] 、2000年には別の利用者ガイド が、エビデンスに基づく医療の基本原則として患者の価値観を考慮する必要性を指摘し ている [5] 。コクラン共同計画もNational Institute for Clinical Excellence (NICE)も、 患者や介護者からの意見を重視している [6,7] 。 GRADE作業部会は、当初からエビデンスから意思決定へ移行する際の患者の価値観の役 割を強調してきた [8] 。さらに最近では、GRADEは、ガイドライン作成者に患者の価 値観や嗜好に関するエビデンスを検討し、その確実性を判断するとともに、患者間のば らつきを考慮するよう指示する、エビデンスから意思決定へのフレームワークを提供し ている [9,10] 。

3.

理想的には、対象となる患者の大規模サンプルを対象とした横断的調査で、患者が異な るアウトカムを相対的に重要視していることを知ることができる。 残念なことに、ほとんどの場合、対象集団を対象としたそのような調査は少ない。入手 できたとしても、調査結果が異なることが多く、解釈上の問題が生じる[11-14]。 患者パートナーやアドバイザリーグループに相談したり、フォーカスグループインタ ビューを実施したり、共有意思決定における経験を振り返ったりすることは有用かもし れないが、患者の価値観や嗜好に関する不確実性はどうしても残る[15- 17]。 従って、ガイドライン委員会はしばしば患者の価値観や嗜好を推論する必要がある。多 くのガイドラインは、価値観や嗜好に関する推論に至る過程や推奨を明確にしていない [11,12,14] 。 BMJ Rapid Recommendationsは、信頼でき、アクセスしやすく、タイムリーなガイダ ンスを作成することを目的とした国際的な臨床実践ガイドラインのイニシアティブであ る [18] 。この問題に対処するため、私たちのチームは、患者の価値観や嗜好に関する パネルの推測を定量的に確認するためのガイドラインパネル調査を開発・実施するため の5段階の枠組みを確立した。 この論文では、このフレームワークの開発について説明し、ガイドラインパネル調査の 作成と実施のためのフレームワークの各ステップについて説明する。対になる論文では、 ガイドライン勧告の作成過程における調査の影響を評価した定性的研究の結果を報告し ている[19]。

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2. Methods ガイドラインの方法論と患者の価値観と嗜好の専門家(GHG、LMH、RAS、POV、TA、LL、MB、 LZ)からなる運営グループが、ガイドラインパネル調査の作成と実施のための枠組みの開発と改良 を調整した。 2.1 枠組みの初期開発 大腸がん検診の推奨 [20] を策定する中で、運営グループは、有害性と負担を考慮した上で、対象 集団が検 診を受けるために必要となる大腸がん罹患率と死亡率の最小ベネフィットに関するガイド ラインパネ ルの見解を引き出すための調査を構築した。付録 1 に本ガイドラインの簡単な紹介を示 す。 本ガイドラインの経験に基づき、運営グループは、患者の価値観や嗜好に基づく決定閾値に関する 推論(例えば、ある介入の有害性や負担を考慮した場合、患者がその介入を受け入れるために必要 とする最小の有益性は何か)を行う際に、ガイドライン委員会を導くための調査を使用するための 最初の枠組みを作成した。我々は、患者の価値観や嗜好に関するパネルの意見を引き出すための調 査を作成するための全体的なアプローチを「フレームワーク」と呼んでいる[21]。 2.2 フレームワークの試行的適用と改良 運営グループは、COVID-19の治療法を扱う世界保健機関(WHO)ガイドライン・パネル [22-28] を含む、異なるトピック領域を扱う別の7つのガイドライン・パネルにフレームワークを適用した (付録2)。 これらの適用経験に基づき、運営グループは、反復的な議論とコンセンサスのプロセスを通じて、i) パネル調査の目的を拡張し、ii) パネル調査の開発と実施のステップを明確化し、標準化し、iii) ガ イドライン・パネルがパネル調査の適用を検討すべき場合(すなわち、どのような状況でパネル調 査が有用であるか)を明確にするために、フレームワークを動的に改良した。

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2.3 ガイドラインパネル調査実施のための教育用ビデオの開発 ガイドラインパネリストの教育を促進するため、運営グループはパネル調査の主要な概 念を紹介するビデオの暫定版を開発した。運営グループは、オンラインによるユーザー テストのインタビューを通じて、ビデオのわかりやすさ と有用性に関するフィードバッ クを収集した。 付録3は、ユーザーテスト用のインタビューガイドである。運営グループは、インタ ビュー対象者のパネル調査経験によってフィードバックが異なることを想定し、意図的 なサンプリングを用いて、パネル調査の経験のあるガイドラインパネリストと経験のな いガイドラインパネリスト(ビデオ開発前にパネル調査を受けた人、パネル調査を受け ず今後1~2ヶ月以内に調査に参加する予定の人、パネル調査を受けず今後2ヶ月以内に 調査を適用する明確な計画がまだない人)を対象とした。 これらのインタビュー対象者は、8つの異なるガイドライン・パネルから、患者パート ナー、臨床専門家、方法共同委員長、臨床委員長、ガイドライン方法論者などの異なる 役割として参加した。 専門家によるテープ起こしが行われ、パネルミーティングとインタビューは英語で録音 され、個人を特定する情報は削除された。運営グループは、NvivoTM 12を用い、質的 記述により全インタビューの記録を分析し、それに応じてビデオを改良した。 付録図1は、教育用ビデオの開発プロセスをまとめたものである。ハミルトン統合研究 倫理委員会(HiREB)は、ガイドラインパネルの調査アプローチが推奨のプロセスに与 える影響に関する評価(プロジェクト番号:13297)および教育用ビデオのユーザーテ ストインタビュー(プロジェクト番号:14984)を承認した。

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3. Result 図1は、ガイドラインのパネリストが患者の価値観や嗜好を推論するためのパネル調査を開発し、実 施するために提案する5つのステップのフレームワークの概要である。ボックス1は、各ステップを 例として示している。 3.1 ステップ1 勧告が選好に敏感であるかどうかの判定 このプロセスは、勧告のPICOT(患者、介入、比較、アウトカム、アウトカム測定のタイムライ ン)を定義することから始まる。ある者(通常はガイドラインパネルの運営グループ)は、ベネ フィットとハームまたは負担のバランスが十分に近く、その勧告が選好に敏感であるかどうかを検 討すべきである。もしそうであれば、その調査は適切で有用であることが証明されたことになる。 勧告が選好に敏感でない場合、言い換えれば、運営グループまたはパネルの判断により、すべてま たはほとんどすべての患者が介入を選択または拒否することが明らかな場合は、調査をさらに検討 する必要はない。 3.2 ステップ2 調査目的の決定 調査の目的は、ガイドラインパネルが必要とする患者の価値観や嗜好に関する3種類の定量的情報か ら導かれる: 目的1:患者が重要であると認識する単一のアウトカム(利益または害や負担)に関連する最小の変 化(最小重要差、MID)を確立する、 目的2:介入に関連する利益がある場合、患者が介入を使用することを受け入れる最大の主要な害ま たは負担の決定閾値を特定する; 目的3:介入の有益性、有害性または負担の最良推定値を考慮し、患者が介入に対して行うであろう 選択について推論する。 ボックス2に例を用いて3つの目的を示す。

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3.3 ステップ3 調査の策定 目的1と2を達成するためには、定量化された閾値を特定する必要があるが、通常、パネ リスト にとっては困難な作業である。この課題を認識した上で、調査デザインは、患者 が特定の効果の大きさを、基本的なMID(目的1)または決定閾値(目的2)以上または 以下と認識するかどうかに関するガイドラインパネルの推論を引き出す。この調査では、 効果の大きさ(推奨される閾値)が、徐々に中間的な数値に向かって移動する(ピンポ ン方式で極端なものから別のものへと移動し、徐々に差を狭めていく)順序で提供され る。 パネリストが、閾値以上の効果から閾値未満の効果へ、あるいはその逆へと回答を切り 替えるとき、そのパネリストは、根本的な閾値が存在する狭い範囲を効果的に特定する。 目的3を達成するために、調査は同時に介入に関連する有益性と有害性または負担に関 する効果推定値(通常はシステマティックレビューに基づく)を提示し、患者が介入を 選択するか拒否するかを検討するようパネリストに指示する。 患者の価値観や嗜好は異なるため、本調査では代表的な患者群から予想される患者の価 値観や嗜好の分布を推測するようパネリストに求める。 調査における標準化された選択肢は以下の通りである:すべてまたはほとんどすべて (90%以上)、ほとんど(75~90%)または過半数(50~75%)の患者が、特定の効 果を些細なものと考えるか重要なものと考えるか(目的1)、または介入を選択するか 拒否するか(目的2または3)。 例を用いたボックス2は、調査デザインを示している。

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3.4 ステップ 4 パネリストの教育と回答の収集 臨床医、コンテンツ専門家、患者パートナー(すなわち、その症状や病気 に罹患した経験がある人、またはその症状や病気に罹患した人を介護した 経験がある人)、ガイドライン のメソドロジスト、システマティック・レ ビューアを含むすべてのガイドラインパネリスト がアンケートに回答する ことができる。 パネリストの準備として、調査の主要概念を紹介するビデオ (https://www.dropbox.com/s/g5pyl7ms5rg7mke/VidePanel%20su rvey_V10.mp4?dl=0)を検討するのもよい。患者パートナーを教育する ために時間をかけることが望ましいかもしれない。 オンライン調査ツールを利用すれば、個々のパネリストの回答を収集する ことができる。調査結果を要約するために、MID(目的1)または決定閾 値(目的2)に関するパネリストの推論の中央値と範囲を記述したり、患 者の嗜好分布(目的3)に関するパネリストの推論を反映して、患者の大 多数が介入に賛成または反対すると考えるパネリストの数を記述したりす ることができる。 3.5 ステップ 5 調査結果の提示とパネル討論の喚起 エビデンスの解釈、有益性と有害性のトレードオフ、推奨の方向性と強さ について、パネル討論 を喚起するために、パネル会議で調査結果の集計を 提示することができる。

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Box 1 An example of applying the five-step framework for developing and implementing a panel survey ステップ1 勧告が選好に敏感であるかどうかの判断 ANCA関連血管炎患者(P)において、通常の治療(I)に加えて血漿交換を行うか、通常の治療のみ(C) を行うかについて、ガイドラインパネルが勧告している場合を考える[24]。血漿交換に関連する主 な潜在的利益は、末期腎臓病(ESKD)の減少であった(O)[24]。主要な潜在的有害性は重篤な感 染症の増加であった(O)。両アウトカムを測定するスケジュールは1年(T)であった。ガイドラ イン委員会の運営グループは、ANCA関連血管炎患者の血漿交換に対する価値観や嗜好は多様であ り、調査は有用であると考えた。 ステップ2 調査目的の決定 現在の臨床試験から得られたデータを用いて、運営グループは、ESKDと重篤な感染症を発症する ベースラインリスクは大きく異なり、患者の血清クレアチニン値と強く関連していることを確認し た[29]。血清クレアチニン値が異なる患者のサブグループでは、おそらく推奨が異なるであろう。 血漿交換に関連する主要な有益性(ESKDの減少)と有害性または負担(重篤な感染症の増加)の間 のトレードオフを知るために、パネルは、患者が血漿交換を受け入れるために必要とする最小限の 有益性を設定するか(目的2)、血漿交換を選択する患者の割合または血漿交換に反対する患者の割 合を直接判断する(目的3)ことができる。 目的2を適用すると、サブグループに対して複数の判断基準を提示することになり、パネリストはよ り多くの質問について考える必要があるため、運営グループは目的3を適用することを決定した。

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ステップ3 調査の策定 患者の各サブグループに対する調査では、血漿交換に関連するベースラインリスクとそれに対応す るESKDの減少および重篤な感染症の増加を提示した(システマティックレビューによる情報) [29]。最初のシナリオは、「血清クレアチニン値≦200μmol/Lの患者において、血漿交換は1年後 にESKDを発症するリスクを1000分の4(1000分の50から46へ)低下させるが、重篤な感染症の リスクを1000分の27(1000分の100から127へ)増加させる」であった。ANCA関連血管炎で血 清クレアチニンが200μmol/L未満の患者に対して、血漿交換の利益と害のトレードオフをどう考え るか?「選択肢は以下の通りである: 全員またはほとんど全員が血漿交換を選択する ほとんどが血 漿交換を選択する 大多数が血漿交換を選択する 血漿交換を拒否する ほとんどが血漿交換を拒否す る 全員またはほとんど全員が血漿交換を拒否する その他のシナリオでは、他のサブグループ(血清 クレアチニン値が200~300、300~400、400~500、または500μmol/L以上)における血漿交換 に関連する利益と害が提示された。各シナリオの後に、血漿交換に関連するESKDの減少と重篤な感 染症の増加を考慮した場合、どの程度の割合の患者が血漿交換を選択するか、または拒否するかを 質問した。付録4に調査票の全文を示す。 ステップ4 パネリストの教育と回答の収集 パネリスト会議で、運営グループは調査を紹介し、患者パートナーが調査を理解できるように別の 会議を開いた。オンライン調査ツールを使って、運営グループはパネリストの回答を収集した。こ れらの回答によると、血清クレアチニン値≦300μmol/Lの患者については、大半のパネリストが血 漿交換を拒否すると認識していることがわかった。一方、血清クレアチニン値が300μmol/Lを超え る患者については、大半のパネリストが血漿交換を選択すると認識していた。 ステップ5 所見の提示とパネル討論の喚起 次回のパネル会議で、運営グループは集約された所見を提示し、患者のサブグループに対する推奨 の方向性と強さについて討論を開始した。

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Box 2 Examples of three different survey objectives and designs 目的1 MID閾値の設定 心筋梗塞のリスクが高い患者に対して、そのリスクを低減するための新しい治療法に関する推奨を行うガイドライ ンパネルを考える [25] 。心筋梗塞に対するある治療効果が重要であるか否かを解釈するために、パネルは患者が 重要であると認識する心筋梗塞の最小減少に関する情報(MID閾値)を必要とし、そのため目的1を適用した。調査 では、心筋梗塞を減少させる効果の大きさが異なる一連のシナリオが提示された。最初のシナリオは、「心筋梗塞 のリスクを減らすために新しい治療法を使用する可能性を検討している成人において、その治療法は5年間で1000 人に1人のリスクを減少させる」というものであった。次のシナリオでは、心筋梗塞の減少率は1000分の20、3、 15、5、10、8、12と変化した(ピンポン方式で極端から極端へと徐々に差を縮めていく)。各シナリオの下で、 心筋梗塞に対する特定の効果の大きさを重要または些細と考える患者の割合に関する推論をパネリストに求めた。 選択肢は以下の通りである: 全員またはほぼ全員が、この効果を重要だと考える - ほとんどが重要な効果であると考える - 過半数が重要な効果と考える - 過半数がこれは些細な効果だと考える - 大半は些細な効果だと考える - 全員またはほとんど全員が、これは些細な効果だと考える パネリストが、「大多数がこれを重要な影響と考える」から「大多数がこれを些細な影響と考える」に回答を切り 替えた場合(またはその逆)、パネリストはMIDが存在する狭い範囲を特定した。付録5では、ボックス2の3つの 例に関する調査の全容を示す。

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目的2 決定閾値の設定 50~79歳の成人における大腸がん検診の推奨を行うガイドラインパネルを考える[20]。 同パネルは、大腸がん関連死亡の減少を主要な有益性とし、消化管穿孔と大消化管出血 の増加を 主要な有害性または負担とした。主要ベネフィットと有害性・負担をトレード オフするために、パネルでは、有害性・負担を考慮した場合に、人々が検診を受け入れ るために必要となる大腸がん関連死亡率の最小の減少に関する情報(決定閾値)を必要 とし、その結果、目的 2 を適用した。パネルが有益性に関するエビデンスを検討する前 に、調査はスクリーニングに関連する危害または 負担と、大腸がん関連死亡の絶対的減 少が異なる一連のシナリオを提示した。最初のシナリオは、「大腸内視鏡検査でスク リーニングを受けた成人は、15 年間で大腸がんで死亡するリスクが 1000 人に 1 人低 下する」というものであった。残りのシナリオでは、大腸がん関連死亡率の減少率は 1000 分の 15、5、10 と変化した(ピンポン方式)。各シナリオの後、調査はパネリ ストに検診を選択する、あるいは拒否する成人の割合を推定するよう求めた。 選択肢は以下の通りである: - 全員またはほとんど全員がスクリーニングを選択する - ほとんどがスクリーニングを選択する - 過半数がスクリーニングを選択する - 過半数がスクリーニングを拒否する - 大多数がスクリーニングを拒否する - 全員またはほとんど全員が検診を辞退する パネリストが「大多数がスクリーニングを選択する」から「大多数がスクリーニングを 辞退する」(またはその逆)に回答を切り替えた場合、そのパネリストは判断の閾値と なる狭い範囲を特定したことになる。の範囲内にあることを特定した。

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目的3 介入の賛否を選択する患者の割合を明示する 2型糖尿病患者に対するナトリウム-グルコース輸送蛋白2(SGLT 2)阻害薬に 関する推奨を行ったガイドラインパネルについて検討した [23] 。同パネルは、 SGLT 2阻害薬に関連する主要な有益性は死亡率の減少であり、主要な有害性 や負担は性器感染症の増加や糖尿病性ケトアシドーシスであると考えた。 現在の臨床試験のデータを用いて、パネルは、SGLT 2に関連する死亡率の絶 対的低下は、異なるベースラインリスクを有する患者間で大きく異なることを 立証した [30] 。 患者のサブグループ間でのSGLT 2阻害薬に対する嗜好を判断するために、パ ネルはObjective 3を適用した。調査では、サブグループ間で一定のSGLT 2阻 害薬に関連する有害性や負担を提示し、最初のシナリオとして「心血管危険因 子を持たない2型糖尿病患者(超低リスク群)において、SGLT 2阻害薬を服用 すると、5年間で死亡率が1000分の5に減少する(1000分の20から1000分の 15に減少)」を提示した。 残りのシナリオでは、SGLT 2阻害薬による死亡率の減少は、1000分の48、 15、34、5と変化した(ピンポン方式)。 各シナリオの後、調査はパネリストにSGLT 2阻害薬を選択する患者、または 辞退する患者の割合を推定するよう求めた。この回答は、患者のサブグループ 間の選択肢の分布に関するパネリストの推測を反映したものであった。

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考察 4. 議論4.1 主要な知見と解釈 介入に関連する有益性と有害性のバランスを判断する際、ガイドライン・パネルは利用可能な情報を解釈し、エビデンスから推奨に移 行する際に必要な患者の価値観や嗜好に関する推論を行う必要がある。我々は、このような推論を行うための新しいフレームワークを 開発し、このフレームワークを用いて、患者の価値観や嗜好に関するガイドライン・パネリストの見解を引き出すためのパネル調査を 開発・実施するためのガイダンスを提供する。パネル調査のアプローチは、ガイドライン・パネルが体系的に患者の視点に立ち、患者 の価値観や嗜好の分布に関する推論を行うことを可能にする。調査結果をパネルディスカッションに組み入れることで、推奨の方向性 や強さに関するパネルの決定の根拠が明確になり、プロセスの透明性が高まる。パネル調査は、患者の価値観や嗜好に関する一次調査 (例えば、患者を対象とした調査)に取って代わ ることを意図したものではない。理想的には、パネリストが調査に回答する際の判断 を最適化するために、診療ガイドラインに 関連する一次研究のレビューを含めることである(付録5、例3に例を示す)。パネリストは、 このようなレビューから得られた関連する一次研究、ガイドラインパネ ルが委託したフォーカスグループ、友人や家族とのヘルスケア に関する意思決定に 関する会話、あるいは臨床医であるパネリストの場合は、患者との共同意思決定における 経験に基づいて、調査に 回答することができる。 4.2 長所と限界 チリのCOVID-19生活指針に適用された先行調査手法の一つでは、指針パネリストに大、中、小、または些細な効果の閾値の値を提案す るよう求めた [31,32] 。また、患者の価値観や嗜好は様々であることを認識し、パネリストに閾値や選択肢を直接指定させるのではな く、患者の価値観や嗜好の分布を推測してもらうようにしている。最後に、長所と限界を知るために、調査の影響に関する質的研究を 行った[19]。質的評価の結果、ほとんどのパネリストが、調査によって患者の価値観と選好を考慮するようになり、利益と害または負 担のトレードオフに患者の価値観と選好を組み込むことが容易になったことが明らかになった。患者の嗜好のばらつき(嗜好の分布に 関する回答による)、患者の価値観や嗜好に関する不確実性(調査質問に対するパネリストの回答のばらつきに反映)は、パネルが推 奨の強さについて熟考するのに役立った [19] 。患者の価値観や嗜好を明確かつ体系的に解釈し、推奨に反映させるための正式なプロセ スを提供する既存のアプローチは他にない。ガイドラインのパネリストが患者の価値観や嗜好に関する洞察を生み出す能力を疑問視す る向きもあろう。実際、我々の質的研究に参加した何人かのパネリストはこの問題を提起した。しかし、勧告を作成するためには、常 にガイドライン・パネルが典型的な価値観や嗜好について推論する必要がある。そのような推論がなければ、介入の望ましい結果と望 ましくない結果を交換することは不可能である。パネル調査への回答は、患者の価値観や嗜好の最良推定値を提供するだけでなく、変 動するパネル回答を通じて、既存の不確実性を明らかにした。このような不確実性を明らかにすることで、推奨の強さ(不確実性が大 きいほど、条件付き推奨の可能性が高くなる)と、対象となる患者の価値観や嗜好に関するさらなる研究の必要性の両方を知ることが できる。我々の質的評価に参加した2つのガイドラインパネル(成人の大腸がん検診に関するガイドラインパネル、ANCA関連血管炎に 対する血漿交換に関するガイドラインパネル)に関連する研究者が実施した患者を対象とした研究は、パネル調査の結果についてある 程度の安心感を与えるものである[33,34]。いずれの場合も、有益性と有害性の大きさに影響されない回答者もいたが(提示されたすべ ての大きさの介入を選択または拒否した)、意思決定に影響を受けた回答者は、パネルの推論と一致する閾値を選択した。

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5. 結論 介入に関連する利益と害のバランスを判断する際、ガイドライン委員会は患者の価値観 と嗜好に関 する推論を行わなければならない。我々が提案したフレームワークは、ガイ ドライン・パネルが患者の価値観や嗜好を明示的に考慮することを容易にし、パネルの 決定に明確な根拠を与える上で有用であることが証明された。私たちは、パネル調査の 作成と実施に関するガイダンスを求めているガイドライン・パネルの相談に応じること ができる。 主な知見 ガイドラインの推奨に患者の価値観や嗜好を取り入れる体系的な枠組みを紹介する。 このフレームワークに従って、ガイドラインのパネリストに患者の視点を反映させ、患 者の価値観や嗜好の分布に関する推論を行うことを明示的に課す調査を開発し、実施す ることができる。 パネル調査の結果から、最小重要差の閾値(すなわち、患者が重要であると認識する単 一のアウトカムに関連する最小の変化)を設定したり、意思決定の閾値(すなわち、介 入に関連する効果が閾値のどちらか一方に該当する場合に、介入を受け入れるか拒否す るかの患者の選択が逆転する)を設定したり、介入の有益性が有害性や負担を上回るか どうかを明示的に判断したりすることができる。