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August 08, 15
スライド概要
エコシステムを形成するコンポーネント間の微妙な関係性を探索
定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。
デジタル事業環境でのイノベーション 高橋 浩
問題意識 • 技術変化が加速し、エコシステムが常態化して いる。 • また、複数産業を跨いだ一体化サービスも増加 している。 • これらは社会の複雑化を生じさせている。 • このような新たなビジネス環境に対して、既存経 営学はどのような知見を提供しているだろう か? 2
話の流れ • 技術変化が加速し、業界主導企業が大きく変化した 産業に半導体産業がある。 • この変化の背景には社会の複雑化や組織変化の要 因も指摘されている。 • このような半導体産業界の分析を、取引コスト理論 にリソースベース理論や進化経済学を組み合わせた 研究がある。 • 典型的2論文の紹介を通して、新たなビジネス環境 での新たな論点を探索する。 3
検討の枠組み • 半導体産業の業態は複雑化しており、エコシステム形 成が常態化している。 • 最近の半導体産業の盛衰は、最適なエコシステム形 成を巡っての挑戦/実験であった側面がある。 (半導体産業におけるイノベーションの”異なる源“は次ペー ジ) • 2論文は半導体産業の、半導体製造産業(Intel、 東芝など)(論文①)、半導体製造装置産業 (ASML,東京エレクトロンなど)(論文②)に焦点を あてている。 • エコシステムを形成するコンポーネント間の微妙な関 係性に着目して欲しい。 4
参考 半導体産業におけるイノベーションの“異なる源” (1) EDA (electronic design automation)ベンダー (2) レジスト供給業者 東京応化工業 (3) リソグラフィー装置供給 業者(ASML,ニコン) (4) マスク供給業者 (5) その他の装置供給業者 Rahul Kapoor , Patia J. McGrath, “Unmasking the interplay between technology evolution and R&D collaboration: Evidence from the global semiconductor manufacturing industry, 1990–2010 より 5
2論文の位置づけ 基本理論 2理論の合体 特定産業への適応 これからの可能性 半導体装置産業(リソグラフィー装置) 取引コスト経済 学(Williamson 1975, 1985) 知識ベース・ビュー(e.g., Nelson and Winter 1982, Kogut and Zander 1992, Teece et al. 1997) ② 取引コスト経済学 の比較論理を知識 ベース・ビューへ拡 張した理論 (Nickerson and Zenger 2004) ① イノベーション·エコシス テムにおける価値創造: 技術的相互依存の構造 が新技術世代で企業パ フォーマンスに如何なる 影響を与えるか(Adner and Kapoor 2010) これか らの (技術 変化が 加速す 半導体製造産業(DRAM) る)産 業への 企業が作るもの vs 企業 適応可 が知るもの:技術変化 能性 に直面した際,企業の製 品と知識境界は どのよ うに競争優位に影響を 与えるか(Kapoor and Adner 2012) 6
① 企業が作るもの vs 企業が知るもの - 技術変化に直面した際、企業の製品と知識境界は どのように競争優位に影響を与えるか - R. Kapoor R. Adner 7
分析対象:1974-2005年のDRAM業界 • この期間、異世代DRAM製品が12回遷移 • 12世代DRAM製品で競合した36企業を分析 8
DRAM産業におけるコンポーネント技術 ① リソグラフィー装置 ② マスク ③ レジスト マスクは「 構造化されていない技 術的対話」が行われる橋 • 3コンポーネント間 では「 構造化され ていない技術的対 話」が発生する。 9
前提条件 1. 垂直統合は、イノベーション·プロセスに跨る 知識蓄積の機会を提供するが、大規模な設 備投資と技術能力の広範なセットを要求す る。 2. アウトソーシング*は、コア機能に集中したり、 より広範なサプライヤー基盤を活用したり、 設備投資を削減することを可能にするが、学 習と適応性を妨げる危険性がある。 *:知識統合を伴う一形態 • 急速な技術変化を特徴とする産業では、2者 間のトレードオフは、生産と投資のより高い不 確実性の下で行われねばならない。 10
仮説 仮説1(H1): 垂直統合型企業は非統合型企業よりも早期に新世代製品を市場 に投入できる利点がある。 アウトソーシングと関係する「知識統合」に関わる仮説 仮説2(H2): 非統合型企業の外部コンポーネ ント知識は新世代製品の市場投入時間性能 を向上させる。 仮説3(H3): 新世代製品が、コンポーネント変化起因よりもアーキテクチャ 変化起因の場合は、垂直統合型企業は非統合型企業よりもより大きい市 場投入時間の利点を持つ。 11
12世代のDRAM製品世代遷移に見られる2つの変化要因 近接印刷手法から投影印刷手法へ 1 2 3 4 12 コ ン ポ ー ネ ン ト 起 因 8 回 ア ー キ テ ク チ ャ 起 因 4 回
定量分析結果の一例 • マスク製造をアウトソースする企業の商品化 (市場投入時期)は、製品世代がコンポーネ ント変化起因時は、垂直統合型企業と比べて 1.36倍遅い。 – この比率は、製品世代がアーキテクチャ変化起 因時は1.89倍に拡大する。 • 平均的に、垂直統合型企業はコンポーネント 変化起因の商品化ではアウトソース企業より 2.37四半期早い。 – この比率は、アーキテクチャー起因の商品化で は5.85四半期早い。 13
発見された特筆すべき結果 企業の外部コンポーネント知識は、 (レジストはアウトソースするが、マス クは自分で生産する)部分統合型 企業の市場投入性能には影響を与 えないが、マスク、レジスト両方をアウ トソースする企業の市場投入性能を 向上させているように見える。 14
何故、両部分とも統合しない企業が、部分的に統 合する企業よりも、外部コンポーネントの知識か らより多くの利点を得ることができるのだろうか? 『クリティカルな技術をアウトソースする企業 は、技術を所有している企業よりも、供給業 者の能力を開発するより多くのインセンティブ を持っているかもしれない』 15
“特筆すべき結果”を推測させる インタビュー記事 • 内部に独自のマスク部門を持たない企業は、 新技術開発期間に、マスク供給業者、レジス ト供給業者、ツール供給業者間のバランスを とる行動を実行する。 • 一方、内部マスク部門を持つ企業は、マスク 開発により多くウェイトを置き、異なる要素間 のバランス確保にあまり注意を払わない傾向 がある。 16
本研究結果からの示唆 • 垂直統合 vs アウトソーシングの選択のようなガ バナンスの問題は、企業が解決しようとしている 問題の複雑性に依存する。 • 本研究で見られた『知識統合』型アウトソーシン グ(ファブレス/ファウンドリー形態)は、変化のス ピードアップに対応する垂直統合の一形態である と見做せる。 • この現象は、製品製造から製品設計を分離する ことで特徴づけられる業種(アパレル、建設業、 他)との類似性を想起させる。 17
② イノベーション·エコシステムにおける価値創造: 技術的相互依存の構造が新技術世代で企業パフォーマンスに如何なる影響を与えるか R. Adner R. Kapoor 18
分析対象:1962-2005年の半導体リソグラフィー業界 • この期間、9回のエコシステム変更を経験 • エコシステムの変化の度合いは様々(0~15) レジスト マスク レンズ 光源 19
コンポーネントと補完品(1) 光源 マスク コンポー ネント レンズ 補完品 レジストが塗布された半導体ウェーハー 20
コンポーネントと補完品(2) 製造側の統合 消費側の統合 マスク企業 光源 リソグラフィー企業 半導体企業 レンズ レジスト企業 コンポーネント 補完品 21
イノベーション課題の評価 補完品の課題 低い エリア1: 内部的課題のみ コンポー ネントの 課題 高い エリア3: 内部的課題 +消費に関する外部的制約 低い 最初のプレーヤーが成功する。 先行者優位は標準レベル 準備は急ぐが、待つのが適当 先行者優位は減少する。 エリア2: 内部的課題 +製造に関する外部的制約 高い エリア4: 内部的課題 +製造に関する外部的制約 +消費に関する外部的制約 先行者は更に優位になる。 先行者優位はどの問題が最初に解決する かによる。 22
主な結果 フォロワーの新世代製品投入が年単位で遅れているにも関わらず 市場シェアが減少していない。若干、シェア上昇すらみられる。 リ ー ダ ー と 比 較 し た シ ェ ア 減 少 率 ( % ) コンポーネント課題が低く 補完品の課題も低い コンポーネント課題が高く 補完品の課題が低い コンポーネント課題が低く 補完品の課題が高い フォロワーの新世代製品投入遅れ(年) 23
焦点企業のリーダーシップ はあまり有益ではない。 遅れてきた参入者に 対して少し不利な立場 補完品の課題 になることもある。 焦点企業は フォロワーに 対して優位性 増大 低い エリア1: 内部的課題のみ コンポー ネントの 課題 高い エリア3: 内部的課題 +消費に関する外部的制約 低い 最初のプレーヤーが成功する。 先行者優位は標準レベル 準備は急ぐが、待つのが適当 先行者優位は減少する。 エリア2: 内部的課題 +製造に関する外部的制約 高い 焦点企業は更 に大きな競争 優位性を獲得 エリア4: 内部的課題 +製造に関する外部的制約 +消費に関する外部的制約 先行者は更に優位になる。 先行者優位はどの問題が最初に解決する かによる。 24
本研究結果からの示唆 • エコシステムの構成要素を(焦点企業と顧客企業 の視点から)コンポーネントと補完品に分類できる 場合がある。 • このような場合、補完品の課題解決に細心の注 意を払う必要がある。 (例:新光源に対応するリソグラフィー装置を完成させても、新 光源対応のレジストが完成していないような場合) • このような現象の解決は、エコシステムを構成す るパートナーとの戦略的契約締結や戦略的M&A などを想起させる。 25
新たな論点の例 • 問題の複雑性とガバナンス様式間には一定の 対応関係が存在し、その選択は、企業が解決し ようとしている問題の複雑性に依存する。 • 垂直統合の有効性は依然として存在するが、設 備投資が急激に陳腐化する業界では、この有効 性は悪化する。 • “知識統合”型アウトソーシングは変化の加速化 に対応する新たな形態の一つである。 • 焦点企業の競争優位性が顧客企業の補完品統 合によって決定されるとの視点は、エコシステム が常態化している最近のビジネス環境分析に重 要な示唆を提供する。 26
応用分野は多様 • IT業界 クラウド基盤が普及したら 人工知能が進化したら ウェアラブルデバイスが普及したら クラウドソーシングが普及したら • 自動車業界 自動運転車が普及したら CO2削減基準が一段と厳しくなったら • 医療製薬業界 遺伝子検査が容易化したら • 製造業 3Dプリンターが普及したら 3Dコンテンツが商材になったら IoTが普及したら 27