経営班_三田論2024

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January 15, 25

スライド概要

本発表では、企業のESG経営が労働者の賃金に与える影響について分析します。ESG経営の実施が進む中、労働者の賃金がどのように変化するかを定量的に分析し、実質賃金の低迷といった課題を背景に、賃金の現状とESG経営の相関関係を示唆します。また、賃上げが促進される要因や、逆に賃上げが抑制されるメカニズムについても考察します。

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慶應義塾大学商学部商学科山本勲研究会 ホームページ: https://www.yamazemi.info Instagram: https://www.instagram.com/yamazemi2024

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各ページのテキスト
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経営班 三田論最終発表 18期 安部さくら 甘糟輝一郎 外山莉彩 福井創大 矢作元希 17期 城戸遥稀 久木元亮太 高橋世菜 髙橋穂大 宮澤さくら

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テーマ概要 背景・問題意識 アウトライン 先行研究 分析アプローチ 分析結果 終わりに 2

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テーマ概要 背景・問題意識 アウトライン 先行研究 分析アプローチ 分析結果 終わりに 3

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1 テ ーマ 概要 テーマ 企業のESG経営実施が労働者の賃金に与える影響 -Socialに注目して- 概要 近年ESG経営を実施する企業が増加しており、労働者に配慮 した経営が求められるようになってきているが、実質賃金の 低迷など課題が多く残っている。そこでESG経営を実施する ことで労働者の賃金はどのように変化するのか、定量的に分 析する。 4

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テーマ概要 背景・問題意識 アウトライン 先行研究 分析アプローチ 分析結果 終わりに 5

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2 背景 ・問題 意識|賃金 の現状 デロイトトーマツグループ「人事制度・報酬調査2023」 直近3年間で賃上げを実施した企業は80.3% 2022年度の結果(65.3%)より15ポイント高い 厚生労働省「令和5年毎月勤労統計調査」 名目賃金は上昇しているが、物価の上昇には 追いつかず実質賃金はマイナス 6

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2 背景 ・問題 意識|賃 金の現 状 実質時給=労働分配率×実質労働生産性×デフレーターギャッ プ 実質賃金は労働分配率と労働生産性とデフレデーターギャップに分解できる • マクロでは、労働分配率はほとんど変化が見られない。実質 労働生産性は向上が見られるが他国に比べると水準が低い。 • ミクロでは、労働分配率を高めている企業や労働生産性を高 めている企業で実質賃金の引き上げが生じうる。 出典:「持続的な賃上げには何が必要か?~高まる労働生産性向上の重要性~」 三菱UFJリサーチ&コンサルティング 企業レベルで労働分配率と労働生産性に着目すると 賃上げのメカニズムが分かる可能性がある 7

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2 背景 ・問題 意識|ESG経営 Society:社会 • • • • 適切な労働条件、労働環境の整備 ダイバーシティ&インクルージョンの推進 製品の安全性向上やリスク管理 地域コミュニティへの参加 etc 企業の 中長期的な 成長 Environment:環境 • • • • 気候変動への対応 資源循環への取組み 廃棄物の生態系汚染対策 温室効果ガス排出の抑制、削減 etc. Governance:統治 • • • • コーポレートガバナンスの整備 ステークホルダーのエンゲージメント コンプライアンス遵守 適切な情報開示 etc. 8

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2 背景 ・問題 意識|ESG経営 のSociet yに関 する取 り組み 適切な労働条件、労働環境の整備 働き方改革 労働者が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で 「選択」できるようにするための改革。 ・残業時間の上限設定 ・フレックスタイム制 など 健康経営 従業員等の健康管理や健康増進の取り組みを「投資」と捉え、 経営的な視点から戦略的に実行する経営手法。 ・健康診断後の面談 ・ジムとの提携 など 人的資本 経営 人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すこと で、中長期的な企業価値向上につなげる経営手法。 ・高度専門職の処遇の向上 ・リスキリング支援 など 9

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2 背景 ・問題 意識|ESG経営 のSociet yに関 する取 り組み ① 適切な労働条件、労働環境の整備 健康経営 働き方改革 従業員の生産性が向上する 人的資本経営 従業員への投資を増やして 労働分配率が高まる 企業は積極的に賃上げをするのではないか 10

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2 背景 ・問題 意識|ESG経営 のSociet yに関 する取 り組み ② ダイバーシティ&インクルージョンの推進 ダイバーシティ&インクルージョン 互いの多様性を認め合い、多様な人材が活躍することのできる仕組みや環境を整備すること 女性活躍 推進 男女間賃金格差是正のため、政府によって女性活躍 推進法が定められた。 一部企業には「男女の賃金差異」の公表義務があり、 この差異を縮小する取り組みを進めている。 • • • 管理職登用比率の規定 ダイバーシティ理解の推進 子育て両立支援 など ESG経営をしている企業は男女間賃金格差を是正する動きを見せる 11

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2 背景 ・問題 意識|ESG経営 のSociet yに関 する取 り組み ② ダイバーシティ&インクルージョンの推進 出典:「男女間賃金格差」内閣府 男女間の賃金格差是正の傾向にある 出典:「正規雇用労働者・非正規雇用労働者の賃金の推移」厚生労働省 経常利益は増加しているが人件費は減少 12

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2 背景 ・問題 意識|ESG経営 のSociet yに関 する取 り組み ② ダイバーシティ&インクルージョンの推進 賃金格差是正の傾向にあるが、全体的な人件費は減少している 低所得者の賃金上昇のために、高所得者の賃金上昇の機会を奪っている 出典:「男女間賃金格差」内閣府 出典:「正規雇用労働者・非正規雇用労働者の賃金の推移」厚生労働省 企業は賃金格差の是正のために 男女間の賃金格差是正の傾向にある 経常利益は増加しているが人件費は減少 平均的な賃上げを鈍化させているのではないか 13

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2 背景 ・問題 意識|ESG経営 のSociet yに関 する取 り組み Society:社会 • • • • 適切な労働条件、労働環境の整備 ダイバーシティ&インクルージョンの推進 製品の安全性向上やリスク管理 地域コミュニティへの参加 etc 労働者にとって働きやすい環境を整備 優秀な人材が集まりやすい 従業員が離職しにくい 14

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2 背景 ・問題 意識|ESG経営 のSociet yに関 する取 り組み 補償賃金仮説 労働者にとってきつい仕事は、そうでない仕事よりも賃金が高くなる。つまり、仕事のきつさを補償する ために、労働者に対して一定の賃金プレミアムが支払われるという仮説。 「多様な働き方の意義と実現性」臼井恵美子, 2013 ①黒田祥子, 山本勲, 2013 ④Tanja Keeve, 2024 フレックスタイム制度を利用する男性従業員に関して、補 償賃金仮説が成立。フレックスタイム制度を導入している 企業は、導入していない企業に比べて約1割低い賃金で 労働者を雇えている。 環境に配慮した企業は、他の企業よりも平均8.7%低い賃 金を支払っている。また、労働者は環境に配慮した企業で 働くため、平均10~20%の賃金の引き下げを受け入れる 意向を示している。 労働者にとって働きやすい環境を整備している企業では、 賃金を高くしなくても優秀な労働者が集まり、 また離職率が低くなるため、賃上げが抑えられるのではないか 15

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2 背景 ・問題 意識|まと め ESG経営をしている企業とその賃上げの関係性について、以下の可能性が示唆される 賃上げに積極的 賃上げに積極的 ○ESG経営をしている企業では、労働者の生産性が高まることで、賃金が上昇するのではないか。 ○ESG経営をしている企業は、人材を活かすために労働分配率自体を高めて、積極的に賃上げをするの ではないか。 賃上げに積極的 賃上げに消極的 ○賃金格差の是正のために平均的な賃上げを鈍化させているのではないか。 ○労働者にとって働きやすい環境を整備している企業では、賃金を高くしなくても優秀な労働者が集ま り、離職率も低くなるため、賃上げが抑えられるのではないか。 16

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2 背景 ・問題 意識|研究 意義 独自性 労働分配率 ESGスコア 賃金の関係について、労働分配率を介した研究 は国内外問わず少ない。 説明変数に学歴や、管理職、年 齢、勤続年数、業種、職種を用 いている論文は多数存在する。 しかし、ESG経営に着目しESG スコアを説明変数に用いている 先行研究は少ない。 ESG経営と賃金 ESG経営と賃金上昇率の直接的な関係に関して 実証分析を行っている国内の先行研究は少ない。 研究意義 ESG経営が賃金に与える影響を分析し、企業のESG経営が労働者の生活水準に どのような影響を与えているのかを測定する。また、これにより企業のESG経 営の実効性を評価し、改善点を特定する手助けとする。 17

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2 背景 ・問題 意識|分析 概要 ①②ESG経営と賃上げについての重回帰分析 ①ESGスコア(基本・環境・ガバナンス・社会性)が賃金(賃金水準と賃金変化率) に与える影響を推計 ②業績が賃金に与える影響がESGスコアによって異なるかを推計 ③ESG経営が賃金に与えることの要因についての媒介分析 ESG経営をしている企業は賃上げに積極的 (1)生産性向上をもたらすため (2)労働分配率向上をもたらすため ESG経営をしている企業は賃上げに消極的 (3)賃金格差是正のため (4)補償賃金仮説が成立するため 18

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テーマ概要 背景・問題意識 アウトライン 先行研究 分析アプローチ 分析結果 終わりに 19

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3 先行 研究 • 労働生産性 ・労働分配 率 • ダイバ ーシティ • 健康経 営 • 補償賃 金仮説 • 賃上げ 20

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3 先行 研究|労 働生産 性・労 働分配 率 労働 生産性 とE S G 経営 Nathan Barrymore , Rachelle C. Sampson 2021 概要 英国企業のESGスコアと労働生産性の関係を分析 結果 • 大企業ではESGスコアが労働生産性に正の影響を与えるこ とが多い一方で、小規模企業ではコストや資源の制約が大 きく、ESGへの投資が労働生産性に負の影響を及ぼすこと があった。 • 産業種類によって影響の度合いが異なる。 労働 生産性 と賃金 山本 勲 , 松浦 寿幸 (2011) 概要 ワーク・ライフ・バランス (WLB)施策が企業の中長期的な生 産性にどのような影響を与えるかの検証 結果 • ①従業員 300 人以上の中堅大企業、②製造業、③労働の固定 費の大きい企業、④均等施策をとっている企業では、WLB 施 策を導入することで TFP が中長期的に上昇する 前田泰伸 (2020) Jiangming Ma, Di Gao, Jins Sun 2022 概要 中国企業のESGスコアと全要素生産性の関係を分析 結果 • ESGスコアが高い企業は、より高い生産性を持つ • 大企業や国有企業では、ESGの影響がより顕著に現れる 概要 労働生産性や労働時間、賃金の関係についての実証分析 結果 • 労働時間が長い都道府県ほど賃金が安い。 • 労働生産性が高い都道府県ほど労働時間が短く賃金が高い。 • 労働時間を短くして賃金を上げるためには、労働生産性の向 上が不可欠である。 21

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3 先行 研究|労 働生産 性・労 働分配 率 E SG経営と労働生産性 Nathan Barrymore , Rachelle C. Sampson 2021 労働生産性と賃金 前田泰伸 (2020) 概要 概要【明らかになっていること】 労働生産性や労働時間、賃金の関係についての実証分析 英国企業のESGスコアと労働生産性の関係を分析 • ESGスコアが高い企業ほど労働生産性が高い傾向がある。 結果 結果 ・労働時間が長い都道府県ほど賃金が安い。 ・大企業ではESGスコアが労働生産性に正の影響を • 労働生産性が高いほど、労働時間が短く賃金が高い。 ・労働生産性が高い都道府県ほど労働時間が短く賃金が 与えることが多い一方で、小規模企業ではコストや 高い。 資源の制約が大きく、ESGへの投資が労働生産性に ・労働時間を短くして賃金を上げるためには、労働生産 負の影響を及ぼすことがあった。 【明らかになっていないこと】 性の向上が不可欠である。また、地域ごとの特性や非正 ・産業種類によって影響の度合いが異なる • ESG経営と労働分配率の関係 規雇用割合も労働時間や賃金に影響を与える重要な要因 となる。 Jiangming Ma, Di Gao, Jins Sun 2022 概要 中国企業のESGスコアと全要素生産性の関係を分析 結果 ・ESGスコアが高い企業は、より高い生産性を持つ 傾向にある。 ・大企業や国有企業では、ESGの影響がより顕著に 現れる傾向がある。 22

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3 先行 研究|ダイ バーシ ティ E S G 経営 とダイ バーシ ティ Monique de Oliveira Cardoso, Fundação Getulio Vargas, Av de Julho, 2023 概要 ESGスコアと企業におけるジェンダー平等の関係性を調査。対 象はグローバルサウス(ブラジルなど)の企業。 結果 • ESGスコアが高い企業では、女性の役員や上級管理職の割 合が高く、透明性も向上 • ESGスコアが高い企業は、ジェンダーに関する情報開示が 進んでおり、賃金格差も比較的小さい。 Xi Wang, Xinze Li, 2023 概要 中国の上場企業を対象に、ESGスコアが従業員の収入と社内 の賃金格差に与える影響を調査。 結果 • ESGスコアの格付けが高い企業では、従業員の賃金が増加 した。 • ESGの高い企業では、一般従業員が経営陣よりも少ない収 益分配を受け、賃金格差が拡大する。 Monique de Oliveira Cardoso, Fundação Getulio Vargas, Av de Julho, 2023 概要 「職場におけるダイバーシティとパフォーマンスの関係性に 関する既存研究のレビュー」を行い、今後の研究の方向性を 提示。 結果 • ダイバーシティとパフォーマンスの間に一貫した関係性 見られず、状況や変数によって異なる。 山本勲(2014) 概要 企業パネルデータを用いて、どのような企業で女性活用が進 んでいるのかの分析 結果 • 職場の労働時間の短い企業、雇用の流動性の高い企業、賃 金カーブが緩く賃金のばらつきの大きい企業、WLB 施策 の充実している企業では、正社員女性比率や管理職女性比 率が高くなっている 23 • 女性活用の進んでいる企業では利益率が高い

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3 先行 研究|ダイバーシ ティ E SG経営とダイバーシティ Monique de Oliveira Cardoso, Fundação Getulio 【明らかになっていること】 Vargas, Av de Julho, 2023 Xi Wang, Xinze Li, 2023 • ESGスコアの高い企業は、ジェンダー格差に関する情報開示が進んでお 概要 概要 中国の上場企業を対象に、ESGスコアが従業員の収入と り、賃金格差も比較的小さい傾向にあること。 ESGスコアと企業におけるジェンダー平等の関係性を調 社内の賃金格差に与える影響を調査。 査。対象はグローバルサウス(ブラジルなど)の企業。 • ESGスコアが高い企業は従業員の賃金が増加する傾向にあること。 結果 結果 ・ESGスコアの格付けが高い企業では、従業員の賃金が ・ESGスコアが高い企業では、女性の役員や上級管理職 増加した。 の割合が高く、透明性も向上 【明らかになっていないこと】 ・ESGの高い企業では、一般従業員が経営陣よりも少な ・ESGスコアが高い企業は、低い企業に比べてジェン い収益分配を受け、賃金格差が拡大する。 • 日本企業において、ダイバーシティに関するESGスコア(S)が賃金格差 ダーに関する情報開示が進んでおり、賃金格差も比較的 小さい。 の是正や賃上げにどのように影響するのか。 24

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3 先行 研究|健康 経営 健康経営 山本勲, 黒田祥子, 福田 皓, 永田 智久, 2023 概要 健康経営銘柄の企業価値への影響と健康経営施策が企業業績に与え る影響を分析。 結果 • 健康経営銘柄に選定された企業は、企業価値が高まる傾向があ る。 • 従業員の健康を経営理念に掲げて施策を展開することが、利益率 の向上に寄与する。 木下祐輔 , 2022 概要 従業員の心身の健康、特にメンタルヘルスが労働生産性や企業のパ フォーマンスに与える影響を実証的に分析 結果 • 政府の「健康経営優良法人認定」が離職率や学生の就職希望企業ラ ンキングに与える影響を分析した結果、いずれも統計的に有意な効 果は見られず、認定だけでは企業のパフォーマンス改善に結びつか ないことが示唆される。 25

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3 先行 研究|健康 経営 健康経営 山本勲, 黒田祥子, 福田 皓, 永田 智久, 2023 【明らかになっていること】 • 健康経営優良銘柄に認定されると、企業価値が向上すること • 政府による健康経営優良法人の認定が、企業のパフォーマンス改善に影 響を与えないこと。 概要 健康経営銘柄の企業価値への影響と健康経営施策が企業業績 に与える影響を分析。 結果 • 健康経営銘柄に選定された企業は、企業価値が高まる傾 向がある。 • 従業員の健康を経営理念に掲げて施策を展開すること が、利益率の向上に寄与する。 【明らかになっていないこと】 木下祐輔 , 2023 • 健康経営優良法人や健康経営優良銘柄への認定と賃金の関係 概要 従業員の心身の健康、特にメンタルヘルスが労働生産性や企 業のパフォーマンスに与える影響を実証的に分析 結果 政府の「健康経営優良法人認定」が離職率や学生の就職希望 企業ランキングに与える影響を分析した結果、いずれも統計 的に有意な効果は見られず、認定だけでは企業のパフォーマ ンス改善に結びつかないことが示唆される。 26

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3 先行 研究|補 償賃金 仮説 黒田祥子, 山本勲, 2013 臼井恵美子,2013 概要 WLB施策(例:フレックスタイム制度や育児休業制度など) を導入している企業と導入していない企業での賃金差を測定 し、補償賃金仮説が成立するかを検証 結果 • フレックスタイム制度を利用する男性従業員に関して、補 償賃金仮説が成立 • フレックスタイム制度を導入している企業は、導入してい ない企業に比べて約1割低い賃金で労働者を雇えている。 ただし、女性に負の賃金プレミアムは見られなかった。 概要 「補償賃金仮説」に基づき、多様な労働条件が賃金にどのように反 映されているかを理論的に分析 結果 • 労働市場において、現実には労働者の多くが働く時間や条件に不 満を感じており、効率的な労働のマッチングが達成されていない • 日米のデータを分析したところ、厳しい労働条件に対する賃金プ レミアムは十分ではなく、労働者はその条件に見合った満足を得 ていない Wu Jiaxin , 2024 概要 スウェーデンの詳細な雇用データを用いて、環境に配慮した企業で 働く従業員は、他の企業に比べて賃金が低い傾向があるという現象 を分析 結果 • 環境に配慮した企業は、他の企業よりも平均8.7%低い賃金を支 払っている。高スキル労働者や若い世代ほどこの傾向が強い。 • 労働者は環境に配慮した企業で働くため、平均10~20%の賃金 の引き下げを受け入れる意向を示している。 27

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3 先行 研究|補 償賃金 仮説 Philipp Krueger, Daniel Metzger, Jiaxin Wu , 2024 【明らかになっていること】 概要 • 労働者や環境に配慮している企業では、補償賃金仮説が成立し、賃金の スウェーデンの詳細な雇用データを用いて、環境に配慮し た企業で働く従業員は、他の企業に比べて賃金が低い傾向 低下が起こる可能性があること。 があるという現象を分析 結果 • 環境に配慮した企業は、他の企業よりも平均8.7%低い賃 【明らかになっていないこと】 金を支払っている。高スキル労働者や若い世代ほどこの • 日本企業において、ESGスコアが高い企業では実際に補償賃金仮説が成 傾向が強い。 • 労働者は環境に配慮した企業で働くため、平均10~20% 立するのかどうか。 の賃金の引き下げを受け入れる意向を示している。 28

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3 先行 研究| 賃上げ Christopher Kollmeyer , 2017 山本, 黒田, 2016 概要 「生産性向上が賃金の成長に寄与する」という新古典派経済学 の理論に対し、賃金成長に寄与する他の要因を探す。 結果 • 生産性の向上は賃金成長に寄与しているが、新自由主義的 な経済政策や、企業の交渉力が強化されたためその影響は 限られている。 概要 企業が過去に賃下げを経験しているかどうかが、現在の賃金上 昇にどのように影響を与えるかを検証。 結果 • 過去に賃下げを行った企業ほど、近年の賃金上昇に積極的 である。具体的には、賃下げを経験した企業は、利益率上 昇に伴い所定内給与や賞与を引き上げている。日本企業で は、賃金の下方硬直性が賃上げを抑制する要因の一つと なっている。 赤羽, 中村, 2008 概要 勤続年数が増えるほど賃金が上昇する「賃金・勤続プロファイ ル」について、1990年代のバブル崩壊や長期不況を背景に賃 金と勤続年数の関係がフラット化した要因を分析。 結果 • 企業の生産性が上昇すると、賃金・勤続プロファイルの傾 きは急になり、勤続年数が長い労働者への賃金が高くなる。 29

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3 先行 研究|賃上げ Christopher Kollmeyer , 2017 山本, 黒田, 2016 概要 「生産性向上が賃金の成長に寄与する」という新古典派経済学 の理論に対し、賃金成長に寄与する他の要因を探す。 結果 • 生産性の向上は賃金成長に寄与しているが、新自由主義的 な経済政策や、企業の交渉力が強化されたためその影響は 限られている。 概要 企業が過去に賃下げを経験しているかどうかが、現在の賃金 上昇にどのように影響を与えるかを検証。 結果 • 過去に賃下げを行った企業ほど、近年の賃金上昇に積極的 である。具体的には、賃下げを経験した企業は、利益率上 昇に伴い所定内給与や賞与を引き上げている。日本企業で は、賃金の下方硬直性が賃上げを抑制する要因の一つと なっている。 【明らかになっていること】 • 労働生産性が向上すると、賃金が上昇する傾向にある。 • 過去に賃下げを行った企業ほど、賃金上昇に積極的になる。 【明らかになっていないこと】 赤羽, 中村, 2008 • ESG経営をしている企業は賃上げをするのかどうか 概要 勤続年数が増えるほど賃金が上昇する「賃金・勤続プロファイ ル」について、1990年代のバブル崩壊や長期不況を背景に賃 金と勤続年数の関係がフラット化した要因を分析。 結果 • 企業の生産性が上昇すると、賃金・勤続プロファイルの傾 きは急になり、勤続年数が長い労働者への賃金が高くなる。 30

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テーマ概要 背景・問題意識 アウトライン 先行研究 分析アプローチ 分析結果 終わりに 31

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5 分析 アプロ ーチ|推計 手法 推計① ESGスコアが賃金に与える影響を推計 使用モデル:変量効果モデル、固定効果モデル 𝑊𝑎𝑔𝑒𝑖,𝑡 = 𝛼 + 𝛽1 ∙ 𝐸𝑆𝐺 𝑆𝑐𝑜𝑟𝑒𝑖,𝑡 + 𝛽2 ∙ 𝑃𝑟𝑜𝑓𝑖𝑡𝑖,𝑡 + 𝛽3 ∙ 𝐹𝑖𝑟𝑚 𝑆𝑖𝑧𝑒𝑖,𝑡 + 𝛽4 ∙ 𝑌𝑒𝑎𝑟𝑠 𝑜𝑓 𝑆𝑒𝑟𝑣𝑖𝑐𝑒𝑖,𝑡 + 𝛽5 ∙ 𝐴𝑠𝑠𝑒𝑡𝑖,𝑡 + 𝛾 ∙ 𝑌𝑒𝑎𝑟 𝐷𝑢𝑚𝑚𝑦 +𝐹𝑖 + 𝜀𝑖,𝑡 分類 被説明変数 変数名 𝑊𝑎𝑔𝑒 𝑊𝑎𝑔𝑒 𝐶ℎ𝑎𝑛𝑔𝑒 𝑅𝑎𝑡𝑒 説明変数 コントロール変数 𝐸𝑆𝐺 𝑆𝑐𝑜𝑟𝑒 2018, 2020, 2022の賃金 2018, 2020, 2022のそれぞれ2年前からの変化率 基本、環境、社会、ガバナンスの4種類(0~100) 𝑃𝑟𝑜𝑓𝑖𝑡 経常利益率 𝐹𝑖𝑟𝑚 𝑆𝑖𝑧𝑒 企業規模(従業員数) 𝑌𝑒𝑎𝑟𝑠 𝑜𝑓 𝑆𝑒𝑟𝑣𝑖𝑐𝑒 インデックス 詳細 平均勤続年数 𝐴𝑠𝑠𝑒𝑡 資産合計 𝑌𝑒𝑎𝑟 𝐷𝑢𝑚𝑚𝑦 年ダミー 𝐹 固有効果 𝑖 企業別番号 𝑡 2018, 2020, 2022 32

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5 分析 アプロ ーチ|推計 手法 推計② 業績が賃金に与える影響がESGスコアによって異なるかを推計 使用モデル:変量効果モデル、固定効果モデル 𝑊𝑎𝑔𝑒𝑖,𝑡 = 𝛼 + 𝛽1 ∙ 𝐸𝑆𝐺 𝑆𝑐𝑜𝑟𝑒𝑖,𝑡 + 𝛽2 ∙ 𝐸𝑆𝐺 𝑆𝑐𝑜𝑟𝑒 ∙ 𝑃𝑟𝑜𝑓𝑖𝑡 + 𝛽3 ∙ 𝑃𝑟𝑜𝑓𝑖𝑡 + 𝛽4 ∙ 𝐹𝑖𝑟𝑚 𝑆𝑖𝑧𝑒𝑖,𝑡 + 𝛽5 ∙ 𝑌𝑒𝑎𝑟𝑠 𝑜𝑓 𝑆𝑒𝑟𝑣𝑖𝑐𝑒𝑖,𝑡 + 𝛽6 ∙ 𝐴𝑠𝑠𝑒𝑡𝑖,𝑡 + 𝛾 ∙ 𝑌𝑒𝑎𝑟 𝐷𝑢𝑚𝑚𝑦 +𝐹𝑖 + 𝜀𝑖,𝑡 分類 被説明変数 説明変数 変数名 𝑊𝑎𝑔𝑒 2018.2020,2022のそれぞれ2年前からの上昇率 𝐸𝑆𝐺 𝑆𝑐𝑜𝑟𝑒 基本、環境、社会、ガバナンスの4種類(0~100) 𝑃𝑟𝑜𝑓𝑖𝑡 𝐹𝑖𝑟𝑚 𝑆𝑖𝑧𝑒 𝑌𝑒𝑎𝑟𝑠 𝑜𝑓 𝑆𝑒𝑟𝑣𝑖𝑐𝑒 インデックス 2018, 2020, 2022の賃金 𝑊𝑎𝑔𝑒 𝐶ℎ𝑎𝑛𝑔𝑒 𝑅𝑎𝑡𝑒 𝐸𝑆𝐺 𝑆𝑐𝑜𝑟𝑒 ∙ 𝑃𝑟𝑜𝑓𝑖𝑡 コントロール変数 詳細 ESGスコアと経常利益率の交差項 経常利益率 企業規模(従業員数) 平均勤続年数 𝐴𝑠𝑠𝑒𝑡 資産合計 𝑌𝑒𝑎𝑟 𝐷𝑢𝑚𝑚𝑦 年ダミー 𝐹 固有効果 𝑖 企業別番号 𝑡 2018, 2020, 2022 33

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5 分析 アプロ ーチ|推計 手法 媒介分析とは ①独立変数が媒介変数に与える影響を分析する ②独立変数が従属変数に与える影響を、媒介変数の影響を考慮しながら分析する 媒介変数 間接効果 独立変数 直接効果 従属変数 考えられる要因 ESG経営をしている企業は賃上げに積極的 (1)生産性向上のため (2)労働分配率向上のため ESG経営をしている企業は賃上げに消極的 (3)賃金格差是正のため (4)補償賃金仮説が成立するため 34

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5 分析 アプロ ーチ|推計 手法 媒介 変数 ③ESG経営が賃金に与えることの要因についての媒介分析 ESG経営をしている企業は賃上げに積極的 ESG経営をしている企業は賃上げに消極的 (1)生産性向上をもたらすため (3)賃金格差是正のため 労働生産性 (2)労働分配率向上をもたらすため 労働分配率 ※労働分配率 企業の総利益に対して労働者に分配される賃金の割合を指す。 具体的には、企業が生み出した付加価値に対してどれだけが労 働者の報酬として支払われているかを示す指標である。労働分 配率が高いほど企業が労働者への還元を重視していると解釈さ れ、社会的な「従業員重視」の姿勢が評価されることがある。 女性管理職比率 (4)補償賃金仮説が成立するため 健康経営ダミー ※健康経営優良法人 健康経営に取り組む優良な法人を『見える化』することで、従 業員や求職者、関係企業や金融機関などから『従業員の健康管 理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人』とし て社会的に評価を受けることができる環境を整備する ※健康経営優良銘柄 東京証券取引所の上場会社の中から『健康経営』に優れた企業 を選定し、長期的な視点からの企業価値の向上を重視する投資 家にとって魅力ある企業として紹介をすることを通じ、企業に よる『健康経営』の取組を促進することを目指す 35

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5 分析 アプロ ーチ|推 計手法 推計③-1 推計③-2 推計③-3 ESG経営をしている企業は生産性向上をもたらすため賃金が上がる ESG経営をしている企業は補償賃金仮説が成立するため全体的な賃上げに消極的 ESG経営をしている企業は女性管理職比率を是正するため全体的な賃上げに消極的 使用モデル:媒介分析 1)ESGスコアが賃金に与える影響を推計する 𝑊𝑎𝑔𝑒𝑖𝑡 = 𝛼1 + 𝛽1 ∙ 𝐸𝑆𝐺𝑆𝑐𝑜𝑟𝑒𝑖𝑡 + … + 𝜀𝑖𝑡 2)媒介変数が賃金に与える影響を、ESGから受ける影響を考慮した 上で推計する(直接効果:𝑐n) 𝑊𝑎𝑔𝑒𝑖𝑡 = cn ∙ 𝐸𝑆𝐺𝑆𝑐𝑜𝑟𝑒𝑖𝑡 +𝑏n・M𝑖𝑡 + ⋯+ 𝜀𝑖𝑡 媒介変数 ESGスコア 賃金 𝑐n 分類 変数名 独立変数 ESGスコア 従属変数 賃金 媒介変数1 労働生産性 媒介変数2 健康経営ダミー 媒介変数3 女性管理職比率 媒介変数を含むことで独立変数の係数が減少、あるいは非有意になれば、 ESGスコアが媒介変数を通 じて賃金上昇率に影響を与えている可能性があるということが言える。 36

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5 分析 アプロ ーチ|使用 データ 【調査元】 • CSR企業総覧 雇用・人材活用編(2018, 2020, 2022, 2024年度) • 日経NEEDS 【調査時期】 2016, 2018, 2020, 2022年度 ※賃金調査は年次ペースで行われることが多く、結果公表にラグが生じてい るため2年前のものが計測される。 【調査対象】各年387社(各データが4年分取得できる企業数) 37

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5 分析 アプロ ーチ|変数 説明 推計①② 変数名 詳細 賃金水準 平均年間給与 *1 賃金上昇率 2年前からの平均年間給与の変化率 *1 ESGスコア 基本スコア、環境スコア、社会スコア、ガバナンススコア *2 売上高経常利益率 =経常利益 ÷ 売上高 *1 本研究における「賃上げ」の定義 「賃上げ」は一般的には労使間で春に行われる春闘の結果のことであるが、春闘に関するデータを取得出来な かったため、 本研究では年間平均給与を説明変数として使用している。 *2 ESGスコア • 全上場企業、主要非上場企業3955社を対象にしたアンケート調査 • 「人材活用」「環境」「企業統治」「社会性」の四分野。各評価項目の得点を合計して「基礎得点」を算出 • 得点は上位700位(「基本」は1000位)までを掲載 38

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5 分析 アプロ ーチ|変数 説明 推計③ 変数名 詳細 労働生産性 =売上高÷従業員数 労働分配率 =人件費(平均賃金・福利厚生費)/付加価値(人件費+税金調整前当期純利益+ 支払利息)*3 健康経営ダミー なし:0 健康経営優良法人、もしくは健康経営優良銘柄:1 女性管理職比率 管理職の男女合計人数中の女性の比率 *4 *3 労働分配率 通常付加価値は「営業純益+人件費+減価償却費+不動産賃借 料+租税公課」と表すが、日経ニーズから「不動産賃借料」 「租税公課」を十分なサンプル数分取得することが出来なかっ たため、本研究では阪智香(2019)を参考に、上記の式を使用し た。100%を超えるものについては一律100%として設定した。 *4 女性管理職比率 管理職:部下を持つ、または部下を持 たなくとも同等の地位にあるものを指 し、「部長職以上」を含み役員を除く。 39

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5 分析アプ ローチ|基 本統計 量 40

41.

テーマ概要 背景・問題意識 アウトライン 先行研究 分析アプローチ 分析結果 終わりに 41

42.

5 分析結果|予備 的分析 2022 2020 2024 ESG基本スコア ESG基本スコア ESG基本スコア ESG基本スコア ESG基本スコア ESG基本スコア ESG基本スコア ESG基本スコア ESG基本スコア 42

43.

5 分析結果|予備 的分析 2020 2022 ESG基本スコア ESG基本スコア ESG基本スコア ESG基本スコア ESG基本スコア ESG基本スコア ESG基本スコア ESG基本スコア ESG基本スコア 2024 43

44.

5 分析結果 |推計① 賃金 水準 有意なものはなし ESGスコアは企業の賃金水準に影響を与えない 44

45.

5 分析結果 |推計① 賃金 変化率 • • • 全企業で見るとESGスコアが高い企業 ほど賃金変化率が高いことが示された 第二次産業ではESGスコアが高い企業 ほど賃金変化率が高いことが示された 第三次産業では環境スコアが高い時の み賃金変化率が高いことが示された 特に第二次産業ではESGスコアが 企業の賃金変化率に影響を与える 全サンプル・第二次産業: 「ESG基本スコア」「環境スコア」「社会スコア」「ガバナンススコア」が正に有意 第三次産業: 「環境スコア」が正に有意 ※ハウスマン検定を実施した結果、本推計においては変量効果モデルを採択する。 45

46.

5 分析結果 |推計 ② 賃金 水準 • • 全企業で見ると、経常利益率が高い企 業ほどESG基本スコアが高くなると賃 金水準が高くなる。 全企業で見ると、ESGガバナンススコ アが高いほど、賃金水準が高くなる。 ESG経営の取り組みをしている企業 は、業績が向上した際には賃上げに 積極的 →労働生産性の上昇によると予想さ れる 全サンプル:「ESG基本スコアと経常利益率の交差項」 「ガバナンススコア」が正に有意 ※ハウスマン検定を実施した結果、本推計においては固定効果モデルを採択する。 46

47.

5 分析結果 |推計 ② 賃金 水準 第二次産業 • ESGスコアが高い企業は賃金水水準が 低いことが示された • 経常利益が高い企業ではESGスコアが 高い企業ほど賃金水準が高いことが示 された 第二次産業の場合、ESG経営の取り 組みをしている企業は、通常は賃上 げに消極的。しかし、業績が向上し た際には賃上げに積極的 →労働生産性の上昇によると予想さ れる 第二次産業:「ESG基本スコア」が負に有意 「ESG基本スコアと経常利益率の交差項」が正に有意 47

48.

5 分析結果 |推計 ② 賃金 水準 • • 第三次産業では、ESG環境スコアが高 いほど、賃金水準が低くなる。 第三次産業では、経常利益率が高い企 業ほど、環境スコアが高くなると、賃 金水準が高くなりやすい ESG経営の「環境」の取り組みをし ている企業は、通常は賃上げに消極 的。しかし、業績が向上した際には 賃上げに積極的 →労働生産性の上昇によると予想さ れる 第三次産業:「環境スコア」が負に有意 「環境スコアと経常利益率の交差項」が正に有意 48

49.

5 分析結果 |推計 ② 賃金 変化率 全企業ESGスコアが高い企業ほど 賃金変化率が高いことが示された。 • 全企業・第二次産業の場合、 ESG経営の取組みを行っている 企業は、通常は賃上げに積極的 • 第三次産業では、ESG経営のう ち「環境」に取り組む企業では、 賃上げに積極的 →労働生産性の向上によると予想 される 全サンプル・第二次産業: 「ESG基本スコア」「環境スコア」「社会スコア」「ガバナンススコア」が正に有意 第三次産業: 「環境スコア」が正に有意 49

50.

5 分析結果 |推計 ①②ま とめ 【推計①】 • ESGスコアは企業の賃金水準に影響を与えない • 全企業・第二次産業ではESGスコアが企業の賃金変化率に影響を与える。 【推計②】 • ESG経営の取組みをしている企業は、業績が向上した際には賃上げに積極的 • 第二次産業では、ESG経営の取組みをしている企業は通常賃上げに消極的。しかし、業績が向上し た際には賃上げに積極的 • 第三次産業では、ESG経営の取組みをしている企業は通常賃上げに消極的。しかし、業績が向上し た際には賃上げに積極的 • 全企業・第二次産業の場合、ESG経営の取組みを行っている企業は、通常は賃上げに積極的 • 第三次産業では、ESG経営のうち「環境」に取り組む企業では、賃上げに積極的 推計③では、本研究で注目しているESG基本スコアと社会スコアについて、推計①②の結 果が何によってもたらされているのかを解明するために媒介分析を行う 50

51.

5 分析結果 |推計 ③ 賃金 水準 全サンプル・第二次産業:「労働生産性」が正に有意 特に第二次産業において 労働生産性が高いほど賃金水準が高くなる 51

52.

5 分析結果 |推計 ③ 賃金 水準 全サンプル・第二次産業:「労働生産性」が正に有意 特に第二次産業において 労働生産性が高いほど賃金水準が高くなる 52

53.

5 分析結果 |推計 ③ 賃金 変化率 全サンプル・第二次産業・第三次産業:「労働生産性」が正に有意 労働生産性が高いほど賃金変化率が高くなる 53

54.

5 分析結果 |推計 ③ 賃金 変化率 全サンプル・第二次産業・第三次産業:「労働生産性」が正に有意 労働生産性が高いほど賃金変化率が高くなる 54

55.

5 分析結果 |推計 ③ 賃金 変化率 ・賃金水準、賃金変化率ともに労働生産性は正に有意である ・ESGスコアの係数の変化は大きくない 労働生産性は賃金に影響を与えているが、必ずしもESG経営が労働 生産性の向上を介して賃金を高めているとは言えない 全サンプル・第二次産業・第三次産業:「労働生産性」が正に有意 労働生産性が高いほど賃金水準が高くなる 55

56.

5 分析結果 |推計 ③ 賃金 変化率 賃金水準、賃金変化率ともに健康経営ダミー・女性管理職比率は有 意な値を取っていない 企業の健康経営や管理職に女性を登用する取り組みを介して 賃金が高くなっているとは言えない 全サンプル・第二次産業・第三次産業:「労働生産性」が正に有意 労働生産性が高いほど賃金水準が高くなる 56

57.

テーマ概要 背景・問題意識 アウトライン 先行研究 分析アプローチ 分析結果 終わりに 57

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6 終わりに|考察 【推計①】 ・賃金水準に基づくとESG経営を行う企業が必ずしも賃金を上昇させるとは言えない ・賃金変化率に基づくとESG経営を行う企業では積極的な賃上げが行われていると指摘できる 【推計②】 ・ESG経営を行っている企業は業績が向上した際に賃金水準を高める可能性がある ・賃金変化率においては企業の業績における影響を受けないことから一概に賃上げとは推察できない 【推計③】 ・媒介変数として扱った「労働生産性」「労働分配率」「健康経営ダミー」「女性管理職比率」を介し て賃金が上がるとは言えない ・「労働生産性」においては、生産性が上がると賃金が上がる可能性があることを示唆できる 58

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6 終わりに|考察 【推計①】 • ESG基本スコア・社会スコア・ガバナンススコアは企業の賃金水準に影響を与える • ESG社会スコア・ガバナンススコアは企業の賃金変化率に影響を与える • ESG経営が賃金を高める可能性が示唆された。 【推計②】 賃金水準に関して • ESG経営の「環境」「社会」の取り組みをしている企業は、業績が向上した際には賃上げに積極的に • ESG経営の取組みにより、業績が向上した際に賃金を高める可能性が示唆された。 なる • ESG経営の「ガバナンス」の取り組みをしている企業は、通常は賃上げに積極的 賃金変化率に関して • ESG経営により労働生産性が向上することで、賃金が上昇する可能性も示唆された。し • ESG基本スコアは業績に関わらず賃金変化率には影響しないのではないか かし、媒介分析からはESG経営が賃金を高める効果が何によってもたらされているかは • ESG経営の「環境」の取り組みをしている企業は業績が向上した際には賃上げに積極的 必ずしも明らかにできなかった。 • ESG経営の「社会」「ガバナンス」の取り組みをしている企業は通常は賃上げに積極的 【推計③】 • 媒介変数として扱った「労働生産性」「労働分配率」「健康経営ダミー」「女性管理職比率」を介し て賃金が上がるとは言えない • 「労働生産性」においては、生産性が上がると賃金が上がる可能性があることを示唆できる 59

60.

6 終わりに|課題 【推計①②】 • 各データを全て取得できる企業のみを分析したため、サンプルセレ クションバイアスが起こっている可能性がある。 • CSR企業総覧以外で算出されたESGスコアを用いた場合、結果が変 わる可能性がある。 【推計③】 • ESG経営が賃金に影響を与えることは分かったが、そのメカニズム について具体的に突き止めることはできなかった。 60

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参考 文献 ◦ K ol lm ey er , Ch ri s to ph er ( 2 01 7) “M ar ke t fo r ce s an d wo rk er s ’ p ow er r e so ur ce s: A s oc i ol og ic al a cc ou nt o f re al wa ge g ro wt h in ad va nc ed c ap it al is m, ” I nt er na ti on al J o ur na l of C om pa r at iv e S oc io lo gy , 5 8( 2) , pp .9 9-1 19 . ◦ M a, Ji an gm in g , D i Ga o, a nd J in s S un ( 2 02 2) “D oe s ES G p er fo rm an ce p ro m ot e to ta l fa ct o r p ro du ct iv it y? E v id en ce f ro m Ch i na ,” F ro nt ie rs i n Ec o lo gy a nd E vo lu t io n , 1 0. 33 89 /f ev o. 20 2 2. 10 63 73 6 ◦ C ar do so , Mo ni qu e d e Ol iv ei ra , G us ta vo A nd re y d e Al me id a Lo pe s F er na nd es , an d M ar co A nt on io C ar va lh o Te ix ei r a ( 2 02 3) “W om en l ea d er s an d ES G pe r fo rm an ce : Ex pl o ri ng g en de r eq u al it y in g lo ba l so ut h co m pa ni es ,” C os mo po li ta n Ci v il S oc ie ti es : A n In te rd is ci pl i na ry J ou rn al , p p. 64 8 3. ◦ B ar ry mo re , Na th a n an d Ra ch el le C. S am ps on ( 2 02 1) “E SG P er fo r ma nc e an d La bo r P ro du ct iv it y: E xp lo ri ng w he th e r an d wh en E SG af fe ct s fi rm p e rf or ma nc e, ” A ca de my o f Ma na g em en t Pr oc ee di n gs , ◦ W u, J ia xi n (2 02 4 ) “Fi na nc i al A ct iv it ie s, Su st ai na bi li ty an d Wa ge s, ” S to ck ho lm S ch oo l o f E co no mi cs D oc to r al D is se rt at io n , ◦ X i, W an g a an d X in ze L i ( 2 02 3) “E SG P er fo r ma nc e, E mp lo ye e I nc om e an d Pa y G ap: E vi de nc e f ro m C hi ne se L is te d C om pa ni es ,” A va il ab le a t S SR N 46 00 08 4 61

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ご清聴ありがとうございました 63